IS世界のMS少女   作:LIA

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ねんどまつしんこうなんてきらいだ(うつろ
HGCEストライクルージュもHGBFクロスボーン魔王も作れない……

すごいおまたせしました、もうしわけありません


8話

 虚空を切り裂いて飛翔する。

 周囲は深い濃紺の空。眼下には青く広がる球面。わたしは今高度200kmという高高度、成層圏すら超えた、熱圏と呼ばれる領域を飛んでいた。

 

「センサーに感あり。間に合ったよ」

『OK。それじゃ、ミッションスタートね』

 

 胸元に抱え込んだ相方、ミーアがプライベートチャンネル越しに応える。今回わたしたちが派遣されたミッションは、マシントラブルによって急激に高度を下げて『落下』しようとしているISS(国際宇宙ステーション)をサポートし、無事に地表に落着させることである。

 

 IS、インフィニット・ストラトスが実用化されたこのご時世でもISSは現役だった。

 いやむしろ、宇宙開発用として開発されながら軍事転用されてしまったISのあおりを受けてその重要度はいや増していたのだろう。

 NASAも、JAXAも、ロスコスモスも、IS開発に予算を取られてなお、苦しい台所事情の中コツコツと、地道に研究開発を続けてきたのだ。そんな彼らの努力の象徴。宇宙開発という分野の知の結晶であり研究施設であるISSが著しく高度を下げていると連絡が入ったのが6時間前。

 もともとISS自体は普通に稼働していても大気と重力の影響で徐々に高度は下がっていくものなんだそうだ。それを高度が約280km付近に来たあたりでISS備え付けのスラスターやプログレス補給船なんかのサポートを受けて高度をあげる、という行為を年に何回か行っていた。

 今回はISSを構成するモジュールの一つ、ズヴェズダのスラスターを使って高度を上げる予定だったのだが、何が原因なのか逆噴射に使う予定のスラスターが稼働せず、それどころか別の位置の姿勢制御用小型スラスターがてんでバラバラに噴射を初めてしまい、搭乗員は大混乱。そのまま高度を上げるどころかむしろ急激に高度を下げていったのだそうだ。

 このままだと大気圏再突入ルート、それも突入角度が深すぎて燃え尽きること確定だとかで各国の宇宙開発機関は大混乱。ISSそのものも大事だけど、そこに詰めている人員もまた替えのきかない貴重な人材だ。IS万歳なこのご時世にわざわざ宇宙開発したいなんて変人一歩手前の熱意をもって研究に従事してくれたベテランたちを一気に6人も失うわけにはいかないのだ。

 

 で、解決方法をあれこれ協議した結果、ISに受け止めてもらうという結論に達したのだけれど、この方法にもやはり問題があった。ぶっちゃけ、軍事用ISでさえ高度200kmとかいう高高度にまで移動してISSを受け止めるとなるとスペックが足りなかったのだ。

 ただでさえ秒速7.7kmで移動しているISS。軌道予測して待ち構えてもかなりきっついものがある。

 まあ、そもそも軍部の人間が軒並み尻込みしたという事情もあるらしいのだがそこらへんの詳しい事情は知らない。知らない方がいい。たぶん、きっと。

 

 そこに手を挙げたのがわれらがアナハイム・エレクトロニクス社である。

 わたしとミーアがテストしていた新型ガンダムが投入されることになったのだ。

 

『3,2,1、エンゲージっ!』

「接触成功!」

 

 即座にあらかじめ支持された位置、落下していく方向にISS表面を這うように移動しながら内部に通信を繋ぐ。

 

「お待たせしました。こちら、AE社所属。スターゲイザーガンダム、救助に参りました」

『同じく、ハイぺリオンガンダム到着です!』

『すまない、そしてありがとう。このような危険な任務につき合わせてしまって』

 

 あらいい声、とか言ってんじゃねえよミーア。

 

「いいえ、人類の英知の結晶、失うわけにはいきませんでしょう。では、本格的な作業に移ります。搭乗員の皆さんはしっかりと体を固定していてください」

 

 そのままISSの底面まで移動、底の部分に手をついて背部で二つに分割して細かく機体制御に使っていたメインスラスターをもとのリング状に戻してアームを伸ばして足元に展開。

 一方、ミーアの方はというと互いを繋いでる連結索が切れないよう注意しながらわたしの足元に横たわる。

 

『うん、いい角度。良い眺めだわー』

「うるせえ踏むぞ」

 

 おまえさっきから人の尻捏ね回しやがって帰ったらおぼえとけ。

 

『はいはい。そんじゃまあ、やりますか』

「はいよ。 ――ヴォワチュール・リュミエール、全力稼働」

『アルミューレ・リュミエール出力全開』

 

 

 

「『ガンダム! 最大パワー!!」』

 

 

 

 *

 

 

 

「納得できませんわ!!」

 

 ふぁっ!? ……いかん、ねてた。

 ゆうべはショーコのたわわに育ったおっぱいをひたすら愛でてたらついつい夜更かししちゃったんだよなー。途中で寝落ちしちゃったのは悪かったかな。そのせいか昔の夢見ちゃったぜ。

 昔といっても半年も経ってないけど。あのあと無事アリゾナの砂漠にタッチダウン成功させたのはいいけど、それから事後処理に忙殺されて一か月くらいろくに寝れなかったのが大変だったなー。

 それはともかく、寝てるのを叩き起こせなかった織斑せんせーが「つまらん」的な顔してたのをスルーして声の主の方を見やる。

 英国代表候補生、セシリア=オルコット嬢が何やら気炎を上げていた。

 

「いいですか!? そもそも、クラス代表は実力あるものがなるべきです! そしてそれはわたくしであり、強いて他に挙げるならばそちらのシュネーラインさんくらいのものですわ!!」

 

 おっと矛先がこっちに向いたぞーぅ。一夏やシンをはじめとしてクラスメイト達もこっち見てるし。とりあえず口を開かにゃいかんか。

 

「……あー、知ってるんだ」

「ええ、ええ、存じ上げておりますわシュネーラインさん。あなたがハロウィン事件を解決した一人だということ」

 

 ざわり、と教室の空気が揺れる。あーめんどいことになるかなー、と思ったその時、鋼の救世主が!

 

「え、なんだそれ? ハロウィン事件って」

 

 うん、一夏。お前ある意味すごいよ。

 ほれ、オルコットさんがぷるぷるしてる。

 

「あ、あ、あ、あなたねぇっ!」

「あー、一夏。さすがにその発言はオレも聞き流せねえぞ。テレビ見てなかったのか? 結構な大騒ぎになったんだけど」

「えーと、いつごろの話だ?」

「ハロウィンつっただろ。起きたのは去年の10月31日。解決したのは11月1日未明」

「あー、じゃあ知らねーや。そのころ志望校決めて受験勉強に取り掛かった時期だからテレビとか新聞とか全然見てなかった」

「……おまえなー……」

 

 話を聞いてたオルコットさんが顔真っ赤にしてはる。というかほかのクラスメイト達もちょっとあきれた表情だ。まー、こういうタイプの人って必ず一定数いるもんだけどね。

 

「あー、まあなんだ。追及はその辺で。まあ、興味ない人の認識なんてそんなもんだよ」

 

 前世でも一つ目のロボは全部ザクだと認識してる人とかいたしな。アイルトン=セナは知っててもミカ=ハッキネンがわかんなかったりさ。

 

「あ、ということは雪菜もなんかすごい肩書持ってたりするのか?」

「うん? んー、どうだろう。わたしはあくまでAE社企業専属搭乗者、てだけだしなぁ」

「企業専属?」

「ほら、昨日オルコットから聞いただろ、代表候補生がうんぬんって。あれと同じようなカテゴリ分けだ」

「オリンピック代表候補と実業団選手の違いみたいなもんだけどねー。一般的には代表候補生の方がすごいんだよね」

「公式デビューで宇宙ステーション抱えて超長距離飛行なんていうど派手なマネした人が何か言ってますわ……」

 

 はいみんな、おおーとか言わない。

 つか公式デビューがあの一件だっただけで非公式にはいろいろやってたんだけどな。

 

「ま、まあともあれ? このように実績あるわたくしやシュネーラインさんがクラス代表を務めるのが筋というもの。それを物珍しいからといって極東の……」

 

 あ、お国批判に移行した。

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理何連覇だよ」

「なっ……!?」

「料理以外でもネタには事欠かないよな。パンジャンドラムとか」

 

 やめたげて。パンジャンドラムのことに触れるのだけはやめたげて。

 

「わ、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「アンタが言うな!」

「最初にバカにしたのはそっちだろうが」

「あー、オルコットさんや。自分は良い、人は駄目の鬼ルールは反感買うだけだよ?」

 

 この発言にはさすがに突っ込まざるを得なかった。まわりの級友たちも苦笑いである。

 そしてオルコットさんは顔真っ赤である。これはくるかなー?

 

「決闘ですわ!!」

 

 はいお約束きましたー。

 

「英国代表候補生、セシリア=オルコットの実力を知らしめて差し上げます!」

「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい」

「こっちもだ。さんざんよその国バカにしといてただで済むと思うなよ」

 

 なんか盛り上がってる。

 私としては正直クラス代表なんかには興味はない。興味はないけど英国のブルー・ティアーズは直接見てみたいんだよなぁ。そういう意味ではちょうどいい機会かな。

 

「おーけー、こっちもその挑戦受けた」

 

「話は纏まったな。では、1週間後の放課後にオルコット・シュネーライン・織斑・飛鳥の4人による試合を行う。場所は……第3アリーナが空いてるな。押さえておこう。では授業を始めるぞ」

 

 今の今まで黙って成り行きを見守ってた織斑せんせーが〆た。ここまで沈黙を保ってたということはどう転んでもいい経験になると踏んだからかな? 山田せんせーは場の雰囲気に呑まれてあわあわ言ってたけど。

 

「シュネーラインさん、あなたのスターゲイザーガンダムとの戦い、楽しみにしてますわね」

 

 一夏とシンに挑発的な言葉を投げてたオルコットさんがこっちにも声をかけてきた。男子二人に対するよりもだいぶ当たりが柔らかいのはこっちをそれなりに認めてるからかな?

 でも彼女にはちょっと悪いんだけど……。

 

「あ、スターゲイザー持ってきてないよ」

「え?」

「だってあれ理論実証機だもん。必要なデータ取り終えたからもう解体しちゃったよ」

「えええ!?」

「ああ、試合に関しちゃ心配いらないよ。ちゃあんと、ウチの新型を用意してるから」

 

 企業専属は、伊達じゃないんだZE☆

 

「授業を始めると言ってるだろうが」

 

 轟音が4発轟きました。

 

 

 

 *

 

 

 

「ああ織斑、お前の専用機だが用意に少々時間がかかる」

「はい?」

 

 3限目。始まると同時の織斑せんせーのお言葉。

 どうやら一夏の専用機を学園が用意するという話のようだ。それを聞いてまたクラスメイト達が騒ぎ始めたところでわたしのカバンの中から着信音が。

 

「……シュネーライン……」

「あ、あはははは……すいませぇ~ん……」

 

 とりあえず電源切るべく携帯を取り出し、誰からかかってきたか確認してみると……げ、社長だ。

 

「すいません先生、ウチの社長からなんでちょっと出てきていいですか?」

「……さっさと出て終わらせて来い」

 

 許可を得たので教室を出て電話に出る。

 ・

 ・

 ・

「せんせ~……」

「なんだ、シュネーライン」

「ウチの社長が先生と1組のみんなに話がしたいそうで……」

 

 やめてくださいその「厄介ごとを持ち込みおって」という目。

 わたし悪くねぇ! わたし悪くねぇ!! とりあえずさっさとスピーカーモードに切り替えて通話できるようにする。

 

『やあやあお久しぶりです織斑先生! AE社のムルタ=アズラエルです!』

 

 あ、シンが吹いた。……まあ、転生者だったらここ驚くところだもんね。やっぱりあいつ転生者だったか。

 周りの生徒たちもざわざわしとる。

 

「……お久しぶりです。ご用件は?」

『HAHAHA! そんなに嫌がらないで下さいよ。今回ご連絡差し上げたのはそちらに通う男子生徒の専用機についてです』

「織斑の専用機については……」

『ええ、存じてます。学園からの発注で倉持技研が開発するとか。そちらではなく、もう一人の方です』

 

 オレ!? とかシンが驚いてる。

 

「……まさか」

『ええ、ウチが用意することになりました』

 

 周囲のざわめきがさらに大きくなる。

 

「しゃちょーしゃちょー、ウチ、男性操縦者にはかかわらない方針じゃなかったの?」

『ああ、雪菜か。もちろん、僕自身関わるつもりはなかったよ。役員会でも同意を得ている』

 

 ここで周りの娘たちが「なんで?」という顔になってきたのでちょっと説明してやる。

 まあ要はパイの奪い合いである。現状、ISコアは467個しかない。それを世の女性約30億人で取り合ってる状況なわけだ。ここで一夏やシンといった男性操縦者が登場した。

 彼らから得られたデータを応用して男性でもISを操縦できる技術を確立できたとして、467機のISを奪い合うのが30億から60億になるだけでしかない。

 ゆえにウチの会社はまずコア量産の研究の方を優先させているのだ。そちらを確立させてから研究を始めても遅くはないし、よそが男性でも操縦できるようになってたとしてもそこらへんは取引でどうとでもなるとウチの会社は考えているわけだ。

 

「だからまー、ウチはそこらへん静観の構えだったはず……なんだけど?」

『なんだけど。……よその会社がなあ』

「なにか?」

『いえね? 彼ら二人のISに使うコアは日本政府が供出してくれることになってるわけですが』

「それは知ってます」

『ええ。で、コアを提供するんだから開発するところはこちらで指定させろと』

「うんうん」

『それで織斑くんの機体は倉持技研で開発するように依頼を出したわけですが……飛鳥くんのほうがだね』

「オレ嫌な予感がしてきたぞ」

『コアは提供するからどこが開発するかは話し合って決めろと』

「「「なげたの……!?」」」

 

 マジか日本政府。屑いな。

 ……いや、シンを放り出してでも一夏のほうに確実に関わりたかった……ということか?

 

『でまあ、そんなふうにエサを投げられたら喧々諤々。会議は踊りまくって大荒れ、その様子をウチの担当者はニヤニヤして見てたらしいんだけど』

「性格悪いなリュミーン」

『「もういっそあそこに押し付けてデータだけ貰おうぜ」という結論で一致団結しちゃったらしくてね』

「リュミーンザマァ」

『まあそう言わないでくれないか。会議終わった後急性の胃潰瘍で病院に担ぎ込まれたから』

 

 マジザマァ。でもまあ納得はできた。

 

「それで、飛鳥の機体はそちらが?」

『ええ、わがアナハイム・エレクトロニクス社が責任もってご用意させていただきましょう。とはいえ、さすがに新型を右から左にポン、と用意することはできませんが……』

「彼は1週間後に試合を控えています。それに間に合わせることは?」

『ふむ、それでしたら……そうですね、間に合わせになりますが、ストライクを1機、用意しましょう。データ取りのための機材を積んだものになりますが』

「あ、ええと、なんかスンマセン」

『いやいや、こちらこそすまないね。せっかくの男性操縦者に間に合わせなんかで。でもストライクも良い機体だよ。そこは心配しないでいい』

 

 3日後の放課後までには学園に届けると約束して通話は切れた。

 で、オルコットさんがこれでまともな勝負になりますわね! とか挑発して織斑せんせーにひっぱたかれてた。そんな騒動を尻目にわたしの携帯に更なるメールが。

 ……アズにゃんめ、厄介ごと押しつけやがって。あとでナタルさんにあることないこと吹き込んでやる。




あれこれ解説

●ハロウィン事件
大体本文中で語った通り。
発生から5か月以上が経った現在でも原因が不明。そのためネット上などではAE社のマッチポンプなのではないかという風説が某天災ウサギ(元凶)の手により流布されている。
そういう小細工してるせいでノエルに所在をつかまれては逃げ出す羽目になっているのだが。

●王留美
転生者関係ない現地産の人。AE社の渉外担当。腕利きだがちょっと性格悪い

●ナタル=アズラエル
アズにゃんことムルタの嫁さん。現地産の人である。
アズにゃんもげろ

 *

そしてこんどはしんじんきょういくなのさうふふ

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