夜中にふと目を覚ます。枕元のスマホを見ると2:30だ。当然のことながら家族もみんな寝ていて家の中はひっそりと静まり返っている。しばらくスマホの画面を眺めていたが、せっかく目が覚めた時間を無駄にしている気がしてやめた。そういうのは暇な時にやればいいのだ。
と、もう一人の自分が笑う。「暇なとき」っていつだよ?
そうだね。自分も苦笑する。今だって暇な時だよね、と。
それでもずっと毛布の中にいるのは落ち着かなくて結局私はベッドから降りる。足から床の冷たさがすっと伝わってきて少し慌てて靴下をはく。こんなことは予想できていたから足元に靴下を置いていたのにすっかり忘れていた。
さあ何をしよう?
とりあえずお湯を沸かす。電気ポットの方が簡単だけどやかんのほうがふさわしい気がしたのだ。
お茶の葉とコーヒーを眺めながら何にするか考える。
さっきから何をしよう?ばかりだ。さっきじゃない、ずっと何か選び続けなければならない気がする。人生は選択の連続だって言ったのは誰だっけ?
お湯が沸いた。
結局冷蔵庫からゆず茶の瓶を取り出し、スプーンでカップに移し、お湯を注ぐ。
湯気がゆずの香りとともに白くたつ。
寒さから逃げるように口をつけて、舌を火傷した。猫舌とわかっているのになぜ同じ失敗を繰り返すのだろう。今度は少しずつ冷ましながら飲む。お腹の中から温まっていくのがわかる。ふうっと息を吐いて天窓を見あげると、細い細い月が輝いていた。
外に出よう。そう思った。
コートに手袋、マフラーに帽子という完全防寒スタイルに身を包んだ後、ポケットに鍵と小さな財布だけを入れて外に出た。終電も始発もない時間、私以外誰も歩いている人はいない。それでもなんとなく駅の方へ足を向けた。ごくたまに走り抜ける車が私の影を斜めにずらして消えていく。
駅の周辺のビル群も防犯用の灯りの他ははひっそりと静まり返っている。反比例するように私はなんだかわくわくしてきた。いつもは引きこもってる自分が世界を独り占めしているような感覚。自分の足音だけが響いていく。音?足元を見るとスニーカーを履いてきたつもりだったのに通学用のローファーだった。なぜずっと履いていないローファー?でも、ローファーで正解だったかもしれない。音がなるのが楽しい。自然と歩くテンポが速くなり、いつしか私は笑いながら駆け出していた。大通りからビルの間の細い路地を駆け抜け、次の通りへ。細い路地は何かと鬼ごっこをしているような気分で、大きな通りは街路樹の灯りが思いのほか明るくて、またテンションが上がっていく。
息を切らしながら、広場の真ん中で立ち止まった。ショッピングモールのビル群の真ん中が広場になっているのだ。カラフルなタイルが敷き詰められているが、この時間だ、タイルは街路樹に照らされて鈍く冷たく光っているだけだ。この時間にしか見られない輝きとも言える。そしてそれを見られたのは自分だけだ。自然と笑みがこぼれる。汗ばんで体温の上がった顔に冷気が心地よい。この高揚した感覚を誰かに伝えたくてスマホを取り出そうとして、家に置いてきたことに気づく。まあいい、後で書こう。ああ、靴のことといい、スマホのことといい、いろんなことがちぐはぐだ。否、ずっとちぐはぐだった。誰かに何かされたわけでもないのに学校に行けないなんてその最たるものだ。でも、ちぐはぐでもなんとかなる。そんな気がしてきた。
ふと上を見上げると月の位置がだいぶ低くなっている。空も家を出たときより少し明るくなってきたようだ。
ああ、今日は月曜日だ。帰ったら久し振りに学校へ行く支度をしよう。実際についたら教室に入れないかもしれない。そしたら保健室に行けばいい。門のところで引き返したっていいのだ。
道端の自動販売機で缶コーヒーを買って、私は家に向かって歩き始めた。
夜中に目を覚まして途中まで書いてたものの、滞っていたものです。Twitterでアンケートをとって結果から続きがかけました。協力してくれたFFのみなさま、ありがとうございました。