二度と覚めない筈の眠りから浮上した。
永遠だった筈の封印が綻んだ。
それ自体は驚くようなことじゃない、一応予想は出来ていた。
女神が創り上げた退魔の聖剣、万能の力の結晶であるトライフォース。
そして……自分で言うのも何だけど、『勇者』そのものにだって価値を見出せる要素はあるだろう。
いつか、俺達の伝説が本当に『伝説』となるような遠い未来、それらを狙う連中が現れることは十分考えられた。
だけど残念。
生憎と俺には、その思惑に応えてやる気は全く無い。
俺は『リンク』としての役目を果たしきった。
世界が滅びに瀕し、人々が苦しめられるような、『勇者』の登場と活躍が望まれるような時代はもう終わった。
終わらせたんだ。
目覚めたい気持ちが…もう一度、今度こそ本当に『ただの俺』として生きたいと望む気持ちが無いわけじゃない。
だけど、余計な争いの火種となってまで叶えたい望みだとは思えない。
繰り返される争いの運命から、世界は、人々はやっと解放されたんだ。
それがどれだけの悲劇と争いの末に叶った奇跡なのか、未来の人達はわからないだろうし。
あの頃には無かった別の問題だって、色々とあるんだろうけれど。
それは他でもない、『いま』を生きる人達の手で乗り越えなければならないことだと俺は思う。
だから、皆で頑張ってほしい。
俺みたいな、遠い過去の遺物なんかには頼らないで。
そう思いながら再び微睡みかけた意識が再び、今度は一瞬で覚醒した。
声が聞こえる。
苦しむ声。
悲しむ声。
祈る声。
願う声。
信じる声。
声、声……世界中から届いてくる。
助けを、救いを。
奇跡を。
『勇者』を願っている。
『その瞬間』に、世界中の人々が抱いたのであろう想いの残滓が、残響が。
焼き尽くされて、人も歴史も無くなった世界にまだ残っている。
思考が焼き切れるような心地がする。
怒りが、悔しさが、歴史を焼いた炎以上の赤と熱をもってこの身を焼く。
この事態に誰が抗えた、どう頑張れた。
首謀者以上に、自分自身の見通しと考えの甘さに対して腸が煮え繰り返りそうだ。
祈りの声は尚も届く。
応えるべき相手は、救うべき世界は、もはや消え去ってしまったというのに。
……………いや。
………残っている。
まだ諦めていない。
まだ戦っている人達がいる。
その場所の、その人達の存在を認識した次の瞬間。
俺は俺を、『勇者』を呼ぶ声に応え、手を伸ばしていた。
運命なんかじゃない。
逃げられなかった訳でも、諦めて受け入れた訳でもない。
助けを求めて、『勇者』を願う人達がいて。
それに応えたいと思った俺の、『勇者の力を受け継いだ俺』自身の心で決めたことだ。
『ゼルダの伝説』は、『勇者リンク』の物語は確かに終わった。
ならばここからは正真正銘。
俺の…リンクの物語だ。
……俺はリンク、俺は勇者。
何故だろう。
ずっと、何となく違和感を感じていたその名前が、肩書きが。
初めて、本当の意味でしっくりと来たような気がした。
本編を開始します。
どれだけの長さで、どれだけの時間がかかるか…そもそも、書ききれるかもわかりませんが。
彼らの人理修復に、お付き合いいただければと思います。