「…………………い」
……………………
「…………なさい」
…………だれ?
「起きなさい」
…………て、いうか
おれはだれ?
「起きるのだ」
「君はそうしなければならない」
「失わないため……いや」
「取り戻すために」
テレビの電源が入ったかのように、一瞬でパッと取り戻された意識と視界に飛び込んだのは、そのような状況でも瞳を焼かなかったほどに柔らかく優しい光と、それに照らされて輝く美しい庭園。
現実味を全く感じられない光景に、半ば夢見心地で呆然と言葉を失っていた少年は、それによってもっと狭い範囲の詳細な状況を把握するのに時間がかかった。
庭園の中央には、椅子とテーブル付きのこれまた美しいガゼボが建てられていて、自身はそこに腰かけていたこと。
目の前のテーブルには、美味しそうなお菓子と湯気の立つお茶が、二人分用意されていたこと。
テーブルを挟んだ反対側には、自身と向き合う形で何者かが座っていたこと。
長く伸びた鼻筋、毛皮を纏って頭の両側から伸びる大きな耳、額に生えた二本の角……優雅な手つきでティーカップを傾けるその人物が、人よりも獣と表したほうが正しいような異様な風体であったこと。
それら全ての異様を正しく認識し、半ば椅子から飛び上がりながら驚愕の声を上げるのに、10秒ほどの時間を必要としてしまった。
品がないと呆れられ、失礼だと怒られても無理もないようなその態度に対して”獣”が返したのは、柔らかく弧を描いた眼差しと口の端から零れる笑い声。
僅かに開いた口元から覗いた歯は、肉を食いちぎるための牙と表せるほどに鋭く、少年は再び自身の背筋が竦み上がったのを感じた。
「ふふっ……すまない、驚かせてしまったね。
私のような様相の者は、我が王国の名残があった頃でさえ、既に珍しいものとなっていたのに。
伝説の世を越えた、遥か彼方の時に生きる君にとっては、さぞかし異様なものと映るであろう」
「…………い、いえ、すみません。
確かに、ちょっとびっくりはしましたけど……」
優しく穏やかな声と、瞳に宿る確かな理性と知性の存在は、目の前にいるのは獣ではなく人であると認識するための根拠とするのには十分なものだった。
少年がよく知る「人間」のそれとは違う、独特の浅黒い地肌を指から肘にまでかけて無骨な装飾で彩った腕が、少年に何事かを促す。
それが、その存在に気付いた時と比べて少しだけ湯気が小さくなってしまっているティーカップであることに気付いた少年は、零さない程度に急いで手にしたそれを、火傷をしない程度に恐る恐る傾ける。
喉から鼻へと抜けていった香りと味わいは、これまでに口にしてきた飲み物のどれとも比べようが無い不思議なものだった。
「良かった、口に合ったようだね。
少し心配だったんだ、我々と君達とでは好ましいと思う味に違いがあるのではないかって」
「えっ……あ、ハイ、美味しくいただきました。
……あの、すみません、あなたは一体」
「私の名はラウル。
悪いが今教えられるのはこれだけだ、後はまた然るべき時に」
「ラウル、さん?」
「どうぞよろしく。
では、次は君の名前を教えてはくれないかい?」
「俺は…………」
言葉が詰まったのは勿体ぶったからではない、むしろ自己紹介を先んじてくれた彼の誠実さにすぐにでも応えたかった。
自分の名前……何よりも身近なものである筈のそれが分からない、『自分』というものが見当たらない。
足場が一瞬で崩壊し、底なしの暗闇に落ちていくかのような恐怖と不安に、少年はたちまちのうちに吞み込まれた。
「分からない……えっ、何で、どうして」
「少年」
「俺は……」
「少年!」
「おれは、だれ?」
「少年、気をしっかり!」
ぐちゃぐちゃになっていた思考を殴りつけたかのような一声によって、半ば強引に覚醒させられた少年の瞳が、不思議な力と光が宿った眼差しとかち合う。
テーブル越しに延ばされた、ラウルの浅黒い肌の手のひらが、歯が鳴るほどに震えていた少年の頬を、こちらを労わる優しさと奮い立たせようとする力強さを感じさせる温かさで包み込んでいた。
「案ずるな、それらは断じて君の中から失われた訳ではない。
落ち着いて……自分を信じて、もう一度探してみるのだ」
優しく、そして力強い声に導かれながら、少年は再び自身の内側へと目を向ける。
右も左も、上も下も分からないような暗闇の果てに、僅かに灯った道しるべのような輝きへと、彼はそっと手を伸ばした。
明るい色の長い髪を結んだ白衣の青年が、緑の服を着た金の髪と碧い瞳の少年が、長めの前髪の隙間から紫色の瞳が覗く少女が……他にも大勢の人々が、こちらへと向けて優しく笑いかけている。
彼らが呼ぶ名が自身のものであると、何の違和感も無く受け止めることが出来た。
「…………おれは」
「俺は、藤丸立香」
「カルデアの……人類最後のマスター」
まだ少し瞳を揺らしながら、それでも確かな自信をもって。
少しだけ遅れながらも、自己紹介の返事を確かに口にすることが出来た少年……立香の姿に、ラウルは満足げに笑いながら頷いた。
「ありがとう。
改めてよろしく、立香」
「あ、はい……よろしくお願いします。
で、でも俺、まだ……」
自分の名前が藤丸立香であること、カルデアという組織に所属する人類最後のマスターであること、あんなにも温かい声と笑顔で名を呼んでくれる人が大勢いること。
今はまだそれらを辛うじて思い出すことが出来ただけ、『藤丸立香』を構成する要素の大部分が未だ闇の中に散らばったまま。
再びの不安に襲われて唇を嚙み締めた立香に、ラウルはその先を促した。
「ならば、君が思い出せる最初から、順を追って聞かせてはくれないか。
君と、君の仲間達の旅路を……ばらばらになってしまった本のページを拾いながら、再び綴じていくように」
思いもよらない提案に呆気に取られた立香だったけれど、数度のまばたきと深呼吸を経て気を取り直し、徐に語り始めた。
人理修復の旅路を駆け抜けた自身の物語を……その1ページ目、吹雪に閉ざされた謎の施設の廊下での、紫の瞳を瞬かせながら自身を「先輩」と呼んだ少女との出会いから。
邪竜百年戦争。
永続狂気帝国。
封鎖終局四海。
死界魔霧都市。
北米神話大戦。
神聖円卓領域。
絶対魔獣戦線。
そして、終局特異点。
加えて悪性隔絶魔境、伝承地底世界、屍山血河舞台、禁忌降臨庭園。
思いがけず挑むこととなった、四つの亜種特異点の話までをも終わらせるには、随分と長い時間が必要だった気がする。
ようやっとの区切りをつけて、深々と息を吐きながら肩を落として全身の力を抜く立香を、ラウルの笑みと拍手が労った。
使用する言葉に迷って詰まったり、入れ込むあまりに客観的な視点を失ったりと、本職の語り手には遠く及ばないであろう拙い語り。
聞き手に楽しんでもらおうと意識したものではなく、立香自身の軌跡を歩み直す過程においての副産物に過ぎないそれを、ラウルは一言も漏らすことなく聞き届けた。
「本当に、大変な旅路だったんだね。
おめでとう……その全てを乗り越えてきた末に、君は今確かにここにいる」
本人が自覚するだけではなく、第三者がその存在をしっかりと認めて証人となることで、霧散しかけていた『藤丸立香』という存在が確かな形を取り戻していく。
そしてそれは同時に、彼をこのような状況へと陥らせた元凶へと、再び対峙しなければならない時の訪れでもあった。
「うっ、ぐ……あああああああっ!!?」
右手の甲から始まり、瞬く間に腕全体を襲った気も狂わんばかりの激痛に、左手で右腕を掴む以外の力が抜けた立香の体が堪らず崩れ落ちた。
派手に傾いたテーブルから転げ落ちたティーカップや食器が、甲高い音を立てながら石畳の上で砕け散る。
一瞬遅れて、その破片の上に倒れかけた立香の体を既のところで受け止めたのは、浅黒い肌と無骨な装飾が特徴的なラウルの腕だった。
「立香!!」
「な、何これ……俺の腕、どうなって」
今にも飛びそうな意識を懸命に繋ぎ止めながら、やっとの思いで視界に捉えた右腕が、これぞ『穢れ』と称するべきおぞましい何かに侵食されている。
あんまりな現実を認識してしまったことで飛びかけた立香の意識を、ラウルの声がギリギリのところで繋ぎ止めた。
「しっかりしろ、耳を澄ませて!!
聞こえる筈だ、君の傍で足掻く者達の声が!!」
『バイタルが一気に低下……何てこった、落ち着いたと思ったのに』
『くっ……おい貴様、本当に手は無いのか!?』
『残念ながら……高ランクの浄化、もしくは解呪の術を心得たサーヴァントならば対応することも可能でしょうし、カルデアにも何人か所属しておりましたが。
新所長殿もご存じのように、サーヴァントの多くは監査に先駆けて一時退去しておりました。
落ち着いてからの再召喚が叶うように霊基パターンの記録は残してありますが、それを元に召喚を行なうのには、マスターであるミスター立香の存在が不可欠です』
『ぐぬぬぬ……こやつを救うためにはサーヴァントの力が必要だというのに、サーヴァントを喚ぶためにはこやつの力が必要だというジレンマ、か。
…………ええい、仕方がない!!
所長命令だ、今すぐこやつの右腕を切り落とせ!!』
『なっ……バカ、何言ってんだおっさん!!
あんたも聞いてただろ、そんなことをしたら……』
『もちろん聞いていたとも……こやつを苛む呪詛は令呪に巣食い、令呪の魔力を利用して侵食を進める類のものであると。
右腕はもはや諦めるしかないが、逆に考えるなら、右腕で済んでいる段階で切り落としてしまえば少なくとも命は助かる!!』
『マスターとしての力と引き換えにな!!』
『それがどうした、やらねばこやつは死ぬのだぞ!!』
……………………おれ、しぬの?
なにが、あったの?
………………………………
おもいださなきゃ、もういちど
『お疲れさまでした、先輩。
今日この時をもちまして、先輩の人類最後のマスターとしての職務は終了です』
『過去が変えられる危険性を考えてレイシフトも凍結か……色々と大変だったけど、いざこの時が来てみると少し寂しいな。
……浸っていても仕方がない、切り替えよう。
俺達がこれから為そうとしていることには、カルデアスもレイシフトも関係ないんだから』
『はいっ!
不肖マシュ、どこまでも先輩にお供いたします!』
『いい、いいではないか!!
こんな地の果ての工房に期待などしていなかったが、まさかこれほど近代的な施設だったとは!!
むしろロンドンのどの工房より進んでいないか、これは素晴らしい拾い物だ!!』
『人理修復の激務の中、皆で懸命に守り続けてきた場所を気に入って頂けたようで何より。
旧カルデアを代表して歓迎しますよ、ゴルドルフ・ムジーク新所長殿』
『ほほう、そして貴様が所長不在の代理を務めたというレオナルド・ダ・ヴィンチか。
貴様以外のサーヴァントは、既に全員が退去したとの報告を受けているが…………ええと、その、だな。
例外などは存在していないかね……例えばかの勇者殿ならば、自身が救った世界のその後を案じたとしてもおかしくはないと思うのだが』
『残念ながら、新所長殿……報告書にも記載した通り、勇者殿は人理修復まで我々を導くという大役を果たし切った時点で時の神殿へとお戻りになりました。
彼は自身の存在が、平和が取り戻された筈の世界で新たな諍いを招きかねないことを危惧していましたからね。
かの人が先んじられたからこそ、我の強いサーヴァント達も大人しく退去命令を受け入れたという話でもあるのです』
『そ、そうか……見返りも求めずに何とも潔い、流石は勇者殿と言ったところであるな』
『んもーう、嫌ですわ閣下ったら。
伝説の勇者様にお会いしたかっただなんて、可愛らしいところもありますのね♡
……全く、洒落にもならないことを言わないで貰いたいものです』
『……査問が終わるまでは重罪人扱いだって言われたけど。
四人一組で押し込められてはいても、カメラでの監視なんかはされていないし、食事やトイレなんかも別に制限はされていないし。
むしろ食事に至っては、できる限りちゃんとしたのを出そうとしている心遣いすら伺えるし』
『一声かけさえすれば外出すらも自由なのには驚いたね、流石にこの状況で気軽に出る気はしないけれど』
『あの新所長、冷徹さを装おうとはしているみたいだけど、根は悪い人じゃ無いような気がするな』
『ほほう、てことは何か。
あのおっさんを脅すなり、懐柔するなりして仲間入りさせるってのも、立香にとっては選択肢に入るってこと?』
『う~ん……まあ確かに、あの新所長に私達の目的を知った上で改めて雇い直してもらうってのが、一番手っ取り早くて後腐れも無いんだよね。
残留することになるAチームメンバーの反応次第になるけれど、その可能性もギリギリまで残しておこうか』
『私もそうなれば嬉しいです、皆で少しずつ整えていったこの場所にはやはり思い入れがありますから』
『じゃ、新所長に関してはそういうことで。
……コヤンスカヤと言峰神父については、引き続き要注意で行こう。
でも今はまだ私達が無茶をする段階じゃない、もうちょっとだけ一人で頑張ってもらうことになるね。
なぁに、心配はいらないよ。
勝手を知り尽くしたカルデア内での隠密活動なんて、《彼》にしてみれば何気ない日常生活も同然だし』
『人理修復が完了した時点で真っ先に退去しただなんて、よくもまあ白々しいことを……』
『ふふんっ、美女は嘘と秘密で着飾るものなのさ』
『一体何なんだあいつらは、カルデア内でいきなり銃撃戦なんか始めやがって!!』
『ムニエルさん落ち着いて、今はとりあえず安全の確保を優先しよう』
『その通りですミスター立香、危機的状況への対応力は流石は人理修復を成し遂げたマスターと言ったところか』
『ホームズも、来てくれてありがとう。
……ところで、あいつは今どこに?』
『ダ・ヴィンチ女史らへの救援に向かわれた、なのであちらは心配無用と考えて良いだろう。
ミスター立香らの護衛は私が務める、急いで例の場所まで避難を……』
《ああ……あああ、誰か、誰か……っ!!》
『……っ、この声は!』
《誰でもいい、誰か、誰かいないのかあ!!
何だって私がこんな目に遭う、私を誰だと思っているんだ!!
私はゴルドルフ・ムジークだ、ムジーク家の長男なんだぞ!!
今日という日からカルデアを栄光に導く男……栄光、そう栄光、その筈だったのに!!》
『…………ゴルドルフ、所長』
《……なぜだ、なぜなんだ。
何でいつも、最後になって裏切られるんだ。
いつもこうだ、私はいつもこうだった。
どこに行っても私はのけものだった、敗者だった、爪はじきものだった》
《知っているさ、私が嫌われ者だってことぐらい!!
でも、だからってどうしろと言う!!
嫌われる理由が分からない、人に好かれる方法なんて分からない!!
私だって努力はしたんだ、私なりに最善を尽くしてきたんだよ!!
何も一番なんて望んではいなかったんだよ、二番でも三番でも満足だった!!
……だが、はは、結果はどうだ。
三番どころか成果すら出せなかった》
《くそう、今まで何もいいことが無かったのに!!
やっと、やっとここで成功できると思ったのに!!
どこまで行っても私の人生はどん詰まりなのか……ちくしょう、ちくしょう!!》
《死にたくない、まだ死にたくない!!
だってそうだろう、私はまだ、一度も、一度も…………》
《一度も、他人に認められていないんだ!!
まだ誰にも、誰にも愛されていないんだよ!!》
『……ごめんホームズ、助けに行かせて!!
この状況で無茶だってのは分かってる、でもあの台詞を言われちゃあ裏切れない!!』
『安心したまえ、ミスター立香。
その言葉自体に否は無いが、わざわざ我々が足を運ぶ必要は無いと見える』
『えっ?』
《すまないゴルドルフ殿、少し遅れてしまったようだ》
《なっ……き、貴様は、料理長!?》
《査問の際には世話になった。
料理に詳しい貴殿が入ってきてくれたおかげで時間が短縮したし、色々と話も出来て楽しかったよ。
私の代わりに皆の食事にも気を配ってくれていただろう、その分の礼という意味もある》
《そ、そうか、それは大儀で…………いやいやいやいや、ちょっと待て!!
貴様は確か調理室担当のスタッフだった筈だろう、何なのだねその剣は!!》
《今は安全を確保することが優先だ、詳しいことはまた後で話そう。
道を開く、着いてきてくれたまえ……行くぞ、トレース・オン》
『通路を塞いでいた氷は融かしたわ、早く行きなさい!!』
『あ、ありがとうオルタ!!』
『助かった……』
『だから行けってば、私が逃げられないじゃないの!!
……あの女、ちょっと洒落にならない。
マスターもいないし、悔しいけど今は時間稼ぎが出来れば上々ね』
『……ああ、腹立たしいわ。
私、熱いのは嫌いだけれど、家臣の不手際はもっと嫌いなの。
直接会って、時間をかけて尋問までしておきながら、人間とサーヴァントの区別すらつかないなんて。
担当したのは一体誰なの、芯まで凍らせて砕いてやらないと気が済まないわ』
『フォローするつもりはないけれど、別に査問管達の目が節穴だった訳じゃないわよ。
だって私達自身、ついさっきまで、自分がサーヴァントだってことを忘れてただのスタッフだって思い込んでいたもの。
スタッフとしても働いていたのは事実なんだから証言に嘘は無いし、そんな状況でもしかしたらサーヴァントかもなんて疑う方がおかしいでしょう』
『…………まさか、あり得ない。
人間ならまだしも、サーヴァント相手にそれだけ強力な暗示をかけるなんて、高ランクのキャスタークラスだとしても難しい筈よ』
『それは暗示に対して抵抗した場合、かけられる方が全面協力していれば話は違うでしょう。
更に言えば、私には『
キャスター連中の暗示もちょっとしたきっかけで解ける算段だったの、そして私が解ければ他の連中も続くようにしてあった。
……こんな馬鹿げた襲撃なんて行わなければ、私達の暗示は最後まで解けなかったし、カルデアの譲渡だって穏便に行われていたってのに。
眠れる魔女を叩き起こしたのはあんた達自身よ、少し焙られることくらい甘んじて受けるのね!!』
『……あっ、来ました!!』
『ひい、ひいい~~……駄目だ、もう、限界』
『頑張れ、あと少しだ!!』
『止まるんじゃない、冷気がもうそこまで来てるわよ!!』
『エミヤにジャンヌ・オルタ、ゴルドルフさんも早くこっち!!
よし、あとはあの二人が来さえすれば……良かったあ、ギリギリセーフ』
『いや、アウトだよ』
『えっ?』
『残念だったね、藤丸立香』
『…………り、立香。
立香っ!!!』
『言峰神父、立香君に何をした!!』
『お初にお目にかかる、勇者リンク殿。
伝説にて数多の怪物を屠られた貴殿は、我ら聖堂教会にとっても偉大なる先達だ。
お会い出来て光栄ではあるのだが、一歩ほど遅れてしまったようだね』
『質問に答えなさいよ、このエセ神父が!!』
立香に何をしたって聞いてるの、消し炭にされたいわけ!!』
『その呪いを作ったのは私の同僚なのだが、カルデアのマスターにはちょっとした恨みとやらがあるらしくてね。
隙あらば食らわせてやって欲しい、とのことで符を預かってきたのだ。
私としては、呪う暇があるのならば殺してしまえばいいのにと思うのだが、同僚との仲はなるべく円滑にしておいた方が仕事の効率も良くなるというものだろう?
加えて、大事なマスターを目の前でむざむざと害されたサーヴァントの、怒りと絶望に打ちのめされた表情にも興味があったのだが。
……うむ、中々に趣深い』
『殺す、燃やし尽くしてやる!!』
『落ち着けミスオルタ、魔力を抑えるんだ!!』
『この状況で何を馬鹿な『ミスター立香に負担がかかっている!!』…………何ですって?』
『よく気付いた、流石は世界一の名探偵と言ったところか』
『……呪いは専門外ではあるが、判断材料がこれだけ揃っていればね。
マスターの証たる令呪に巣食いながら、令呪の魔力を利用して術者が干渉せずとも自動的に侵食を進める類のものと見た。
更に言えば、ミスター立香とサーヴァント達は令呪を介することでパスを繋げている。
この状況で戦闘行為等を行ない、魔力の流れを乱すなり消耗させるなりといったことは、令呪を侵す呪いを刺激してしまうことに他ならない』
『じゃあどうしろって言うのよ!!
戦わないと……こいつらを追い返すなり私達が逃げるなりしないと、それこそマスターが!!』
『手遅れになってしまうな、既に一刻を争う事態へと片足を踏み入れかけていると見え……ぐはっ!?』
『言峰ええええっ!!』
『ゲボッ…………ああ、成る程。
聖三角を所持されている貴殿は、パスを切ってしまっても自前の魔力だけで充分に戦えるのか』
『聞いての通りだ、俺なら行ける!!
今のうちに脱出の準備を、急いで!!』
『コヤンスカヤ、こちらも急ぎだ。
私一人で勇者を相手にするのは、流石に少々手厳しい』
『……ホームズさん?』
『まったく、下手に頭が回るのも考えものだね』
『なぜ、ドアを閉めてしまうのですか』
『現状で打つべき最善の手を、否応なしに導きだしてしまう』
『リンクさんが、まだ外で戦っているのに!!』
『瀕死のミスター立香を守りながらの逃亡劇には、一切の追走も追撃も許してはならない。
ここで完全に後続を断たねばならない……その為には、我々が脱出した後も足止めを続けてくれる者の存在が必要だ。
マスターがいない状況で、言峰神父とコヤンスカヤを同時に……そんな無茶が可能なのは一人だけ、私よりも貴女の方がご存じでしょう』
『そ、そんな……』
『だったらせめて私も出しなさい、マスターとのパスを切りさえすれば戦っても大丈夫なんでしょう!?
今ある魔力が切れた時点で消滅するんだろうけど、あいつ一人だけ置いていくよりはよっぽどマシだわ!!』
『それも駄目だ。
何故ならこれは……他でもない、彼自身の望みなのだから』
《……皆、聞こえてる?》
《ありがとうホームズ、俺の気持ちを汲んでくれて》
《皆はまた、一人で勝手なことをって怒るんだろうけど》
《もう完全に性分だな、俺が頑張りさえすれば皆を守れるって状況で堪えるのはやっぱり無理だ》
《今までありがとう、本当に楽しかった》
《もう終わったとばかり思っていた日々の、掛け替えのない続きだった》
《だからどうか、勇者としてじゃない、ただのリンクとしてのお願いを聞いてくれないか》
《…………立香を》
《俺の友達を、助けてほしい》
《俺も絶対に諦めない、最後の最後まで戦う》
《だから、今はさようなら》
《いつかまた、必ず会おうね》
「………………リンク。
リンク、ぐっ……ううう…………っ!」
溢れる涙を拭えないのは、右腕を苛む呪詛のせいだけではない。
声を上げて発散することも出来ないまま、胸の中で膨れ続ける口惜しさと不甲斐なさの方が、全てを思い出した今の立香にとってはよほど辛かった。
このまま、本当に破裂して死んでしまえれば、どれほど楽になれることかと思ってしまう。
胸中を埋めるそんな考えが、自身の紛れもない本心であることを自覚して……音を立てる程の大きな息と共に吐き出した彼が、再びその目を開けた時。
滲んだ蒼い瞳に、見覚えのある光が宿っていることに気付いたラウルの瞼が、眩しげに細められる。
それは紛れもない、ラウルにとっての『勇者』がかつて示して見せてくれたものと同じ。
困難に立ち向かう『勇気』の輝きだった。
「ラウルさん、帰り方を教えて下さい」
「皆が俺を助けようと頑張ってくれている、俺も戻って戦わないと」
「あいつを、迎えに行かないと」
「勇者だの何だのは関係ない」
「友達なんだ」
「ならば立香、私と契約をしなさい」
「酷な話ではあるが、今現在君らが居るあの場所に、その呪詛をどうにか出来るだけの設備や人員は存在していない。
このまま無理に帰還を果たしたとしても、悶え苦しんだ末に死に至る……右腕を放棄して命だけは取り留めたとしても、君が何よりもの宝と称していた数多の英霊達との繋がりは失われる。
どちらにしても、君はこの先、大切なものを取り戻すために戦うことは出来なくなるだろう」
「…………それは、困るなあ。
ラウルさんがいれば、どうにかなるの?」
「君の命と、英霊達との繋がりの証であり資格でもある令呪、その両方を共に守ってみせると約束しよう。
……その代わりと言っては何だが、君もひとつだけ約束してほしいんだ。
君がこれから歩む旅路は、人理修復のそれをも上回るほどに過酷で、残酷なものとなるだろうけれど。
……それでも、どうか諦めないでほしい。
遥か遠い未来で目覚めた彼が、世界にたった一人だけという孤独を味わう間もなく、掛け替えのない友人達と共に再びの生を得ることが出来た。
そんな存外の奇跡をくれた、君達を育んだ世界のことを」
少し不安そうな表情をしながらの、かなり不穏なものを感じさせる内容であったというのに。
悩むまでもなく頷いた立香に目を瞬かせたラウルは、零れるような笑みを浮かべながら、ゆっくりと延ばされた立香の呪詛まみれの右手を自身の浅黒い手で受け止める。
そこから生じ、温かさを伴いながらゆっくりと広がって右腕を包み込んだ光が、呪詛の苦痛を和らげてくれたことは気のせいではない。
動かすのが少しだけ楽になった口が、とうに馴染んだ呪文を紡ぎ始める。
「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公……」
たった今まで、呪詛によって生と死の境を、殆ど死の際の方で彷徨っていた立香を救うべく奔走していた一同は、突然の異様を前にそれまでの喧騒が嘘のように言葉を失っていた。
死人のような真っ白い顔で、もはや呻き声を上げることすらも出来なくなってしまっていた立香の、令呪の赤色すら分からなくなるほどにどす黒く変じてしまっている右腕……それが今、眩いばかりの魔力の輝きを纏っている。
明らかな異変ではあるけれど、それは同時に、人理修復の旅路を手助けしてきたカルデアのスタッフ達にとっては既に慣れ親しんだ現象でもある。
魔力の光が、まるで虹色の羽が舞うかのような光景を作り出しているこれは、最高位ランクのサーヴァントが現れようとしている前兆であることが既に判明していた。
「……ダ・ヴィンチちゃん、これは」
「立香君、一体何を喚ぼうとしているんだい!?」
密閉空間の中で、何の準備も心構えも出来ていなかった状況で突如発生した魔力の奔流に妨げられ、中心にいる立香のもとへと誰も近づくことが出来ない。
永遠にすらも感じられた幾ばくかの時を経て、魔力の風と光が収まっていくのを待つしかなかった一同は、それらが過ぎ去った後に現れた光景が予想外のものであったことに目を瞬いた。
横たわる立香の傍らに現れると想定していた、新たなサーヴァントの姿がどこにも見受けられない……召喚自体が失敗だったのか、今の一瞬の間に霊体化したのか。
いくつかの想定が出来たし、何かしらの確認や対応だって必要になるけれど、現状で最も優先すべきものは他にある。
なけなしの治療道具や礼装を手に駆け寄った一同は、今度は本気で言葉を失い、その場で呆然と立ち尽くす羽目になった。
今の今まで本当に死ぬ間際だった立香の顔色が、呼吸が、もう大丈夫だと一目で判断できる程の血の気と力を取り戻している。
それを素直に喜ぶことが出来ない程に、目の前に広がった光景はあまりにも異様なもので。
「………………ねえ、シャーロック・ホームズ。
世界一の顧問探偵、君はこの現象をどう考える?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチ、万能の天才、君が今考えているそれと同じだと思ってくれて構わない。
……この異形の右腕こそが、ミスター立香を救った新たなサーヴァントだ」
呪詛へと対応するために上着を脱がせていたので、右腕だけに収まらず肩から脇腹の辺りにまで及んでいる変化は誰の目にも明らかだった。
何とか気を取り直した者が、立香へと声をかけようとしたのとほぼ同じタイミングで、蔦をそのまま巻き付けたかのような無骨な装飾によって彩られた、甲に令呪の赤い輝きが無ければ立香のものだとは到底信じられなかったであろう異形の右腕がゆっくりと動き出す。
その動きは融合したサーヴァントの意思によるものなのでないか、立香を傷つけるつもりなのではないかという懸念を、一同にほんの一瞬抱かせたそれは、立香の首を絞めるでも頬を張るでもなく、天井の明かりを掴もうとするかのように軽く掲げ上げられただけの位置で止まった。
震えながらもゆっくりと開かれた立香の瞳に、霧散しかけていたこの身を再構築するのを手伝い、再び歩んでいけるように導いてくれた人の腕が、自分自身のものとしてそこにあるという謎の光景が映し出される。
訳が分からないまま混乱し、慌てふためいてもおかしくはないような現実を、彼は『ああ、そうなんだ』とあまりにも自然に受け入れた。
「…………ありがとう。
お借りしますね、ラウルさん」
裏切りのAチーム、地上の白紙化、異星の神とその使徒達。
呪詛によって蝕まれた状態のままカルデアを飛び出し、今の今まで生死の境を彷徨っていた立香は、旧カルデアの一同を混乱と絶望に叩き落した諸々の事象についてまだ何も知らない。
知ればもちろん驚くし、何時間かは落ち込むかもしれない……それでも。
諦めないし逃げもしない、何故なら既に約束したから。
遥か古の時代、仲間達と共に同じように絶望へと立ち向かった王の右腕が誓いの証であることを、腕の本来の持ち主と立香だけが知っていた。
魔術礼装『決戦用カルデア制服』の手袋の穴から除く変色した右手を見て、ティアキンのリンクの右腕が瘴気に侵されて死にかけていたところを助けるために光の力を持つラウルが自らの腕を貸したものだということを知って、ティアキンを進めるうちに明らかになっていった右腕の能力諸々を考察して。
思いました、「これリンクじゃなくて立香が持った方が面白そう」だと。
礼装でガチガチに固めた右腕の隙間から覗く肌の色に、無理に魔力を活用しすぎた後遺症だ、礼装は壊れかけのそれを補助するためのものだとばかり思って侮っていたら実際には気配を隠蔽するためのもので、満を持して解放されたその下からとんでもない力を秘めた腕が現れて驚愕する……なんてのを、ゲームをやりながら妄想して楽しんでました。
右腕の力は凄まじい身体能力を持つリンクだからこそ活用できているところも大きいので、ゲーム本編のような使い方は到底できませんし、マスターでありながら前線に出てサーヴァント達と肩を並べて戦えるようにもなりません。
スクラビルドやトーレルーフ等の名前付きの能力に関しては、リンクが使用した場合の数十分の一くらいのレベルで、旅路を多少便利にするのが精々でしょう。
活用するとしたらむしろ、光の力による解呪や浄化などの方が機会が多そうです。
しかしそれも、立香に技術が無いために『川辺のゴミを掃除するためにダムの水を全力で放水する』レベルでのゴリ押しになりそうなので、後々にゴルドルフ所長やカドックが白目を剥きながら胃の痛みを堪える羽目になると思います。
マスターである立香を天然のデミ・サーヴァントじみたものにする……それも神と謳われたゾナウ族、ハイラル王国の初代国王であるラウルを相手に。
流石にちょっとやりすぎかなと思ったこのネタを行こうと思ったのは、立香がマスターだからこそ生かせる右腕の能力を思いついたからでした。
ゲームにおいては賢者達の分身を宿して共に戦っていましたが、あれをサーヴァントで出来ないかな~と。
宿らせることと呼び出すこと自体が右腕の力なので超省エネ。召喚にも維持にも余計な魔力を使わないで通常のそれとは完全な別枠扱いとなります。
デメリットとしては、本来はあくまで賢者の分身を追従させるための力なので、サーヴァントを適用させるには、一時的にでも『シャドウ』のレベルまで存在を落とさせる必要があること。
大した負担もなしにすぐ傍で立香を守れるのならば、自動モードで戦うことしか出来ない影になるのも許容範囲。
後で必ず元に戻してくれると信じているし、仮に非常事態が起こってしまったとしたらそのまま使い潰されたとしても別に構わない。
心からそう思えるくらいの信頼関係が存在していることが条件であり必須だと考えています、具体的に言うのならば絆レベルが7以上といったところでしょうか。
影ではなく青い光によって形作られた姿で、基本的に自動で戦うけれど、立香が直接指示を出せばダウングレード版かつしばらくの間呼べなくなるけれど宝具も使えて。
ネタはこんな感じになります、いつか本編で書ける日は来るのでしょうか……。
ラウルの右腕を得たことで考えている、第二章以降のネタをもうひとつ。
ずばり、『ゼルダの伝説』に由来する英雄達の召喚を解禁です。
マシュの円卓の盾があらゆる英雄達との縁を繋いでいるように、『初代ハイラル国王』というハイラル由来のあらゆる縁の中心にいるような存在の腕が、新たな触媒となることを考えています。
人理修復に関しては、血筋、歴史、信仰、思想などの同一の縁や繋がりを持たない、既に完全な終焉を迎えたハイラルとは全く関係ない新たな歴史の中で起こった事件、そこで生きる者達の手で立ち向かうべき問題でしたが。
第二章の地球白紙化、世界同士の生き残り闘争に関しては、ハイラルの人達にとっても大問題です。
それは、最終的に勝ち残った異聞体が、『過酷な環境や偏った価値観を持つ者の独裁の中でゼルダの伝説という物語が失われた』もしくは『ゼルダの伝説がそもそも発掘されなかった』歴史である可能性が十分にあるからです。
『ゼルダの伝説』というのはそもそもが、遠い未来で蘇る日が来るかもしれないリンクが新しい世界でも孤独にならないようにと願い、新しい人々の中に彼を受け入れる土台が作られることを期待して遺されたものです。
それが失われ、リンクが新たな人生を歩めるようになる余地が一切消え失せた世界なんて、ハイラルの人達からすれば認められるものではありません。
人理焼却という未曽有の大惨事が起こってしまった故であったとしても、リンクが目覚めて、彼を勇者ではなくただのリンクとして見てくれる仲間に会えて、また生きたいと思わせてくれた。
そんな奇跡が起こった汎人類史こそが、ハイラルの英雄達にとっての守るべき世界であり、先んじて駆けつけることが出来たのが蝕まれた右手云々で強い縁が生まれたラウルだったという訳なのです。
ブレワイの1万年前にも勇者と姫と魔王の戦いがあったらしいことから、『伝説』として語られていないだけで緑衣の勇者の冒険は他にも色々とあったと考えています。
ティアキンの物語もその中のひとつだったとして、
『ラウル』って名前自体は、他の章で光の賢者のものとして出ているけど
初代ハイラル国王? ゾナウ族? 古代文明? 息吹の勇者の新たな戦い? 何それ知らない……
となって困惑する一同をよそに、一人だけ『そういえばあったな~』となったリンクが『何日か時間ちょうだい、ちょっと書いてくるから』とか言い出して大騒ぎ、みたいなことになりそうです。
ちなみに、時代を大きく隔てているのにも関わらず同じ名前の国や村や人が度々現れているのは、ゲームのメタ性を除いて考える場合、世界の管理者である女神ハイリアの存在とセンスに関しては変わらず一貫しているからかなと想定しています。
街づくりゲームを場所や条件を変えて改めて最初から始めても、プレイしている人が変わらないと結局似た感じになるようなもので。
随分と長い間書いていなかったので色々と四苦八苦しながらでしたが、自分の中にある物語を何とかして形にする工程はやはり苦しいながらも楽しかったです。
積み分も発売予定のものも含めてまだまだやりたいゲームがあり、時間とやる気を捻出するのが大変そうではありますが、書く気自体はまだまだあります。
今度はあまり間を開けないよう、どんなに短い時間でも執筆を日々の習慣にするよう努めていきますので、お付き合いいただけると幸いです。
「どうだ、コヤンスカヤ」
「ん~~……………駄目ですねえ、影も形も気配も見受けられません。
隠蔽工作もしっかり施されているようですし、この状況で今から追うのは獣にとっても無茶ぶりです」
「……逃げ切られた、と思ってよいということか」
「大した問題でありません、あの悪趣味な呪いはきっちりくれてやったのでしょう?
判断が遅れて死ねば良し、ばっさり切り落としたとしてもマスターとしてはやはり死ぬのでそれも良し。
カルデアはもはや脅威ではないという事実は変わらない、寸分たりともね」
「ふむ……それもそうだな、念のため警戒を続けておく程度の対応で良かろう。
叱責を受けるようなことはあるまい、思いがけない手土産も出来たのだから」
「手土産って……もしかしてあなた、『あれ』を成果にカウントするつもりですか?
もの自体が最上級品であることは確かに認めますけれど、使えなければ意味が無いのでは?」
「飾っておくだけでも士気を向上させるには十分だろう、あれはそれだけの力を持つ代物だ」
「そういうものですかねえ。
……まあ念のため、我が社の商品を集めるついでにとはなりますが、あれをどうにか出来る方法についても探しておきましょう。
難しいとは思いますけどね……何しろ、あらゆる魔の根源とも言うべき存在を、万年単位で押さえ込むことすら可能とするような代物なのですから」
「……意外だな、獣たる君があの『伝説』を嗜んでいるとは」
「あら偏見。
こう見えてわたくし、あらゆる魔物の王たるかのお方に関しては、本当の本気でリスペクトしておりますのよ♡」
表面だけが和やかな二人の人外が、同じく表面だけのやり取りを交わす、あらゆる命が消えうせた極寒のカルデア。
乱立する氷の柱に紛れて、巨大な宝石のような結晶が静かに佇んでいる。
あらゆるものを拒まんとしているかのように、冷たく硬質なその中心では……緑の服を纏い、手の甲に聖三角の紋章を刻んだ金の髪の少年が、閉じた瞼に碧い瞳を隠しながら、穏やかな微笑みと共に眠りについていた。
リンクの救出、及び合流が出来るのはオリュンポスあたりになりそうです。
封印に閉じ籠った状態でも夢の中でAチームの皆と密かに交流して(Aチーム側は知らないもしくは覚えていない)、彼らの結末や心の在り方をちょっとだけ変えてくれたりしたら嬉しいですね。