自身の体が青い光と化すという、レイシフトともまた違う不安定な移動を経た立香は、形を取り戻した足が地についてふうと息をついた次の瞬間、その身を安定させるどころか飲み込んできた足場によって盛大にその身を滑らせた。
「ぶひゃっ!!
何だこりゃ……砂ぁ!?」
「立香!!」
突然のことにパニックに陥り、砂の海で半ば溺れる立香の耳に、リンクの慌てた声が辛うじて届く。
次の瞬間、暴れるせいでますます砂に呑み込まれてしまっていた立香の体は、真下から突如現れた固い足場によって流砂からの脱出を果たしていた。
「大丈夫か!?」
「な、何とか……」
口の奥にまで入り込んでいた砂を吐き出し、阻まれていた間の分も懸命に呼吸を繰り返す立香が見たのは、伝説の大魔術師が愛用していそうな立派な杖を振りかざすリンクの姿だった。
ホッと息をついていた彼は、何かに気づいたのか一変させた鋭い眼差しを周囲に向けて、杖の柄を握る手に音が聞こえそうな程の力を込め、辺り一帯を薙ぎ払おうとするかのように空気の唸る轟音を立てながら振るった。
その魔力によって現れるを通り越して突き上げた砂の塊に、砂中をまるで水中かのように泳ぎながら獲物の隙を伺っていたところを宙高く吹っ飛ばされた虫型の魔物達は、再び砂に潜るどころか地に落ちるよりも先に消し炭と化した。
徐に構えた手で、パチンと指を鳴らす……そんな細やかであり触れた合図によって、轟音と共に降り注いだ雷に一匹残らず貫かれて。
「魔法があるとやっぱり楽だな~、どうにかして普段から使えるようになりたいけど……」
一区切りがついて緩みかけた思考が、突如発生し、徐々に強くなっていく振動によって再び引き締められる。
振動が周囲のどこかではなく自身の下から迫ってきていることに気づいたリンクは、強靭な脚力を駆使してその場から一息に飛び退いた。
今の今まで彼が立っていた地点を割り、水飛沫の如く砂を噴き上げながら現れた巨体に、リンクは覚えがあった。
過去の勇者達から受け継いだものではなく、自分自身の経験から得た知識の中で。
「モルドラジークだ!!
懐かしいなあ、ハイラルとゲルド合同の討伐訓練を指揮したこともあったっけ……」
「あの怪物を見て最初に出てくる言葉がそれ!?」
《立香君、ツッコめる余裕があるなら自分の安全確保を優先して!!
リンク君、どうするつもりだい!?
『伝説』の中で確か君は、砂上の獲物を音と振動で感知するモルドラジークに対して、岩山に登ることで対処していたけれど……》
見回して把握できる範囲に、モルドラジークの探知をかわせそうな高台は見受けられない。
『伝説』の内容を、リンクの活躍の一端を知る者だからこその心配を口にするロマニに、リンクは何の不安も感じられない笑みと声で応えた。
「最適な方法が取れない程度で手も足も出なくなるようじゃ、『勇者』なんて出来やしないよ」
そう言って駆け出したリンクの、広大な砂地では至極些細なものである筈の足音を、モルドラジークは逃さなかった。
一瞬で定めた目標へと向けて潜航を始めたモルドラジークを認識するや否や、今度はリンクが行動に移る。
立ち止まり、今一度振りかぶった杖の先を、自身の足元へと叩きつけた。
柄を握り締める力の強さと集中して張りつめた表情から、相当な力を費やしながら術を行使しているのが分かるけれど、それに見合う程の変化の表れが一向に見受けられない。
そうこうしている内に、モルドラジークは砂の下に完全に消えてしまう程に深く潜り、人間をも一飲みにしてしまえる巨大な口を開けながら真下から食らいついてくると、見守っている誰もが身構えたその瞬間。
彼らが目の当たりにしたのは、モルドラジークの巨体が砂山を突き破りながら現れるところではなく……轟音を立てながら盛り上がった砂山と、柔らかく柔軟な『砂』には生じることが無い筈の巨大なヒビ割れと、それをぶち抜きながら現れたモルドラジークの鳴き声とは言い難い絶叫を上げながら悶え苦しむ姿だった。
リンクが一体何をしたのか、立香が察するのは早かった。
「……砂を固める力を持ったあの杖で、足元の砂を岩みたいにしたのか。
そこに、頭から全力で突っ込んで……」
ほんの一瞬振るっただけで、人一人を乗せるには十分な足場を作ったり、砂中を泳ぐ魔物達を宙高く吹っ飛ばすことが出来るのだ。
あれだけの時間と力を込めていたのだから、もはや岩を通り越して鉄の塊と化していたのではと思い至った立香は、恐ろしい魔物を相手に心底同情してしまっていた。
しかし、優しい少年であると同時に切り替えの早い戦士であり、情け容赦なくそのような目に遭わせた当の本人であるリンクには、そんな手心を加えるような余地や甘さは一切無い。
真上に立っていた者を吹っ飛ばすには十分だった勢いを、その瞬間に自ら跳び上がることでかわした彼は、空中で身を翻しながら構えた武器を落下の勢いも込めながら振り下ろす。
砂上という特異な領域で、その地に特化している筈の魔物達を、知恵と力を駆使しながらたやすく狩ってみせる。
『不利』や『苦手』という概念を果たして持ち得ているのかと、そんな馬鹿なことを考えてしまいそうな勇者の戦いっぷりが、一同の脳裏に改めて焼き付けられた。
もっとこう……ダイジェストみたいな感じで簡潔に書いて、3から4階層分は纏めてしまおうと思っていたんですよ。
気がついたら長くなり、これだけで一話分にして良さそうな量になっていました。
早いところ本編に戻りたいのは山々なのですが、リンク君の活躍や戦闘描写を蔑ろにはしたくありませんし。
後で後悔しないように、自分が満足できる文章を書くことを意識しながら、これからも頑張っていきます。