成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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幾度目かの決着

 

 『ゼルダの伝説』という最古の英雄譚は、人によって見所が異なる。

 勇者や姫の立ち位置に自身を投影させる者、妖精や異種族といった人以外の存在が当たり前に存在する古代の文明に想いを馳せる者、様々な道具や工夫を駆使してあらゆる困難を乗り越えていく冒険に胸を躍らせる者など。

 しかし、そうやって異なった意見を持つ者達に対して『最大の見せ場と言えば』と尋ねれば、同じ答えが返ってくることだろう。

 なぜならば、勇者リンクが見て、聞いて、乗り越えてきたものの全ては、その時その場所に至るためのものだったのだから。

 『ゼルダの伝説』が今の世に伝わってから、数え切れない程に多くの人々が固唾を呑みながら見守ってきた英雄譚のクライマックス。

 それが今、再びこの世で繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丸太のように太く巨大な、下手な鎧よりもよほど頑丈そうな毛で覆われた獣の剛腕が、携えていた大剣を唸りと共に振り下ろす。

 床板を割ったその一撃をギリギリのところでかわしたリンクは、ほんの一瞬の硬直を逃さずに大剣の柄を足場に跳び上がって、マスターソードを振りかぶり……ぶ厚い毛皮を裂く寸前で、割り込んできたもう一本の大剣によって防がれた。

 これで決められるとは流石に思っていなかったけれど、それでも確かな隙をついたと思った攻撃を敢え無く防がれた悔しさに舌を鳴らす。

 しかしその直後、腕の太さどころか体の大きさからして差がある相手と刃を合わせておきながら吹っ飛ばされず、どころか巧みに威力を逃して再び懐に飛び込んで見せた手腕は十分に、ガノンに対する意趣返しとなってみせた。

 体格も力も比べ物にならない筈の相手と刃を交わしながら、決して競り負けることなく果敢に攻め続けるリンクと、体格の差と身軽さを利用して隙を作りつつ狙ってくる相手の攻撃を、巨体からは考えられないような俊敏さで悉く防いでみせるガノン。

 どちらを称賛すべきなのかを本気で悩んでしまうような、ひとつひとつが十分に必殺となり得る攻撃を放ち、そして防ぎ合う攻防が続く。

 そんな、ある意味で完成してしまっていた拮抗状態は、思いがけないタイミングで不意に崩れた。

 激闘の余波が及んでいたらしい天井の瓦礫が両者の間に振ってきて、それから逃れるためにやむを得ず距離を取ったことによって。

 

 

「まずい…っ!」

 

 

 遅れて降ってくる小さな瓦礫を浴びながらも、構うことなく再び間合いを詰めようとしたリンクの思惑は、蝙蝠のような動きで羽ばたく炎によって妨げられた。

 いつの間にか、本物の蝙蝠の群れを思わせる数で展開していたそれらが、先のものを避けて体勢が崩れた瞬間を狙って次から次へと襲いかかってくる。

 幾つかを切り払って、何とか作り出した時間と空間の猶予を使って突撃を試みるも、その進行方向を塞ぎながら今度は巨大な槍が回転しながら飛んできた。

 すんでのところで避けられ、そのままあらぬ方に向かうかと思われた槍は、物理法則ではあり得ない軌跡を描きながら主の手元へと戻っていった。

 難なくそれを受け止めたガノンは、すかさず二撃目を放つべく槍に新たな魔力を込め始める。

 その様子に、宿敵との戦いを真正面からの一騎打ちで決めようとするような感傷や、このまま反撃を許すことなく押し切ってしまう戦法に対する後ろめたさのようなものは一切見受けられない。

 一発でも食らえば並の英雄ならば致命傷、リンクでも重傷は避けられないような威力で、次から次へと放たれる攻撃をかわし続けながら。

 これだからこいつは厄介なんだ……と、リンクは何度目かの舌打ちを鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王ガノンドロフ、もしくは彼がトライフォースの力で転じた魔獣ガノンという存在に対して、『伝説』をあまり深く読み込んでいない者は、小細工を鼻で笑いながら、居並ぶ敵を真正面から圧倒的な力で蹂躙するさまをよく想像するのだけれど。

 実際そういったことが出来ないわけでは無いけれど、彼が司る『力』はそんな単純なものではないことを、リンクは誰よりも身に沁みていた。

 仮にガノンドロフが、世界を破壊出来るほどの強大な力をただ振りかざすだけの単純な存在であったならば、勇者は彼を恐ろしい強敵として倒しはしても、長い時を経ながら幾度となくぶつかり合う魂の因縁を繋いだりはしなかっただろう。

 

 どんな強者であっても、たった一瞬の油断、たった一度の間違いで命を落としかねない過酷な砂漠で生まれ育ったガノンドロフは、全てを支配し得る圧倒的な力こそを至上とすると同時に、策を練ることや機を窺うことの重要性を知っている。

 伝説の中にて彼がその『力』を実際に揮うのは、物語の大詰めに差し掛かってから。

 ありとあらゆる困難を打倒して、遂に自らの元にまで至ってみせた相手を前に重い腰を上げた時のことで、それまでは密かに張り巡らされていた策略の成果が勇者や人々を苦しめる。

 異変の渦中にいた者であっても、それが誰の、どんな思惑によってもたらされたものであるのかを、その時はまだ知ることが出来ない。

 多くの策を破り、思惑を邪魔し、事態の中枢に深く踏み込むことでようやく影の一端が見えてくる黒幕……それこそが魔王ガノンドロフ。

 策を小細工と見下す脳筋を嵌めるのも、ちょっと考えが巡るだけで既に勝った気になる頭でっかちをちゃちな思惑ごと叩き潰すのも。

 対象ごとに最適な『力』を使い分けているだけだと豪語出来る彼にとって、宿敵と認める相手に対して勝つための最適解を取るのは当然の選択だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トライフォースの力によって魔王と化したガノンドロフを滅ぼせるのは、同じトライフォースを宿す勇者リンクを唯一の主とする、あらゆる魔を滅する力を持った神剣マスターソードのみ。

 対してリンクは、神剣を扱えはしてもその身は柔な人のものでしかなく、魔王の頑強な体と強靭な生命力を相手の競り合いで先に消耗してしまうことは避けられない。

 果敢に攻め込み、両者の力が拮抗を保てている間に、僅かな隙を逃さずに神剣の刃を叩き込むことが出来ればリンクの勝ち。

 怒涛の攻めを防ぎ切り、消耗戦の果てに潰すことが出来ればガノンの勝ち。

 お互いの勝利条件を把握し合っている中で、先んじて有利な状況を作ることに成功したのは、マスターソードが届かない間合いを確保して遠距離での攻防に持ち込むことが出来たガノンの方だった。

 

 自分の手で直にとどめを刺さずに、消耗を促しながら判断ミスが重なるのを狙う戦法を地味だの臆病者の発想だのと蔑んで、武勇というものを見せてやると勇みながら近づいて来てくれるような奴が相手なら楽なのに……と。

 そんな馬鹿げた判断をガノンは絶対にしないと分かっていながら、それでもリンクは考えずにはいられなかった。

 破壊の権化と言っても過言では無いような恐ろしい魔獣の姿で、『持久戦に徹して相手を消耗させる』という印象とは正反対の堅実な戦術を取った彼の守りは、身も心も堅く。

 ひとつひとつに必殺の意図が込められた攻撃はその悉くが防がれて、好機と思って攻勢に転じてくれることを期待して敢えて隙を作っても、引っ掛かりそうな動きどころか気配さえ見えない。

 思いつく限りのあらゆる手段を試し、使える道具を片っ端から試してみても、一向に突破口が開けず。

 少しずつながらも確実に消耗している状況に、流石の彼も焦り始めていた。

 

 

(こんな時に、『彼女』がいてくれれば……)

 

 

 自分達と同じくトライフォースの適合者として、現世に降りた女神の血を受け継ぐ巫女として。

 強力な封印の力を持っていた『彼女』達の助力があったからこそ、勇者は魔王を打倒し続けることが出来たという事実がある。

 そんな感傷じみた考えを、リンクは頭を振って追い出した。

 二度と取り戻せない覚悟で、紛れも無い自分自身の意思で決めた上で置いてきたものだというのに、今更何を考えているのか。

 自分はもう一人なんだと、一人で頑張らなければならないのだと。

 冷静を通り越して冷たい、ただ効率よく戦うだけの機械じみた思考回路に落ちていくリンク。

 そんな彼の耳元で突如響いた声が、本格的に沈みかけていた彼の意識を引き戻した。

 

 

《リンク君!!》

 

「ひやっ!!

 ド、ドクター!?」

 

《良かった、やっと繋がった!!

 遅くなってごめんね、ずっと頑張ってたんだけど魔力濃度のせいかなかなか上手くいかなくて!!

 通信がいつまで持つか分からないから、手短に用件だけを伝えるよ!!

 よく聞いて、実はね……》

 

 

 そうして、ロマニの言葉を聞いたリンクの目は驚愕に導かれ……さらに次の瞬間、その顔には、まるで憑き物が落ちたかのような笑みが浮かんだ。

 

 

「ありがとうドクター、皆も」

 

《お礼なんかいいよ、君達をサポートするのが僕らの役目なんだから!!》

 

「ああいや、そうじゃなくて……まあ、今はいいか。

 続きは、あいつを倒してからだ」

 

 

 自分一人で……なんて考えが全くの見当違いであり、思い上がりであったことを何とか思い出せたリンクの表情に、焦りや不安は既に無く。

 トライフォースと同じ光を宿しながら虚空に現れ、ゆっくりと落ちてきた美しい弓を、天高く掲げた手でしっかりと受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 形を得た光のような不思議な材質に繊細な装飾が施された、まるで神が作り上げた芸術品かのような弓を手にしたリンクの姿に、ガノンの表情は獣の顔でもそうと分かる程に歪んだ。

 トライフォースの力を宿した矢を放つことが出来る『光の弓矢』は、勇者リンクにとってはマスターソードにも匹敵する切り札であり、魔王ガノンにとっては嫌悪と恐れの対象となる。

 あの弓の存在によって勝敗を左右された戦いが、果たして幾つあったことか。

 じわじわと消耗を余儀なくされながらも機を窺っていたリンクが、この硬直状態を打破して一気に勝負を決めるつもりであることを察したガノンは、ほんの一発でも食らってはいけないあの矢を捌き切るためにより一層と集中力を研ぎ澄まさせる。

 リンクはそんなガノンへと向けて、トライフォースが輝く手で、同じ光を宿す矢を弓に番えて引き絞り、真っ直ぐに放った。

 

 並の魔物ならば一瞬で消滅するような力が宿った矢を次から次へと惜しみなく放つリンクと、存在としての相性からどうしても感じてしまう怖気に苛まれながらもその悉くを打ち払ってみせるガノンの、先に何かを少しでも間違えた方が終わりとなるギリギリの攻防が続く。

 ほぼ同じタイミングで迫ってくる二本の矢を、両手に携える対の大剣で一本ずつ砕いたガノンの体と意識に僅かに生じた隙を狙ったタイミングで、三本目の矢が放たれた。

 その一射は、見守っていた者達が瞬間的に『決まった』と思ってしまう程に完璧だったのだけれど。

 残念ながらそれは、ギリギリの状況の中でガノンが見せた、魔獣の巨体からは想像し難いほどの俊敏さによって敢え無くかわされてしまった。

 肌と精神を一瞬粟立たせながらも、役目を果たせないまま遥か後方へと飛んでいってしまった矢のことを早々に忘れて、目の前の相手に改めて向き合った……そんなガノンの背中を、全く想定していなかった衝撃が貫いた。

 ちょっとやそっとの攻撃では傷つくどころか痛みすら与えられない筈の、この身の自由を一瞬で奪ってみせたその一撃には、確かな覚えがあった。

 

 

(光の矢……馬鹿な、何故後ろから)

 

 

 彼でなければ、痺れるどころではなかったであろう攻撃を受けた体を根性で動かし、全く意識していなかった遥か後方に視界を移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間を遡って、勇者と魔王の激闘が始まったばかりの頃。

 

 

『ねえ、ちょっといい?』

 

『ぃぎやああああっ!!?』

 

『そ、そんなに驚かなくても……』

 

 

 何も出来ない現実を腹立たしく思いながらも、せめて最後まで見届けようと。

 今すぐにでも逃げ出してしまいたい生存本能を必死になって堪えていた立香は、極限状態の中で前触れなく現れた存在にいきなり声をかけられて、縮み上がっていた心臓が爆発したような思いを味わっていた。

 状況が悪いというのは勿論大きな理由だけれど、もっと普通の時に同じことをされていても、やはり悲鳴を上げてしまったかもしれない。

 削り取った岩盤に、目と口にあたる穴を適当に開けただけにしか見えない不気味なお面を被っていたその様は、それそのものが十分に異様だったのだから。

 お面の主は、緊張の糸をぶっ千切られて腰が抜けてしまった立香の様子に申し訳なさそうな苦笑いを零しながら、自身の顔を覆っていたそれをゆっくりと外した。

 その下から現れた顔と、その正体を察した立香の喉が大きく鳴り、息が止まる。

 幼い少年の姿と、多くの出会いと経験を経た者の貫禄を併せ持つ彼は、ほんのつい先程まで魔王を相手の激戦を繰り広げていた、『時』の勇者その人だった。

 

 

『な、何で……他の人達と一緒に、もう消えたんじゃ』

 

『そう思わせるためにあの二人は、潔くさっさと消えたんだ。

 とは言っても、頑張ってるおかげでまだギリギリ残れているだけで、限界なのに変わりは無いから……急いで用事を終わらせるよ』

 

 

 そう言って『時』は、立香達がよく知るリンクが双子の魔女との戦いの中で使っていたのを覚えている鏡の盾を取り出し、立香へと向けて差し出した。

 

 

『どうか、俺達の後輩をよろしくね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった……お、俺やった、成功した」

 

 

 恐怖とプレッシャーのあまりに、歯が鳴る程に震える口からは荒い息を零し、瞳孔が開き切った目の端には涙が滲んで、顔色は真っ白で。

 意思に反して操られていたことによる消耗は激しかったらしく、未だ本調子には程遠そうな獣の少女に支えられながらという、男としてはかなり情けない姿で……それでも確かに、自分の足で、自分の腕で。

 鏡の盾をしっかりと構えて果たすべき役割を果たし切った、ガノンドロフが足手まといと鼻で嗤った少年が、振り絞った勇気と共に立っていた。

 

 

(…………見誤ったか。

 たかがガキだと、所詮何も出来まいと思って泳がせてしまったのが、今思えばそもそもの過ちだったというのに。

 やはり俺には、『勇気ある者』を見定められる目は無いらしい)

 

 

 『勇気』によって全てを台無しにされて、次こそはとその度に思う筈なのに。

 やはり繰り返してしまう自分へと、心中で呆れた溜め息をつくガノンドロフ。

 その視界一杯に、青白く輝く神剣の刀身と、その剣先を自身の眉間へと突き立てんとするリンクの姿が映る。

 憎らしい仇敵に向けるようなものとは、到底思えないような謎の笑みを浮かべていた彼の声が、不思議なほど鮮明に聞こえてきた。

 

 

「今の世界にだって、ハイラルに負けない風が吹いているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、そのようだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 触れただけで魔を滅する聖剣の刀身を、眉間に深々と突き刺した巨体が、形を持たない魔力と化しながら霧散していく。

 つい先程まで響いていた激戦の轟音が夢だったかのように、耳鳴りが聞こえそうな程に一転した静寂の中。

 徐々に晴れていく視界の先に立香達は、たった今まで魔王が立っていたその場所に力なく倒れ伏す、フランスで共に戦ったサーヴァントの少女の姿を見つけた。

 




 ボス戦が終了して、締め括りとなる展開がもう少しだけあるのですが、タイミングがいいので一旦ここで区切ります。
 その辺はあまり長くはならないと思うので、出来る限り早めに上げるとして……とりあえずは26日を楽しみます、有給取りました!
 待ってろライズ!!


 伝説の戦いを目の当たりにした管制室(特にギルガメッシュ)の反応を多くの方が期待していたのですが、ここは敢えて『星の王子様の羊』理論でお願いします。

 童話『星の王子様』にて、不思議な少年に「羊の絵を描いて」と言われた『私(語り手)』は一応そのリクエストに応えてあげるのですが、確かな理想像があるらしい少年は、何枚書いても「〇〇が違う」「〇〇はこうだよ」と満足してくれません。
 辟易した『私』は、空気穴が開いた箱の絵を描いて「君の理想の羊がこの中に入っているよ」と一言。
 ようやく満足した王子様は、喜んで箱(羊入り)の絵を受け取ったのでした。

 推しの活躍を目の当たりに出来たファンの熱狂ぶりというのを、書き切れるどころか想像出来る気すらしないので、皆さんの中で最高の盛り上がりっぷりを思い描いていただけるとありがたいです。

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