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……………………あ、あれ?
アタシ、今、何をしていたのかしら。
……ダメだわ、思い出せないし考えられない。
頭の中がぼやけて……。
『ほう、目覚めたか。
俺の魔力に耐え切れず、自我が壊れてしまう可能性は大いにあったのだが』
だれ?
『今の貴様にそれを教えても意味はあるまい。
……だが、貴様にとって幸いなことに、今の俺は機嫌がいい。
功績に報いてやることも兼ねて、しばし無駄話に付き合ってやろう』
功績って、何のこと?
『混沌・悪の反英雄、だったか。
俺と同じ属性を持つ貴様が、今の世とハイラルが混ざり合うこの場で俺という存在を意識したことが、縁を繋げるきっかけとなった。
最初こそ、器を得ねばならぬような曖昧なものになってしまったが。
既に錨は下りた、次があるのならば俺自身が現れることも可能であろう』
そうなの、よく分からないけど良かったじゃない。
『何のことだ』
何って……アンタもサーヴァントなら、叶えたい願いがあるんじゃないの?
『……昔ならば、不自由な使い魔の身に一時とはいえ甘んじ、愚かなマスターにこうべを垂れても、と思っていたのだろうがな。
何をしてでも、どんな手を使ってでも手に入れたいと願ったものは、とうの昔に消えて無くなり。
我が身と引き換えに全てを終わらせた奴に対して、今更恨みを果たしたい訳でもなく。
例え可能だとしても、力と存在を制限された従者の身に甘んじてやる意味と利点が、俺には見出せん』
なっ……ダメよ、そんな考え方じゃ!!
『……小娘、何が言いたい』
可能ならば誰だって、チャンスがあるのならばどんな時だって、夢に向かって手を伸ばす。
夢が叶わなかったとしても、また新しい夢を見つけて、何度だって頑張ってやればいい。
それが人ってものよ、少なくともアタシはそう思うわ。
『……………………』
ちょっと、何を黙ってるの?
『小娘、貴様本当にサーヴァントか?
サーヴァントとは、叶わなかった生前の妄念にしがみつく亡霊であると……俺はそういう認識を得ていたのだが』
基本的に間違っていないわね、多分アタシがレアなのよ。
どうしようもない罪を犯した女が、最期の瞬間に抱いた純粋な願い……どこかで間違えなければ、何か別の道を歩めていれば、こんな自分にだってもっと違う可能性があった筈だっていう希望。
その想いが形になったのがアタシ。
未来への希望と可能性を決して諦めない、サーヴァント界のトップアイドルよ!!
『…………ふっ、クククッ』
『ふははははははっ!!
小娘、貴様の言う通りだ!!
ハイラルへの未練も、小僧どもへの恨みもとうに果てたが……魔盗賊王と恐れられたこの俺が、新たな願いを求めて何が悪い!!』
そうそう、その意気!
『おい、小娘』
エリザベートよ、アイドルに対して変な呼び方をするのはやめて。
『ではエリザベート、戯れに聞こう。
何かひとつ願いが叶うとしたら、貴様は一体何を望む?』
……願い、ですって?
『そうだ、やはりアイドルとやらを極めるか?』
それは自分で頑張るわ、でないと意味が無いもの。
……そうね、敢えて夢物語を語るのなら。
領主として、もう一度頑張ってみたい。
『私』は、若さと美貌を保とうとして行なったことを、領地の顔たる婦人として当然の務めだと思っていたし……自分はよく統治していると、心から信じていた。
そうじゃなかったんだってことを知れた時には、もう何もかもが手遅れで。
だから『私』は思ってたの、もし機会をもらえるのなら今度こそ精一杯やろうって。
領民達を傷つけて恐れさせるんじゃなくて、誰もが参加できる楽しいお祭りを開催して、外からも色んな人達に遊びに来てもらって、皆で笑顔になれる素敵な場所にしようって。
誰に聞いてもらうことも出来ないまま、絶望と暗闇の中で消えた『私』の夢……それを叶えるために頑張りたい。
……な~んて、あくまで戯れよね。
『さて、それはどうかな』
えっ?
『せいぜい励むがいい。
成功しようがしまいが、どちらにしてもそれなりに見物にはなりそうだ』
ちょっ、待ちなさ……っ!
「………………ちな……さ、い。
まっ……て…………」
「エリちゃん!?」
「エリザベート!!」
「気をしっかり持つのだドラ娘、寝たら死ぬぞ!!」
「いや雪山じゃないから!!」
ゆっくりと開かれた、エリザベートのかすれた視界に飛び込んできたのは、心配そうな表情でこちらを見下ろしている、幾つかの見覚えのある顔だった。
「どうしたのよキャット、何か顔色悪いわね」
「お前が言うか!?
野生の獣を本能に抗わせるだなんて、まったく罪な娘だワン……」
「無事でよかった、本当に……」
「……アンタ、もしかして子イヌ?
何でこんなところに…………って、え、あれ?」
短い間とはいえ、マスターとサーヴァントとして共に戦った少年と、その隣にいる金髪碧眼の少年の存在に気付いた途端、朧気だったエリザベートの意識は一気に覚醒した。
金髪碧眼の少年……一応立ち位置としては仲間だったのだけれど、間が悪かったためにろくに接する機会が無く、ほぼ初対面同然と言っていい勇者リンク。
一向に力の入らない自身の体が、硬く冷たい床に寝転がされているのではなく、そんな彼の大きさや太さに見合わない力強さを秘めた腕によって優しく抱き起こされているのだということを認識した、エリザベートの顔と頭が瞬時に茹で上がった。
「な、なっ、なななな……なんで、こんな状況っ!?」
「気持ちは分かるが落ち着け、ほら深呼吸」
「エリちゃん、何があったのか覚えてる?」
「何があった、って言われても……凄いショックを受けて、死ぬんじゃないかって思ったことは何となく覚えてるけど、それ以上はちょっと」
「……うん、そっか。
分からないならそれでいい、無理に思い出す必要は無いよ」
「…………」
「リンク、どうかした?」
「ガノンドロフの残滓が」
「残ってるの!?」
「あ、いや、大丈夫。
残ってたから警戒を続けてたんだけど、もう消えたみたいだ」
「……そっか、なら良かった」
(…………あいつはもう消えた、それは間違いない。
その筈なのに……この嫌な感じは、一体何なんだろう)
未だ自力では起き上がれずにいる、エリザベートの体を支える腕は微動だにさせないまま、周囲の警戒を続けるリンク。
そんな彼の死角……エリザベートを抱き起こしていることで、必然的に彼女に触れている上に、ぱっと見では確認できない位置に回ってしまっている左手の甲。
そこに刻まれている聖三角の紋章が、リンクの意図したものではない光を放っていたことに、気付くことが出来た者はいなかった。
今、この段階においては。
大小様々なかぼちゃで彩られた愉快な町の、ハチャメチャなお祭り騒ぎの夜空に、『あンの猪野郎おおおおおおおおおっ!!!!』という勇者の怒号が轟くことになるのは、まだしばらく先のこと。
ガノンドロフ自身が、トライフォースで願いを叶えようとしたら、その動きと思惑にリンクは瞬時に気付いて防いでいたのでしょうが。
生憎と彼自身はトライフォースに近づいていなく、エリちゃんの体にトライフォースが接触しているタイミングを見計らって願いを口にするよう促しただけだった(エリちゃん自身に願いを叶えるつもりも自覚も無く、世間話をした程度の非常に自然な動きだった)ので、ガノンドロフの魔力が全て消えるまで集中して警戒を続けていたリンクは気付けませんでした。
以下、その後のこぼれ話。
リンク
トライフォースを見す見す使われてしまうという管理者としての大失態の責任を取るために、エリザベートもしくはハロウィン関係のとんちきイベントが発生するたびに、死んだ目になりながら率先して最前線に立ち続ける。
「最高の嫌がらせだよ、あの野郎……」
立香&マシュ
苦しむ時は一緒だよ、仲間だもの……。
ガノンドロフ
勇者が右往左往するさまと、ハロウィンイベントの混沌っぷりを肴に酒が美味い。
エリザベート
精神世界でのやり取りを何となく覚えていて、操られていた時のことは全く覚えていないので、ガノンドロフを畏れながらも、親戚のおじさまに対するような親しみを込めた接し方をする。
ガノンドロフ自身も、彼女のことは『おもしれー女』枠で割と気に入っていてそれなりに相手をするので、事情を知らない周りはひたすら慄いている。