成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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全軍集結

 

 ローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウスが、人の世から離れた小島の浜辺で、ほんの一時ただの少女ネロとなって伯父の冥福を祈った時から、早くも数日が過ぎた。

 勝利の凱旋とガリア奪還を祝う宴で盛大に盛り上がったローマの町は、その華やかさと賑わいを早々に一変させ、新たな戦支度の喧騒によって満ちていた。

 大規模な遠征を終えたばかりで、スケジュールとしてはとんでもなく無理なものを強いられているというのに、人々は不平や不満を零すことなく懸命に仕事を進めている。

 戦支度も進軍も、これが最後であるということが分かっているから。

 

 

 

 

 

『……妹を助けていただいたこと感謝しますわ、勇者様。

 カルデアの方々も……使い潰しても構わない尖兵ではなく、きちんとした仲間としてあの子を受け入れて下さっているというのは、どうやら本当のようね。

 神は残酷で気紛れなものではありますが、受けたものにはきちんと報い、これはと思った者への助力を決して惜しまないこともまた、神の矜持というもの。

 あなた方に、本物の女神の祝福を授けましょう。

 連合帝国を統べる皇帝達が集う場所……連合首都の位置を、正確に教えてあげるわ。

 そこから先はあなた方次第、精々頑張りなさい』

 

 

 

 

 

 妹を助けてもらったお礼という思惑に嘘は無かったけれど、つい性分で嘲笑交じりの上から目線になってしまった言い草に、心からの感謝を返されて目を丸くしたステンノ。

 そんな彼女からの祝福という名の情報提供は、停滞していた戦況を動かした。

 連合との戦いが、その場限りの小競り合いや防衛ばかりになってしまっていたのは、こちらからの攻め手に欠けていたから。

 最重要拠点の所在が把握できたのならば、現存している全勢力でもって一気に攻め切るという判断は、国力が残っているうちに一刻も早く戦争を終わらせたいと願うローマにとっては当然のものだった。

 最低限の人員のみを残してこちらに合流してほしいという通達は、奪還したばかりのガリアを纏めているブーディカとスパルタクスへと既に送られている。

 他にも幾つか存在していた部隊の全てに収集をかけ、全て集まり次第最後の戦いに打って出る……という予定に乱れが生じたのは、本当に突然のことだった。

 

 

「ドクター、立香達に繋いでくれる?」

 

《えっ?》

 

「報告したいことがあるんだ」

 

《なっ……ちょ、ちょっと待って。

 立香君、マシュ、ネロ陛下、緊急事態だよ!!》

 

 

 首都近郊の哨戒に出ていたリンクからの連絡を受けて、いきなり騒ぎ出したのには理由がある。

 リンクは、少数の潜入部隊や魔物を見つけた程度のことならば、いちいち指示を仰いだりはせずにその場で対応し、後でまとめて報告だけしていた。

 彼の現場判断に任せるのが、一番早くて確実だという確かな信頼があったから。

 そんな彼がわざわざ連絡を入れてきたのだ、どれだけのことが起こったのかと思ってしまうのも仕方のないことだろう。

 ネロや立香達もそう思ったらしく、焦った様子の声がカルデアの管制室を経由しながら聞こえてくる。

 準備が整ったのを見計らったリンクが告げた内容は、皆が予想した通り、正しく緊急事態と表すに相応しいものだった。

 

 

《数百人規模の連合兵と我が軍が交戦中だと!?

 リンク、そなたは今どこに……そうか、ならば戦っているのはあの二人が指揮する部隊であろう。

 彼奴らが赴いていた地からローマへと帰還するためには、余程のことが無い限り、その場所を通過することになる筈だからな》

 

「……つまり、きちんと地理を把握していれば、それを予測して待ち構えるのは十分に可能だったということか」

 

《いやいやいやそれ以前に、何でそんな大部隊がいきなり現れることができたんだ!?

 戦準備を邪魔されないようにと、このところずっと、リンク君が見回りを続けてくれていた筈なのに!!》

 

「だよなあ……」

 

 

 あれだけの規模の部隊を築くとなると、準備のための行動や時間がどうしても必要になる。

 勇者たるこの身や、最終決戦に向けて張りつめているローマの警戒網が、連合からの潜入部隊をあれだけの大人数が結集するまで見過ごし続けてしまったなどとは、驕りや自惚れではなく現実的にあり得ない……筈だった。

 その『あり得ない』を実現させるための具体的な手段が、一同の脳裏に可能性として浮かび上がる。

 それを確定させる具体的な計測結果が、管制室からもたらされた。

 

 

《皆聞いてくれ、サーヴァント反応が観測された。

 それも大量にだ、リンク君が発見した数百人の連合兵は全員サーヴァントだよ!!》

 

《なっ……まさか、そんなでたらめが在りえるの!?》

 

《正確にはサーヴァントの一部、何らかの宝具によるものだろうね。

 軍師や指揮官として名を馳せたり、個人ではなく集団や組織としての逸話を持つサーヴァントには、そういう前例もあるらしい》

 

《……成る程、信頼する仲間がいるってのも確かに強さだもんな》

 

《考察自体は大いに結構なのだが、今は後にせよ!!

 その者らがサーヴァント……伯父上のような蘇りの強者達であるというのならば、兵達には荷が重すぎる!!

 リンクよ、今すぐその戦いに加わってくれ!!

 余達は救援部隊を結成して駆けつける、それまで持ち堪えるのだ!!》

 

「う~ん……」

 

《……ど、どうした?》

 

《リンクさん?》

 

「いや、持ち堪えるのはいいんですけど」

 

 

 

 

 

「そのまま倒してしまっても、別に構いませんよね」

 

 

 

 

 

 普通の人や並の英雄ならば、強がり、大言壮語、死亡フラグとなるようなセリフを、特に何の含みも無しに本心からあっさりと口にして。

 居合わせていた者達を例外なく絶句させたリンクは、自分の所業に気付かないまま通信を切って手綱を引いた。

 途端に急降下を始めた視界がほんの一瞬白く染まり、突き抜けた先に広がるのは、空の民のみが目にすることができる大パノラマ。

 割合はその中のごく一部だというのに、それ以外の絶景を全て台無しにしてしまっている、遥か眼下の戦場へと向けて風を切る。

 視界の端で、大きく美しい紅色の翼が羽ばたいた。

 





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