成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

122 / 143




VS ダレイオス三世

 

 ダレイオス三世の宝具、『不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザント)』。

 生者に対して無条件の恐怖を叩きつける骸骨や動く死体、それも圧倒的な数の暴力と来れば、個の戦いを挑もうなどという考えはイコールで死と繋がるのが普通。

 立香達も、それを為そうとしたのがリンク以外の誰かだったら、絶対に許さないか、もしくは永遠の別れを覚悟しただろうし。

 荊軻に率いられたローマ兵士達が大人しく退避していったのも、リンク達はあくまでブーディカを追うために敵陣を突破するだけで、本気で戦おうとしているなどとは考えていなかったからだろう。

 仲間を見捨てられないという善意ゆえにだとしても、余計な茶々を入れられないように。

 勇者リンクだとは気づいていなくても、サーヴァントとして相当の実力者だということは察していたリンクが存分に真価を発揮して戦えるようにと、早々に離れてくれた荊軻の判断がありがたかった。

 

 そもそもの話として、リンクにとって『数の差』というものは周りが想像するほどの脅威ではない。

 彼らの戦いは、どの時代においても常に孤独なものだった。

 新たな場所に進むのを手助けしてくれる協力者や、心身を休めるべく一時的に帰ってきた彼を快く迎えてくれる理解者はいたとしても、実際の戦場で、同等の力を持つ誰かと背中を預け合い、補い合いながら戦うという事態はまず無かった。

 自身を取り巻く世界の全てが敵となって襲いかかってくるような状況で、暗闇の中を手で探るような冒険は毎度のことだったし。

 玉座を乗っ取った魔王の信奉者によって国の反逆者と貶められ、手配書や善良な市民の目を逃れながら独り立ち回ったことだってある。

 それら全てを乗り越えてきた事実と自信が芯となる、一万の兵が何だと言うのか。

 

 

「俺以外の全員をぶっ飛ばしてやればいい……ああそうだ、単純で分かりやすいことだろう」

 

 

 頭の中のスイッチが切り替わる、意識と感覚が抜き身の刃のごとく研ぎ澄まされていく。

 サーヴァントという不安定な存在として括られ、力の出力に大幅な制限を加えられた現状をいかに打破し、立ち回るか。

 その具体案を試してみるのに、思いがけず訪れた絶好の機会だった。

 手の甲の聖三角が光を放ち、確かな指向性を与えられた膨大な魔力が宿主の全身を包み込む。

 厳しい戦闘と旅路を想定した実用性重視の服は、獣の骨や毛皮を用いて造られた野性味溢れる装束と、地肌を彩る紋様に。

 日差しや寒暖から頭と顔を守ると同時に、彼の場合は余計な面倒事を避ける意味合いも大きかったフード付きのマントは、異様な獣の頭蓋骨を丸ごと使用した、原始的な存在感を醸し出す兜に。

 

 呂布やスパルタクスとは違って自身の軍を伴う形で現界していたためか、バーサーカーながらある程度の状況判断力が残っていたダレイオス三世の脳裏で、本能由来の警戒心が最大レベルの警鐘を鳴らした。

 獣のような雄叫びによって、近くにいるものに衝動的に襲いかかるだけの無秩序な集団だった屍兵達が、個ではなく組織としての生前の連携を取り戻していく。

 一万の軍勢を率いる王が、たった一人の少年に対して、生涯の好敵手に対するものと同等の危機感を抱く……彼に完全な正気があったら、『そんな馬鹿な』と瞬時に思い直されていたであろう異常事態に、ダレイオス三世は全力で相対した。

 それは、理性と本能が絶妙な割合で噛み合った結果導き出された、奇跡的な正解だったのだけれど。

 いつものリンクなら思わず零していたであろう、そのことに対する驚きや称賛を意味する具体的な言葉が、ダレイオス三世と彼の軍勢に対して向けられることは無かった。

 

 

「アアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 獣の装束を纏い、涼やかな碧だった筈の瞳を滾る闘志でぎらつかせた彼の喉から、殲滅の宣言であるかのような咆哮が迸った。

 次の瞬間、立香達と共に突破した時は比べ物にならないほど強固なものとなったダレイオス三世の軍勢が、ただ一人の少年へと向けて波となって襲いかかり……その第一陣が、一瞬で視界から消え去る。

 無骨な鎖に括られた巨大な鉄球で、最前列を一息に薙ぎ払ったリンクは、陣形の一部にぽっかりと開いた穴を目がけて飛び込んだ。

 

 ただでさえ圧倒的な数の差がある上に、向こうは見かけの優勢に慢心することなく、十分すぎるほどの警戒心を抱きながら相対している。

 いくら個の実力に自信があるとはいえ、そんな状況で真正面から飛び込んでいくなんて。

 戦場の真っ只中に在っても、激昂に突き動かされた時でさえも、冷静さの土台を保ち続けてきた彼を知る者が見れば目を疑うであろう、後先など何も考えていない力任せの暴挙。

 理性と戦闘力を引き換えにしたような、何かと既視感を覚えるそのさまは、管制室の観測結果が合わさればより一層皆を驚かせていたことだろう。

 現状では唯一、リンクでしかその存在を確認出来ていない『ブレイヴ』の霊基パターンが、基本の7クラスのひとつであり、この特異点においても何度か確認されてきた『バーサーカー』のものへと変わっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『勇者リンク』としての様々な能力やアイテム、他の英霊ならひとつのクラスに括られた時点で諦めなければならないものを全て使えるけれど、それらの真価と言えるものを発揮することは出来ないというある意味での器用貧乏さが、検証を経て明らかになったエクストラクラス『ブレイヴ』の特徴。

 ならば仕方ないと諦めず、更に一歩踏み込んだ先で、リンクは『ブレイヴ』の真価と言えるものを掴んでみせた。

 他の英霊達と違って紛れもない『本人』である上に、歴代を含めた『勇者リンク』という存在と可能性の全てを内包している彼は、ある意味で動く英霊の座そのものと言ってもいい存在と化している。

 座に在る本体から限られた側面や逸話の一部のみを抽出して特化させ、ひとつのクラスに収めさせるという通常のサーヴァント召喚における一連の流れに似たものを、概念の世界ではなくこの地上で、抑止力による干渉ではなく自らが意図するものとしてやり遂げた。

 

 ロマニやメディア達が知ればまたしても発狂するであろう未来を、今のリンクは色々な意味で知る由もない。

 バーサーカーというクラスの特徴に則り、『目の前の敵を殲滅する』というただひとつの目的以外の理性と思考力を、本来の戦闘力を発揮するための容量に置き換えていたから。

 更に言えば、彼は同じバーサーカーでも技術と引き換えに地力を底上げした呂布やスパルタクスではなく、磨き上げた技術を本能に委ねることで更なる脅威に押し上げたランスロットにその有り様が近く、リンク自身もそれを予想していた。

 勇者リンクの強さの根幹は、その時代の勇者として生まれ持った身体能力や才能ではなく、代々の彼らが自分達の意思で以って積み重ねた膨大な実践経験と試行錯誤だと。

 自分達にとっての戦いの本能とは、相手の特徴やその場の状況を把握し、最善もしくは最適の手段を瞬時に導き出して実行に移すという基本を、どこまでも突き詰めることにあると自負していたから。

 

 伝説の勇者が世界を救うための戦いの中で積み重ねてきた、あらゆる敵や状況に十分な応用を効かせられるほどの膨大な戦闘経験を基にした縦横無尽の戦法を、何かを間違えれば自分だけでなく大切な人達の命や世界そのものが終わるという、これ以上ない崖っぷちの状況で磨かれてきた闘争と生存の本能で振るう。

 現状で叶うだけの厳戒な戦闘態勢を取っていたダレイオス三世は、それでもまだ足りないくらいの存在が相手であることなど知る由も無いまま、かつて無い程の脅威と真正面からぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペルシアが誇る最強の部隊、レオニダスが率いたスパルタとも戦った『不死隊(アタナトイ)』の名は本来ならば、ゾンビや吸血鬼といった『既に死んでいるためもう死なない』ということを意味する『不死者』ではなく、『戦いの中で欠員が出ても、次から次へと補充されるために攻勢が止まず、敵からすれば不死の軍団のように見えるから』という逸話を由来としている。

 ダレイオス三世の宝具は、不死隊の実際の有り様に後世のイメージから不死者の概念が加わったことで、一万人もの屍兵の軍団という形に落ち着いたものなのだろうけど。

 サーヴァント、及びその力の一端となり、後付けの概念による強化も加わったことで正真正銘の『不死隊』となった筈の彼らは思いがけず、生前と変わらない戦い方を余儀なくされていた。

 

 轟音と共に落ちた雷とその余波を受け、炭と化してしまった兵士達の残骸を踏み越えながら、後続の部隊が一瞬の間も許すことなく現れる。

 それもまた次の瞬間には、爆発によって吹っ飛んでいた。

 倒しても倒しても圧倒的な物量で押し寄せ、ついには力尽き呑み込まれてしまう……そんな絶望の象徴である筈の不死隊の攻勢が、二度目の中央突破による最短距離で彼らの王を狙おうとしている勢いを辛うじて留めることしか出来ていなく、敵をこれ以上進ませないための壁の補充にしかなっていない

 それは彼らが力不足なのではなく、むしろ不死隊だからこそ、ここまで持ち堪えられているのではという印象すら覚えてしまう。

 それ程までに凄まじい、全てを理不尽に呑み込む嵐のような猛攻だった。

 

 一見すると均衡状態が保たれているように思えるけれど、それは決していつまでも続くものではない。

 このバランスは現状で辛うじて保たれているだけで、少しでも崩れれば呑まれてしまうのは自分の方であると、タイムリミットはもうあと僅かしか残っていないと、ダレイオス三世は本能で理解していた。

 『兵が尽きない不死身の軍勢』という概念で築かれている不死隊自体に切りが無かったとしても、その大本であるダレイオス三世の方には、魔力の消耗という意味での限界がある。

 ただでさえ燃費が悪いバーサーカークラスである上に、縁を辿った連鎖召喚によるはぐれサーヴァントとして現界したことで、マスターと契約する機会が無いまま実戦に突入してしまった現状では、最初に持ち得ていた分の魔力しか使えない。

 それを使い切ってしまうことと、現世からの退去がイコールであることを、サーヴァントは誰もが存在するための大前提として知っている。

 新たなマスターを得て仕切り直すために一旦背を向けて逃げるか、この身が消滅するその時まで出来る限りの足掻きを続けるか。

 

 

「オオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 ダレイオス三世が選んだのは後者だった。

 自身の軍勢をたった一人で、現在進行形で薙ぎ払い続けているあの少年が、何者なのかは分からないけれど。

 みっともない姿を見せたくはないと、胸を張れる戦いぶりを最後まで知らしめたいと。

 胸の奥の熱いところから込み上げる衝動のままに、ダレイオス三世は最前線へと躍り出た。

 それは決して、理性と判断力を失ったバーサーカーの暴挙などではない。

 残り少ない魔力を、兵士達を展開するためではなく自らが打って出るために用いた方がまだ可能性があると、将としての正しい判断を下したから。

 自身と本気で、最後まで相対するために狂化を乗り越えたその気概に、リンクは真正面から受け止めることで応えた。

 リンクと比べて、軽く数倍はありそうなダレイオス三世の巨体に見劣りしない二本の大斧と、刀身だけで持ち主の背丈ほどの大きさがある巨大な両手剣の刃がぶつかり合った……その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これぞ大軍師の究極陣地」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『石兵八陣(かえらずのじん)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八本の石柱によって取り囲まれ、不思議な文様が刻まれた蓋を落とされたことによって完全に閉じ込められた幻影と実感が、ダレイオス三世とリンクを襲う。

 今の今まで、無数の屍兵達がひしめく異形の戦場と化していた荒野は、それまでの全てが夢であったかのように、いつも通りの静けさをあっさりと取り戻し……代わりに現れた、数多の巨石によって築かれた迷宮のような陣が、何もかも夢などではないという事実を証明していた。

 黒いスーツに長い黒髪を靡かせる男の口から、フウと吐き出された煙草の口が、音も無くゆっくりと立ち上る。

 それはまるで、困難な仕事を無事にやり遂げた後の、安堵のため息のようだった。

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。