成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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https://youtu.be/A132cZ-box4
https://youtu.be/OWVFlJQ3gfw

今回の話を読む際は、是非ともこれらの曲をBGMにしてみて下さい。
全てをなぞったわけではありませんが、執筆の際の参考にしました。




黄金劇場

 

 『時の勇者』の二つ名の由来、ハイラル王家の秘宝である『時のオカリナ』が登場し、その音色を響かせただけでも、管制室のスタッフと最終決戦の始まりを聞きつけて集まってきた野次馬達を騒がせたのに。

 彼が取り出したふたつめの楽器……意匠に鳥が用いられた、輝かんばかりに美しい黄金の竪琴。

 その存在がもたらした驚きは、上がりかけた声を逆に呑み込ませた。

 

 『伝説』の中には多くの特別な力を持った楽器が登場し、その音色が持つ不思議な力によって勇者の旅路を助けているが、中でも別格とされるものが幾つか存在している。

 たった今リンクが手にしているもの、『女神のハープ』はその中のひとつ。

 女神ハイリアがかつて実際に使用し、その音色で奏でられる様々な曲を鍵として、初代勇者こと『大空の勇者』を導き続けた古代の神器。

 それを、これから奏でる予定の曲にはこれを使うのが一番だからというだけの理由で、あくまでただの楽器扱いで普通に手に取ったリンクに、自身が周囲に与えた衝撃の凄まじさなど知る由もない。

 

 頭で意識するのではなく、感覚が促すままに動き出した指先が弦を弾き、鳴った音が音階を成し、黄金劇場の広大な空間に広がっていく。

 事実として稀代の天才であり、見えるものや感じるものがあまりにも違うために他者を尊重するということを知らず、自身が作り出した曲こそが至上と疑わない。

 アマデウスのそんな姿しか知らない者は、自身の指揮、自身の楽団が他者の曲を引き立てるためのサポート役となることを厭わず、それどころか大切な役目として真剣に努めている姿を前に、彼の正気を疑うかもしれない。

 

 アマデウス自身も、キャラではないということは自覚していたけれど。

 そんなことを気にしてはいられない、その他大勢から向けられる雑音など鼻で笑って受け流せる……生前を含めてもかつて無いのではと思う程の自信と確信で以って、自らが天才であることを再認識していた。

 勇者リンクと共に奏でること、伝説に記される神秘の音色をより一層輝かせることを可能とするこの身の手腕に、心の中で声を張り上げていた。

 そんな彼が奏でる至上の伴奏に支えられながら、メインのハープが奏で続ける聖なる旋律。

 ふとした瞬間から、そこにもうひとつの主旋律が加わった。

 

 

 

 

 

 人工的に調整された弦や管ではなく、誰もが生まれ持つ『声』という楽器によって紡がれる音色。

 本来ならばそれは、儀式の女神役を務める少女や、封印を解く鍵の一部を担う精霊によって唄われる筈のものなのだけれど。

 声変わりを終えていない十代の少年、それも『伝説』にて自身の歌声で窮地を乗り越えた逸話がある者となれば、文句も違和感もある筈もなく。

 気にするべきはむしろ、リンクがハープの旋律と重ねながら紡ぐそれが『歌』であり、『歌詞』が存在するという事実の方だった。

 

 カルデアのスタッフの中には幾つかの異なる言語を理解出来る者が何人か存在しているし、サーヴァント達を含めれば、現代では失われてしまったものも含めて相当な数の言葉に対応できる。

 しかし、リンクが紡ぐ言葉はそのどれにも当て嵌まらないものであることを、誰もが試すまでもなく確信していた。

 そして同時に彼らは、現代の知識や技術では翻訳することの敵わない、遥か昔に継承が途絶えた筈の古代ハイリアの言語で紡がれる歌詞の意味を知っていた。

 『大空の勇者』の旅路を導いた歌については、『伝説』にきちんと描写されていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神のしもべに導かれし若人

 

 空と大地を結び光をもたらす若人

 

 ふたつの大いなる羽を光の塔に導く

 

 彼の者の前に道は開け

 

 詩の響きを聞く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本の中で確かに記されていた歌詞が、本では想像するしかなかったメロディーに乗って、頭の中に蘇る。

 それは、世界の平和と人の未来を繋ぐために、神の器と力を捨てることを決めた女神が、いつか必ず現れるであろう勇気ある者のために遺した歌。

 女神や世界なんて壮大なものではなく、幼馴染の少女を助けたいという細やかな願いのために立ち上がった少年が、大切な人ごと全てを救う勇者と成るための旅路を導いた『女神の詩』。

 

 人より勇気があっただけの少年と、女神の生まれ変わりであっただけの少女。

 二人の過酷な旅路の始まりとなった歌の拍が、徐々に遅くなっていく。

 音と音の間隔も開き始めて、聴者達に曲の終わりが近づいていることを匂わせている。

 

 ……しかし終わらない、何故ならばこれは勇者と巫女の目覚めの歌。

 『伝説』は、まだ始まったばかりだから。

 余韻を残しながら響いた最後の音が、完全に消え去ろうとしたその間際、弦に添うだけだった指に新たな力が込められた。

 

 

 

 

 

 

 ハープの音色と勇者の歌声という、穏やかで優美だった『女神の詩』と同じ要素によって紡がれていることを疑ってしまいそうになる程に、魂の底から震わされる荘厳な調べ。

 『女神の詩』に込められていたのが、逃れられない運命に対峙する者達への導きと祝福ならば。

 一同はこの曲に、全てを受け入れ、覚悟を決めて前を向く『勇気ある者』の後ろ姿……そして。

 その向こう側、『彼』が真っ直ぐに見据えている眼差しの先に、誰がいるのかも何があるのかも、どんなことが起こるのかも知れない広大な世界を幻視した。

 

 『伝説』の中では『勇者の詩』と題されるその曲が、どの部分に登場してどのような役割を果たしたものなのかと問われれば、答えられる者は多いだろう。

 創世の三女神が未来への希望として遺した『黄金の聖三角』、それを手にするに値する真の勇者となるための最後の試練を開く鍵。

 女神の最後の言葉を忘れなかった三体の竜神と、空に昇った人々をすぐ傍で見守ってきた精霊が、それぞれ密かに守り続けた四つの旋律を重ねることでようやく完成する、女神が遺した最後の旋律。

 それには、『伝説』で語られているものだけに留まらない、とある秘密が存在していた。

 

 魔物を蹴散らしながら進むハイラルの大地で、邪悪な魔力の立ち込める城内で、馬に乗って駆ける夜空の下で。

 時には軽快に、時には荘厳に、時には穏やかに……自分の頭の中だけに聞こえてくる旋律があったことを、『リンク達』は誰に話したことも無かったし、例の本にだって書かれていない。

 その正体が『勇者の詩』であり、初代である『大空の勇者』から受け継いだ魂の記憶の一部であったことを知った時は、『ああ、そうだったんだ』と普通に納得したけれど。

 それと同時に、『違う』とも思った。

 『勇者の詩』はあくまで、下地となった曲の名……勇者の旅路と共に在り、その歩みを支え続けてくれたこの曲を表す題名は他にある。

 それは『末代』が同調するまでもない、『リンク達』全員の共通認識だった。

 

 

 

 

 

 今の今まで奏者として弦を弾き続けていたリンクの手が、瞬きの間に別のものを取っていたことに、彼の演奏についていくために集中していたアマデウスは即座に気がついた。

 中継ぎとして曲無しで歌いながら、横目でアマデウスの方を窺ってくるリンクの様子からは、『流石にそれは無理かな……』という類いの躊躇いが感じられるのだけれど。

 アマデウスはそれに、気遣いも心配も無用だという気持ちを込めた笑みを返し、初見の曲を即興でサポートするという天才の所業を為し続けていた指揮棒をそっと下ろした。

 

 指揮が止まった筈なのに、楽団の演奏は終わらない。

 ほんの一瞬の、演奏が途切れるどころか違和感すら生じない程に自然だった流れの中で、伝説の『風のタクト』を振るリンクへと指揮権の譲渡が行なわれていた。

 

 託されたばかりの楽団の演奏が、徐々に小さくなっている指揮棒の振り幅に合わせて、よくよく耳を澄まさなければならない程に細やかなものと化していく。

 余韻まで含めて、全ての音が一旦完全に途絶えた……その瞬間。

 空気が唸る音が聞こえそうな勢いで、指揮棒を構えるリンクの腕が振り上げられた。

 

 

 

 

 

 神聖さすらも感じさせる程に荘厳だった雰囲気を一発でぶち壊しながら、高々と鳴り響いた金管楽器のファンファーレは、新たな勇者の誕生と旅立ちを祝う序曲。

 それに続いた新たな旋律は、音の高さや基本的な造りこそ『勇者の詩』を軸にしていることが明らかなのだけれど、その雰囲気や曲調は一変していた。

 『知恵』で切り開き、『力』で薙ぎ払い、『勇気』で立ち向かう……ひたすらに痛快で、胸を熱く高鳴らせた勇者の旅路。

 その全てがまざまざと蘇ってくるような、勇者リンクの冒険そのものだと表せそうなこの曲の名はと問われれば、『リンク達』は笑いながらこう答えることだろう。

 『ゼルダの伝説』だと。

 

 

 

 

 

 内装や造りは変わっていないという事実が信じがたい程に、至高の公演を内包しながら輝きを増していく黄金劇場。

 その全てをスポットライトにしながら……演奏と劇場の存在感に負けないどころか、引き立て役にしてみせる程の堂々とした美しい振る舞いで背を伸ばし、凛と胸を張りながら。

 深紅の大剣を手に、薔薇の皇帝がステージの中央へと歩み出た。

 

 いにしえの伝説そのものを象徴する楽曲の公演も、それを受けて光り輝く劇場も、全ては今のこの時に至るため。

 舞台の上(ローマの帝位)という限られた時間と空間の中で、在るべき自分、自らが望み周りに望まれる自分を演じ抜かんとする主役(ネロ)の命を賭した煌めきを、目の当たりにした全ての者の瞳と心に焼き付けるために。

 

 『リンクの詩』ではなく『勇者の詩』、全ての『勇気ある者』のために奏でられる曲を背に、『伝説』に語られる一幕の如く天上へと向けて切っ先を突き上げながら。

 ネロ・クラウディウスという新たな『勇気ある者』の、最高の盛り上がりの中で公演を締めくくるための言葉が、威厳と迫力を伴いながら轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が才を見よ!!」

 

 

 

 

 

「万雷の喝采を聞け!!」

 

 

 

 

 

「しかして讃えよ、黄金の劇場を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 華奢な足からは想像し難い程の勢いで跳び、薔薇の花びらのような炎を散らしながら我が身へと迫る刃を前に、ロムルスは微動だにしなかった。

 避けること、守ること、迎え撃とうとすることすらも、彼はしなかった……出来なかった。

 何故ならばここは劇場、舞台という名の聖域。

 『演者』のみが自由に動くことを許される、王権や神威すらも及ばない特別な場所だから。

 

 大切な公演を台無しにするような暴挙は、神祖と謳われる偉大なローマ皇帝にですら許されない。

 ネロ自身、そして彼女の具現化された心象風景である黄金劇場の美しさ、そこで繰り広げられた一連の公演の素晴らしさに見惚れて、いつの間にか心から『観客』となっていたロムルスの心身は、その法則(ルールとマナー)によって完全に縛り上げられていた。

 

 ネロの刃が我が身へと向けて振り下ろされた、その瞬間になってようやく、自身の現状を認識したロムルス。

 彼ほどの人が本気を出して抗えば、ネロの攻撃を避けられる程度には、戒めを破れたのかもしれないけれど。

 ロムルスはそうしなかった、そんな気にすらなれなかった。

 ネロの雄姿を最も間近に、真正面から堪能できる特等席で、公演のクライマックスを堪能し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローマである」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の瞬間に、確かに見えて、確かに聞こえた。

 初代皇帝の威厳ではなく、ただひたすらに親の愛に満ちていた優しい笑みと声は、ネロの全てを認めてくれていた。

 




今回の執筆めっちゃ大変でした、曲を文章で表すのって難しい……。
『女神の詩』はスカイウォードソードのメインテーマに組み込まれていますが、実はこれ、逆再生することで『ゼルダの子守歌』になるギミックが組み込まれています。
原曲と合わせてURLを貼っておくので、是非一度聞いてみて下さい。

https://youtu.be/n0mqzLBfOJo
https://youtu.be/b-SzJ7zEnwk

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