成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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神の鞭

 

《アルテラ……もしや、フン族のアッティラ大王か!?

 『凶暴で強引な者』を示して『アッティラ』と称する、そんな認識を持つほどのトラウマをヨーロッパの人々に刻み込んだ戦闘王!!

 財宝を得たい訳でも、恨みを晴らしたい訳でも無い……ただ単に攻め滅ぼしたいからだとしか思えないような容赦ない蹂躙に、ローマは散々に苦しめられたんだ!!》

 

 

 完全に後始末モードに入っていた筈の状況と心境を敢え無くぶち壊されたロマニが、引っくり返って悲鳴じみた声を上げる。

 その反応が満足のいくものだったのか、完全に調子を取り戻したらしいレフの高笑いが、ロマニの声を掻き消す勢いで響いた。

 

 

「あはははっ!!

 その通りだよ、ロマニ・アーキマン!!

 堕落した人類に齎された神罰の化身と恐れられたこいつこそ、ローマ帝国を滅ぼす災厄となるに相応しい!!

 さあ殺せ、破壊せよ、焼却せよ!!

 その力で以って、特異点もろともローマを灼き尽くせ!!

 このサーヴァントこそ究極の蹂躙者、アルテラは英霊ではあるがその力は」

 

「黙れ」

 

「え?」

 

 

 新たな敵の登場によって張りつめていた空気、状況を知らない第三者でさえ癇に障るであろう嗤い声、呆然とした表情のまま右と左に分かれた体。

 七色に輝く光の、縦に走った一閃によって、様々なものが一瞬で断ち切られた。

 

 

《……な、何だ、レフ・ライノールの反応が消えている。

 立香君、マシュ、リンク君、一体何が起こったんだ!?》

 

「…………報告します、ドクター。

 レフ・ライノールは、彼は……召喚したサーヴァントに両断されました」

 

《両だ……って、ええっ!!

 殺されたってのか、自分が呼び出したサーヴァントに!?》

 

 

 呆然と立ち尽くすマシュと、驚愕の声を上げるロマニをよそに。

 立香は、衝撃的な光景を前に殆どが吹っ飛び、かえって冷静な部分のみが残ってしまった思考力で、前々から抱いていたとある懸念が現実のものとなったことを実感していた。

 いつかこうなると思っていた、と。

 

 

(分かってなかったんだな。

 サーヴァントがマスターに逆らわないのは、その人が個人的に律儀な性分だったり、自分の願いを叶えたり他の目的を果たすために我慢しているからという部分が大きくて。

 サーヴァントはマスターに従うものだという大前提や令呪の戒めなんか、その気になれば簡単にぶっちぎって、気に食わないマスターを排除することを躊躇わない人だって、中にはいるんだってこと)

 

 

 マスターというだけで尊重し、無条件で従ってくれる善性のサーヴァントのみと接し続けていたら、自分もいつか思い上がっていたかもしれない。

 名君と暴君の間を気分次第で行ったり来たりする厄介な黄金の王様が、その驕りを芽の段階で叩き潰し、現在進行形で見定め続けてくれている現状は幸運なものなんだと、立香は心からそう思った。

 そもそもの話として、それを幸運だと思える性根から、既にレフとは違うのだと。

 周りが知れば口々にそう言われそうなことを考えながら、立香の無意識は懸命に、狭まったせいで余計なことにしか気を回せずにいる思考回路の止まっている部分を揺り動かした。

 今はこんなことを考えている場合じゃないと……とんでもない力を持ったサーヴァントが解き放たれてしまったのだという現状の危うさを、マスターとして正確に認識していたから。

 食いしばった歯を軋ませる彼の目の前で、事態は更に悪い方向へと進もうとしていた。

 

 

「せ、聖杯がアルテラの手に……吸い込まれて、えっ。

 ……吸収、している?」

 

「リンク、やめさせろ!!」

 

「ああもうっ、仕方ないか!!」

 

 

 レフが既に人では無くなっていたことを現状で唯一知っているリンクからすれば、まだ警戒を続けていたかったのだけれど。

 今この瞬間の対応に集中しなければまずいという現実を前に、他の皆がとうに忘れていた半分ずつの残骸を意識から止む無く排除した。

 聖杯は既に、アルテラの手のひらに半分ほど取り込まれてしまっている。

 あれではもはや、叩き落すことは叶わない。

 ならば腕ごと断ち切るまでと、マスターソードを構えて跳んだリンクを、レフを両断したのと同じ七色の光が襲った。

 

 咄嗟に防ぎ、体勢を整えて再び聖杯の奪取に挑もうとしたリンクだったが、その思惑は叶わなかった。

 マスターソードによって弾かれた光の剣が、長くしなやかな軌道を描きながら、後方の立香達へと向けてその切っ先を伸ばしたから。

 マシュがいるとは思ったのだけれど、立香だけでなくネロも守らなくてはいけない状況では、二人の位置関係と剣の軌道によっては対応しきれないかもしれない。

 瞬間的に脳裏に過ぎった懸念事項は、リンクに攻めではなく守りを選ばせた。

 その選択は正しくて、マシュの護りを巧みにすり抜けて立香達の身に迫ろうとしていた一閃を、ギリギリのところで跳ね除けることに成功したのだけれど。

 その攻防に費やされてしまったほんの僅かな時間は、聖杯を奪うという当初の目的にとっては致命的なものだった。

 

 

《ああっ、聖杯が!!》

 

「……これは、ちょっとまずいな」

 

 

 聖杯を……無尽蔵の魔力リソースを取り込んだアルテラの体が、聖杯そのものと化したと錯覚しそうな魔力の波動を迸らせる。

 マスターという鎖から解き放たれただけでなく、燃料の供給という面でも限界を無くした彼女を止められるものなど、もはや何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は」

 

 

 

 

 

「フンヌの戦士である」

 

 

 

 

 

「そして、大王である」

 

 

 

 

 

「この西方世界を滅ぼす、破壊の大王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か、嫌な感じが……何かが来る、余にもわかる!!」

 

《魔力反応増大!!

 これは、宝具の……それも、対城宝具クラスの解放だ!!》

 

「マスター!!」

 

「宝具使用だ、急げ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達は言う」

 

 

 

 

 

「私は、神の懲罰なのだと」

 

 

 

 

 

「神の鞭、なのだと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶大な破壊力を伴いながら、このまま世界を呑み込んでしまうのではと思わせる程の勢いで七色の閃光が迸った。

 石製の床に踵を減り込ませながら、その衝撃に真正面から耐えるマシュ。

 自らもその背に手を伸ばし、大した力添えには慣れないだろうことは分かっていながらも懸命に支えるネロの口から、悲鳴にも似た声が上がる。

 

 

「すまぬマシュ、何とか頑張ってくれ!!

 そなたに耐えてもらわねば、余らだけでなく民までもが…っ!!」

 

(そ、そうだ……この宮殿の周りには、一般の人達が住んでいる城下町が)

 

 

 しかも方向によっては、町から少し離れたところで待機している兵士達をも巻き込まれかねない。

 歯を食いしばり、全身の骨を軋ませながら踏ん張るマシュを少しでも支えるべく、ネロに続いて手を伸ばした立香。

 その脳裏に、突如ノイズのような違和感が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………しを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……しを喚べ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はやく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……令呪が、光って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私を喚べ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシュの背中を支える筈だった、甲に赤く光る紋様を刻む手を握り締め、掲げる。

 その口が呼んだ名は、立香どころかカルデアの誰一人として、今この瞬間まで考えもしなかった人のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卑王鉄槌」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極光は反転する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光を呑め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来ならば真正面へと向けて放たれるのを、例外的に真上へと向けて打ち上げられたそれは、アルテラが発した宝具を巻き込んでその軌道を変えさせた。

 閃光、そして轟音と共に、上半分が突如吹っ飛んだ連合ローマの宮殿。

 目撃者となった民や兵士達は、そんなとんでもない光景を前に立ち尽くすか、もしくは腰を抜かしていた。

 自分達がそれに巻き込まれていたかもだなんて、そんな不吉であり得ないことはわざわざ考えないようにと、無意識のうちに努めながら。

 





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