成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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VS アルテラ

 

 地平線に沈みかけた陽に照らされ、世界が赤く染まり出した夕暮れ時。

 日本風に表すのならば黄昏時、もしくは逢魔が時。

 朝でも夜でもない狭間の瞬間が作り出す、この世のものとは思い難い程に非現実的な光景の中を歩く、一人の少女の姿があった。

 道なき道をただ真っ直ぐに、この時代で最も栄えた文明を象徴する地へと向けて進み続ける少女。

 白を纏った儚げな様相、名のある芸術家が魂を込めて描いた絵画のように美しいそれは、言うなれば退廃の美だった。

 身の内に取り込んだ聖杯から溢れ出す膨大な魔力と、破壊という概念そのものを象徴する存在として喚ばれ、その役割を過たず果たさんとする彼女の有り様そのものに惹き付けられた数多の魔物を百鬼夜行の如く引き連れるそのさまは、世界の終わりを髣髴とさせるには十分なもので。

 このまま何事もなければ、形を持った破滅はローマの王都を滅ぼし、ローマと名がつく土地の全て、ローマを象徴とする時代そのものを跡形も無く蹂躙したのだろうけれど。

 生憎とそうはならなかった、崖っぷちで抗う者達は間に合った。

 

 

「……いた、いました!!

 サーヴァント・アルテラ、目視にて確認!!」

 

《良かった、間に合った!!

 で、でも……アルテラだけでなく、聖杯の魔力に惹かれた魔物達までもがあんなに》

 

「今まで余らが蹴散らしてきたのは、まだ追いつけていない一部の連中でしかなかったのか……」

 

「だとしてもこれ以上手間取ってはいられない、このまま予定通りに行く!!」

 

「はい、お任せ下さい!!」

 

「……リンク、せめて少しくらいスピードを落として」

 

「この勢いのまま突っ込みたいから悪いけど却下!!

 ダ・ヴィンチちゃんごめん、盛大にぶっ壊す!!」

 

《仕方ないね、この際だ!!

 帰ったら色々と再調整して、離脱機能も付けるとしよう!!》

 

「マスター、ネロさん、こちらへ!!

 行きます、3、2、1」

 

「ぎゃああああああっ!!?」

 

 

 カウントダウンに正確に合わせると、緊張や体のこわばりがその瞬間にピークになって失敗の原因になるかもしれないから、敢えて少しずらした方がいい。

 そんなリンクのアドバイスに従って、『1』のタイミングで車体を蹴ったマシュの暴挙に、猛スピードで走るバイクから生身で飛び降りるという最悪な予定を前に爆発寸前だった立香の絶叫が轟き。

 彼らがちょっと無理しながら乗っていたサイドカーはその次の瞬間に、加えられた圧力に耐え切れず本体から千切れて吹っ飛んだ。

 この時代においては不自然極まりない内燃機関の爆音と、高度な加工を施されたタイヤが硬い大地に強靭な轍を刻む音。

 そこに更に、人同士の確かな意図を持ったやり取りや、明らかに只事ではない悲鳴や破壊音までもが加われば、異変が起こったことを察して確認のために足を止めたとしても不自然なことではない。

 ゆっくりと振り返ったアルテラは、その瞬間に、破壊の機構に相応しい冷徹な思考をノイズどころではない衝撃によって盛大に揺り動かされる羽目となった。

 自身と同じように、音の出処を確かめようとして足を止めた魔物の群れを盛大に吹っ飛ばしながら現れた、背に緑衣の少年を乗せた人造の馬が、内燃機関の嘶きと共に機械仕掛けの蹄をこの身へと向けて叩きつけんとしていたのだから。

 

 咄嗟に光の剣を振るい、爆撃じみた強襲を跳ね除けようとしたアルテラだったが、その試みは叶わなかった。

 自身の真後ろで爆弾を起爆させ、その爆風を勢いに上乗せさせるという自爆戦法を迷わず実行に移した勇気(狂気)によって、迎撃のタイミングを狂わされてしまった為に。

 かなり離れている筈なのに、地面を通して盛大に伝わってきたミサイルが落ちたかのような振動と、一気に沸き起こって現場の状況の大部分を遮った巨大な土煙に、マシュの盾捌きによって何とか無事に着地することが出来た立香達の目と口が開きっぱなしになる。

 爆心地にいる者の身を案じて声を上げるよりも、当の本人が土煙を割って飛び出して来る方が早かった。

 

 

《よ……良かった、無事だった》

 

「つーかむしろ、あの状況で何で無事なんだって気もするんだけど」

 

「私達の目で確認出来なかっただけで、実際には爆発の瞬間にきちんとガードしていたのだと思われますが……盾の性能に頼らず、純粋な技術であれだけのことを成し遂げられてしまうと、専門とする身からすれば少し複雑な気分です」

 

「さすがは『勇者』というものだな」

 

 

 誰もが承知済みの『事実』として、純粋な感心から自然と口にした筈のその言葉が、自身の中で不思議な重厚さと痛みを伴いながら響いた。

 そのことに驚いたネロは、それと同時に、今までの自分が無自覚な夢見心地の中に在ったことに気付く。

 そしてそれが、単なる気分の話では無いであろうという事実にも。

 

 

(夢……そうか、夢か。

 余のローマを苛む凶事も、死者が蘇るという異様な現象も。

 ブーディカに報いる機会を得たことも……心から信頼出来る家臣(とも)に恵まれ、その者達と心躍る一時を共に出来たことも。

 その一人が何ということか、かの伝説の勇者であったという驚愕の事実も。

 全ては目覚めと共に跡形も無く消える、あり得ざる刹那の夢物語か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行け、この馬鹿皇帝!!

 いいから、あんたの世界ってのを守ってみせなよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荊軻と共に、アルテラを追う道行きに立ち塞がる巨大な魔物の群れを相手取ってくれた勝利の女王の一喝が、近頃はすっかりご無沙汰となっていた頭痛を伴いながら脳裏に響く。

 死んだと思われていたものが実は生きていて、かつての遺恨を一時横に置いて、民のために駆けつけてくれたのだと思っていた。

 そう思い込んでいた……思っていたかった彼女が、実際には伯父達と同じような蘇りの死人であったのだということ、先程のあのやり取りが最期の別れであったことに、今のネロは気付いている。

 

 

(そうだ、もう夢を見てはいられない。

 現実に戻る時が来たのだ)

 

 

 衝動のままに吐き出してしまいたい声を噤ませ、実際に震えて今にも折れてしまいそうな膝を保たせているのは、神祖に誓った皇帝としての矜持……そして。

 掛け替えのない友人達の目に、自らの最も美しい姿を焼き付けておいてもらいたいと、一人の少女として願うが故に。

 強く、そして気高く胸を張ったその姿のまま、彼らが居なくなった後も進み続けるために。

 

 

「第五代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウスの名において申し入れる!!

 勇者リンクよ、破壊の化身に示してやってくれ!!

 ローマは永遠であると……人々(われら)が受け継ぎ、繋げていく世界は、このようなところで終わりはしないと!!」

 

 

 在るべき世を続けるため、夢の終わりを迎えるための一歩を、自らの意思で勇気をもって踏み出したネロに、勇者は応えた。

 エンジン全開で回るマスターバイクの前輪と、通常の長さに留めることで密度を増した光の剣が、轟音と共に鍔競り合う。

 舞い散る火花越しに、アルテラと間近で向き合ったリンクは、彼女自身の自我というものが感じられない虚ろな瞳に眉根を寄せた。

 

 

「私は、フンヌの戦士である。

 そして、大王である。

 この西方世界を滅ぼす、破壊の大王……」

 

「……ローマを滅ぼす破壊の化身。

 あんたがそんな概念の象徴として徹するのは、喚んだレフの思惑が反映された結果なのか……それとも、生前から本当にそんな生き方をしていたのか。

 聖杯を丸ごと取り込むなんて無茶をしたせいで、半ば暴走状態だっていう可能性もあるか。

 ……こう言っちゃ何だけど、馬鹿なことをしたなあ。

 あんたにそんな在り方をさせた奴らも……ちょうど目の前に転がっていたからって、『願望器』なんてものに手を出して、振り回されているあんた自身も。

 あんたはこんなにも強いのに、それをわざわざ弱くさせるだなんて」

 

 

 リンクには、数多の戦いを乗り越えてきた先で得た、強さというものに対する独自の考えがあった。

 ギリギリの崖っぷちに追い込まれた状況を覆す、そんな奇跡さえ時に起こしうる真の強さ……それは決して折れない意志の力、この戦いを乗り越えた先で叶えたい願いの有無であると。

 故に、彼は自負していた。

 今この時ただ強いだけの者に、自分は絶対に負けないと。

 

 全身に力を漲らせる雄叫びと共に、踏み込みで石畳すら割ってのける強靭な脚力で蹴り落とされたマスターバイクが、轟音と共にアルテラの痩身を土煙の中に沈めた。

 聖杯によって強化された今の彼女にとってそれは、ほんの2~3秒行動の自由を妨げられる程度のことでしかなかったのだけれど。

 自身を圧し潰したマスターバイクの車体を吹っ飛ばしながら身を起こしたアルテラは、その僅かな時間が致命的であったことを身をもって思い知らされた。

 

 

《リンク君の魔力反応が急激に上昇!!

 それだけじゃない、霊基パターンが変化して……この反応は、まさか、セイバークラス!?》

 

 

 ロマニが張り上げた、異変を告げる悲鳴じみた声は、アルテラには聞こえなかった。

 代わりに彼女は、視界が白むほどの眩さの向こうから発せられた声を、ただ一人耳にした他者となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空を舞い」

 

 

 

 

 

「時を廻り」

 

 

 

 

 

「黄昏に染まろうとも」

 

 

 

 

 

「結ばれし剣は我が魂と共に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《イエス、マイマスター》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の源が、空へと向けて切っ先を高々と突き上げた青白い刀身であったことにアルテラが気付いたのは、それが我が身へと向けて振り下ろされた瞬間のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そう、か。

 世界には、私の剣でも破壊されないものがある……か。

 『神の鞭』と、呼ばれた……私のこの、軍神(マルス)の剣でも。

 そうか、それは…………少し……嬉しい、な」

 

「……ああ、成る程。

 あんた自身が、願いを自覚していたのかどうかは分からないけれど。

 それを叶えられて……可能性を示してやることが出来て、良かったよ」

 

 

 陶器の人形のようだった頬をほんのりと赤く染めながら、目元と口元を柔らかく綻ばせた少女。

 それは、破壊の機構としての彼女しか知らない者、彼女にそれ以外の生き方を教えなかったし許さなかった者達全てに見せつけてやりたいと、そう思う程に美しくて。

 彼女に次があれば、破壊の概念などに負けない人の強さを目の当たりにできる機会に、もっと恵まれることが出来ますように。

 そんな願いを抱きながら、歴史に名を刻んだ大王の最期を敬意を以って見届けたリンクの手が、金の盃を拾い上げる。

 声を上げ、大きく手を振りながら駆け寄ってくる、まだ遠い仲間達にも見えるようにと掲げたそれが、太陽が沈み切った夜空の下で星の如く輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

定礎復元

 

 

A.D.0060 永続狂気帝国セプテム

 

薔薇の皇帝

 

 





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