成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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カルデアの休日 後

 

「センパイ、この後のご予定は?」

 

「どうしよっか、釣りでだいぶ使うとばかり思ってたからなあ……」

 

 

 意気込みを早々に挫かれてしまったことに肩を落としながら、どこまでも同じような光景が続くカルデアの廊下を行き先が決まらないまま進む立香と、従者(サーヴァント)としてそんな彼に付き添うマシュとリンク。

 シミュレーターに入る前と比べてカルデア内の空気が変化していることに、三人組の中で諸々の経験と勘が単独で飛び抜けているリンクが気が付いた。

 

 

(ピリッと来るような感じはしないし、悪意は無いな……これは、何と言うか)

 

 

「お祭り騒ぎ?」

 

「へ?」

 

「リンクさん、今なんと……」

 

 

 カルデアや立香達が危険に晒されている訳ではないことを正確に察し、そのせいでいまいちスイッチが入り切らず、明確な行動に移ることが出来ずにいたリンク。

 彼がそんなどっちつかずの状態にあったタイミングを見計らったかのように、カーブ状になっている廊下の向こう側から蹄音を伴いながら突如駆けてきた黒と赤の影が、呆然と立ち尽くしていた三人をすり抜けざまに搔っ攫っていった。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「なっ、なな、いきなり何……って、お前は!!」

 

「アレキサンダー!?」

 

「やあマスター。

 リンクにマシュも、急にごめんね」

 

 

 三人分の驚愕の声と眼差しを受けながら心底楽しそうに笑ったのは、道半ばの覇王アレキサンダー。

 比較的小柄な少年少女達だとしても、四人もの人間を雑に乗せてなお力強い名馬ブケファラスの背に乗って堂々と駆けるそのさまは、遥か世界の果てを目指し続けたいずれの姿を彷彿とさせるもの……ではあるのだが。

 

 

「ヤバい、内臓シェイクされて……ガチで吐く…………」

 

「リンクさん、センパイの顔色が見るからに危険な水準です!!」

 

「止まれアレキサンダー、屋内で宝具(うま)を走らせるなんて!!

 何か用事があるのは分かった、きちんと聞くからとりあえず一旦落ち着かせろ!!」

 

「本当に止まっていいの?」

 

「はあっ!?」

 

「後ろ見て」

 

「後ろって……」

 

「まあジャンヌ、見て下さいな。

 あなたの言う通り、その子達が鳴く方を目指して来たらリンクさん達に会えましたわ」

 

「勘の鋭い良い子達です、あの子の育て方が良かったのでしょうね」

 

「勝手に借りてきてしまって、後で怒られませんこと?」

 

「……一緒に謝ってくれます?」

 

「勿論ですわ。

 一緒に怒られて、その後は、皆で一緒に休日を楽しみましょう!」

 

「ありがとうマリー、皆もあと少しだけ頑張って!」

 

「「「コケコッコーーッ!!」」」

 

「止まっちゃだめ絶対だめ早く早くもっと早く全力で逃げてお願いしますっ!!!」

 

「はいはい。

 ごめんねマスター、ブケファラスに蹴り落とされたくなかったら吐くのはもうちょっと我慢して」

 

「うっぶ……」

 

「頑張ってセンパイ、飲み込んで下さい!!」

 

 

 美しいガラスの馬に乗った、朗らかに笑う少女達が、恐怖や吐き気を堪えて涙目になった少年達を乗せた黒い馬を、鶏の鳴き声をBGMに追いかける。

 (音を排除した上で)少女達の方だけを見れば、恋人同士の浜辺での追いかけっこを思わせるような微笑ましい光景にも思えるそれは、視点を少年達の方へと切り替えれば瞬く間に、悍ましい何かから懸命に逃れようとしているようにしか思えない恐怖映像のワンシーンへと一変して。

 運悪く目撃してしまった者達を硬直させながら、カルデア内をしばし走り回った形を持った混沌は、鈍痛を訴える頭を押さえながらの天才軍師の介入によってひとまずの区切りを見せることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前という奴は、もう少し穏便に物事を動かせんのか!!」

 

「とは言うけどねえ、あの状況では何よりもまず行動に出るのが最善だったよ。

 現に、マスター達を保護できたのは、本当にギリギリのタイミングだったじゃないか」

 

 

 君だって分かっているだろう……と笑顔で念を押されてしまえば、眉間のしわを深くしながら煙草のフィルターを嚙み潰すことしか出来ない。

 諸葛孔明の力によって空間ごと遮断され、一時的な避難場所と化した小部屋でお馴染みのやり取りを繰り広げる二人へと、まだ少しだけ顔色が悪い立香が問いかけた。

 

 

「で、一体何があって、『保護』なんて言葉を使わなきゃいけないような状況になってんの?」

 

「……誰一人として悪気は無かったのが、本当に申し訳ないのだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。

 俺達が今日揃って休みを取ったことを、ドクターがうっかり口を滑らせた結果、一部のサーヴァント達の間で争奪戦が始まったと」

 

「マスター達により良い休日をという気持ちに嘘は無いのだと思う、ただ暴走してしまっているだけで」

 

「一番性質が悪いパターンじゃん」

 

「……と、とにかく。

 君達の貴重な一日をむやみに潰してしまうことは、誰一人として本意ではない」

 

「なるべく早く収めてくるから、少しの間だけここで待っていてね。

 無事に休日が再開できた暁には……ご褒美にとは言わないけど、僕達と過ごす時間を多めに取ってくれると嬉しいな」

 

「お前、それを狙ってこっち側に……まあいい。

 マシュ嬢、済まないが貴女も一緒に来てはくれないか。

 私欲のためにマスター達を独占していると取られないように、マスター側の立場で話せる者の協力が欲しいのだ」

 

 

 思いがけず話を振られて一瞬硬直しながらも、マスターのためならばとすぐに気を取り直したマシュと、猫のように襟首を掴まれて引きずられているのにも構わずに、笑顔で手を振り続けるアレキサンダー。

 そんな彼らを引率しながら、ズカズカと音が聞こえそうな足取りで部屋を後にしていった孔明の背中には、何とも言えない苦労人の哀愁のようなものが漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………ごめんな、何かぐだぐだになっちゃって」

 

「こんなことなら、有意義な休日をプロデュースとか無理に考えないで、普通に部屋でお菓子でも食べながら本読んでた方がよっぽど……」

 

「……気持ちだけで嬉しい、か」

 

「お前は本気でそう思ってるし、慰めや気休めのつもりでも無いんだろうけど」

 

「俺は……いや、俺達はみんな」

 

「お前がそういうセリフを、強がりじゃなくて本気で、どんな時や状況でも言えてしまえるようなところが、心配でたまらないんだよなあ」

 

 

 

 

 

こんな時(世界の危機)でもなけりゃ、ずっと大人しく眠ってて」

 

眠った(平和な)ままでいられれば良かったって、今でも心から思ってる」

 

「そんなお前を、何とかしてこの世界に繋ぎ留めたいって」

 

「生きることを諦めたくないと思える理由になりたいって、誰もが必死なんだ」

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「どうして」

 

「困ることないじゃん」

 

「聞いたことがある……聖杯を手に入れたサーヴァントの中には、普通の人間になって、新しく生きることを願った例もあるって」

 

「一度、ちゃんと生きて死んだ人だって、そういうことを願って叶える権利はあるんだ」

 

「封印されてはいるけれど、事実としてまだ生きていて」

 

「背負わされた責任をきちんと果たし切って、真っ当な見返りすら貰っていなかったお前に、それが許されない筈がない」

 

 

 

 

 

「困るってのは、『全部終わったらまた眠らなきゃいけないんだから、変に未練を持たされると困る』って意味だろ?」

 

「いいんだよ、それで」

 

「死にたくないって」

 

「生きたいって思うのは当たり前だから」

 

「俺だってそうだから」

 

「その為に頑張ってるから」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「なあ、ひとつ約束してもいいか」

 

「それを叶える為には死ねないって思えるような、そんな約束」

 

「……………………」

 

「後始末まで含めて全部終わったらさ、俺達が救った世界を見に行こう」

 

「お前と、マシュと……出来ればドクターも一緒、あの人も相当な箱入りみたいだし」

 

「……………………」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それでは僭越ながら、このマシュ・キリエライトが音頭を取らせていただきます。

 せーの……乾杯!」

 

「「「「「「「「かんぱ~~いっ!!」」」」」」」」

 

 

 打ち合わされたグラスが鳴る音と、既にテンションが上がり切った者達の歓声が、すっかりパーティ仕様に飾り付けられた食堂内に響き渡った。

 争奪戦ではなく、皆揃って楽しい時間を過ごそうという方向に何とか話と空気を持っていき、エミヤを始めとしたキッチン担当のサーヴァント達に協力してもらいながら早急にパーティの準備を整えた孔明の、酷使した脳を糖分で労うべくソフトドリンクを一気飲みする姿が伺える。

 アレキサンダーが迎えに来るまでにかかった時間は、ほんの数十分足らず。

 その僅かな時間で、彼がどれだけ凝縮した激務をこなしていたのかを想像して顔を引きつらせていた立香とリンクの前に、タマモ・キャットが鼻歌交じりに運んできた皿が置かれた。

 油が鳴る音が未だに聞こえそうな、揚げたての分厚いフライをタルタルソースと共に豪快に挟んだそれは、料理名を知っていた立香だけでなく、現物を目にしたばかりのリンクでさえ無意識に唾を飲み込んでしまう程の、圧倒的な視覚と嗅覚の暴力だった。

 

 

「何これ、凄い美味しそう!!」

 

「ハンバーガー!!」

 

「キャット達が腕にヨリヨリをかけた絶品のシャークバーガー、どうぞ召し上がれなのだ」

 

「…………ちょっと待って、『シャーク』ってもしかしてこれ」

 

「お察しの通り、君達が釣り上げた鮫のフライを挟んだバーガーだよ。

 少しでも鮮度が落ちると、すぐにアンモニア臭がきつくなってしまうのが鮫の問題点なのだが、釣れたて直送と来れば腕が鳴るというものだ」

 

「殆ど駄目元で持ち込んだんだが、まさかあんなのまで料理しちまうとは。

 お前らの成果だからな、後でちゃんと代金受け取っとけよ。

 …………あと、もうひとつ気になってることがあるんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、よく聞け。

 文明の破壊が貴様の、サーヴァントとなろうとも拭えない宿命であると言うのならば、私はそれを否定はせん。

 だがしかし、今の貴様は紛れもなく、人理焼却に抗うことを……つまりは、人の築いた文明を護るための戦いに、カルデア所属のサーヴァントとして助力することを誓った身の上。

 本能と理性の食い違いがどれほど苦しかろうとも、何とか折り合いをつけてやっていくしかない。

 ……そんな過酷な状況にある貴様に、ひとつ慈悲の教えをくれてやろう。

 許容できない大多数ではなく、まあ良しと思える少数を見つけ、それを護ると思えば良いのだ。

 例えば、今我らの目の前にあるこれのような……繰り返せ、ハンバーガーは良い文明!!」

 

「もぐもぐ…………うん、なるほど、理解した。

 ハンバーガーは、良い文明だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、あんなに面倒見が良かったっけか?」

 

「……反転しようとも、彼女が王であることに変わりは無い。

 馴染むつもりはあるのに、不器用なせいで中々それが出来ずにいる者を放ってはおけなかったのだろう(自分を見ているようで)」

 

「ふ~ん……まあいっか、カルデアの利になってるんならそれで。

 うしっ、それじゃあ俺も楽しむとするか」

 

「リンクさん、マスター、こちらで一緒にお茶を飲みませんこと?」

 

「何を言う、マスター達は余のライブを特等席で堪能するのだ!」

 

「ちょっ……こらこら君達、リンク君達を独り占めしないっていう今回のパーティの決まりを忘れたの!?」

 

「……ああ、そう言えばそうでしたわね。

 それでは、皆でお茶を飲みましょう!」

 

「うむ、ドリンクサービス付きのライブというのもまた面白い!」

 

「彼女達の中に、自重するっていう選択肢や発想は無いのか。

 ……参ったなあ、後でリンク君に謝っておかないと。

 ゆっくり休んでほしかったのに、まさかこんな騒がしいことになるなんて」

 

「大丈夫ですよ、ドクター。

 ほら見て下さい、リンクさんの顔を」

 

「……そうだね、楽しそうだ」

 

「だからと言って、個人情報をぽろっと零してしまったドクターの失態は帳消しにはなりませんけどね」

 

「…………はい、分かっております」

 

 

 がっくりと肩を落としながら項垂れるロマニに、こちらも少しだけ肩を上下させながらため息をついたマシュだったが、それはすぐに優しく穏やかな笑みへと変わった。

 自分以外にも何人もの人達が、同じものを見ながら、同じような表情を浮かべているのが分かる。

 大勢の人達に囲まれながら、楽しそうに、幸せそうに笑う勇者リンク。

 彼の孤独な眠りを嘆き、世界を救い続けた献身が報われることを願った全ての読者達が心から待ち望んでいた、夢物語のような光景がそこにあった。

 


































 人の世が燃え尽き、『時間』という概念の意味が薄れてしまった今もなお、カルデアは敢えて時計の針に合わせた日々を過ごしている。
 その基準で言うところの夜深く、大多数の者が眠りについているカルデアの一室に、紙の上をペンが走る細やかながらも心地よい音が響いていた。
 昼間のパーティで気分転換が出来た為か久々に筆が乗っている、この調子ならば今日中に物語を締め括ることが可能だろう。
 そうして、完成された曲のように流れていた音と動きが、ふと不自然なタイミングで途切れた。
 一旦思考を切り替えて振り返った先には、部屋のドアを閉めた時には確かに居なかったと断言できる、ふわふわの白い毛並みを持った小動物が一匹。


「フォウ、お前また来たのか」

「フォウフォウ!」


 鳴きながら机の上へと飛び乗り、あっという間に四肢を畳んで落ち着いてしまったことに苦笑しながら、リンクは執筆活動を再開させる。
 ほんの少し集中を乱されたくらいでは止まらなかったペン先は、奇跡と称するに相応しい再会に至るまでを、小さな獣が見守る前で一息に書き切った。
 分厚い紙の束の一番上にそれを乗せ、バラバラにならないよう気を付けながら引っ繰り返し、表紙代わりの厚紙に挟んで、タイトルを記すのに丁度いい位置に今一度ペンを走らせる。










『Fate/GrandOrder 永続狂気帝国セプテム 薔薇の皇帝』










 修正された特異点、無かったことになった歴史の中でのみ綴られる筈だった最新の英雄譚が、ひとつの膨大な世界観をペンの力で築き上げた前例を既に持っている者の手によって、今ここに確かな形となった。
 世界どころか、カルデア内部で公になるだけでとんでもない騒ぎを引き起こすであろう危険物を、前作と共に机の引き出しの奥深くへとしまい込む。
 それは、彼にとっての執筆活動が頭の中を整理するためのごく個人的なことであり、『著書を誰かに見せる』という発想が無かったが故のほぼ無意識から来る行動だったのだが、それによって少なくとも今現在のカルデアの平穏は保たれた。
 筆記用具をしまって一息ついたリンクの手が、未だ座り込んだままのフォウの背中へと伸ばされ、ふわふわの毛並みを優しく撫でる。
 彼がこうして、執筆活動を行なう自分の元を訪れるのは、どうしようもない不安に駆られて寄る辺を求めた時であるということにリンクは気付いていた。


「今日はどうした、パーティの時はあんなに楽しそうだったのに」

「…………」

「ああ……楽しかったからこそ、落ち着いてからかえって怖くなったパターンか。
 大丈夫だよ、お前が思っているようなことにはならない……って、言葉だけの気休めはいらないよな」





「安心しろ」





「万が一、お前の不安が現実になるようなことがあったら」





「その時は、俺がちゃんとお前を止めて(殺して)やるから」





 優しい手、優しい声、優しい眼差しとのギャップが凄まじすぎて、逆に怖気を覚えそうな言葉が、今のフォウには何よりも嬉しくて頼もしい。
 美しい人々の美しい旅路を、最後まで見届けたいと願う幼い獣と、獣の本質を察しながらも受け入れ、いざという時には務めを果たす優しい覚悟を決めている勇者の時間は、誰に知られることもなく穏やかに過ぎていった。






























 第三の特異点観測の報がカルデアを揺るがすのは、この翌日のこととなる。




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