「何なのよもーうっ、確かにコノートは私の土地なのに!!
そりゃまあ散々好き勝手に支配したけど、だって私は女王だし当然でしょ!!
納得いかない納得いかなーいっ、もうどこに行けば素敵な勇者に会えるのかしらーーっ!!」
「ムーチョムーチョ!!
……と、いきたいところですが。
楽しいルチャタイムもそろそろお開きにしないとですかネ~、看守が出所者を引き留めるなんて本末転倒ですし。
ここで消えておくのが交換条件でしたしネ。
よーし合格、ククルカン式卒業試験これにて終了デース!!」
ひたすらに穴を掘って、地面の下まで覆っていた結界に阻まれて、穴を開通させるよりも先にメイヴや結界そのものに対処することへと目標を切り替えて。
神代思想犯ことエルキドゥ、怪人∞面相こと燕青の助力を得ながら、囚人一同はついに暖かな陽光の下での自由を取り戻した。
更には、脱獄の情報を聞きつけて待ち構えていたメイヴとケツァル・コアトルの打倒にも成功し、後顧の憂いを完全に断つことが出来た。
各チームに配分するための小さな体を、身の内から溢れる激情によって震わせるイシュタル……その中の一部が、『最も警戒すべき相手が無事に排除された』ことに対する安堵であることを、微笑ましく見守る者達には悟らせないまま。
ゴール寸前という最高のクライマックスを前に、随分と長いこと中断されてしまっていたレースを再開させる宣言が、久々に元の姿となったイシュタルの口から高々と唱えられる。
メイヴが口にしていた『惑星のテクスチャ』という言葉の意味や、この地を特異点へと変えている聖杯の在りかなど、色々と気になるところはあったのだけれど。
囚われの身から脱したという解放感と、レースの再開という明確な目標、更にはレースを無事に終えさえすれば全てが解決するという事実は、それらの疑問を些細なこととして一同の思考から追い出した。
もう少し気にしておけばよかったと……誰も彼もが夏の解放感に浮かれて、『悪魔』とも『銭ゲバ』とも称される女神のことを信じ切ってしまっていたと。
彼女が行動する理由はどこまでも『自分の利益』、それも価値と質量を伴った即物的なものなのだという、十分すぎるほどに分かり切っていた筈なのにいつの間にか薄れてしまっていたことを、一同はゴールテープを切った先で改めて突きつけられることとなる。
華々しくゴールテープを切った者達だけでなく、過酷なレースを最後まで走り抜いた全てのマシン、全てのチームを讃えるはずだった表彰と閉会のセレモニー。
その開催を控えて、つい先ほどまで歓声と花吹雪によって彩られていた会場は、突如発生した巨大な積乱雲の接近によって騒然となってしまっていた。
サーヴァントの中でも直観力や危機的状況への対応に長けている者達が、驚愕と焦りを露わに姿や精神が子供のサーヴァント達の避難を促す。
観戦と同時に観測を行っていた管制室のスタッフ一同も、計器の異様な反応を前に声を上ずらせていた。
人理焼却に抗う最後の砦に集い、幾つもの世界の危機を乗り越えてきた百戦錬磨の強者達が抗うよりも先に逃げることを考える、サーヴァントの霊基すらも砕くほどの力を持った暴風と雷鳴。
それ程までの大災害が、何の前触れもなく現れた。
……前触れは無かった、しかし一同は目の前で起こっていることの原因を即座に察した。
誰もが混乱し、これからどう動くべきかを必死に考えているような状況で、歓喜の高笑いが響き渡ったのだから。
始まりから終わりまでレースを盛り上げ続けていたのと全く同じ声が、同じようにマイクとスピーカーを通した状態で。
「ふふっ、ふふふ…………あーーーーーふっふっふっ!!
完っっっ璧、完璧に成功したわ!!
私ったらどこまでパーフェクトなのかしらーーっ!!
巻き込まれたくなかったら逃げなさい、私も鬼じゃないし命までは獲らないわ!!
でも掛け金の払い戻しは会場にいるサーヴァントだけ、逃げ出した英霊のチケットは無効とするのであしからず。
あっははははは!!
文句があるなら、天地開闢から続くこの法則に言うのね!!
『賭け事は どの時代でも 親の勝ち』。
賭場ってもんはどんなゲームであれ、胴元が勝つように出来ていると分かったかしらーーーっwww」
「イシュタルさん、あなたって人は!!」
「立香……何をしているの、さっさと逃げなさい。
ここは今、人間どころかサーヴァントでさえ危険な場所になっているわ」
「センパイ、イシュタルさんの言う通りです!!
ここは危険です、いつ雷に直撃するか……」
「安心なさい、よく働いてくれたあなた達に稲妻を落とすような真似はしないわ。
これ以上、私の邪魔をしなければ、ね」
「……っ!!」
瞳に不穏な光を宿らせながら浮かべた笑みは、まだ親睦を深められていなかった頃によく目にしていたもの。
自身の考えや行いは全てにおいて正しいと疑わず、目の前にいる人間の命をほんの些細な気まぐれや不快感で奪うことを躊躇わない、美しくも恐ろしい『神』としての彼女の表情だった。
何度も助けてもらったことや、レースの進行に一喜一憂しながら笑いあったことなどに嘘は無かったと、その辺りはちゃんと信じている。
しかし、それはあくまで彼女が持つ顔のひとつ。
どんなに打ち解けようとも、基本的には独りよがりで残酷な性分の持ち主……それが女神イシュタルなのだということを、決して忘れてはいけなかった。
立香達に次いで集まってきたレース参加者のサーヴァント達の前で、彼らのゴールを迎えたセレモニー会場の建造物こと『イシュタル神殿』が変容を始める。
息を呑みながら警戒を続けていた一同の表情が、目と口をぽかんと開けた間抜け面と化すのにそう時間はかからなかった。
装飾に多少の趣味の悪さは見受けられたとしても、『神殿』と言うだけのことはある程度には神々しかった建造物が、拝金主義全開の巨大なATMへとその姿を変えたのだから。
レース開始直前にイシュタルから配られていた付属パーツが、各チームのマシンから外れてそのATMへと吸い込まれていく。
レースという名の、『特異点を消失させるため』という名目で行われた儀式によって集められていた膨大な量の魔力が奪われていくのを、想定外の連続に混乱する一同は見送ることしか出来ない。
歯噛みしながら彼らは、角の先が天を衝くほどの巨大な牡牛、神獣グガランナの顕現をその目に焼き付けた。
儀式の成功を見届けて機嫌を天元突破させたイシュタルは、高々と笑いながらこの上なく軽くなった口を滑らせ続けた。
彼女は最初から、失われた神獣グガランナを新しく造り直すためにレースの開催を企画したのだと。
『騙したのか』という詰問に対しては慌てた様子で首を横に振り、『特異点に関してはグガランナの力でぷちっと解決させるつもりだった』という言い分は本当らしく、自分の望みを叶えた上でカルデアの一員としての務めもきちんと果たそうと、彼女なりに考えてはいたようなのだけれど。
グガランナの全力の蹄には、特異点を潰すどころかその下にある正しい人理にまでダメージを与え、大地そのものに物理的な大穴を残しかねないほどの力がある。
その上で特異点のみを綺麗に消してみせるような、念には念を入れた力加減や気遣いなどといった繊細な概念は、イシュタルとは全く以って無関係であることを誰もが知っていた。
立香を始めとした、つい先程までレースの成功を共に喜びあっていた者達から容赦なくぶつけられる、幾つもの不信と疑いに満ちた眼差しに、イシュタルの機嫌は見る見るうちに悪くなっていく。
手順こそ騙し討ちも同然の形で整えたけれど、レースを成功させるために力を尽くしたことや、その過程で交わしあったあれやこれやは紛れもない本物だった。
強引な手段を取ったことを多少怒られたとしても、最終的には認められて、カルデアに強大な戦力が加わったことを喜んでもらえると思っていた。
彼女なりにマスターやカルデアのことを考えて、一生懸命に努力したことを認めてもらえないどころか、寄ってたかって責められる。
それは、イシュタルの怒りと苛立ちを誘発し、女神としての残酷な一面が本格的に露わとなるきっかけとしては十分すぎるものだった。
「あっそう、そうなの……分かったわよ、やろうってのね!?
グガランナはまだ前肢部分しか実体化していないけれど、あんた達をまとめて踏み潰すには十分だわ!!
この力を体感して私の威光にひれ伏しなさい、女神に楯突いたこと後悔させてあげる!!」
カジュアルな水着とパーカーから、いつもの女神としての装束へと切り替わったイシュタルの姿は、他の者達と同じように、夏の陽気とレースの熱気に少なからず浮かれていた彼女の思考が、神のそれへと完全に切り替わったという事実を明確に物語っている。
特異点の解消を成し遂げなければならないという責務と、あれだけ必死になって走り続けたレースの締めくくりがこれだなんて認められないという意地から、夏の太陽にも引けを取らないような女神の怒気へと立ち向かう一同。
そんな彼らを叩き潰さんと、轟音と地鳴りと共に振り上げられたグガランナの巨大な蹄が、黄金の正三角によって囚われた。
「なっ!?」
「そこまでです、イシュタルさん」
「もう観念してもらえませんか、今のうちならまだダメージも少ないですから」
「リンク、ゼルダ姫!!」
「す、すみません、お二人のことをすっかり忘れていました!!」
彼らと最後まで別行動を取ることとなったのは、まだ脱獄を果たす前、メイヴ大監獄の中でのことだった。
脱獄レースからリタイアした彼らの牢獄には脱出用の穴が無く、他の者達と同じタイミングで抜け出すことが出来なかったのだ。
それに加えて、色々と事情があったとはいえ、公式にレースの一環として扱われていた脱獄に参加しなかった以上は、本来のレースの方でもゴールテープを競うわけにはいかないとも言い出して。
『他の皆が脱獄を成功させて、監獄内が混乱したどさくさに紛れて別ルートで脱出する』
『ラストスパートには加わらないとしても、最後までちゃんと走って、閉会式には間に合わせるから』
そう言って快く背を押してくれたことに甘えて、彼らを残して一足先にレースを再開させた。
ゴールを見届けた歓喜と高揚に浮かれながらも、遅れて現れるであろう彼らをきちんと、他の皆と同じように拍手と歓声で迎えようとしていたところまでは覚えている。
その後の騒動の中で完全にすっぽ抜けてしまっていたことを自覚し、慌てて謝る立香とマシュに、ハイラルの二人は『気にしてないよ』と言わんばかりの表情と仕草で返した。
そんな何気ないやり取りによって僅かに緩んだ空気の中で、グガランナの蹄を止められるという衝撃的な光景を前に思考を吹っ飛ばしてしまったイシュタルも、懸命に気を取り直した……のだけれど。
「……わ、私のグガランナマークⅡを、蹄だけとはいえ止めるだなんて。
流石ねゼルダ、『封じる』ということに関してはあなたの右に出る者はいないわ。
だけど、それだけで私が諦めると思っているんだったら甘いわよ。
グガランナマークⅡの全身が実体化すれば、いくらあなたでもそう簡単、に……は。
………………えっ、あ?」
「ああーーーーーーーーーっっ!!!」
懸命に取り戻した平常心は、さほど長続きしなかった。
ギルガメッシュやエルキドゥが聞いていれば、腹をかかえてのたうち回りそうな渾身の絶叫が、暴風や稲妻の轟音をかき消す勢いで響く。
それを、あまりにも穏やかな笑みを浮かべながら聞き流したゼルダの姿は、この夏の日々の中ですっかり見慣れた小麦色の肌と海賊王女の衣装ではなくなっていた。
輝かんばかりに美しい白い肌に、背中を彩る金の髪……純白の布地を細やかな金色で彩っただけのシンプルな造りだからこそ、まとった者自身の美しさと神々しさを際立たせる装束。
膨大な歴史を持つ大国の姫ではなく、神に連なる力を宿す巫女としての自分を全面的に押し出す姿で現れた彼女の、上向きに掲げられた手の平の少し上のところに、グガランナを捕らえているものとは大きさだけが違う正三角によって固められた、凄く見覚えのあるパーツが浮いていた。
「このパーツが、グガランナのどの部分を構成するものなのかは、生憎と分かりませんが。
10にも満たない僅かなチームへと振り分けられたもので、特異点の解消を可能とするほどの膨大な魔力を全て注ぎ込む必要があったことを考慮すれば。
このたったひとつを取り込み損ねたというだけで、グガランナの完全な実体化は決して成しえないと判断出来るのですが、如何でしょうか?」
「いっ、今からでも遅くはないわ、それを返しなさい!!」
混乱と焦燥に逸ったイシュタルの指から、それなりの威力が込められた弾が放たれる。
しかしそれは、瞬時に割って入ったリンクによって敢え無く弾き返され……相棒を信じて防ごうとも避けようともしなかったゼルダは、その場にいた誰もが注意を向けていなかった空へと向けて声を上げた。
「ケツァル・コアトルさん、今です!!」
「取りましタ、ベストポジション!!
センキューデース二人とも、注意を引き付けてくれて助かりましターっ☆」
「ケツァル・コアトル!?
何で、どうして、目の前で確かに消えた筈なのに!!」
遥か天高くから突如現れ、半ば実体化したグガランナの頭の上へと再登場を果たしたケツァル・コアトルに驚いたのは、リンクとゼルダ以外のイシュタルを含めた全員だった。
目を剝く立香達へと向けて、ケツァル・コアトルはこれまでの経緯と、自分が今ここにいる理由を軽く説明する。
自分がこの地に召喚された理由は、特異点の解消という名目で禄でもないことを企んでいたイシュタルに対するカウンターであったこと。
イシュタルの方も、自分と同じ属性の力を持つ神であり、グガランナに対しても優位を取ることが出来るケツァル・コアトルのことを警戒していたので、油断させて行動を促すために怪人∞面相の力を借りて消滅を装ったのだということ。
リンクとゼルダとは途中からその目的を共有し、密かに協力関係にあったのだということ。
愕然として目と口が開きっぱなしになってしまったイシュタルへと向けて、ゼルダの口から止めの言葉がかけられる。
「さあイシュタルさん、お選びください。
もはや成功し得ない儀式を強引に推し進め、半端に形を得たグガランナをケツァル・コアトルさんの手によって粉砕されるか。
自らの意思で諦め、グガランナを解体して魔力リソースを返還するか。
……イシュタルさんは良かれと思っていたこと、根本的なところに悪気は無かったことは、ちゃんと分かっています。
それでもあなたは迷惑をかけたのです、楽しいレースで特異点を解消すると言ったあなたを信じてついてきた人達を結果として裏切ったのです。
そのことに対しては、きちんと反省して謝らなければいけません」
間違っていたとただ責めるのではなく、分かり辛くとも確かに存在していた善意を認めた上で、それでも結果として迷惑をかけてしまったのだから謝ろうと促すゼルダの言葉は、否定されたせいで頑なになってしまっていたイシュタルの心に正しく届いた。
しかし、だからと言って簡単に素直になれるようなら、事態を穏便に済ませることが出来るようなら、『イシュタル』と書いて『はた迷惑』と読むような認識をされてはいない。
成功を確信していた計画を寸前のところで覆された悔しさや、(彼女にとっての)理不尽に対する遣る瀬無さによって崖っぷちにまで追い詰められたイシュタルは、盛大に口を滑らせた。
「…………何でよ。
寄りにもよって、どうしてあなたがそんなことを言うの!?
肝心な時に役に立てなくて、確かに持っていた筈の力が今あればって、そんな悔しい思いをあなただってした筈なのに!!
ねえそうでしょう、
「なっ……ちょ、バカ、イシュタr」
「私は
グガランナの頭上……凄まじい反射神経で退避したケツァル・コアトルが今の今まで立っていたところと、逃げ遅れたイシュタルを中心に、黄金の輝きを放つ力の塊が豪雨の如く降り注ぐ。
リンクの誘導によって避難こそ出来たものの、そこから先は見守るしか無かった一同の前で、相応の轟音と破壊力を伴ったそれはかなり長い時間をかけて続いたのであった。
「……あの名前は彼女にとっての地雷であると、十分に理解していたハズなのに。
なぜ全力で踏み抜くのですカ、うっかりにも程がありマース。
気合を入れていた分、正直言って不完全燃焼ではあるのですガ……やめておいた方がいいですネ、これ以上は引退沙汰デース」
「ケツァル・コアトルさん、色々とありがとうございました」
「そう言って貰えるのは嬉しいけれど……同じくらい恥ずかしいデスね、何しろ肝心なところで何も出来ませんでしタから。
……あとはお願いしますネ、あまり追い打ちをかけないであげて下サイ」
「そうします、流石に堪えたみたいですし」
苦笑いを浮かべながら頷いた立香に、ケツァル・コアトルもまた、いつもより少しだけ強張った笑みを浮かべながら消えていった。
協力してくれたサーヴァントの退去を見送るという、マスターとしての大切な役目を終え……意を決して振り返った先には、先程までとあまり変わらない混沌の光景が広がっていて。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…………うーむ。
よもや我がこの駄女神に対して、もう十分なのではないか、これ以上はやり過ぎなのではないかと思うような事態が起こりうるとは。
しかしまあ、こやつのことだから熱さが喉元を過ぎるのも早いであろうし、例の石板自体はやはり出しておくとしよう」
「ではそれも入れて撮りましょうか、この焦げ具合をきちんと写したいので急がないと。
もっと寄って下さい、でないと端の人が見切れてしまいますよ!」
「終わったかマスター、ならば早く来い」
「メイドに同意だ、余の隣が空いておるぞ!」
黒焦げになって謝罪BOTと化したイシュタルを中心に据え、見るも無残な残骸と化した
しかし、レース参加者達の晴らさずにはいられない鬱憤も、念には念を入れて釘を刺しておくべしというギルガメッシュの言葉も分かるので。
結局は切り替えて記念撮影に加わる立香の後ろ姿からは、様々な困難を乗り越え、頼れるサーヴァント達という色もの集団に振り回されつつも纏める、マスターとしての経験と貫禄というものが垣間見えて。
こうして、カルデアが一丸となって盛り上げた夏の一大イベントは、様々な教訓と反省を伴いながら、掛け替えのない思い出の1ページとして皆の記憶に刻まれたのであった。
「最後のあたりは、ちょっと残念でしたけれど……それでも楽しかったです、参加して正解でした」
「それは良かった」
「リンク、今度またマスターバイクを貸して下さい」
「構わないけれど、その時は俺も一緒に行くよ」
「はい、よろしくお願いします。
……そうだ、あなたもご一緒しませんか?」
「……何故そうなる」
「何故って……レースに誘うのを諦めさせたのですから、代わりにそれくらい付き合って下さっても良いのでは?」
「……そもそもの話として。
あのようなふざけたレースに俺を誘うなどという発想が、一体どこから湧いて出たのだ」
「だってそうすれば、チーム名を『
「………………おい、小僧。
長い付き合いの姫であろう、しっかりと手綱を握らんか」
「長い付き合いだからこそ、『あ、これは止められないな』ってのが分かるんだよ」
「たまにはいいでしょう?」
「馬鹿馬鹿しい。
誘うならアレキサンダーの小僧にしろ、あいつならば断わらん」
「私はあなたを誘っているのです。
彼は彼であって、決してあなたではありません」
「……………………」
「さて、いつにしましょうか」
諦めろと言わんばかりに笑う『勇気』、慣れないまま振り回されてため息をつく『力』、少し先の予定を考えて楽しそうに微笑む『知恵』。
一度しっかりと区切りをつけながらも、やはり完全には断ち切ることが出来なかった、数十万年にも渡る筋金入りの腐れ縁。
以前と比べると、少しだけ穏やかな形で結ばれた繋がりを共有する何気ないひと時が、終わりかけた夏の片隅に存在していた。
2017年の夏イベのネタでした、楽しく進めた記憶があるので書ききることが出来て良かったです。
本編とは時系列が違う時のことをかけるので、本編ではまだ出てきていないサーヴァントや、先のネタを少しだけ出せるのもいいですね。
その筆頭だったゼルダ姫、彼女の登場は本編の方でも考えています。
とはいっても、まだいくつか特異点を解消した後のことなので、当分時間がかかりそうですが……。
頑張って続ける気概はありますので、飽きずにお付き合いいただければと思います。
終わり近くに出たネタについて、少々補完します。
ゼルダは事実として『彼女』の生まれ変わり、もしくは子孫で、そのことは『伝説』にも描かれて周知されている上に、『ゼルダ』という存在を『彼女そのもの』と考える認識や解釈は相当に大きいです。
サーヴァントとなったゼルダにもその要素が付加されて、基本として高い『神性』スキルがあるのですが……ギルガメッシュのように、その事実を受け入れがたいとする本人の意志が強いので、普段はランクが下がっています。
しかし、『本人』扱いされているゼルダのそれは、あくまで『血を引く』レベルなギルガメッシュ以上に強靭なもので、ブチ切れるなどのきっかけで普段抑えている分まで含めて爆発したりして。
今回のイシュタルは、うっかりにもその地雷をど真ん中で踏み抜いてしまったということですね。