成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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開廷

 

 魔女と化したアビゲイルが暴走し、立香達によって鎮められたその翌日。

 アビゲイルと、公衆の面前で人ならざる力を行使したという現行犯で捕らえられた、立香とキルケーの罪を明らかにするための法廷が、良くも悪くも馴染みの場所となった公会堂にて開かれた。

 彼らを取り巻く世界は既に、『普通』を装う素振りすら窺えない。

 騒めく傍聴席は腐敗臭を撒き散らす食屍鬼の群れによって埋められていて、その中には、生ける屍と同席しなければならない状況が早く終わってほしいような、仲間が無実の罪で糾弾される忌まわしい時がいつまでも来ないでいてほしいような、複雑な思いを抱くカルデア一同の姿もあった。

 

 

「妖気、妖気……妖気蔓延、跳梁跋扈!」

 

「これはもう変装の必要は無さそうね、誰一人こちらを気にしてないし。

 ……うっ、あれは!?」

 

 

 蔓延する化け物の気配に戦闘態勢を取らずにはいられない哪吒の隣で、彼女とは別の視点と認識から周囲の様子を伺っていたマタ・ハリが見つけてしまったもの、稀代のスパイとして大国を翻弄した彼女が思わず本気で言葉を失ってしまったものは、自分と同じタイミングで処刑された筈の者達の顔ぶれ。

 彼女が驚いているのは、死者が蘇っているという今更の出来事に対してではなかった。

 今までの日々の中で把握したこの世界における法則のひとつに、刑を執行された者は食屍鬼として蘇るが、その状態でもう一度倒せば二度目の復活は無いというものがあった。

 それをあっさりと覆し、心を鬼にして確かに切り捨てた筈の者達が目の前に堂々と存在しているという現状に、自分達が今までに見聞きしてきた全てを疑いたくなる気持ちが込み上げてくる。

 色々と吐き出してしまいたい気持ちと衝動を堪えながら、これからもっと大変なものに立ち向かわなければならない立香達の力になるべく、懸命に気持ちを奮い立たせるカルデア一同。

 そんな彼らが身をもって作った壁の真ん中に、古ぼけて今にも崩れてしまいそうな本を抱え、強張った体を小刻みに震わせるラヴィニアがいた。

 

 

「ラヴィニアさん、大丈夫ですか?」

 

「……ええ、私なら大丈夫、大丈夫よ。

 アビー、必ず助けるから……そうしたら約束通り、一緒に外の世界へ」

 

 

 恐怖に震えて唇を噛みしめながらも、親友を助けたいという一心で顔を上げ続けるラヴィニア。

 永遠にすら思えるような一分一秒を耐え抜いたその先で、ついにその時が訪れた。

 見るからに憔悴し、カーターに手を引かれながら震えた足取りで現れたアビゲイルと、武装した兵士達によって両側を押さえられながらも、自らの足で歩き堂々と入廷を果たした立香とキルケー。

 セイレムを蝕む狂気の日々を締めくくる、最後の魔女裁判が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして行なわれたものは正しく茶番、最初から決まり切っていた結末へと至るためのお芝居と称して良いものだった。

 異端の力を揮おうともその心根は正しく、怖れられると分かっていながら守るために戦った者達が、馬鹿げた罪状によって貶められていく。

 その痛ましさに耐えられなかったのは、予想した上で覚悟していた立香やキルケー達ではなく、正しい者の正しい行ないはどんなものであれ報われる筈と信じていた、信じたいと願っていたアビゲイルだった。

 

 

「もうやめて、もうたくさんだわ!!

 私のために、誰かのために、誤解されることも恐れずに立ち上がった座長さん達に何の罪があるというの!!

 咎められなければならない誰かがいるのならば……それは私よ、私が魔女なのよ!!

 皆さんだってもう見たでしょう、魔女となった私を!!

 こ、この私が魔女で、無辜の人々に濡れ衣を着せて……」

 

「いや、それでは困るのだ。

 そこに歴然とした動機が無ければならない、それでは我が目的は達せられない。

 真の贖罪を、私は求める」

 

「……カーター伯父様?」

 

「皆も見たであろう、この者達が作り上げた舞台を。

 巧妙な芝居職人は、見た者を惑わすだけの視覚的トリックを施す技を持ち得ていると聞いたことがあったが、それは確かに実証された。

 あれだけのことが為せるのならば、その技術は当然、他者を貶めることにも使える筈だ」

 

「伯父様、私を魔女だと告発したのはあなたではないですか!!」

 

「それは誤解というものだ、アビゲイル。

 年頃の娘が嘘と妄想の中で遊ぶのはよくあることだが、お前は特にその傾向が強い。

 故にお前は、まんまとあの者達に利用されてしまった。

 私が暴きたかったのはお前ではなく、その裏に隠れていた者達だったのだよ」

 

「そ、そんな……」

 

「まともに聞くんじゃないぞアビゲイル、そいつはお前を利用するつもりだからな」

 

「黙れ魔女め、これ以上姪を誑かすな!!

 ……傍聴席の皆にも願おう。

 しばしこの法廷の進行を、私に任せてはいただけないだろうか?」

 

 

 瞳を赤く輝かせながらのカーターの言葉に、傍聴席の食屍鬼達が沸き立った。

 途端に一変した公会堂内の空気と、瞳から意思の光が失せて呆然と立ち尽くしてしまっているアビゲイルの様子を前に、魔女キルケーの脳裏に閃光が走る。

 

 

「……成る程、これはそういう儀式か。

 裁判という確かな形式を経て加速した狂気を、形を得た罪状を、全てその子に負わせるつもりだね。

 それも、その子自身がそれらの罪を自分のものだと、自分が償うべきものだと認識してしまうよう仕向けた上で」

 

「仕向けたつもりは無い。

 これより詳らかにするものは全て、紛れもなく、アビゲイル・ウィリアムズが犯した罪だ。

 その記録を、順に新たにしていこう」

 

「ま、待って……待ちなさい!!

 私も証言をするわ!!」 

 

 

 壁となってくれていた仲間達の輪から立ち上がり、ひしめく食屍鬼達の注目を一心に浴びて震えながら、それでも自分を見据える眼差しだけは決して揺らごうとしないラヴィニアの姿に、ランドルフ・カーターこと魔神ラウムの、大魔女キルケーの軽蔑の意が多大に込められた言葉にさえ揺らがなかった笑みが僅かに強張る。

 そのままおぼつかない足取りで歩み出し、少しずつながらも確実に法廷の場へと近づいていくラヴィニアを、町中で忌避していた筈のウェイトリー家の少女を、咎める者や妨げる者は現れない。

 死者だけでなく、僅かに残って紛れている生者までもが、その歩みを黙って見据えている。

 まるで、『憐れな小娘に手を差し伸べてやろう』と上から目線の慈悲を抱いた、魔神の意図に従うかのように。

 それを察したラヴィニアは、怒りと屈辱に込み上げるものをグッと堪え、乾いた喉に走る若干の痛みを押し通して語り始めた。

 

 

「ひ、人は、何も無いのに魔女とはならない。

 人を誑かし、異端の力と技を授けた、悪魔の存在が必要不可欠な筈よ。

 あのホプキンス、幾度となく魔女を裁いてきた専門家だって、魔女だけでなくその裏に悪魔が存在していることを何度も指摘していたわ。

 そして私は、それが事実であることを知っている……私達ウェイトリーは、その悪魔の手駒だったの」

 

「……成る程。

 分かったよラヴィニア・ウェイトリー、君の告発……いや、告解を聞き入れよう。

 わざわざこのような場で、悪魔と関わりのある身であったことを明らかにする意味を、もしや分からないなどとは言わないだろうね」

 

「ええ、そうね。

 私も魔女よ、アビゲイルと同じく異端の力に手を染めた者」

 

「あ、ああ……駄目よラヴィニア。

 あなたまでこちらに来ては駄目、逃げて…っ!」

 

 

 呆けてしまっていたアビゲイルの瞳にほんの僅かな意思の光が戻り、自由に出来る思考の全てで親友の身を案じる。

 そんなアビゲイルの気持ちがラヴィニアには嬉しかった、それ以上のものを返したいと思った。

 例え、この関係の始まりが悪魔によって意図されたもので、二人の間にある思い出の大部分が、閉ざされた歪な世界の中で作られ、捻じ曲げられたものだったとしても。

 二人で過ごした秘密の時間と紡いできた絆は、紛れもない本物だったから。

 

 

「新たな証拠品を……ウェイトリー家に伝わる、秘伝の魔導書を提出するわ。

 我が家が代々追求してきた存在、今のアビゲイルに力を与えている御方に関することが、記されているものよ」

 

「ほう、それは興味深い。

 裁判を円滑に進めるものならば、喜んで歓迎しよう。

 残念ながら縛り首を免れるまではいかないだろうが、この本の内容の貢献具合によっては、せめて苦しまないようにと配慮する余地は十分にあり得るだろう」

 

「え、ええ、それは……何ともお優しいことね!!」

 

「ううっ、がぁっ…!!?」

 

「正体を現しなさい、悪魔!!」

 

 

 魔導書を受け取ろうと、手を伸ばせば届く位置にまで歩み寄ってきたカーターに、ラヴィニアは抱えた魔導書の陰に隠していた小袋を掴んで投げつけた。

 残念ながら、咄嗟に庇った腕に妨げられて、狙った顔面に叩きつけることは出来なかったけれど。

 開いた口から衝撃によって迸り、カーターの体に降り注いだ粉の効力は、特定の相手に対してならばそれで十分に発揮できるものだった。

 

 

「霊体を物質化するイブン・グハジの粉末よ、誰の死体から作ったのか知りたい!?」

 

「ぐ、ぎ……がぁ、ガアァア!!

 お、おのれ、ウェイトリイイィッ!!」

 

 

 悶絶するランドルフ・カーターの顔が、見知った名士ではなく、目を赤く爛々と光らせるカラスのものに変わった。

 本性を隠すことが出来なくなった魔神のカギ爪のような手が、枝のように細く折れそうなラヴィニアの体を掴まえて締め上げる。

 慌てて駆けつけようとしたマシュ達の動きは、人の肉を求める本能を露わにしながら立ちはだかった食屍鬼の群れによって妨げられた。

 

 

「おのれ化生ども、退け!!」

 

「ラヴィニアさん!!」

 

 

 法と秩序の最後の砦であった筈の法廷が……それを装いながら、実際には静かな狂気によって満たされていた場が、戦闘の喧騒に染まるのは一瞬だった。

 どさくさに紛れて被告人席から逃げ出したキルケーと、彼女によって助け出された立香の手が、魔神ラウムによる干渉と想定を超えた事態の連続によるショックが合わさって、体も心もピクリとも動けなくなってしまっているアビゲイルへと向けて伸ばされる。

 それを妨げようとした魔神ラウムの意図はとある干渉によって邪魔され、思考と行動がほんの一瞬停止した隙にアビゲイルを確保されてしまった苛立ちが、その状況を作り出した元凶へと向かう。

 強大な魔神に捕らえられて締め上げられているという、人間からすれば命の危険を身に沁みて味わっている筈の状況で。

 少女の小さな手に握れるだけの小さなナイフを、人外の存在の腕に突き立てながら引き攣った笑みを零しているラヴィニアの姿は、魔神の目から見ても遂に狂ってしまったのかと思えてしまう程に異様なものだった。

 

 

「ひっ…ひへっ、くひひひっ……」

 

「…………ラ、ラヴィニア、お前は」

 

 

 絞められた骨と肉が軋む感触と、肺から絞り出されて意図せず出したものではないような呻き声に、激昂に任せて彼女の体を千切りかけていた魔神ラウムは懸命に己を鎮めさせた。

 数千年もの長い間、より高度な視点と機能であらゆるものを観測してきた魔神柱には、自分達が知り得ないものはこの世には無いという自負があったから。

 そんな魔神が、数千年をかけて積み上げてきた絶対の価値観をひっくり返してくるようなものを目の当たりにさせられて、追求せずにはいられなかったから。

 

 

「何故だラヴィニア、何故お前はこのような行動に出た。

 私を恐れていた、私と相対した時は常にその身を恐怖に震わせていた……今この時においても、変わることのない怖れを抱き続けているお前が!!」

 

 

 

 

 

「強靭な精神を持っていた訳でも、力や才能に恵まれていた訳でもない!!

 ただのか弱い人間であった筈のお前に何故、勝ち目のない相手に対して歯向かうような英雄じみた真似が出来たのだ!!」

 

 

 

 

 

 人理焼却及び修正の行程とカルデアとの攻防を経て、心身共に酷く弱く、同族内で傷つけ合わずにはいられない本能を持っていて、始まる前からやり直してやらない限り救いようが無い哀れな存在だと思っていた人間の中には、ごく稀に他の大勢を救うことが出来る程に強靭な個体が現れることもあるのだと、魔神達は価値観と認識に多少の修正を余儀なくされた。

 それでも、それはその者達が素質を持った特別な個体だったというだけで、他の大多数の人間達がどうしようもない程に愚かで弱い、高次の者が救ってやらなければならない哀れな存在だという認識はそのままだった。

 そして、今目の前にいる少女は、ラヴィニアは、そんな魔神の認識を今一度揺るがしてみせた。

 サーヴァントの誰かだったら、あの場で無防備に近寄らせるようなことは流石にしなかった。

 ラヴィニアだったから、魔術師の家系に生まれたというだけの少女だったから、アビゲイルのような特別な素質を持たない哀れな一人の人間に過ぎなかったからこそ。

 自分は憐れみを持って、せめてもの救いをと思って、彼女に手を差し伸べてやったのに。

 油断していたどころか脅威になり得るとは思っていなかった、ただの人間が魔神に歯向かう事態なんて欠片も想定していなかったからこそ、ラヴィニアの不意打ちは成功したし、鼠の牙にも劣るような一太刀は、計画の要たるアビゲイルを一瞬とはいえ忘れてしまう程の衝撃を魔神に与えた。

 その気になれば一瞬で捻り潰せる存在を、いっそのこと今すぐそうしてしまいたいという本心を懸命に堪えながら、自分の何百分の一しか生きていない少女に対して追求の声を張り上げる魔神。

 そんな彼へとラヴィニアは、血が滴る口の端を三日月のように吊り上げ、呼吸をするだけで痛みが走る喉と肺を懸命に動かしながら、そんな状態でなければ高笑いを上げていたであろう気持ちをそのまま言葉へと変えた。

 

 

「大切な何か、誰かのためになら……どんなに辛く苦しくても、どんなに怖くても、勝ち目なんか無いって分かっていても、それを乗り越えて頑張れる。

 本当は誰だって持っているのに、見つけるのはとても難しくて、気付けないまま終わる人だって少なくなくて……だけど一度掴むことができれば、震える足を踏み出させてくれる。

 それが『勇気』……弱いからこそ、恐怖というものを知っているからこそ、いざという時に奮い立てる強さってものが人にはあるのよ」

 

 

 力も知恵も、最初から持ち得て生まれた魔神にとって、『弱い』とは『何も出来ない』ということだった。

 理不尽や困難に対して、ただ苦しみ嘆くことしか出来ない人間達が憐れで、とても見ていられなくて、それが出来る力を持つ者としてどうにかして救おうとした。

 何千年の時を、目立つ悲劇や惨劇ばかりに目を止め、ひたすらに憐れみ続けて過ごしてきてしまったせいで、彼らは気付けなかったのだろう。

 人間という存在が本当に、困難を前に蹲って嘆くことしか出来ないような、彼らが思っていたように弱くて憐れなだけの存在でしかなかったのなら、その歴史は人理焼却を可能とするほどの熱量を生み出すことはなかった筈だと。

 

 『英雄』とは、特別な素質と可能性を生まれ持った特異個体ではなく、人という種の誰もがその身に秘めていた可能性を、何らかのきっかけや巡り合わせによって発露した者。

 今まで抱いてきたものを根底から覆してくるそんな新説を、目の前の具体例によって突き付けられ、言葉を失った魔神の胸中は計り知れない。

 言葉でも行動でも、何らかの形でそれを表すよりも前に、魔神が見せた決定的な隙を逃さず降ってきた巨大な刃が、ラヴィニアを捕らえる魔神の腕を斬り落としたのだから。

 床に叩きつけられる寸前で受け止められたラヴィニアだけでなく、いつ魔神に殺されてもおかしくない状況にある彼女を一刻も早く助けるべく、食屍鬼の群れと必死の戦闘を繰り広げていたカルデアの一同もまた、突如現れた男の存在をすぐさま受け止めることが出来なかった。

 優しく微笑むその顔は、必死に伸ばした手が間に合わずに掴めなかった筈の、目の前で永遠に失われてしまった筈の仲間のものだったから。

 

 

「……サン、ソン?」

 

「すみませんでした、助けに入るのが遅れてしまって。

 よく頑張りましたね、ラヴィニア」

 

「………ああ、そっか。

 あの悪魔、あなたとも繋がっていたのね」

 

 

 その言葉を受けたサンソンは、ただ無言で笑い返しただけだったけれど、ラヴィニアにとってはそれで十分だった。

 斬り落とされた腕の断面を押さえて悶える魔神と、呆けてしまっていたカルデア一同の耳に、錆びた金具が軋む独特な、セイレムで過ごした限られた日々の中で何度も聞いた覚えのある音が聞こえてきた。

 それは、公会堂入り口の大きな両開きの扉が開かれる音。

 反射的に振り返った一同の目に映った、向こう側から現れた者達の姿が、只でさえ混乱状態にあった一同の思考力を更に吹っ飛ばした。

 二つあった人影の片方は、役柄に染まり過ぎていた身で舞台に戻ってしまうのはまずいという理由で、この場への同行が叶わなかったシバの女王。

 もう片方は、サンソンと同じように既にこの舞台から退場した筈の、仮に無事だったとしてもこんな形で現れるなんてことは到底在り得ない筈の者だった。

 

 

「マシュー・ホプキンス、なぜお前が!?」

 

「『なぜ』とは異なことを、法廷に判事が現れることの何がおかしい」

 

 

 自身が刑を執行した筈の女奴隷を、その役割を果たしていた者を付き添わせながら、腐敗臭を纏う死者がひしめく狂気と異端の法廷に、秩序を司る者として堂々と踏み入っていくホプキンス。

 叶うことの無い贖罪を求めて手を伸ばした、愚かで憐れな、都合が悪くなればどうにでも始末してしまえる駒でしかなかった筈の男の鋭く冷たい眼差しが、魔神を貫き竦ませた。

 

 

「最高判事たる私が不在の間に、勝手に開かれた法廷が正式なものとは認められない。

 ただ今より開廷する……追及するのは、ここセイレムを魔物が跋扈する狂気の地へと変貌させた者の正体と、その目的。

 被告人は、ランドルフ・カーターこと魔神ラウム」

 

「なっ…!?」

 

「法と秩序など名ばかりの茶番劇は終わりだ、これより執り行うは真の魔女裁判。

 貴様の思惑、貴様の罪……貴様がこの地で為そうとした全てを、今この場で明らかにする」

 

 

 ほんの少し前までは歯牙にもかけなかった筈のホプキンスの言葉に、何故か異様な迫力と危機感を感じた魔神は、なりふり構わずその場からの離脱を試み……いつの間にか展開されていた、異常な程の拘束力を持った結界によってその思惑を拒まれた。

 

 

「はい、ダメですよぉ~。

 かけられた容疑が晴れない以上は、被疑者は決してこの場からは逃げられません。

 『法廷』というごく限られた空間において、判事様の言葉は王や神以上に絶対なものです。

 分かっていますよねえ、だって……『裁判劇』なんて特殊な結界を作り出し、いいように使って自分以外の全てを翻弄していたのは、あなたなのですから」

 

「ホプキンス判事は殺された、セイレムを守るために殉じたのだ!!

 衛兵、勇敢なる市民達よ、判事を騙る悪魔をこの地より追い出せ!!

 殺してでも排除しろ!!」

 

「立香、邪魔をさせるな!!」

 

「了解、周りは任せろ!!」

 

「ちょっ……待て待てマスター、一体何がどうなってんだ。

 あの判事が生きてたとして、何であの野郎の言う通りなんかに……」

 

「混乱するのも訳分かんないのも分かるけど、詳しいことは後で話すから、とにかく今は切り替える!!

 食屍鬼達を、あの場に近づけさせないで!!」

 

 

 マスターとして堂々と指示を出した立香に応え、戸惑いながらも意識を切り替えたサーヴァント達が、法廷の中心へと向けて一斉に群がり始めた食屍鬼達の前に立ちはだかる。

 血肉を求め、本能のままに暴れまわる魔物が取り巻く中央に、ぽっかりと開いた異様な空間の中で。

 歴史に悪名を刻んだ、多くの人々を震え上がらせた魔女狩り将軍の本領が、真の悪魔を相手に発揮されようとしていた。

 




サンソンが無事だった理由
シバの女王がキルケーと交渉して分けてもらっていた仮死薬を、ホプキンス(リンク)を通して予め渡しておいたから。





以下、きちんと書いたのですが、いざ全体に組み込もうとするとテンポが悪くなってしまったので丸ごと削ったシーンです。



 アビゲイルの暴走を仲間達と共に食い止めた立香は、異端の力を使用した現行犯としてアビゲイルやキルケーと共に捕らえられ、翌日の開廷に備えて牢に閉じ込められた。
 そんな彼の下に、ランドルフ・カーターが訪れた。
 正体が魔神柱であることを、もはや隠そうとも、繕おうともしないまま。


「驚いた様子は無いか、それもそうだな。
 君達は随分と早い段階から、私のことを疑っていたようだからね。
 だからこそ私も、君達に正体が露見することを恐れることなく、多少強引な手段を取ることが出来た」

「……俺達を殺す気か?」

「まさか、私は君に礼を言いに来たのだ。
 姪を鎮めてくれて感謝するよ、あの子が力を揮うにはまだ早かったからね」

「アビゲイルに何をするつもり……いや。
 あの子に一体何をしたんだ」

「勘違いはしないでくれ、私はあの子を救いたいのだ。
 心の底から、救済しようとしている」

「アビゲイルが、助けてほしいって言ったのか」

「あの子は常に、それを願い続けている」

「……何も分かっていない。
 あの子は力が欲しかったんじゃなく、ただ自由になりたいだけだったのに」

「ああその通りだ、分かっているとも。
 だから私は、あの子に力を与えられるように腐心した。
 今のあの子は何よりも自由だ、望んだことをいくらでも叶えることが出来る。
 世界が平和でありますように、人々に救いがありますようにと。
 誰よりも純粋に、一心に願い続けてきたあの子こそが、我々では成し得なかった偉業を果たす。
 人類の救済を、その大いなる『痛み』によって」

「痛みによる救済って……ちょっ、待て待て待てそれは無い!!
 中二的発想をクソ真面目に抱き続けて、賛同者がいないのを間違っているからじゃなくて自分が特別な存在だからだっていう結論に至った上に修正される機会を逃し続けた結果、世界を救えるのは自分しかいない、自分は世界を救わなければならない、世界を救うためには一度滅ぼさなければなんて独りよがりな責任感からの本末転倒な結論に至った孤独(笑)なラスボスの思考回路まんまだろーが!!
 何で魔神柱の発想は、通る道が違うだけで最終的にそこに行き着くんだ!!
 時間神殿では色々と余裕が無くて出来なかったけど、あの時も本当は突っ込みたくて堪らなかったんだからな!!」
 
「…………ミスター・立香、君は一体何を言っているのかね」

「ごめんマスター、今だけは私もそこの魔神に同意する」

「と、とにかく……君には期待しているよ、ミスター・立香。
 明日の法廷で魔女として裁かれることとなるアビゲイルを、君なら救ってくれるとね。
 今まで誰一人、私自身でさえ、それを成し遂げることは出来なかった。
 だから再び客人を……君を、カルデアを招いたのだ」

「……ん?
 待て、待てよカーター、なぜ過去形なんだ。
 よもや、この数日間を幾たびも幾たびも繰り返して成果を得ようとしている、とでも?
 チープだ、乱雑すぎる、まるで美学が無い!!」

「何故だね、かの勇者でさえ用いた手段ではないか」

「あれは迫る滅亡に抗うための足踏みだ、他に打つ手が無い状況での必死の足掻きだ!!
 何も知らない多くの人々を、無意味な苦痛の中で翻弄したお前のそれとは全くの別物だよ!!」


 神代の大魔女キルケーが込み上げるがままに露わにする怒りを、魔神柱は歯牙にもかけず。
 面会時間の終了という、至極現実的な理由で去っていく後ろ姿を歯噛みしながら見送る事しか、今の彼らには出来なかった。

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