成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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最終公演

 

「始めに、このセイレムで貴様が為した罪状を順に述べるとしよう。

 まずひとつ……人類の救済を成し遂げるための新たな手段を模索するために、時間神殿での決戦から逃れて再起を図った貴様は、本格的な活動の場として、惨たらしい歴史と因縁が残るセイレムの地に目を付けた。

 そこが既に、かつて起こった様々な悲劇や惨劇を過去のものとし、その流れとは何の関わりも無い多くの人々が、平和な今を暮らしている場所なのだということも構わずに。

 加えて貴様は、セイレムの地と歴史を再現するための結界を構築するに至って、それに呑まれた幾万もの人々を燃料として利用した。

 ……誰に求められた訳でも、誰に許可を得た訳でもない。

 独りよがりな思惑が叶いさえすれば、何をどれだけ利用しても構わないと言わんばかり。

 この傲慢極まりない思考と振る舞いは、正しく悪魔と呼ぶに相応しいものであろう」

 

 

 自分なりの人類救済を目指した行動への散々な言われっぷりに、噛み締めた奥歯を鳴らしながらも、自らの心身に見えない枷が幾重にも巻かれ始めている現状を、魔神ラウムは冷静な思考で観測していた。

 シバの女王も言っていた通り、『法廷』という特殊な場において、『判事』の言葉と判断は絶対のものとなる。

 加えて、後世にまで伝わる二つ名となる程に数多の『魔女』とそれに連なる『悪魔』という概念を吊るし上げた『マシュー・ホプキンス』の言葉ともなれば、『魔女裁判』で『魔神』を裁くという現状においては、もはや『相性がいい』なんてレベルで済ませていい話では無くなっていた。

 時には無実の罪さえも造り上げてきた彼にとって、述べられた罪状が真実であるか否か、それを証明出来るかどうかなんて重要ではないし、気にすることでもない

 この場、この状況で彼が語り、認めた罪状の全てが不可視の縄となり、彼が対象とした罪人を縛り上げていく。

 このままでは、例え魔神柱であろうと雁字搦めにされてしまう。

 そう判断した魔神ラウムは、効率というものを最優先に考える魔神ならではの迅速な行動に移った。

 

 

「Cloak! Croak! Croaky!

 認めてやろうホプキンス、確かに貴様は優れた判事だと!!

 だがしかし、それはあくまでこの『裁判劇』の舞台上に限ってのこと!!

 舞台の幕を一旦降ろす、そうすれば貴様の力は私には及ばない!!

 今この時より、『八巡目のセイレム』を開始する!!」

 

 

 予定では今回で計画を完遂させるつもりだったが、ここまで想定外の事態が重なり、修正が困難になってしまってはもはや仕方がない。

 これ以上続けようものなら、領域を展開するための燃料となっていた、只でさえ限界に達していた今現在のセイレムの住人達は、一人残らず命を落とすであろうことを予想するのは容易かったけれど。

 それは本当にただ思いついただけで、例えほんの一瞬だとしても、魔神ラウムを躊躇わせることは無かった。

 この計画は、人類という種そのものを救うためのもの。

 たかが町ひとつ、たかが数万人の住民と引き換えに、未来永劫に渡って幾億幾兆もの人々が救えるのならば代償としては安いものだと、単純な数の多少の問題でわざわざ考慮するようなことではないと。

 『人間のため』だという絶対の自信と共に、魔神は心からそう思っていた。

 

 耳障りな甲高い鳴き声と共に、カラスの頭を持った悪魔が、無数の目玉が連なる醜悪な柱という本性を現した。

 それと同時に、蠢く死体の群れの中に僅かばかり点在していた生者達が、振り分けられた『役柄』を放って素の自分に戻るかのように食屍鬼へと変じ、周囲で蠢く死体達に紛れて瞬く間に見分けがつかなくなっていく。

 『舞台』の幕が一時下りたことで露わとなった、セイレムの真の有り様を目の当たりにさせられた一同は、長きに渡って思考の大部分を埋めていた靄が晴れ、同じように体の自由を奪っていた枷がようやく外れたかのような解放感と共に、数多の狂気に隠れて見えずにいたこの地の『真実』に辿り着いた。

 

 

「まさかこいつら……どいつもこいつも、村人全員が最初から食屍鬼だったってのか!?

 理不尽な裁判からの処刑も、毎晩の惨劇も、恐怖に駆られた住人達の暴走も、何もかも全てが台本に沿ったお芝居かよ!!」

 

「……そういうことだったのね、ぞっとしないわ。

 『舞台』の流れに沿いながら、それでも『役柄』には染まり切らないようにと。

 意識して気を付けていたつもりだったのに、それが本当に『つもり』でしかなかったなんて」

 

 

 警戒や諜報の役割を担い、任務を遂行するため、仲間達を守るために意識や思考の大半を割いてきたロビンフッドやマタ・ハリにとっては、信じがたい上に腹立たしい事実であろう。

 自分達がこの地に来てから行ってきたこと、気にかけてきたことの全てが、興行主である魔神の手のひらの上で行なわれていたことに過ぎなかったのだから。

 しかし今、そういった状況の前提となっていたもの、『裁判劇』という世界観は崩れ去った。

 『セイレムの地で起こっていることを解明し、特異点を消滅させるために乗り込んできたカルデアの者達』という役柄から解放され、元の力と認識を取り戻した一同にとって、ここから先はもはやお馴染みの魔神柱退治。

 正直言ってまだ事態の全てを把握しきった訳では無いが、魔神ラウムがこの期に及んで未だ諦めておらず、再起を図っての離脱を試みているということを理解出来ただけで、判断を下すには十分だった。

 

 今までの攻防の中でかなりの数を倒した筈なのに、役柄を捨てて本性と本能を露わにした者達がこの地で唯一の生きた肉を求めて町中から集まってきているらしく、公会堂に雪崩れ込んでくる食屍鬼の数は尽きる気配が窺えない。

 この物量と屍ならではのしぶとさにいつまでも手間取っていては、今一度の繰り返しを行なおうとしている魔神ラウムの試みを成功させてしまう。

 狂気の日々の中で擦り切れ続けた精神と、戦闘の連続で酷使されて既に限界が近くなっていた体に、これが最後だからと鞭を打つ。

 そうして、何度目かの戦闘態勢を取ったカルデア一同と、腐って崩れかけた体を蠢かす食屍鬼達の頭上に突如、空気が切り裂かれる甲高い音と共に一筋の閃光が走った。

 

 

『ぐあああああああっ!!?』

 

 

 まるで人間が高圧電流を浴びたかのような衝撃が、人智の及ばない力と無限の再生力を持つ身である筈の魔神に、苦痛と困惑が入り混じった絶叫を迸らせる。

 想定外の出来事に、現状を一瞬忘れて呆けてしまった一同は、必要が無ければあまり直視したいとは思わない魔神の体表に、深々と突き刺さる矢の存在に気がついた。

 

 

「……あれは、今の光はあの矢か?」

 

「何だアレは、一瞬ゼウスの雷霆かと思ったじゃないか!!

 アレを食らったのが魔神じゃなくもっと弱い何かだったら、今頃痺れるどころか跡形も無くなってるぞ!!」

 

「…………知っている。

 あの矢、あの光を、私達は知って………」

 

 

 自身の頭のすぐ上をとんでもないものが掠めていった衝撃で、半ば引っくり返った声を上げるキルケーをよそに、呆けた思考を懸命に巡らせるマシュ。

 そうして彼女は、自分達が未だ、正常な記憶と認識の全てを取り戻せていた訳ではなかったことに気がついた。

 デミ・サーヴァントの戦闘能力を失った身で、それでも何とか力になりたいと思って、今の自分でも出来ることを懸命に訴えた我が儘を、『また三人で頑張れるのが嬉しい』と笑いながら『彼』が率先して受け入れてくれたこと。

 『彼』以外の全員が最善の選択だと確信する中で、恥ずかしさに悶えるさまを横目に笑いながら、『彼』の物語をまとめた脚本を皆で読み合わせたこと。

 そうして、万全だった筈の準備を整えて特異点に乗り込んだ次の瞬間には、自分達の傍らどころか意識からも、『彼』の存在は跡形もなく消え去ってしまっていたこと。

 認識が確かなものになっていくと同時に、徐々に込み上げた恐怖や不甲斐なさが、その存在を求める声と、『彼』の名前を意味する音となって迸った。

 

 

「リンクさんっ!!」

 

 

 振り返った彼女の視界に飛び込んだのは、マシュー・ホプキンス判事の巌のような顰め面ではなく、光そのもので形作ったかのような美しい弓と、それを構えながら凛と立つ金の髪と緑の衣の少年の姿。

 マシュを始めとした仲間達の目が自分を見て、声が自分を呼んだことに気づいた彼は、一瞬見開いた目を細めて安堵の吐息を深く深く吐き出した。

 その時に彼が浮かべていた笑みが、見ていて悲しくなるような痛々しいものだったことに気づいた立香は、あの時笑って背中を押してくれた、今回も舞台裏での暗躍に徹してくれていた彼が、やはり辛かったし寂しかったのだということにも思い至ってしまう。

 焦燥に駆られて思わず駆け出しかけた立香の足を止め、まだ何も終わっていない現状を思い出させたのは、居合わせた者達の鼓膜をぶち破りかねないような勢いで轟いた魔神ラウムの絶叫だった。

 

 

『ば、馬鹿な……勇者、勇者リンクがなぜセイレムに!?』

 

「そこまで驚くか、まあそうだよな。

 『舞台劇』という形で成り立っていたこの世界においては、『役柄』を振り当てられないままその舞台から追い出されてしまった者は、誰に認識もされないし何に干渉することも出来ない、それこそ居ないも同然の存在になる。

 そんな状態に追い込まれれば、いくら『俺』でも手の出しようが無い筈だって思ったんだろ?

 ……ああ、その通りだ。

 最初の頃は、自分でも嫌になるくらいに、本当に何も出来なかったよ。

 お前としては、諦めて俺だけ先にカルデアへ帰っているか、誰も知らないところで力尽きて野垂れ死ぬかでもしていれば、それで万々歳だったんだろうけど」

 

 

 

 

 

「舐めるなよ魔神柱」

 

 

 

 

 

 誰に聞かせるつもりでもない、自嘲じみた独り言のようだった呟きの矛先が、迸る殺気と瞳孔が開いた剣圧のような眼差しと共に、魔神ラウムへと向けられる。

 それは対象外かつ、自分達に向けられることは絶対にあり得ないと信じているカルデア一同でさえ、余波だけで竦み上がらせてしまう程の威力を伴っていて。

 苛烈で容赦の無い行動指針こそ備えているものの、基本的には穏やかで優しい筈の彼がここまで怒り狂っている理由が分からず、震えながらひたすら困惑するばかりのマシュ達を他所に、立香には何となくだけれど察しがついていた。

 リンクは度々、「自分は『英雄』ではなく『勇者』だ」と、まるで念を押すかのように口にしている。

 『勇気』という弱さを前提とした強さを司る存在として、他の誰もが心と膝を折ってしまうような困難を前にしても挫けることなく立ち向かえたり、諦めないで乗り越えたりすることが出来るだけで、痛いことや辛いことは普通に嫌だったり、命と人生を犠牲にして功名を得るよりも家族や友人と一緒に平和に暮らす方が好ましかったりと、個人としてのの価値観や感性は極一般的なものなのだという意味が、その言葉には込められていた。

 要するに彼は、『勇者』ではなく『リンク』という一人の個人として、心底からブチ切れているのだ。

 仲間達に存在ごと忘れられた上に、能力や手段を著しく制限された絶望的などん詰まりと言っていいような状況と、狂気の日々の繰り返しの中で在るかもわからない打開策を探しながら独り奮闘するという、彼が『勇気ある者』でなければ途中で身も心も折れてしまっていたであろう苦行に、この身を追い込んだ魔神に対して。

 

 

「方法が分からない?」

 

 

「手段が無い?」

 

 

「力が足りない?」

 

 

「そういうのを全部ぶっ潰しながら、どうしようもないようなことをどうにかしながら、『俺達』は世界を救ってきたんだよ!!」

 

 

 

 

 

「もう一度言うぞ!!」

 

 

 

 

 

「『ハイラルの勇者』を……人間を舐めるな!!」

 

 

 

 

 

 一身にぶつけられた魔神に対して、同情してしまいたくなるような咆哮を上げたリンクへと、上擦った声で命令を受けた食屍鬼達が山となって一斉に襲いかかった。

 リンクが多数相手の戦闘を得意としているのは知っているけれど、いくら何でもあの数では物量で圧し潰されかねない。

 急いで助太刀に入ろうとした一同が、次の瞬間に目の当たりにしたのは、飛びかかった食屍鬼達どころか世界そのものを両断したかのような一閃だった。

 体のどこかしらから真っ二つにされた大量の食屍鬼達が、床に落ちるよりも先に消滅したことで、瞬く間に開けた視界の先。

 そこにいたのは金の髪と緑の衣の少年ではなく、銀の髪に銀の鎧を身につけ、燃え上がる憤怒を表したかのような紅い隈取で顔を彩った鬼だった。

 時間差で押し寄せてきた食屍鬼の第二陣にも構わず、切っ先で天を貫くかのように高々と掲げられた両手剣の刃が、眩い輝きを纏い出す。

 

 

「み、み、み、皆伏せてえええええっ!!!」

 

 

 まだ力を溜めている段階だというのに、現状で既に余波だけで吹っ飛ばされかねないほどの魔力が集中していることに逸早く気付いたキルケーが、ただの少女のような半泣きの悲鳴を轟かせた。

 リンクという少年が良くも悪くも『やらかす』ということを、既に信頼と言っていいレベルで知っていたカルデア一同が、瞬間的にそれに応えて身を屈め守りに徹する。

 『仲間を巻き込むかも』という最後の枷が外れたリンクは、押し寄せる食屍鬼と、その向こうに鎮座する肉の柱へと向けて、鬼神の力が込められた大剣を真っすぐに振り下ろした。

 身を屈めて瞼を固く閉じていたのにもかかわらず、『眩しい』と感じさせたほどの光が収まり、数秒の間を置いて徐々に顔を上げた一同の視界に入ったのは、元はひしめいていた食屍鬼がそこだけ消滅したらしい線状の空白地帯と。

 その終点で、巨大な体の中心に走った境目から、体の両側が徐々にずれ始めている魔神柱の姿だった。

 

 

「…………ふう、スッキリした。

 いくら『これ』が反則的なレベルで強力だとは言え、怒りを溜め込むのが前提条件じゃあ安定して使うのは難しいし、俺もあまりやりたくないな……」

 

 

 いつの間にか、見慣れた金髪と緑衣の姿に戻り、酷く疲れた様子で肩を落としていたリンク。

 そんな彼の手には、先程の鬼神を思わせる銀髪の青年の仮面が収まっていたのだが、程無く光と化して消えてしまった。

 

 

「ごめん皆、俺もう疲れたからあと任せた……」

 

「いやいや十分、今までほんっとお疲れ様!!

 今の攻防で食屍鬼は殆ど一掃されてるし、魔神柱もあの状態なら後はもうとどめを刺すだけ……って、え?」

 

 

 理不尽な日々の中で溜めに溜めていた激情をここぞとばかりに解き放ち、魔神柱を縦に両断するという大戦果を挙げたリンクを労った立香は、おかげで体力を温存出来た仲間達と共に決戦に移ろうとしていたのだけれど。

 その意気込みは、今までの経験からまだやれる筈だと思っていた魔神が、二つに分かれてしまった体を復活させようとする気配も伺えないまま消滅を始めたことによって、思いがけず水を差されてしまった。

 

 

『croak……croak………』

 

「……終わった、の?」

 

「魔力反応が著しく低下している、ここから盛り返すのは難しいと思っていいだろうね」

 

 

 あれだけ苦労させておきながら、こんなあっさりと……と、喜ばしく思いながらも釈然としないものを感じていた一同の前で、完全に塵と化して大気に散った魔神柱。

 異変に真っ先に気づいたのは、少し離れたところから広い視野でその状況を見ていたリンクだった。

 

 

「まだだ皆、頭の上!!」

 

「なっ…!?」

 

「しまった!!」

 

 

 目の前で起こっている消失にばかり気を取られ、塵が空中で集まり新たな形を成そうとしていることに気づくのが遅れた。

 それは、魔神の化身と捉えるにはあまりにも弱々しい、一羽の瀕死のカラスであった。

 残されていた力の殆どを費やして立香達の目を誤魔化し、ほんの一時の猶予を得た魔神ラウムが、最後の命を燃やしながら羽ばたく先には、サンソンによって戦場から遠ざけられていたアビゲイルとラヴィニアの姿が。

 例え死にかけていようとも、か弱い人間の体程度ならばたやすく貫けるであろう嘴が、立ち塞がるサンソンの背の向こうで互いを庇い合う少女達を狙っていた。

 

 

『アビ、ゲイル……アビィィゲイルゥゥ…………っ!!』

 

「もしかして、アビゲイルを道連れにする気!?」

 

「望みが叶わないんならいっそのことってか!!」

 

「小癪な、往生際の悪い!!」

 

「ロビン、射て!!」

 

 

 立香の命を受けて瞬間的に放たれたロビンフッドの矢が、背後から魔神を追いかける。

 あとほんの一瞬で魔神に追いつき、貫く……と思われた矢が空中で粉砕されたのは、正しくその瞬間だった。

 生々しい吸盤がびっしりと並び、何処からともなく虚空から現れた、巨大な蛸を思わせる触手によって。

 慈悲無く叩き潰されて、血だまりの中でぐしゃぐしゃになった魔神ラウムの無残な姿が、轟音と共に振り下ろされたそれと、割れてヒビが入った公会堂の床の間に存在していた。

 

 

「お……おのれ魔神、図りましたね!?」

 

『アビゲイル……アビー、優しき我が姪………このラウムを、信じて、くれた。

 お前に力を、救いを……他の、何に代えても…………』

 

「伯父様!!」

 

 

 シバの女王が上げた悲鳴じみた声にも構わず、血を吐きながら途切れ途切れの声でアビゲイルの名を呼ぶ魔神ラウムが、二本目の触手によって今度こそ本当に肉塊と化す。

 涙に濡れた声で、尚もそれを『伯父』と呼んだアビゲイルの様子からして、そこに彼女の本意が無いことは明らかだった。

 

 

「…………あ、あの野郎、一体何がしたかったんだ」

 

「自分の命と引き換えに、彼女の中の魔女を引き出したのです。

 命の危険を前に露わとなった生存本能が、秘められていた力を無意識に行使する……目覚めるきっかけとしてはあり触れたものだけれど、故に効果は確かなものとなりますわ」

 

「アビー!!」

 

「だ、だめ……来ちゃだめ、ラヴィニア!!

 誰か、ラヴィニアを連れて行って!!」

 

「あびー!!」

 

「アビーさん!!」

 

「お願い、誰も来ないで!!」

 

 

 膝をついてへたり込み、頭を抱えながら、懸命に身を小さくさせるアビゲイル。

 そんな彼女の体からは、サンソンが死んだと思われた、彼女が魔女として目覚めた時と同じ、得体の知れない禍々しい魔力が迸っていて。

 周囲の虚空からは、何本もの巨大な触手が現れて、叩き潰す対象を探しているかのように蠢いている。

 

 

「やめて、やめて……私、何も壊したくない、何も傷つけたくないのに」

 

 

 『魔女』という特異な存在としての本能、込み上げる破壊衝動と残虐性に、必死になって抗うアビゲイル。

 そんな彼女の痛々しい姿を前に、愛用の杖の柄を音が鳴る程に握り締めながら、誇りと決意を新たにした者がいた。

 




 概念のパワープレイからの、『こうなってはむしろ邪魔、捨てる!』『かかったな!』のコンボは、書きながら「大奥だなこれ」と思いました。

 今現在のリンク君のクラスは、仮面の力が使える『アルターエゴ』です。
 この霊基を得て、『リンク』ではなく『誰か』として僅かながらでも劇に介入出来るようになってからは、活動がグッと楽になりました。


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