成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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VS 骸骨兵

 

 喋りながらも順調な行程だったお蔭で、走り始めてそう時間を要することなく砦が見えてきた。

 実際に一度目にした経験からも、旅の知識を立香達に教えるための考察からも、それ程大きなものではないと言っていたリンクの前情報通り。

 小規模ながらもこの辺一帯を守ってきたのであろう砦は、自然に発生したものとは到底思えない骸骨の化け物の襲撃を受けていた。

 怪我を負った、満身創痍と言っておかしくない身で必死の抵抗を続ける兵士達の姿を目にした一同の心に、更なる戦意の炎が燃え上がる。

 

 

《魔力反応確認、骸骨兵だ!!

 今度は思う存分暴れていいぞ、二人とも!!》

 

「はい、マスター指示を!!

 木っ端微塵に蹴散らし……って、リンクさん!?」

 

「リンク!!」

 

 

 立香とマシュを先導する形で走っていたリンクは、言葉にせずとも共有していた二人の予想に反して、駆ける足の勢いを欠片も緩めることの無いまま剣戟の真っ只中へと飛び込んでいってしまった。

 冷静で、自分達よりもずっと旅慣れていて、こちらが敢えて何も言わずとも的確な判断を下してくれると思っていた彼が、まさかこんな勢い任せの暴挙に走るとは。

 リンクを助けるべく指示を出した立香と、それを受けて盾を振りかぶりながら彼を追って走り出したマシュだったが、その心意気は無駄となった。

 

 既に足が崩れかけている兵士へと武器を振りかぶる、一体の骸骨兵。

 その骨と魔力で構成されていた体躯が、突如バラバラになって崩れ落ちる。

 全速力で駆けた勢いのままに、骸骨兵の無防備な背中へと飛びかかったリンクが、途中で抜き放った小刀を剥き出しの頭蓋骨へと叩き込んだのだ。

 オペレーションルームから測定を行っていたダ・ヴィンチは、リンクが放った一撃が骸骨兵を構成していた魔力の核を破壊する一部始終を見届けた。

 

 

《ちょっ……待って待って待って、これは一体どういうこと!?》

 

《何を慌ててるんだいダ・ヴィンチ、あのナイフはそんなに凄いものだったのか!?》

 

《逆だよ、神秘の類いは一切計測されていない!! 

 何の変哲もない、旅の供とするには上等な程度のありふれた小刀だ!!

 一切の神秘に助けられることなく、我が身ひとつで骸骨兵の核を砕いてみせたんだよ、彼は!!》

 

 

 ロマニが、ダ・ヴィンチが通信の向こうで上げた悲鳴のような声を、立香とマシュは驚きのあまりに硬直してしまった思考の隅で聞いていた。

 ほんの一瞬、たった一撃で、それなりに頑強である筈の骸骨兵を破壊してみせた少年を、その場に存在する骸骨兵全てが最優先の攻撃対象として認識する。

 たった今切り結んでいた兵士を放ってまで向かってくる骸骨兵達に、リンクは慌てるでも嘆くでもなく、ただ静かに小刀を構え直す動作のみで応えた。

 

 同時に、一斉に、たった一人へと向けて多方向から襲いかかる骸骨兵の群れ。

 止まってしまっていた思考が否応も無く揺り動かされ、慌てて加勢に入ろうにも到底間に合わないことに気付いて自分を責めたマシュだったが、彼女が思い描いてしまった光景は現実とはならなかった。

 骸骨兵の攻撃が向けられた先を軸に、鋭い一閃が円を描いた次の瞬間、全ての骸骨兵が吹っ飛ばされた。

 あまりにも強烈すぎてスローモーションにすら感じられる光景の真ん中で、大技を放った余韻を体勢と纏う気配に残すリンク。その表情は、何故か納得できていなさそうで。

 何が足りないというのだ、襲いかかった骸骨兵の半数を今の一撃で破壊しておきながら。

 

 

(…………いや、まさか、半分『しか』倒せなかったのが不満なのか?)

 

 

 そんな『戦士』の思考回路に辿り着いた立香は、ゾクッと背筋が粟立つ心地を味わっていた。

 壊されずとも背骨が折られ、もはや立ち上がれず足掻くことしかできないものの頭を踏み砕き。

 そのまま踏み込んだ勢いで、別のものの武器を振りかぶった腕の関節を一閃で断つ。

 重さが急激に変化してバランスを、体勢を崩した隙を逃さずに、魔力の核と思われる頭を破壊する…そんな、彼の中で明確に思い描かれていたであろう工程が、頭蓋骨に半ばめり込んだだけの段階でへし折れてしまった小刀によって霧散する。

 チッと舌を鳴らしながら、それでもリンクは諦めずにもう一度腕を振りかぶり、翻した柄の部分でめり込んだ刃を改めて頭蓋骨の奥深くへと叩き込んだ。

 刃先が届き、砕いた手応えを確かに感じた次の瞬間に、僅かな抵抗を経て骸骨兵が崩れ落ちた。

 

 倒した数は、襲ってきた数にはまだ足りない。

 それがわかっていたリンクは、へしゃげてしまってもはや殴る用途にも使えないであろう柄を放り投げ、倒した骸骨兵の一体の持ち物だった剣へと手を伸ばした。

 見るからに粗悪品な上に、手入れなどされようもなくあちこちが欠けている始末だが、それでも丸腰とは比べようもない。

 殆ど飛び付いたと言っていい勢いで柄を握り、追撃に備えて身を翻した…その先で、残した数ぴったりの分の骸骨兵が粉砕された残骸と共にマシュが立っていた。

 立香と一緒に、見るからに『怒っています』と言わんばかりの表情と迫力で、こちらを睨み付けながら。

 

 

「なあリンク…俺達が何を言いたいのか、頭のいいお前ならわかるよな?」

 

「…………ごめん、さっぱり」

 

「一人で突っ込む奴がいるかよ、俺達が一緒にいたのに!!」

 

「リンクさんが思っていたよりずっと強かったのは見てわかりましたが、それとこれとは別問題です!!」

 

「ごめん、二人がいたの忘れてた」

 

「「余計悪いわ(です)!!」」

 

 

 彼らの怒りが、一人で突っ走ったことへの心配と、頼って貰えなかった悲しさから来ていることを。

 かつての癖を引きずって、『仲間』を忘れてしまった自分に非があることを的確に察してしまったリンクには、ひたすら謝る以外の選択肢が思い浮かべない。

 混戦にいきなり乱入して、絶体絶命の危機を瞬く間に覆して、今は化け物の残骸の中で説教に夢中になっている。

 そんな自分達が砦の兵士達に遠巻きにされていることに気付き、慌てて当初の目的に取り掛かることとなるのは、まだ少しだけ先のこと。






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