プレイヤーとして本格的に参戦したのが「ブレスオブザワイルド」からなので、一応他のタイトルに関しても調べてはいますが、描写や出てくる要素が明らかにそちらに偏っています。
時系列としてはその次の世代という設定なので、そういうものだとご了承ください。
保有スキルその1
武芸の極致 C
その手に取れるものならば、ありとあらゆるものを己が武器として使いこなしてみせたという伝説の再現。
痩身に見合わぬ剛力と逸脱した技量を前に、あらゆる武器は力不足の代物と化してしまい、彼にとって女神の神剣以外の武器はその尽くが使い捨ての消耗品も同然であった。
達人であったが故に陥ってしまった難点を、勇者は達人としての技量でもって克服した。
愛用の神剣が分類される片手剣に限らず、両手持ちの大剣から間合いの広さと形状によって扱い方が一変する槍、棍、更には大斧や槌といった重量系の武器に至るまでを見事に使いこなした。
武器の耐久力が持たない長時間の戦闘においても、敵対相手の武器を奪ったり、そこいらの本来ならば武器ではない何かを用いることで戦い抜いてみせたという。
敵の策に陥れられた窮地や無防備なところへの奇襲といった、あらゆる危機を乗り越えた逸話は、『常在戦場』の心得と対応の具体例として世界中の様々な戦士や流派に伝えられている。
しかし『言うは易く行うは難し』の言葉通り、この達人技と称することも躊躇われる程の技量はそう簡単に身につけられるものではない。
間合い、重量、威力、武器としての性質や特徴を、例え初見のものでさえも手に取ったその瞬間に判断する理解力や応用力、更にはそれを実行に移す度胸や技量、全てが最上級のレベルで求められるのだ…それも、戦闘中という極限状態の中で。
長い歴史の中でその技の使い手として具体的に名を残しているのが、円卓の騎士の一人であるランスロットのみであるという事実だけでも、勇者の凄まじさが窺えるというものである。
スキルとしてのランクが思いがけず低いのは、サーヴァントとしてのこのスキルが、『敵サーヴァントや神秘によって守られた相手に攻撃が効くようにするためのもの』だからである。
拾った枝が真剣と鍔迫り合いが出来るようにはならない、10の威力があくまで10として相手に通るようになるのみ。
もし仮に、現実に、ただの枝が剣と渡り合うような事態が起こったとしたら…それを為し得るのはサーヴァントとしての能力やスキルではなく、勇者自身の達人技のみである。
in 第二特異点
「…………いや、まあ、確かに危ないところだったよ。助けてもらったのは本当に感謝してる、だけどねえ」
「あのさあ、リンク……いくら敵で、皇帝陛下の命を狙った刺客だったとしても。
これはちょっと…流石に、あまりにも………」
「ネロ皇帝陛下、お願いします……陛下のお命を狙った刺客であることは十分承知しています、ですが」
「わかっておる、皆まで言うなマシュよ。
もはやこいつは死んだも同然、二度と刺客として立ち上がることは出来まい。
………これ以上鞭打つような真似はいくら皇帝たる余でも出来ぬ、あまりにも哀れすぎるではないか」
「………………ああ、そうだ、その通りだな。
始皇帝の命を狙った、刺客として命と全霊を賭けたあの時、もし私の身に同じことが起こっていたら……刺客としての矜持が根元から折れるどころか引き抜かれて粉と化す。
例え座に招かれたとて、それが歴史に残ってしまった事実に絶望して自ら永遠の虚無へと堕ちることであろうよ」
「いやいやいやいや敵だし、刺客だし、皇帝陛下ガチでヤバかったし!!
これ使ったのもその時丁度手に持ってたからってだけで、別に深い意味なんて無いし、威力が無いから制圧するには手数で攻めるしか無くて…そもそも、わざわざ飯時に襲ってくる方が悪いじゃん!!
え、マジでちょっと待って、これ俺が悪いの!?」
* * * * *
保有スキルその2
普遍の美貌 EX
『ゼルダの伝説』で描写されていた美貌の勇者の有り様が、長い時間の中で認識を通り越してもはや概念と化したもの。
伝説に曰く…靡く髪は天上から注ぐ光、輝く瞳は最上級の碧玉、透き通る肌は雪原の如く。
互いに美を競い合うのが常のような年頃の女性達ですら、勇者を相手には素直に負けを認め、むしろその美しさへの憧れを顕わにしたという。
他にも、姫の遊び相手にならば相応しいと侮ってきた者を自ら捩じ伏せることで黙らせた、地位ある男性からの求婚に困っていたゼルダ姫を守るために影武者を務めた、などの逸話からも、勇者の美しさを周りの者達もそうと認識していたことを窺わせる。
勇者の容姿と、それに関係する逸話について描写されていたのがゼルダ姫が記した最終章のみという点も、末代の勇者が自身の前世とも言える存在の外見を事細かに記す必要性を感じていなかったからと推測できる。
勇者と強い信頼関係を築いていたゼルダ姫が残した描写と逸話だからこそ、勇者の真実に最も近い情報のひとつであると言えるだろう。
末代の勇者自身もまた、歴代の中には、男子禁制の街に女性を装って潜入を果たした者が居たことや、代々の勇者の容姿は多少の差異はあるものの特徴として酷似していることを自身の著作内で明記しており、それもまた後の世の認識を補強した要因となっている。
「ちょっ…何それ、俺知らない!! ゼルダぁっ、何つーもんを後世に残してんの!!
……まあ確かに、見た目で馬鹿にしてきた奴は、戦術顧問が舐められる訳にはいかないとぶっ飛ばしたし。
影武者は…………ああ、うん、そういやあった、そんなこと。
思い出しちゃったよ、せっかく忘れてたのに……ああいや、女装そのものはあまり気にしてない。
ゼルダに迫ってた奴がさ…俺が影武者って知ったら、矛先こっちに向けてきて。
…………うん、ちゃんと言った、男だって。構わないって言われた、阿呆かこっちが構うわ。
姫の、と言うより女のプライドずたずたにされたゼルダがビンタ一発で見事にバカ貴族張り倒して……影武者そのものよりも、その後でゼルダの機嫌を取る方がよっぽど大変だった」
「……い、意外とアグレッシブな人だったんだね、ゼルダ姫って」
「どんな『ゼルダ』もそんな感じだったよ。
ジッとして守られてるだけなんて我慢できない、誇り高い行動派。
……女性陣からの憧れ? さあ、そっちはちょっと覚えが無い(←仕事熱心のあまり気付いてなかっただけ)」
成長期も半ばと思われる華奢な少年が、女神の加護が宿った輝かしい武具を携え、屈強な兵士ですら慄く怪物を相手にも怯むことなく立ち向かい、幾度となく世界を救う偉業を為す。
そんな最古の英雄譚に遥か昔から魅せられてきた人々は、殆ど必然とも言える流れで『女性とも見紛う美貌の少年』という存在に神秘性と英雄性を見出すようになった。
それを証明できる事実として、名のある英雄が、時に女性を装って窮地を切り抜ける逸話は古今東西に存在している。
「あっ、それボクにも覚えがある!
大勢が集まる儀礼の席とかではやたらと飾り立てられてさー、ボクより強い奴は沢山いたのにそっちのけで前に出されてさー、もう騎士なんだかパンダなんだかわからなかったよ!
でもまー、みんな喜んでくれたし、たくさん褒めてくれたからボクとしては特に問題は無かったけどね。
デオンはどう…って聞くまでもないか、大人気だったでしょ」
「はい…お仕えした王家や貴族の方達にも、『ゼルダの伝説』は非常に好まれておりましたから。
よく請われて、ゼルダ姫と自身を重ねる姫様方のために、僭越ながら、勇者様を演じさせていただいたことがございます……」
「……どーしたのさデオン、お腹でも痛い?」
「い、いえ…今になって思うと、本当に恥ずかしくて顔から火が噴きそうなのですが。
あの、当時、あくまで当時ですよ……私はこれでも、自分ほど『勇者リンク』をその身でもって表せられる者はいないと、それなりに自信があったのです。普段こなしている役目もありますから。
でも…こうしてサーヴァントになって、当のご本人と相対することになってみると………ああもう、あの頃の私のバカ!!
あんなにも格好つけて、調子に乗ってみっともない、本物の輝きを知らぬまま自信満々に胸を張ることの何と愚かしいことか!!」
「あっはははは、何だデオン、そんなこと気にしてたの!
…………わかるなー、ボクも初めてリンクに会った時、『えー、ボクってばあんなノリノリでこの人になったつもりでいたの?』って死にたくなったもん」
「待って待って! これの内容といいアストルフォ達の反応といい、さっきから何かおかしい!!」
「何もおかしくは無いと思いますが…だってリンクさん、本当にお綺麗な方ですもの」
「マシュまで!!」
「この天才が辿り着いたものとは、また違う方面における美の極致であると認めるに吝かではないよ」
「ダ・ヴィンチちゃん!?」
その認識は今や人理に深く浸透し、例えば表現の世界においては、勇者を演じる役者は決して少女で妥協したりはせず、相応しい少年が果たさなければならないという暗黙の了解が存在している。
『ゼルダの伝説』を公演するにおいての最大の難関は、いつの時代もこの勇者役探しであり、遜色ない者を見つけられればその時点で成功は決まったも同然とされ、何人もの歴史に残る名優が世に現れるきっかけとなった。
演劇関係者の中には、自らが思い描く勇者を演じるに値する理想の少年探しに心血を燃やしすぎて、後の世で「そういう趣味の持ち主だったのでは」と考察されている者もいる。
「違います!! 断じて!! 純粋に役者を探していただけですので!!
と言うかこれですか、色々な方々がアンデルセン殿を妙に心配していた理由は!!
…ご本人に、実際にお会いしてみて?
それはもう、吾輩心底感服、そして感動いたしました!!
これぞあの時吾輩が、今もなお多くの演劇関係者が追求し続ける伝説の具象!!
あの時吾輩がやっとの思いで見出した彼に不満などありません。今でも変わらず、吾輩の思い描く伝説の世界観を見事に表現してくれたと感謝しておりますとも。
至らなかったのは他でもない、吾輩自身の想像力と表現力の方…自信に満ちた生涯を終え、サーヴァントとして第二の生を謳歌する今となって、その現実を突きつけられてしまうとは。
しかし、ここで打ちのめされたまま終わる吾輩では当然ありません!!
新たな『ゼルダの伝説』の脚本は絶賛執筆中、今度こそ心から満足のゆくものを書き上げてみせますとも!!
公演が叶った際には、リンク殿には是非とも特等席で……他人が自分を演じているところをあまり見たくない? 恥ずかしいですと?
はっはっは、勇者殿は何とも奥ゆかしい方ですな」
『ゼルダの伝説』を知る誰に訊ねたとしても、同じ答えが、「勇者リンクは類稀なる美しい少年だ」という共通の認識が返ってくることだろう。
何故なら、既にそれは、人類が持つ共通意識の中に深く刻み込まれてしまった普遍の概念と化しているからだ。
どんな時代の、どんな国の、どんな文化の、どんな価値観を持つ人であろうと、勇者リンクを前にした者は、その者の個人的な嗜好にすら左右されることなく、心の底からこう思うことであろう。
「何と美しい者なのだ」、と。
「これか、これが原因か!!」
「ここまで読んできて思ったけど…何かこれ、『無辜の怪物』の別パターンっぽいな。
……ああ、でも違うか。
『無辜の怪物』は勝手な噂や思い込みが広まりすぎて、本人に影響が出たって奴だし。
リンクの見た目が半端なく綺麗だってのは、紛れもない事実だからな」
「立香、お前まで…」
「諦めた方がいいよ、リンク君。
古代メソポタミアから数千年に渡り、『ゼルダの伝説』は愛されてきた。
それだけの時間をかけて、君への憧れを人々は積み重ねてきたんだ。
動かすことはまず不可能だよ」
「うう~……わかったわかった、目の前の現実を否定するほど馬鹿じゃない! 俺は美形、覚えた!
……認めはしたけど、やっぱり恥ずかしいな」
(センパイ、ドクター、やりました! リンクさんが自覚して下さいました、作戦成功です!)
(当人の知らないところで俺達がどれだけ、それが原因で起こった事態に振り回されたか…これで落ち着いてくれるといいんだけど)
(ナルシストも大概だけど、無自覚ってのもそれはそれで面倒臭いんだね)
「さてと、そうと分かれば早速」
「リンクさん、どこへ行かれるのですか?」
「マタ・ハリさんのところ、色仕掛け教えてもらうならゴルゴン姉妹よりもあの人だろ」
「…………………は?」
「不本意なものとはいえ、スキルはスキルなんだ。
ちゃんと詳細を確認、把握して使いこなせるようにしておかないと。
……冷静に考えれば、諜報や潜入工作を補助するのに打ってつけのスキルだ。
マタ・ハリさんも自分と同じ仕事が出来る奴が少ないってこぼしてたことがあるし、少しは手伝えるようになるかもな」
「ちょっ、待……ストップストップ、駄目だよリンク君、本格的にそっちに行かないで世界のために!!」
「デオン、アストルフォ、マスターとして命ずるそいつを止めて!!」
「いやーっはっはっは、リンク君の必要もしくは最善と判断した場合の躊躇わなさっぷりを甘く見てたねえ」
「笑い事ではないですダ・ヴィンチちゃん、止めるのを手伝ってください!!」
「何を言うのですマシュ殿、止めるなんてそんなもったいない。
やはり見込んだ通り、マスター殿と勇者殿の周りにはイベントが絶えませんなあ」
* * * * *
保有スキルその3
戦術顧問(対魔) A++
長い時間を越えて、幾度もの世代を経て、転生と運命への対峙を繰り返す勇者の魂に蓄積された戦いの記憶と経験が、末代になって結実したもの。
人々を脅かす魔物の弱点、対処法を見出し、『強大な怪物』を『危険だけれど対処は可能な厄介者』程度のものへと変えてしまう。
このスキルの真価は、見出した対処法を自身ほどの力や技術が無くとも実践可能なものにまで洗練もしくは単純化させ、他の者に広めることが出来るという点にある。
どんなに恐ろしくとも、どんなに強大な敵相手でも、背後にある大切なものを守るために、決して投げ出せない戦いならば。
皆で勝とう、皆で生きて、皆で帰ろう…その為の道を開く、『勇気』をもってついて来い。
頼もしいその背に導かれて多くの者が立ち上がる、それは目映い姿に憧れるあまり己の分を見失った蛮勇などでは決して無い。
己に出来ることを己の戦場で為せばいい、勇者の導きにはそんな教えも含まれているのだから。
In 第七特異点
メソポタミア文明の、今後続く筈の『人』という種の命運がかかっている第七特異点、『絶対魔獣戦線バビロニア』。
日々襲い来る魔獣の群れから人の生存権を守るための北壁はその最前線であり、鍛え抜かれ、かつ覚悟を決めた兵士達による必死の攻防が、日々繰り広げられていた。
街にいる友や家族のため、自分達が生まれ育った国のため、今も玉座で誰よりも必死に戦い続けている王のため…確かな覚悟を決めた兵達ではあったが、犠牲の無くならない日々は彼らの戦意に決して少なくはない影響を与えていた。
……のは、ほんの数日前までのこと。
実態、数にすればほんの僅かな変化がもたらされたことで、北壁における戦況、繰り広げられる光景は一変していた。
巨大な体躯を怒らせ、長い毒の尾を振りかざしながら咆哮を上げるのは、ウルクを脅かす魔獣の一種、毒の竜ムシュフシュ。
挑発されてあからさまに苛立っているそれと真っ向から相対しているのは、一人の…たった一人のウルク兵のみだった。
移動を全く考慮していない、分厚く巨大な盾にその身の殆どを隠しながら、端から辛うじて突き出した片手と長柄の槍でムシュフシュに執拗なちょっかいを出している。
痛手を負うような攻撃では無いものの、あまりにもしつこく鬱陶しい。
牙や爪での攻撃を試みるものの、兵が持つ槍の間合いはムシュフシュのそれよりも遥かに長く届かない。
真っ直ぐに長く向けられた槍を真正面から攻略するのは流石に難しく、ならばと横や後ろに回り込もうと試みても、巨大な盾は円錐状の下部を地面に突き立てる形で固定される形状となっており、手早い移動こそ不可能なものの、その場で回転して敵の移動に対処することは容易であった。
弱く脆い筈の獲物、それもたった一人を狩ることすらままならない現状に、ただでさえそれほど堅いものではなかったムシュフシュの忍耐が限界に達する。
槍の間合いを越え、盾の護りをも突破できる威力を期待できる最大の武器、人々にサソリを連想させる巨大な毒の尾を高く構える。
怒りと苛立ちを込めた渾身の一撃が放たれたその瞬間、兵士は片足を後ろに下げ、盾を支える腕から地面を踏みしめる足までの一直線となった体幹を全力でもって固定させた。
毒針が盾に深々と突き刺さり、凄まじい衝撃が盾の向こうの兵士を襲う…しかし、そこまでだった。
この瞬間のこの一撃を耐えるという、自身に与えられた役割を見事果たしきった兵士の働きに仲間が続く。
ピンと伸ばされ無防備となった上に、盾に突き刺さったことでほんの一瞬でもその動きが固定され、更にはムシュフシュ自身の意識が完全に誘導されていて隙だらけ極まりないその尾へと、雄叫びと共に刃が降り上げられた。
ムシュフシュの尾は恐ろしい兵器ではあるが、機敏に動かす必要があるために他の部位に比べて防御は格段に弱く、更には大事な毒腺や神経が集中している急所でもある。
そんな場所に、最大限のお膳立てを整えられた上で、後先考えない全力の一撃を振り下ろせばどうなるか。
耳障りな絶叫と共に、断ち切られた勢いのままに飛んだ毒の尾が地に落ちる。
体の最も敏感な部分のひとつが切り飛ばされた、その激痛と衝撃に一瞬白んだムシュフシュの意識は、その後戻ってくることはなかった。
意識が飛んで抗いようもなかったムシュフシュの目を、喉を、心臓を、この瞬間のために待機していた他の兵士達の槍が一斉に貫いたからだ。
ほんの少し前までは、一頭を倒すために更なる人数を費やし、犠牲を免れたとしても体力と気力を盛大に使い果たしていたというのに。
止まったばかりの神経の名残に少しだけ痙攣しているムシュフシュの死骸を前に、体力は未だ十分、気力は尽きるどころかより一層漲っている。
「よし、この調子だ! 次行くぞ、気を抜くなよ!」
「気を抜かないのは当然、気合いを入れるのも結構ですが!!
あまり張り切りすぎては気が逸ります、それは大きな失敗の元ですよ!!
三頭倒した時点で撤退、交代のち休憩、次の順番まで待機、この決まりをどうか忘れずに!!」
「心得ております、レオニダス王!!」
遥か頭上、聳え立つ壁の先から降ってきた声に返すと共に気合いを新たにし、兵士達は戦線へと戻っていく。
北壁の縁に立つレオニダスは、感慨深げな感嘆の溜息と共に眼下の戦線を見守っていた。
「犠牲者の割合、手順の効率、討伐までに要する時間……戦闘行為に必要となるあらゆる『数』、そのどれもが以前とは比べようもない。
極限状態の中でいかに戦うか、いかに鼓舞するかは心得ているのですが。
……逸り過ぎないように、気を張るのを怠らないようにと戒めるのは初めてです。
まさか、サーヴァントとなった今になって、戦場で学ぶようなことがあろうとは」
少しの困惑と、それを覆い隠してしまう程の喜びと感動に満ちた呟きを零すレオニダス。
彼のサーヴァントとして、戦場に立つ王としての優れた感覚が周囲の空気が微妙な変化を迎えたのを感じた。
それは背筋が粟立ち冷えるような不快なものではない、むしろ歓喜や高揚といった高ぶりの類い。
北壁に常駐する兵士達、中でも運よく『彼』の訪れに居合わせた者達の感動と驚愕の気配が少しずつ近く、大きなものへとなっていく。
変化の主に察しをつけたレオニダスは兜の下でふっと微笑み、振り返った先に、予想通りの人の姿を捉えた。
「これはこれは、リンク殿、よくぞ再びこの北壁へと参られました!!」
「お邪魔していますレオニダス王、戦線の様子はいかがですか?」
「どうぞ、その目でもってご覧になって下され」
そう言って数歩移動し、壁向こうの戦況を見守る為の特等席を譲ったレオニダスの厚意に甘んじ、リンクは眼下一面の戦場を見下ろす。
数日前にリンクが目の当たりにした、思わず眉を顰めてしまった悲惨なそれから一変した、活力と希望に溢れた光景がそこにあった。
明確な役割分担は、こなすべき一点に集中することによる戦闘効率の上昇、「それさえ出来れば」という安心感と心の余裕を生み、共に戦う仲間達との信頼関係をより強固なものとした。
更にその役割分担自体も、レオニダス自らが指揮を取った選抜試験によってその者に最も適切と判断されたものを個々に宛がわれており、それも兵士達の自尊心を高め戦況を維持するのに一役買っている。
自身が考案し、推奨した戦術の確かな成果を確認したリンクは、ホッと息をついて僅かに強張っていた口元を綻ばせた。
「良かった、どうやらお役に立てたみたいで」
「お役立ちどころの話ではありませぬ。
僭越ながら、戦いとは計算であることを理解し、頭脳派を自負しておりましたが、やはり専門の方には敵いませぬなあ」
「戦術をすぐに実行に移せたのはレオニダス王の常日頃の特訓があってこそ、そして何より彼ら自身の国を守りたいという懸命さが成し得たことです。
自分の働きを卑下するつもりはありませんが、全てが自分のおかげと思い上がるつもりもありませんよ」
「謙虚ですなあ、それもまた好ましいものです。
……それはそうと、ギルガメッシュ王は未だ、カルデアの皆様を認めてはおられぬのですか?」
多くの特異点、多くの困難を乗り越えてきた彼らならばきっと、ウルクを救う重要な役目を果たしてくれるだろうに。
何がギルガメッシュを頑なにさせているのか、思わず首を傾げて考えるレオニダスに、リンクはこちらも思わず笑みを零しながら自身の推測を口にした。
「多分ですけど…認める認めない以前に、ギルガメッシュ王はきっと、立香達に『ウルク』という国を見てもらいたい、ここで生きる人達を知ってほしいと思っているんです。
『書類上の会ったこともない一万人』よりも、『笑顔と温もりを思い出せる一人』の方が、絶体絶命の危機や絶望の最中に力をくれるものなんですよ。
わかります、俺がずっとそうでしたから」
「………成る程、それは確かに大切なことです。
私も知っております…守るべきもの、失いたくないと思えるものを明確に思い描ける、それがどれだけの力をくれることか」
「一旦俺は立香達と合流します、戦況に変化が起きたら王宮を通じて呼んで下さい。
ほんの少し耐えてくれさえすれば、すぐさま駆けつけます…約束しますから」
「心強いお約束をありがとうございます、その時は必ずや」
そんなやり取りを最後に、踵を返したリンクは足早に北壁を後にする。
その横顔を、後ろ姿を、数えきれないほどの感謝と尊敬の眼差しが見送った。
ここにいる誰もが目の当たりに、そして誰もが忘れられずにいる光景がある。
今からほんの数日前、戦況が大きな好転を見せる少しだけ前のこと。
北壁の向こう側に群がるムシュフシュの群れ、撃退せねばと急いで準備を整える兵士達のほんの僅かな隙をつき、何者かがその只中に一人飛び降りた。
予想外どころではない事態に北壁はたちまち騒然と化した。絶体絶命の危機に追いやられた『誰か』が痩身の少年であることが明らかになってからはより一層の焦燥が彼らを追い立てる。
状況を確認せんと、話を聞きつけた多くの者が向こう側の様子を見渡せる壁の縁に集まり、レオニダスも張り詰めさせた戦意と共に駆けつけた…そんな彼らの眼下で、少年は、毒竜ムシュフシュの群れを相手に善戦を繰り広げていたのだ。
次から次へと繰り出される攻撃を盾を用いて最小限の動きでいなし、僅かな隙も見逃さず曇りなく輝く刀身の片手剣で果敢に攻める。
眼下に広がる光景に素直に驚愕し、目を奪われる兵士達をよそに、レオニダスは少年の戦いぶりに僅かな違和感を覚え…数秒の思考の後に、そう感じる理由へと辿り着いた。
ほら、今もまた…あの少年ならば攻めきれたであろうムシュフシュの隙を、彼は敢えて見逃した。
手加減した攻撃をわざとかわさせることもあれば、逆に避けられた筈の攻撃を敢えて盾や剣で受け止めたりといったことも見受けられる。
彼は一体何をしているのか、何を狙っているのか。
少年が本気で戦えば、今頃あのムシュフシュの群れは一掃されているであろうことをレオニダスは確信していた。
そんな攻防がしばし続き、戦闘開始時より半数ほどに減ったムシュフシュと、致命傷こそ無いものの細かい傷を全身に負って息を荒げる少年が、改めて戦闘態勢を取り向かい合う。
一頭のムシュフシュが毒の尾を突き出し、それを少年の盾が受けとめた、次の瞬間。
『そこだ、見切った!!』
渾身の一声と共に盾の角度をずらし、真正面から受け止めた筈のムシュフシュの尾を滑らせる。
真っ直ぐに、全力で狙った攻撃をずらされて体勢を崩したムシュフシュへと、少年は利き手の剣を振りかぶり、毒の尾を一刀両断、返す刃でその首をも切り飛ばした。
倒れ伏す死骸にはもはや目もくれず、少年は次の個体へと戦闘対象を即座に切り替える。
次の戦闘は、直前のものよりも遥かに呆気なく終わった。
尾の一撃を誘い、盾でいなし、無防備になった尾を切り捨て、その際に出来た隙を利用して本体に止めを刺す。
敢えて長引かせた戦いの最中に幾度となく考慮し、確かめ、ついに確立させた必勝パターンの確認作業でしかなかったからだ。
そのまま一気に残ったムシュフシュを一掃した少年は、竜の亡骸の山の中に傷だらけの体で立ち、体力と精神の多大な消耗に大きく息を荒げながらも、今までの戦闘で得たものを考察、整理することをやめられずにいた。
『あの尾の一撃を流すにはちょっとやそっとの盾と技術じゃ無理だ、いっそマシュのような巨大な盾で受け止める専門の人員を…その役目を負った人が注意を引きつければ、他の人が攻撃に全神経を集中できる。
そうすればあの尾を切ることは十分可能だ。他の部分に比べて強度は格段に低かった。
そうして怯んだ隙に、生命維持に関わる部分を攻撃すれば…比べ物にならないくらい丈夫ではあったけど、体の仕組み自体は普通の動物と変わらなかった。
脳…喉…そして心臓……狙いどころはこんなところ、あとはどう、一瞬で的確に潰すか………』
思わずといった様子で零れ出ていた声が途切れ途切れになり、もはや限界といった様子で少年がその場に膝をついた。
そんな頃になってようやく、全てを見守っていた一同はまともな思考力と判断力を取り戻した。
レオニダスに指示されるまでもなく、今にも意識が飛びそうな少年を北壁内の医療施設へと運び込み、多くの者が必死に祈りを捧げる中で懸命な治療が施された。
大勢の心配をよそに、少年はしばらくの間泥のような眠りについたかと思えば、あっさりと起き上がってみせた。
そして、北壁の者達に告げたのだ。自分はギルガメッシュ王の命を受けた戦術家であり、最前線の戦況に一石を投じる為にやって来たと。
他ならぬ王が愛読し、国中に普及させた物語の勇者と同じ名を持つという少年のその後の働きは、かの伝説の勇者もこのような方であったのだろうと、誰もが心から思う程のものであった。
勇者と同名の少年が、正しく勇者その人であることを同じサーヴァントとして唯一知っているレオニダスは、心の底から安心していた。
彼がいる…自分が果ててもまだ彼がいる、自身が守りたかった全てを彼が引き継ぎ守ってくれる。
ならば自分は、自らの『役割』を果たすべき時がいつ訪れたとしても怖くはない。
彼が兜の下で浮かべた微笑みは、自身の終わりを覚悟した者のそれとは到底思えないような、穏やかで優しいものだった。
「よくぞ参った、勇者よ。
北壁におけるそなたの働き、及びその成果は我の耳にも届いておる。
まさに流石としか言いようのない働きぶりよ、これは査定の厳しい我とて素直な評価を下す他はあるまい。
構わん、如何様な望みでも……」
「あら、リンク様、お約束の時間よりも随分お早いですね」
「よっ、よよよよよくぞ参った勇者よ、北壁におけるそっそな、そなたの働き」
「冗談ですわ、ギルガメッシュ王」
「……………」
「緊張は解けましたか?
そんな全身ガチガチのままでは、またリンク様の前で醜態を晒してしまいますよ。
気さくで面白い方だと好意的に受け取って下さっているのが現状のようですが、下手に悪化させることの無いよう気をつけるのは必要なことでございましょう」
「……………ああ、その通りだな。流石だぞシドゥリよ」
「痛み入ります」
* * * * *
保有スキルその他
単独行動 EX
マスター不在、魔力供給無しでも長時間現界していられる能力。
理解者や後援者といった『仲間』と呼べる存在は多かったものの、その戦いや旅路自体には孤独な印象が大きい故に付与されたスキル。
『トライフォース』というほぼ無限の供給源を手にしているが故に、魔力供給に困るというような状況はまずあり得ない。
限り無く善寄りの思想と行動理念の持ち主でもあるため、その旺盛な行動力をマスターや仲間達の為に存分に役立ててくれることだろう。
「ダ・ヴィンチ、またリンク君の単独レイシフトに許可を出したのかい!? 今度は何で釣られた!!
……いや、助かってるのは確かだよ、彼のおかげでカルデアの食糧・物資不足はあらかた解消されたし。
だけど、心配するのはそれとは別問題じゃないか。
せめて一人で行くのをやめてほしい、もしかしたら彼はそっちの方が慣れているのかもしれないけれど、それでも………えっ、リンク君は勇者?
そんなことわかっているよ、今更何を聞いているんだい」
「ほんと、余計なものまで背負うねえ、君って奴は……まあそんな君だからこそ、あの子達も慕って、頼りにしてくれているんだろうけれど」
道具作成 C
魔力を帯びた器具を作成できるスキル、この場合は宝具『シーカーストーン』を用いない彼自身の能力を示すもの。
主に霊薬の精製や、その応用で霊薬と似た効果を持つ料理の作成に発揮されるが、彼の場合は技術よりも素材頼りなところが大きい。
現代ではとても手に入れられない、神代以前の貴重な素材を惜しみなく大量に使用するその様子は、まともな感性の魔術師が見れば失神したとしてもおかしくはないだろう。
「素材の管理、適当…下処理、これも適当。
環境、手順、火加減、時間……本来ならば霊薬の精製において、細心の注意を払うべきありとあらゆる要素がどれもこれも全て適当。
何でこれで成功するのよ、しかも凄い効能だし、魔術師舐めてるの!?
…そんなつもりが無いことは重々承知してるわよ、自覚して自重しなさいって言ってるの!!
……マスターが霊薬の精製を苦手としているのって、もしかしなくてもあなたのせいでしょうね。
何故って…基本知識も無い真っ白なところにこんなムチャクチャを見せられて、認識や感性がズレない訳がないでしょう。
あなたが個人的に使うのはともかく、間違っても人に教えてはいけない代物よ、これは。
……悪かったと思うならサポートなさい、素材さえ切らさないようにしてもらえれば後は私達で矯正するから」
サバイバル B
文明から遠く離れた未開・未踏の僻地で生き残り、その上で目的を遂げるための活路を見出す知識や技術、加えてそれらを可能とするための精神力や心構えを表すスキル。
採取したものが飲食可能かどうかの判断が出来なければ、時には体力を温存して状況の好転をただ待つことが出来なければ、過酷な環境を強い心を保ったまま乗り越えることが出来なければ。
後の世の人々を夢中にさせた勇者の冒険は、恐ろしい敵を激闘の末に討ち果たし、困難な迷宮を踏破して宝を手に入れる前に終わってしまっていたことだろう。
最大限に発揮するならば、能力としてはAランクに分類されて良いものらしいのだが、当人曰く「今更そこまでして生き延びたくない」とのことで敢えてランクは下がっている。
「ゲイザーの目玉で引いてなかった奴がランクBって…Aだとどんだけ生存力あることになるんだよ、このスキル」
「それなりに美味かったし毒も無い、強烈な見た目も調理が終わったらさっさと忘れてしまえばいい。
はっきり言って、アレはそれほど選択肢として酷いものじゃ無かったぞ」
「じゃあ具体的に、この『そこまでして』ってのはどういう状況を指してたわけ?」
「…………炭」
「え?」
「調理する間もなくて生肉齧ったこともあるし……でも最悪はやっぱりアレだな、食材が尽きて遂に鉱石で腹をもたせる羽目に」
「もういい、分かった、もういいから!! 見ろよ、円卓の連中が『マジか』ってどん引いてる!!」
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伝説の終幕
『ゼルダの伝説』という最古の英雄譚…正確な年数や年代の記載は無いものの、深く冷静に読み解きさえすれば、軽く見積もって数十万年に及ぶ壮大な物語であることが窺い知れる。
その物語に、あまりにも長く翻弄され続けた三人の運命に終止符を打つ。
歴代の中で最も画期的で、最も無謀で、最も気高くて、そして最も痛ましい。
そんな運命を自ら選んだ末代の勇者が、自らの魂が経験してきた『勇者』としての全てを覚えていた、または知識として持ち得ていたというのは、『ゼルダの伝説』において確定事項と推測される説のひとつである。
そうでなければ、「末代の勇者による『ゼルダの伝説』の執筆」というそもそもの始まりに説明がつかないのだから。
両親を幼くして亡くした末代の勇者は、未だ小さく幼い手に玩具や菓子ではなくペンを握り、何かに追い立てられるかのように日々書き綴った。
同じ年頃の子供達と遊ぶことも自ら律し、幼少の身に許された時間の殆どを執筆に費やしていたにも関わらず、完成には10年もの月日が費やされた一大叙事詩。
それこそが、後に伝わる『ゼルダの伝説』である。
それがただ単に、想像力豊かな少年が自身が思い描く物語を懸命に紡ぎあげたというだけの話だったならば、事はもっと単純であり、後の歴史も随分と変わっていたことだろう。
しかし、数多と綴られていた全ては、紛れもない『事実』だったのだ。
著書に記載されていた内容が、ハイラル王家や周辺の友好国、民族に伝わる伝説や御伽噺の一般には秘められていた真実に合致、もしくは空白の部分を補完するようなものだったこと。
末代の勇者が史上最年少の戦術顧問として王家に仕えるきっかけとなった、村をろくに出たことも無い筈の幼い少年が書き記した、魔物の種類と対処法を事細かにまとめた本という確かな実績を伴った現物が既に存在していたことが、若くして使命に殉じた勇者が一人背負っていたものの重さと大きさを遺された者達に知らしめた。
彼が…彼らが戦ってきたことを、彼らが生きていたことを、彼らが確かに居たことを決して忘れたくない、忘れられてほしくない。
そんな想いを込めながら、末代のゼルダ姫が懸命に綴った、彼女の勇者の物語を最終章として『ゼルダの伝説』は完結。
それと同時に、彼らの運命と共にあったハイリアの歴史も、ゆっくりと終わりの時を迎えていくこととなる。
個人の解釈や好みの違いから論争が絶えない『ゼルダの伝説』の研究家や愛好家が、こればかりはと揃って『末代の勇者の異端ぶり』を口にする。
異端とは言っても決して悪い意味ではない。歴代の勇者の中で彼のみに該当する明確な差異がそう表現されるのだ。
『戦士』や『冒険家』としての活躍が多くの勇者達に見受けられる中で、明確に『学士』や『指揮官』としての側面と能力を発揮したのは、唯一彼のみなのである。
多くの戦いと冒険を経てきた『勇者の記憶』を元に、多くの兵士の生還と民の平穏を導く功績を成した末代の勇者は、魂に刻まれ連綿と続いてきた争いの運命を終わらせるという最大の偉業をも成すこととなる。
悩み、苦しみ、決死の覚悟で決断したであろう『彼』に対してあまりにも無礼、侮辱に過ぎるものかもしれないが。
『彼』が『彼』であったこと、そのあまりにも困難な決断を下せる者が全ての知識と記憶を得た上で『勇者』となったことそのものが、『終幕を導く者』という彼自身の運命だったのだという考察が、決して無視できない規模で存在している。
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エクストラクラス『勇者』
ゼルダの伝説で語られる『勇者リンク』の逸話と活躍はあまりにも多岐に渡るものであり、彼という存在をひとつの『クラス』で括ることは非常に難しい。
神造の聖剣を携えているからには『セイバー』であり、あらゆる武器の達人として槍を振るった逸話も残されているので『ランサー』としての適性も備え、更に弓を持たせればこれも百発百中の腕前であったとのことで『アーチャー』としても申し分ない。
愛馬エポナを始めとした、様々な生物や乗り物に騎乗しながらの心躍る未知への旅路は、『ライダー』の適性を物語るものでもある。
ある時は託され、ある時は自ら冒険の果てに手に入れた魔術道具の数々を見事に駆使して、あらゆる難関を乗り越えられたのは『キャスター』としての素質とも捉えられる。
潜入や諜報、闇討ちなどの影に紛れる行動も必要とあれば是とした事実は、正当な手段でなくとも善は為せるのだと後の世の多くの『アサシン』に多大なる影響を与えている。
恐ろしい魔物の群れに単身で挑んでみせる、狂気と称しても違和感が無い程の勇猛さは、『バーサーカー』の適性と解釈しても決しておかしくはないだろう。
それらの要素を全て、余すことなく備えていたからこそ、彼は『勇者』としての様々な偉業や冒険を成し遂げたのだ。
彼は小さな『クラス』の枠組に無理やり当て嵌められるような存在ではない。むしろ世界の方が彼の為に、彼を表すための新たな『クラス』を作り出した。
長い歴史、数多の英雄の中で唯一の、エクストラクラス『勇者(ブレイヴ)』の適用者。
それこそが、世界最古にして最高の『勇気ある者』と名高い彼なのである。
『ブレイヴ』とは、良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏となってしまうクラスである。
万能の戦士であり冒険者でもある、勇者としての能力と利点を弱体化させないために設けられたクラスではあるが、それでも『サーヴァント』という決められた枠組に無理に押し込められた事実に変わりは無いからだ。
『退魔の聖剣』を宝具として持ち得てはいるものの、その所持と扱いに特化した『セイバー』のクラスでは無いのが原因か、真名解放が封じられその真価を発揮することが出来ない。
槍や弓も、扱うこと自体は出来るのだが、やはり『ランサー』や『アーチャー』と比べられれば見劣りしてしまう。
『エポナ』は間違いなく名馬ではあるのだが、その生まれはあくまで普通の馬であり、他の『ライダー』が所有する神秘を持つ獣や特大火力を誇る宝具には及ばない部分が多い。
魔術も、隠密も、狂ったような戦いぶりも、それを専門とする各クラスのサーヴァント達に敵うようなものではないのが現実なのだ。
しかし、その現実の先にこそ、クラス『ブレイヴ』の真価が存在している。
彼自身がそれを『必要』と判断した際に、惜しみなく目の当たりにさせてくれることだろう。
世界の危機を幾度をも救った、勇者の真の力というものを。
ブーディカを手伝って食事の準備をしていたリンク、気分転換に遊びに来ていたネロと周囲の一同を狙った刺客の攻撃を鍋のフタで回避し、木べらでタコ殴りにしたの巻。
ちょうどスープを掻き混ぜていたところだったため、身体よりも精神のダメージで撃沈する元刺客の全身から漂う美味しそうな匂いと所々にこびり付く具材の欠片が何ともシュール。
敵にかける情けなど無いことは重々承知しているし、個人的にも信条であるのだが…同じ刺客であるだけに我が身に置き換えて盛大にSAN値が削れてしまった荊軻の目は、この後しばらく死にっぱなしだったという。
『保有スキルその2』の終盤近くを書いてる時に思いました…これ『マテリアル』じゃなくて『幕間の物語』だ、しかもスキル強化されたっぽい。
『ゼルダの伝説』が、長い時間をかけて歴史にどんな変化を加えてきたのか。
それを、スキル解説のついでにサーヴァント達との絡みを添えて書いてみました。
生前の有り様がそのままではなく、後の世の認識や伝説上の逸話も加えられた上で顕現を果たす…それがサーヴァント。
だとしたら、メソポタミア文明よりも古くから存在し、長い年月をかけて世界中に浸透していった『ゼルダの伝説』と勇者リンクに対しては、相当強い認識と概念の力が加わっているのではないかと思ったのです。
普通の感性を持つ者が得たら恥ずかしくて表に出られなくなりそうなスキルですが、成り代わりリンク君は問題ありません。
美しいのは『自分(中身)』ではなく『リンク』の方だという認識が強く、更には「公式設定だしな」と納得もしてしまえますから。
必要とあらば躊躇いなくスキル・能力として使用し、イベント時の概念礼装のコスプレ撮影の要望も躊躇うことなく引き受ける(報酬が出るのでクエストの感覚で受諾、英雄王という無限のスポンサーがいるのでダ・ヴィンチちゃんもノリノリでクオリティを引き上げる)。
そんな勇者様と、何だかんだ気が合って一緒に悪乗りするマスターと言う名の悪友に、カルデアはこれからも振り回されることとなるのです。
私の方でイメージしている、末代のリンクとゼルダの関係は『同志』です。
民を救いたい、その為に自分にできることを全てやりたい、そんな想いと誓いを分かち合った同朋。
本編では書けませんでしたが、ゼルダが思わず姫の装いを忘れて張り倒す程に怒ったのは、自分よりもむしろリンクの身が辱しめられそうになったことに対してです。
身分だけは確かな相手に対して、平民出身な上に自らの果たすべき役割を何よりも優先するリンクは、今後を憂うあまりに抗い切れないかもしれない。
そんなゼルダの怒りと心配を、リンクは欠片も理解どころか想像もしないままとにかく宥めようとしたせいで、かえって怒りを長引かせてしまったという真相でした。
賢王が晒した醜態について考えてみたのですが…多分、緊張のあまり、初対面であの階段つきの玉座から転がり落ちたんじゃないですかねえ、あの人。
純粋に日々の激務で疲れていたのだと、そんな身でわざわざイレギュラーの異邦人である自分達を自ら迎えてくれたのだと好意的に解釈するリンク君と。
ギルガメッシュの勇者リスペクトを知っていたので目の前で起きたことの原因を正確に察し、生ぬるい表情になるカルデア一同の間にまたも生まれる微妙なズレ。
その後受けることになった塩対応(勇者除く)は、もしかしたら深い事情など無く、あの時思わず浮かべてしまった表情のせいかという勘繰りを否定しきれない一同なのでした。