成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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VS ヴラド三世

 立香やロマニ達の危惧と、あからさまに高揚していた戦闘前の様子とは裏腹に、二体のサーヴァントは個別の戦いを挑んできた。

 余裕の表れか、ただ単に遊んでいるだけか、自分達に連携など不可能だということを自覚した上での戦術の一環なのか。

 何にしてもそれは、カルデア側にとっての好機だった。

 

 

「リンクさん、私も…っ!」

 

「マシュ、お前は動くな!!」

 

 

 駆けつけようとしたその足を一喝で止められ、足手まといと思われているのかと考えて頭の中が白くなってしまったマシュだったけれど、リンクの言葉には続きがあった。

 

 

「目の前の敵を倒すことだけに囚われるな、盾兵としての戦い方を意識しろ!!

 その速さと引き換えにした重厚さは腰を据えて守り、待ち構え、持ち堪える為のものだ!!」

 

「仲間に助言をしながらとは……随分と余裕だな、勇者よ」

 

「ぐっ…!」

 

「リンクさん!!」

 

 

 見せてしまった僅かな隙を逃さず、繰り出された槍がリンクの身を掠める。

 仕留めるのではなく、嬲り、甚振り、少しでも長く痛めつけることを目的としている。

 じわりじわりと侵食してくるかのような攻撃に、堪らず膝をついてしまったその瞬間を好機とみなしたその穂先が、例え直撃を受けたとしてもすぐには死ねない個所を目がけて放たれ……頑強な金属音と共に弾かれた。

 体勢が崩された上に、予想外の抵抗を受けたことに対する驚愕でほんの一瞬思考が止まってしまったランサーを、渾身の刃が切りつける。

 肩口から体の前面を盛大に袈裟切りにしたというのに、僅かに血が噴くくらいの傷しかつけられなかったことに、不満気に舌を鳴らすリンク。

 自分が大変なことを成したとは到底思えていないその様子を前にした、彼以外の全員が、唖然と言葉を失っていた。

 

 

「リ、リンクさん……」

 

「見てたろ、マシュ。

 お前のそれほど立派でなくても、使い方次第で、戦況をいくらでも動かせる力が盾にはあるんだ」

 

 

 そう言いながら振り返ったリンクが見せた、剣を持つのとは反対側の腕には、たった一瞬の攻防でどれだけ凄まじい衝撃が加わったのかを一目で物語る、金属板が大きく歪んで二度と使い物にはなりそうにない、何の変哲もないただの一般兵の盾が備え付けられていた。

 今や残骸と化してしまった町を懸命に守ろうとした、名も知れぬ兵士の持ち物だったのであろう。

 それでただ身を守るのではなく、放たれる攻撃を待ち構え、受け止める瞬間に突き出すことで跳ね返し、攻勢に転ずる絶好の機会を生み出した。

 一連の流れは正しく、リンクが先程マシュに助言していた、盾を用いた戦い方の実践そのもの。

 甚振るために敢えて手を抜いていたとは言え、それでもよりによって自分との攻防の中で、仲間に戦い方の手本を披露するような余裕を見せつけられた。

 プライドを盛大に傷つけられ、凄まじい表情で歯噛みするランサーに、アサシンの嘲笑が追い打ちをかける。

 

 

「『悪魔(ドラクル)』と恐れられた吸血鬼ともあろうものが、随分と情けないこと。

 お遊びにも程がありましてよ」

 

「黙れ、人前で我が真名を口にするな。

 あの小僧といい貴様といい、実に不愉快極まりない」

 

「良いではありませんか。

 我ら反英雄はその名を知らしめ、人を恐れ慄かせてこそ本分でしょうに」

 

「怯え、惑う様を楽しむがあまりに手を抜かり、逃げ延びてしまった者の手で破滅させられたのは貴様の方だろうに。

 エリザベート・バートリー……否、カーミラ。

 無残にして、何とも滑稽な最期だったな」

 

「……無粋な方ね、これだから根が武人な殿方は。

 吸血鬼に堕ちていながら、高潔な精神に縋るなんて」

 

 

 本気で殺し合いを始めかねない程の殺気を纏いながら睨み合う二人の怪物が交わすやり取りに、最後の大戦果を以ってひしゃげてしまった盾を捨て、改めて剣を構え直したリンクが、声だけのロマニへと問いかける。

 

 

「ドクター、今のやり取りからあいつらの正体はわかる?」

 

《男の方はヴラド三世、通称『串刺し公』!!

 圧倒的な戦力差で以って攻め入ってきた敵国の兵士達へと、捕虜の串刺し死体が地を埋め尽くす地獄のような光景を見せつけることで戦意を喪失させ、それによって国を守りつつも、あまりにも凄まじい逸話によって悪魔と恐れられた救国の英雄!!

 

 女の方はエリザベート・バートリー、ヴラド三世の発言を考慮するならばその真名はカーミラ、通称は『血の伯爵夫人』!!

 老いによって美貌が衰えるのを恐れた彼女は少女の血に若返りの効力があると信じ、自身の領地に住まう少女達を数百人に渡って拷問、搾り取った血を浴びたと伝えられている!!

 

 人の生き血を求める恐ろしい怪物、吸血鬼……二人とも、そのイメージ像の原点となった怪物達だ!!》

 

「……成る程、凄まじい奴らだな」

 

《わかってくれたのかい、なら一刻も早く撤退の用意を》

 

「ありがとうドクター、おかげで戦い方の方針を定められた」

 

《まだわかってなかった、僕ちゃんと説明したよねえ!?

 骸骨兵や飛竜を圧倒した君が強いのはもうわかっている、だけどサーヴァントを相手にするのは流石に無茶だよ!!

 さっきの攻撃だって思いっきり入ったのに大した痛手にはなっていなかった、むしろ怒らせただけだったじゃないか!!》

 

「現状で倒しきれるとは俺も思っていないし、その気もない。

 これはあくまで威力偵察……そのついでに、高く伸びた鼻っ柱を根元からへし折って、一発ぎゃふんと言わせてやりたいだけだ」

 

《お願いだよリンク君怒りを収めて、どうか冷静になって!!》

 

「何度も言ってる、俺は冷静だよ」

 

 

 リンクはそう言って笑いながら、独特の荒い金属音を立てながら放たれてきた鎖を剣で打ち払う。

 その動きに、想定よりも早く限界が訪れた。

 引き攣り、引っ張られる感覚を感じて振り返ってみれば、完全に払い切ったとばかり思っていた鎖が、剣を握る自身の利き腕をガッチリと絡めている光景を目にしてしまった。

 

 

「捕らえたわ……お生憎ねえ、勇者様。

 拷問器具の扱いと、心地よい悲鳴を奏でさせることに関しては、私の右に出る者はいないと自負しているの。

 せいぜい絶望を謳ってちょうだい、その嘆きと血を余さず糧としてあげる」

 

 

 仮面越しの瞳を妖しく光らせながら、サーヴァントと、化け物となったことで身につけた膂力で以って獲物を捕まえた鎖を一気に引く。

 リンクはそれに逆らわず、むしろ自ら乗る形で地を蹴った。

 思惑通りならば、寸分違わず飛び込んでいたであろう地点に宝具を展開させていたカーミラは、自身の想定を超えた速さで、宝具を越えて我が身へと迫らんとする勢いで飛んでくるリンクに驚き。

 ほんの僅か、彼に対しては決して許してはいけなかった一瞬を、硬直したまま迎えてしまった。

 





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