成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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総力戦開始

 

 戦闘開始の明確な合図が出るよりも、二つの金属がぶつかり合う轟音が響く方が先だった。

 カウントダウンだの、名乗りを上げてからの正々堂々だのというものは、それが必要かつ重要な時もあることを否定はしないけれど、今この時においては全くの無意味。

 先手必勝、これで決まれば御の字と言わんばかりに容赦なく切りかかったリンクの剣を、マルタは、そう来ることは分かっていたと言わんばかりの表情で受け止めた。

 

 両者の武器を構成する金属のみならず、骨や筋肉の軋む音までもが聞こえて来そうだった鍔迫り合いの均衡は、狂化属性の付与により素の筋力が大幅に増加されていたマルタが、聖女にあるまじき気合いの雄叫びと共に杖を振りぬいたことで崩れた。

 敢え無く吹っ飛ばされた体勢を空中で整え、何とか着地を決めることが出来たリンクを、今度はタラスクが吐いた炎が襲う。

 瞬時に飛びのいてその範囲から逃れたリンクは、そのまま下がるのではなく、むしろ向かっていくために地を蹴った。

 予想外の真正面からの突撃に流石の竜も面食らったのか、咄嗟に吐き出した炎に先程のような勢いは無く。

 顔を隠すフードの役割も果たしていたマントの肩口を掴み、眼前に迫った炎を一息で払いのけながら突っ込み、怪物の凶悪な面相へと向けて剣を振り上げる。

 

 正しく、神話の英雄譚の一幕かのような光景だった。

 英雄の手に握られていたのが、伝説の聖剣などではなく有り触れた兵士の剣に過ぎなくて、甲羅を避けてもなお強靭だった皮に敢え無く弾き返されてしまうまでは。

 決定打が無い状況でこれ以上粘るのは流石に悪手と思ったのか、残念そうに舌を打ちながらも素直に一旦戻ってきたリンクを、ロマニの驚愕のあまりに裏返った素っ頓狂な声が出迎えた。

 

 

《い、い……今惜しかった、武器が通じてさえいれば痛手を与えられていた!!

 リンク君、何で君の活躍が後世に残されていないの!?

 もしかして全部『勇者リンク』の伝説と混同された、もしくは勇者をモデルにした創作とでも思われた!?

 だとしたら酷いなあ!!》

 

「今はそんな話はどうでもいい、守れマシュ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 リンクから頼まれた、頼りにされたことが嬉しくて。

 マシュは腹の底からの返事と共に、渾身の力で盾を地へと突き立てた。

 先程リンクを襲ったものよりも、量も熱も遥かに上回る爆炎がそれを襲い、盾の後ろに守られた僅かな空間のみを残し、辺り一帯を焼き払い始める。

 誰よりも間近で炎に相対し、膨大な熱に全身を炙られる苦痛に苛まれながらも、盾を支えるマシュの四肢は揺らがない。

 先に耐えられなくなりそうなのは、盾に、マシュの背に守られる者の方だった。

 

 

「立香さん、しっかりなさって!」

 

「サーヴァントの身でさえこの熱はきついんだ、生身の人間がそうそう耐えられるものじゃない。

 早いところ何とかしないと……」

 

 

 焦り、歯噛みする皆の声と、立香の苦しそうな呻き声を聞いたマシュは、身の内から爆発するような想いと魔力の熱を、感じると同時に解き放った。

 

 

「真名、偽装登録……宝具、展開します!!

 仮想宝具『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』!!」

 

 

 マシュの声が轟き、魔力が解放されると同時に。

 彼女の盾に守られていた一同は、強固な城壁が高く厚く聳え立つイメージの場景と、盾に守られた場所ではなく、自分達の身そのものに強力な守りの加護がかけられたことを感じ取った。

 

 

「マスター、大丈夫ですか!?」

 

「ありがとうマシュ、おかげで大分楽になった」

 

「凄いな、これが宝具か……」

 

《よくやったマシュ、だけど宝具の効果はあまり長くもつものじゃない!!

 守りの加護が効いている間に、何らかの対策を立てないと!!》

 

 

 焦りと憔悴に掠れたロマニの声をBGMに、短い時間ながらも確保された確かな安全地帯で、顔と目を僅かに伏せて意識を集中させたリンクの思考が巡る。

 反撃の第一陣は、タラスクの炎が勢いを弱めるまでを見事耐え抜いた盾の後ろから、硝子の馬に乗って飛び出した王妃と聖女だった。

 

 

「タラスク、行きなさい!!」

 

「何のっ、身軽さでその亀さんには負けませんわよ!!」

 

 

 マルタの指示に応えて炎を吐き、腕や尾を振るうタラスクの攻撃は、美しさと頑強さを引き換えにした硝子の馬を一撃で粉砕し、その背に乗る少女達を葬ることが出来る力をも備えたもの。

 しかしそれは、『当たりさえすれば』の話だった。

 主のごとく美しく可憐な馬は、同じく主のごとくの軽やかさで、竜の猛攻をかわし続ける。

 マルタとタラスクの意識が、眩い光を撒きながら跳ねる硝子の馬へと集中し、ほんの僅かな隙が生まれた……その時だった。

 

 

「でやあああああっ!!」

 

「即興だけど自信作だぜ、ありがたく拝聴しな!!」

 

 

 盾という名の特大鈍器が、タラスクの脳天に一切の容赦なく振り下ろされ。

 アマデウスが指揮する楽団が奏でる高尚な不協和音が、凄まじい衝撃を受けたことで流石に遠くなったタラスクの意識に、刻み込まれるような不快感で以って追撃をもたらしたのは。

 

 

「タラスク!?」

 

「お生憎さまよ、聖女さん!!」

 

「あなたのお相手はこちらです!!」

 

 

 一蹴りでマルタの頭上を越えるほどに高く跳んだ硝子の馬が、その瞬間に落としていった人影が振り下ろした長柄が、轟音を伴ないながら二度目の鍔迫り合いを始める。

 一連の流れを見届けた立香は、ロマニと共に歓声を上げた。

 

 

「やった、上手くいった!!」

 

《マルタとタラスクを引き離せたぞ、あとは各個撃破するだけだ!!》

 

 

 

 

 

『馬を失った乗り手も、乗り手を失った馬も、その真の力を発揮することは出来ない。

 結託して戦わせない、何とかして引き離す。

 基本の作戦はこれで行こう』

 

 

 

 

 

 二人の脳裏に、マシュの宝具によって守られていた短い時間で、全員の力を合わせた作戦を見事考え出してみせたリンクの声が蘇っていた。

 






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