リンクを除いて二手に分かれた一行は、カルデアから示されるサーヴァント反応の探知情報を頼りに、各々が町を目指した。
そうして得た収穫は、アマデウスの耳と神経に多大なる負担を伴なったサーヴァントの少女二人との遭遇と、かつてのジークフリートと同じように町の防衛に携わっていたという、求めた聖人のサーヴァントとの合流だった。
「ああ、散々だった……頭の中に、まだあの不協和音が響いてまわっている気がする」
《お疲れさまアマデウス、頑張ったみたいね》
「頑張った、本当に頑張ったよ。
ねえマリア、後で僕の伴奏に合わせて歌ってはくれないかい?
相当に良いものを聞かなければ、あのハチャメチャな音の余韻を消すのは無理そうなんだ」
《ええ、構わないわ。
ピアノを聞かせてもらう約束、果たしてもらうことが出来そうね》
「……そうだね、僕も楽しみだよ」
「初めましてゲオルギウスさん、通信機越しで失礼します。
私は、カルデアのマシュ・キリエライトと申します。
仲間入りの要請にご承諾をいただき、本当にありがとうございます」
《こちらこそ、お声がけに感謝します。
私の力が必要と仰られるのならば、誠心誠意努めさせていただきましょう》
「ちょっとー、私達はいつまで放っておかれるわけ!?」
「こちらのトカゲはともかく、私を無視するというのはあんまりです」
「何ですってこのヘビ!!」
「やめてくれ、これ以上騒音をまき散らされたら冗談でなく死ぬ!!」
通信機を通じて互いの成果を分かち合った一同は、これがただの通過点であることを理解しながらも、一先ずは肩の力を抜いて笑い合っていた。
一人を除いて。
(おかしい…おかしい…………何もかも上手くいっているのに、皆みたいに喜んでいい筈なのに。
どうして俺は、こんなにも不安で堪らないんだ?
どうして……何か大切なことを見逃してしまった、そんな気がしてならないんだ?)
「センパイ、どうかなさいましたか?」
「……ちょっと小イヌ、あんた大丈夫?
顔色が真っ青じゃないの」
まだ真名を聞けていない、気が強くて我が儘そうながらも、こうして心配してくれるからには根はいい子なのだろうと思われるサーヴァントの少女が、俯きながら震える立香の顔を覗き込み、見たものと抱いた印象をそのまま言葉にする。
それによって、立香の様子がおかしいことにようやく気付いた一同は、それまでのほのぼのとしたやり取りを一瞬で切り上げて集まってきた。
立香の根拠など何も言えない曖昧な不安を、否定せず、笑いもせず、真剣に受け止めてくれようとしているその様子に、立香は目の奥が熱くなってくるのを感じていた。
言えば良かった、言って良かったのだ。
特に何の問題も見受けられない中で勝手に不安になっているだけだと、順調な行程や皆の喜びに水を差してはいけないだなどと、変な気を使ったりせずに。
一人で抱えてしまっていたことを、皆を信頼しきれずにいたことを心の中で謝りながら、立香はようやく呑み込み続けていた言葉を口にすることが出来た。
「何か大変なことが起こっていて、それを見過ごしてしまっている気がする……ですか?」
《曖昧だなあ……いや、だからって立香君の不安を否定するつもりは無いんだけど。
もう少し、何か具体的なことは言えないかい?》
「その具体的な何かが言えないから悩んでたんだってば……」
「……………まさか」
「アマデウスさん、何か心当たりがあるのですか?」
「ねえ、マリア。
今朝の『ピアノを聞かせてほしい』というのは、君なりの別れの言葉だと思っていたのだけれど、間違いないかい?」
《ええ、そうよ。
だって私は、あなたのピアノを結局一度も聞けなかったのですもの》
「何でそんな、別れの言葉なんかを口にする必要があったんだい?」
《……魔女さんの妨害が、今度こそきっとある筈だと思ったから。
そうなったら私は、フランスの王妃として、民を守るために身を賭すべきだと思ったから。
…………立香さんの言う通りよ、これはおかしい。
ジークフリートさんとの合流が見逃されたのはまだわかります、呪いが解けない限り彼はとても戦力には出来ない。
だからこそ、彼の呪いを解くことが出来る聖人との合流は、何が何でも防がなければと考えて然るべきなのに!!
魔女さんや、彼女のサーヴァント達の妨害が全く無いなんておかしいわ!!
何てことなの……何の問題も無く順調だなんて、喜んでいる場合ではこれっぽっちも無かった!!》
「ああクソッ、やられた!!
どうしてこの考えにもっと早く至れなかったんだ、あいつが一人で背負う性質だってのはわかっていただろうが!!」
「アマデウス、一体どういうことなんだ!?」
「リンクだよ!!
あの馬鹿、僕達を動きやすくさせるために自分を囮にしやがった!!」
「まさか、ありえません!!
リンクさんが単独行動をすることになったのは、くじでたまたまそうなったからですよ!?」
「その準備をあいつは手伝っていた、仕込みようはいくらでもある!!」
「そんな…っ!」
血を吐くようなアマデウスの叫びによって、浮かれ気分の全てが吹っ飛んだ。
背筋どころか魂が凍るかのような悪寒と共に、『それだ』という確信が立香の中にあった空白に呆気なく嵌まり込む。
『そう心配するなって、俺なら大丈夫だから。
立香、マシュ、また後でな』
そう言って笑いながら手を振り、一人背中を向けて歩いて行ったあの時の彼は、一体どんな気持ちでいたのだろうか。
「リンク!!」
説得されてはいけなかった、自分自身の嫌な予感を信じてもっと素直に心配すれば良かった。
後悔と自責に苛まれながらの、マスターとしてではなく友人の身を案じる一人の少年としての悲痛な立香の叫びが、英霊達の心を締め付けた。