成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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反転攻勢

 

「昨夜の砦跡だ!!

 彼ならばあそこに地の利がある上に、人気が遠のいていて誰かを巻き込む危険性も少ない!!

 ……すまない、これは俺の失態だ。

 素人同然であったり、本来ならば非戦闘員の筈であったりする者が大半を占めている中で、仲間を失わせないまま勝利を得るためにはどうするべきかと、彼はそんなことを考えたのだろう。

 戦場を知る者として俺はそれに気付けた筈だった、むしろ気付くべきだった。

 呪いに苛まれて本調子ではなかったなどと、そんなことは言い訳にもならない。

 ………本当に、すまない」

 

 

 

 

 

 『責任を取って死ね』と言われれば、即座に腹を切りそうにすら思わせてしまう程の表情を浮かべていたジークフリートの姿は、かえって立香に冷静さを取り戻させた。

 

 

 

 

 

「……ジークフリートの謝罪を受ける、多分それは自虐じゃなくて事実だから。

 その分はこれからの頑張りで取り戻してもらう、だからそういつまでも落ち込むな!!

 呪いが解けて万全になったら、それまで動けなかったのは休憩だったと思うくらいに、失敗が帳消しどころか手柄がガツンと上乗せされるくらいに頑張ってもらうからな!!」

 

「リンクが自分を囮に敵を引きつけたのは事実だろうけど、でも俺は、あいつがそれで死ぬつもりだったとは思えない!!

 仲間のために自分を犠牲にするだなんて、最期を美しく飾ろうだなんて、あいつはそんな綺麗で後ろ向きな覚悟を決めるような奴じゃない!!

 色々な意味で手段を選ばなくて、どんなに絶望的に思えるような状況でも諦めずに、立ちはだかる困難を全部ぶっ潰してみせるような気持ちのいい強引さで!!

 どこに行けばいいのかも、何をすればいいのかも分からなかった俺達を、ここまで連れて来てくれたのがあいつだから!!」

 

「ジャンヌ、マリー、ゲオルギウスさん!!

 急いで合流して下さい、戦力を整えた上でリンクの助太刀に向かいます!!

 あいつはまだ生きている、今も生き延びようとしている!!

 だから、一刻も早く助けに行かないと!!」

 

 

 

 

 

 必死に吐き出したその言葉に込められていたのは、確信ではなく不安だった。

 確かに信じている友人の強さと実績を反芻し、『だから大丈夫だ』と自分自身に言い聞かせることで崩れそうな膝を保ちながら、懸命に前を見据えている。

 そんな立香の姿は、清濁を併せて多くのものを見て来たであろう英雄達からしても、十分すぎる程に眩く尊いと思えるほどのものだった。

 立香の言葉と想いに応え、動き出そうとしたサーヴァント達だったけれど、事はそう単純にはいかなかった。

 一同が気付いた頃合いを見計らったかのように現れ、行く先に立ち塞がった者達がいたから。

 

 

 

 

 

「あいつとまた顔を合わせなければならない事態をやっとの思いで回避してみれば、その先であれに負けず劣らず不愉快な存在と鉢合わせるだなんて……何なのよこの特異点は、私何か悪いことでもしたかしら!?」

 

「あっ…アンタは、カーミラ!!」

 

 

 

 

 

「ようやくお目見えできたね懐かしき御方、白雪の如き白きうなじの君よ。

 僕とあなたは、やはり特別な縁で結ばれている。

 だってそうだろう……処刑人として同じ人を二度も殺すだなんて、これが運命以外の何だと言うんだ」

 

「……あなたの顔は忘れたことがないわ、気怠い職人さん。

 でも、ごめんなさい。

 私は今とても急いでいて、あなたとお喋りをしている時間は無いの。

 大切なお友達を助けに行かなければならないの、そこを退いてはいただけないかしら?」

 

「残念だがそれは出来ない、竜の魔女が僕らを送り込んだのは君達の足止めをする為なのだから。

 心配することはないよ、友人とはまたすぐに会える。

 亡骸を見せてくれる程度の気遣いならば竜の魔女も持ち得ているだろうさ、どの程度綺麗に残っているのかまでは生憎と保証しきれないけどね」

 

 

 

 

 

 そうして、二つの望まない戦闘が始まってしまった。

 無慈悲に過ぎ行く時間に、身を焼かれているかのような焦燥によって余裕が失われてしまっているせいで、本来の実力が発揮出来ない。

 そんな、向こう側の目的が完璧に果たされてしまっている状況を、打破すべく行動に出た者達がいた。

 

 

 

 

 

「ジャンヌ、提案があります。

 私の馬をお貸しします、だからあなたは一足先にリンクさんの下へとお向かいになって。

 強い護りの力を持つあなたとリンクさんならば、他の皆が駆けつけるまで、竜の魔女達を相手に持ち堪えることも出来る筈」

 

「何を言っているのですかマリー、戦闘では宝具頼りのところが大きいあなたが肝心のそれを手放すだなんて!!

 殿ならば私が努めます、リンクさんの下へはあなたが向かってください!!」

 

「ダメよ、あなたも本当はわかっているのでしょう?

 彼は……サンソンは私を決して逃がさないわ、望み通りこの首を落とすその時まで。

 それは逆に言えば、私さえ逃がさなければ、足止めを突破する者がいたとしても彼はそれを見逃すでしょう。

 ジャンヌ、私の大切なお友達、あなたを信じているわ。

 だからお願い……リンクさんを、私達の大切なお友達を、どうか助けに行ってあげて」

 

 

 

 

 

「ああもうっ、どいつもこいつも馬鹿ばかり!!

 友達がピンチなんでしょう!?

 それをわかっていながら何をモタモタしているわけ、おかげで頭が痛いったら無いわ!!

 そもそも最初から、アタシとこいつの因縁に横やりを入れられている時点で気に食わなかったのよ!!」

 

「横やりとは何のことですか、ランサーさん!?

 カーミラと敵対したのは、私達の方が先で……」

 

「察しが悪いわねえ、仕方ないから教えてあげるわ!!

 アタシの真名はエリザベート、鮮血魔嬢エリザベート・バートリー、いずれ血の伯爵夫人へと至る者!!

 あまりにも愚かな、大嫌いな未来の自分を殺せる、今のアタシはそんな最大のチャンスを前にしているの!!

 それをこれ以上邪魔するようならアンタ達の方から殺すわよ、いいからさっさと行きなさい!!」

 

 

 

 

 

 その心意気を汲んだ上で、その者達をただの捨て駒とはさせない為に動いた者達もいた。

 

 

 

 

 

「案ぜられることありません聖女殿、妃殿下は私がお守りします。

 守護を司る者、聖ゲオルギウスの名にかけて、必ずや。

 そして、万事上手くいった暁には、くだんの友人をご紹介いただけますか。

 かの人を想うあなた達の様子を見ているだけでわかります、とても素晴らしい方なのでしょう」

 

「……ええ、それはもう。

 ありがとうございます、聖ゲオルギウス様」

 

 

 

 

 

「ああもう最悪だよ、何でこの僕がよりにもよって騒音発生器のサポートなんてしなきゃいけないんだ!!」

 

「トップアイドルに対して何なのよその言い草は、別に頼んでないわよ!!

 と言うか本当に訳が分からないわ、何でアンタ残ったりしたわけ!?」

 

「昨夜過ごした砦と言っても君はその場所を知らないだろう、一人残していったりしたら後で合流出来ないじゃないか」

 

「…………何よそれ、馬鹿じゃないの?

 アタシはカーミラと同じ反英雄、倒されるべき怪物よ。

 アタシ知らないわよ、勝手にそんな真似をしたせいで、アンタがマスターに見限られたって!!」

 

「そのマスターの意向を汲んだ結果がコレなんだよ。

 なかなか踏み出せずにいた理由が、君を一人で置いていくのを躊躇っていたからだってことに気付いてなかったの?

 後でちゃんと話してみなよ、反英雄だの怪物だのって真面目に難しく考えていたのが馬鹿らしくなるからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな流れを経て、友人に託された宝具に跨り、偉大な先人に背を押されながら駆けたジャンヌは、徒歩な上に本調子にはほど遠いジークフリートを同行させている立香達の組よりも先に、目的の砦近くへと辿り着いた。

 道中のジャンヌには、少し離れたところで一旦足を止め、立香達と合流するのを待って戦力と態勢を整えた上で動くことを、堅実な選択肢として視野に入れていたのだけれど。

 そんな悠長な考えは、遠目にもわかってしまう程の異変を目の当たりにした瞬間に吹っ飛んだ。

 ワイバーンや骸骨兵などはその尾を振るだけで潰せてしまえそうな漆黒の邪竜が、砦の一角にその巨躯を乗り上げさせている光景に加えて、未だ遠い故にかすかながらも、凄まじい戦闘の音までもが聞こえている。

 

 

「リンクさん!!」

 

 

 邪竜がこの状況を静観している違和感を無意識にすっ飛ばして、戦闘音が聞こえるからには彼はまだ無事なのだという喜ばしい事実のみを受け止めて、ジャンヌは残り僅かな行程を全力で駆けた。

 宝具の馬だからこその早駆けと跳躍で砦の一角へと一息で躍り上がったジャンヌは、状況を把握すると同時に如何様にも動けるよう、宝具たる旗を振りかざしながら声を張り上げた……その次の瞬間。

 見開かれたジャンヌの視界は、見知らぬ漆黒の鎧騎士が獣の咆哮を上げながら襲いかかってきた、そんな想定外の光景で埋め尽くされていた。

 

 

「ジャンヌ、逃げろ!!」

 

 

 聞こえてきたリンクの声は予想以上に元気そうで、間に合ったと、無事で良かったとホッとして。

 眼前に迫った黒騎士の体が鎧越しでも分かるほどの血に塗れていることに気付き、一人でサーヴァントを相手に戦った上に、これ程の痛手までをも与えていたのかと驚き、彼はやはり凄い人だと再認識して。

 何故か異様な速さで回るだけでなく、冷静な上にずれている己の思考回路に、時間が遅くなっているかのような謎の感覚に疑問を抱き、そして気付いた。

 これは、死という絶対の危機に瀕した生命が、その間際でどうにか活路を見出そうとしている、そんな生存本能が生み出したほんの僅かな最後の猶予だと。

 

 この感覚を、命の危機を何度も乗り越えてきたような戦士ならば、この長いようで実際にはほんの一瞬でしかない猶予を生かし、回避なり反撃なりに転じてみせたのだろうけれど。

 旗持ちであり、指揮官であり、多くの兵を鼓舞して勝利へと導いたカリスマの持ち主ではあっても、歴戦をその身で乗り越えてきた戦士ではなかったジャンヌには、それはあまりにも酷な話というものだった。

 ジャンヌを守り、その力となるという命を主から下された硝子の馬が咄嗟に割って入りはしたものの、美しくはあっても頑強だとは決して言えないその身では、最後の命を燃やしながらの騎士の攻撃を防ぐことは出来なくて。

 硬質な音を響かせ、光を反射して煌く大小の破片を散らせながら、殆ど衰えることのなかった黒騎士の攻撃は、防ぐことも避けることも出来なかったジャンヌの体にもろに叩き込まれた。

 

 一瞬で霞み、遠のいた感覚と意識の中に、辛うじて飛び込んでくるものがあった。

 死に体の攻撃では致命傷までは至らせられず、ならば止めの追撃をと得物を振り上げた黒騎士の兜とその下の首が、光の一閃が世界を裂いた後に、体から離れて零れ落ちた光景が。

 エーテルの光と化して瞬く間に消滅した甲冑の向こうで、剣を振り切った体勢のまま息を荒げていたリンクの姿と、その手に握られていた剣の、薄っすらと青く輝く美しい刀身が。

 何の前触れも無く轟いた邪竜の咆哮が、頑強な砦が瞬く間に崩壊していく轟音と衝撃が、自分達を目がけて食らいついてくる杭のような牙が並ぶ口が、そんな状況で逃げることも避けることも出来ない自分へと懸命に手を伸ばすリンクの姿が。

 ジャンヌが最後の意識の中で見て、聞いて、そして覚えていた全てだった。

 





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