成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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邪悪の失墜

 

 衝撃を受けて固まってしまっていたカルデア一同の意識に、切り裂かれたと錯覚するような勢いで響いたのは、正しく空気を切り裂きながら鳴った二つの甲高い風切り音。

 その正体が必殺の威力と必中の狙いで放たれた矢であったことに気付いたのは、その鏃が邪竜の両の目を潰し、衝撃に上擦った長い喉が『恐怖』と『苦痛』を源とする咆哮を迸らせた後だった。

 

 

「ジークフリート、翼だ!!」

 

 

 矢の主が、リンクが鐙を鳴らしながら叫んだその一声を以って、思いがけず停滞してしまっていた状況が一気に動き出す。

 彼の名が自身を呼び、明確な狙いを示したとほぼ同時に、考える間もなく殆ど反射で振るったバルムンクが、広がりかけていたファヴニールの翼の片方を一刀で以って切り落とした。

 またしても轟いた邪竜の絶叫、それに重なりながら重厚な金属がぶつかり合う轟音が響く。

 勇者リンクの登場という衝撃に驚きはすれど呑まれず、竜殺しジークフリートが邪竜ファヴニールを追い詰めるという英雄譚の輝かしい一幕に紛れながら。

 マスター殺しからの形勢逆転を狙ったヴラドの槍に、マスターを護る盾兵として、大切な人の力になりたいと願う少女としての、マシュの意地と誇りが追いついた音だった。

 

 

「う、ぐ……うああああああああっ!!!」

 

 

 あらゆる攻撃に耐え、防ぐことを想定された大質量が、足を地面にめり込ませながら渾身の力で突き出されたそれが、頑強さを比較しようもない穂先を跳ね返す。

 マシュが護り、作り出してくれたほんの僅かな猶予の中で、立香は先ほどのリンクと同じように紋章が刻まれた手を高々と掲げた。

 

 

「令呪を使用する!!

 ジークフリート、全力の宝具でファヴニールを倒せ!!」

 

 

 マスターである魔術師よりも遥かに強く、人間性が破綻していることも考慮されるサーヴァントを制御し、最悪処分するための絶対命令権。

 『令呪』についてそう説明された際に、『ならば大丈夫』と安心するどころか、『これ何とかして取れない?』と心底嫌そうな様子でとんでもないことを言いだした立香が、スタッフもサーヴァントも絶句させた時の事を、令呪の輝きを前にしたロマニは思い出していた。

 

 

『痛みで学習させたり、上下関係をハッキリさせなきゃ命が危ない猛獣とか相手なら、そういうのも仕方ないとは思うけど……言葉と意思がちゃんと通じる人を相手に、話をする前からいきなり殺害機能込みの首輪ってどうなのさ。

 俺だったら嫌だよ、命握られた状態で信頼し合うとか背中預け合うとか絶対にムリ。

 自分でそう思うことを、誰かに対してやりたくない。

 対猛獣仕様の扱いが正解な人だって勿論いるんだろうし、必要な時にはやらなきゃなとは思うけど、それを大前提にはしたくない』

 

『し、しかし……召喚されるサーヴァントの中には、私のような怪物が含まれる可能性も十分にありますので』

 

『怪物だとしてもメドゥーサさんは話の通じる常識人じゃん、石になるっていう目は封じてくれてるし血を吸うのも我慢してくれてるし。

 刃物持ってる人が全員人殺しにはならないの、料理するか人を刺すかはその人個人の問題なの。

 分かり合える怪物と分かり合えない人間だったら、俺は怪物の方がいい』

 

 

 信頼しているからこそ命を預けられるんだとか、令呪には命令権以外にも瞬間的なブースターとしての使い方もあるんだとか。

 令呪を介して命を握られている筈のサーヴァント達から、令呪を所有及び使用することに躊躇う必要はないと指導される立香の姿を前に。

 魔術のいろはも知らない一般人、ただの数合わせだった筈の48番目のマスターは、実は大変な逸材だったのかもしれないという認識を、ロマニを始めとするスタッフ一同は少しずつ抱き始めていた。

 

 そして今、彼らの前には、その時抱いた想いが正しかったことを証明する光景が広がっている。

 令呪という膨大な魔力の塊を、自身の意思や行動を束縛する枷ではなく、その実力を限界を超えて発揮するための純粋なエネルギーとして受け取ったジークフリートの体に、かつてないと思わせるほどの力が漲る。

 その要因が体に満ちる魔力だけではないと、むしろ精神的な充足や高揚の方が割合としては大きいであろうことを、ジークフリートは自覚していた。

 

 

「ファヴニールよ……先程俺は、俺一人だけでお前を倒す必要は無いと口にしたが。

 撤回しよう、『竜殺し』の偉業は誰であろうと譲れない。

 マスター達の重荷となるばかりだった、不甲斐ない姿を払拭せずにおれようか。

 これが俺だと、これこそが竜殺しと謳われたジークフリートの真価だと……貴方がその身と引き換えに繋げられた世界に続いた、貴方の後進の姿であると。

 偉大なる先達を前に胸を張れずして、誰が『英雄』を名乗れようか!!」

 

 

 飛び立つための翼と、周囲を把握するための視力を奪われた状況で。

 徐々に近づく『天敵』の気配に、存在を得てから初めて、本当の意味で感じているのであろう『死の恐怖』に慄きながら、形振り構わず暴れ狂うことしか出来ずにいるファヴニールの姿に、憐れみを感じなくもないのだけれど。

 だからと言って惑いはしない、何故ならば自分は竜を殺す英雄。

 自分という存在と、成し遂げたことへの揺るぎない誇りを以って、ジークフリートは光を放つ刀身を振り抜いた。

 

 

「『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!」

 

 

 放たれた魔力の輝きと地を割る轟音が、ファヴニールの断末魔の代わりとなった。

 漆黒の巨体を丸ごと呑み込むほどに膨大だったそれが落ち着いた後には、邪竜の名残は鱗の小さな欠片すらも窺えず。

 流石は『竜殺し』と、これぞ大英雄ジークフリートの真価と称えられるべき大戦果を。

 ただ一人、絶望の光景として見ていた者がいた。

 

 

「馬鹿な……あり得ない、ファヴニールが」

 

 

 膝を震わせ、旗を握る手に余計な力が入るのを止められない黒いジャンヌは、もはや強がることが、現実から目を背けることが出来なくなりつつあった。

 狂化させたサーヴァント達がいる、邪竜ファヴニールと数えきれない程の竜の群れがいる。

 だから自分は大丈夫だと、負けることなんて在り得ないと……自分で自分に言い聞かせながら、そんな内心の奮闘に気づかない振りをしながら、必死になって立っていたというのに。

 追い詰められた状況での最後の抵抗か、それとも逃避か。

 立ち尽くしたまま半分飛んでしまっていた黒いジャンヌの意識が、その足元に打ち込まれた矢によって叩き起こされた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 胸倉を、または髪を掴まれて引きずり起こされたかのような衝撃と共に覚醒し、殆ど条件反射で矢が飛んできた方向へと振り向いた黒いジャンヌは、見なければ良かったと、あのまま現実から逃避していたかったと、心の底から思った。

 自分の計画を悉く台無しにしてくれた、あり得ない屈辱を味わわせてくれた、二度と会いたくなかった……二度と会わなくていい筈だと思いたかった、必死にそう思おうとしていた、自分にとっては恐怖と絶望の体現以外の何ものでも無い、エセどころか正真正銘の勇者だった奴が。

 伝説にも語られていた愛馬に跨り、ほんの少し前まで十分に開いていた筈の距離を瞬く間に詰めながら、真っ直ぐにこちらを見据える碧玉の眼差しが、先ほど放たれた鏃以上の鋭さで我が身を貫いたのだから。

 

 撃たれたと感じた……実体のないその一射によって、この身と心を保っていた大切な何かが、最後の柱が砕かれたと、黒いジャンヌは確かに認識してしまった。

 涙目で身を翻し、歳よりも幼い少女のような悲鳴を上げ、何者かの名を呼んで助けを求めながら、独りオルレアンへと逃げ帰っていく竜の魔女。

 その背に尚も迫ろうとしていたリンクと、その愛馬エポナの早駆けが、真横から彼らを襲った槍の穂先によって阻まれる。

 馬ごと転倒してもおかしくはなかった一撃を鞍から飛び降りることでかわしたリンクは、着地の瞬間を狙った二撃目にも見事に反応し、青白く輝く聖剣の刀身で以って受けとめてみせた。

 

 

「逃げたのかと思えば、主の戦いを邪魔しないように離れただけか……良い馬だ、流石は勇者の愛馬と言えよう」

 

「三度目だなヴラド三世、いい加減にケリをつけようか。

 ……一応、念のため聞くけれど、観念して通してくれる気は?」

 

「在り得ぬ」

 

 

 ほんの一瞬も迷うことなく、堂々と胸を張りながらそう言い切ったヴラドに、尋ねた当人であるリンクは『だろうな』と内心で苦笑した。

 崖っぷちに追い詰められた状況で最後の意地を張れないような奴が、英雄として歴史に名を刻める筈が無い。

 退魔の聖剣を携えた勇者と、そうと認識した上で相対しながら。

 カルデアのマスターと、彼が従える多くのサーヴァント達が、この身を遠巻きに囲んでいることを認識しながら。

 ファヴニールの統率を失って混乱状態に陥っているワイバーン達を、フランス軍の放つ砲弾が片っ端から撃ち落す光景を目の当たりにしながら。

 いくら名高き『悪魔(ドラキュラ)』であろうとも流石に無茶、無謀でしかない状況で、それでも最後までサーヴァントとしての務めを果たそうとするその様は、所詮は怪物と、最終的には英雄に倒される宿命を持つ者と軽んじていいようなものでは断じてなかった。

 退魔の聖剣を、怪物であるヴラドに対して絶対的な特攻を持っている筈のそれを、今にでも戦闘が始まりそうなこの状況で、何故かリンクは鞘に納めた。

 訝しげに眉を顰めたヴラドは、細めたその瞳を次の瞬間には見開かせることとなった。

 腰元に下げられていた石板にリンクの指が触れたと同時に、その壁面から帯状の青い光が迸り、掴んだリンクの手の中で瞬く間に一本の槍を形作ったのだから。

 

 

「余を、この串刺し公を相手に聖剣を用いず、よりにもよって槍で挑むと?

 ……甘く見られたものだ、その余裕を後悔させてくれるわ!!」

 

 

 頑強な金属製の穂先がふたつ、並外れた剛力で振るわれたそれらがぶつかり合った鐘のような轟音が、一同の鼓膜を盛大に打ち震わせた。

 数秒続いた拮抗が、リンクが長柄を構える手首を返し、ヴラドの槍に込められた力の方向をほんの僅かずらしてみせたことで崩れる。

 辛うじて開かれた隙間に、鋭い穂先が頬を掠めるのも構わず飛び込んだリンクは、長柄の弱点である懐からの決定打を狙い、真下から振り上げられたブーツの爪先によってそれを阻まれた。

 まともに食らえば顎どころか頭蓋まで砕けていたであろう強烈な一撃は、咄嗟に足を止めて後方宙返りで飛びのいた判断によって、そんな『もしも』を明確に想像させるだけの凄まじい唸り音を立てるに留まった。

 距離を取ったことで一旦仕切り直すのかと思われた周囲の予想は、両者共が次の瞬間には地を蹴ったことで的を外れた。

 多くの怪物を退治した逸話を持つ勇者と、今の世において恐ろしい怪物の代名詞と言っても過言ではない吸血鬼が刃を交わし合うという、ある意味での夢の対決。

 その鬩ぎあいの中である違和感を抱いたヴラドは、戦いが続く中で気のせいどころかますます強くなるそれを、幾度目かの剣戟を経た後に堪らず吐き出した。

 

 

「貴様……一体、余に何をした!?」

 

「何のこと?」

 

「惚けるな!!

 今の余は明らかに能力が落ちている、力も速さもまるで足りぬ!!

 貴様以外の誰が、そのようなことを出来ると言うのだ!!」

 

 

 激昂のままに振るった穂先が難なく受け止められ、ヴラドの表情が更なる苛立ちに顰められる。

 吸血鬼とは不死身と怪力を謳う怪物であり、それを体現するヴラドもまた、サーヴァントの中でも特に秀でた筋力を備えていた。

 いくら勇者とはいえ、吸血鬼たる自分が、体格があからさまに違う少年を相手に、正面からの純粋なぶつかり合いでここまで拮抗するなど本来ならばあり得ない筈なのだ。

 ヴラドが既に確信を抱いていることを察したリンクは、フッと笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

「絶対こうなるっていう自信があった訳じゃないし、意図して狙っていた訳でもない……ただ、もしかしたらという予想はあった。

 貴方は圧倒的な戦力差がある他国からの侵攻に抗うために、捕らえた敵兵の串刺し死体を野に晒した。

 かの国の王は残虐非道な怪物であると知らしめ、恐怖で以って敵の歩みを止めさせるために。

 『恐れられる』ことこそが、真の怪物と化した貴方の力の源泉。

 だとしたら……その逸話を知りながら、貴方と相対しながら、それでも貴方を恐れることのなかった者との戦闘において、貴方は果たして怪物としての強さを保っていられるのか」

 

「…………何だと?」

 

 

 予想も、想像も、考慮することすらも無かったであろう言葉を聞いて、呆然と立ち尽くすヴラド三世。

 リンクは笑いながら、優しい声で、ある意味で冷酷に、彼という存在に止めを刺す力を持った言葉を口にした。

 

 

「ヴラド三世……俺は、貴方が恐くない。

 俺は、貴方を相手に退魔の剣を用いる気にはなれない。

 俺には、貴方が血も涙もない怪物だとは思えない」

 

「貴方が為したこと、貴方が作り上げた光景は確かに恐ろしい。

 だけど俺は、どんな手を使ってでも、後の世で怪物と恐れられようとも国を護りたいと願ったことが、その想いが、間違っていたとは思わない」

 

「……俺は、貴方を倒す。

 だけどそれは、俺が勇者だからでも、貴方が怪物だからでも、ましてや悪だからでもない。

 立ちはだかる貴方が、越えなければならない難関だからだ」

 

 

 そう断言したリンクの姿が、呆けてしまっていた視界の中で掻き消えた。

 戦いの最中にとんでもない隙を晒してしまった自分自身に、内心で罵倒の限りを尽くしたヴラドは、地面に靴がめり込んだ跡がくっきりと残るほどの凄まじい脚力で、ほんの数歩、ほんの一瞬でこの身の懐まで肉薄したリンクの槍が、その穂先が、自身の心臓を次の瞬間にも貫こうとしていることに、酷くゆっくりと流れる世界の中で気がついた。

 視界の端にほんの僅か過ぎったのは、自分達の戦いを固唾を呑みながら見守っている、カルデアのマスターの無防備な姿。

 この身が貫かれることはもはや変えられない……ならばせめて最後に、最初から最後まで散々に振り回してくれた勇者の鼻を明かしてやってもいいのではないかと。

 彼らのマスターを道連れにしてやればいいのではないかと、血に飢えた怪物が何を躊躇うことがあると。

 そんな『怪物』の思考回路が、ヴラドの中で回っていたのだけれど。

 それをかき消し、圧し潰す勢いで、眩し過ぎて泣きたくなるほどの輝きを放ちながら、何度も何度も繰り返し聞こえる声があった。

 

 

 

『立ちはだかる貴方が、越えなければならない難関だからだ』

 

『国を護りたいと願ったことが、その想いが、間違っていたとは思わない』

 

『俺は、貴方が恐くない』

 

 

 

 カッと目を見開き、停滞した世界から強引にその身と意識を覚醒させたヴラドは、その胸を今にも貫こうとしていた穂先を認識した上で、敢えてその足を踏み出した。

 

 

「なっ…!?」

 

 

 自らその胸に呑み込ませることとなった刃が、それによって貫かれた霊核が、胸の奥から込み上げて喉を塞ぐ血が……それらに連なる痛みや苦しみの全てが、目を見開いて驚く勇者の表情によって帳消しとなる。

 血が溢れる口元に背筋が凍るような笑みを浮かべ、青白い肌に真っ赤な血化粧を施し、白く長い髪を振り乱した、正しく『吸血鬼』の呼び名に相応しい姿で。

 死に際の、だからこそかつて無い程の力が込められた一撃が、認識と予測の外から勇者を襲った。

 

 

「……………どうだ勇者よ、前言を撤回するのならば今の内だぞ」

 

「………お言葉に甘えて、少しだけ。

 驚きました、凄く恐かった。

 お見事でした、ヴラド公」

 

 

 少し血の気が引いた顔色で、引きつった口元で。

 使わない筈だった退魔の剣を抜かされてしまった勇者の表情は、随分と悔しそうなもので。

 最後の力を振り絞った一撃を敢え無く防がれてしまったにも関わらず、不思議と満たされている自分自身を、ヴラドは自覚していた。

 

 

「………いや、未だ解せぬことがひとつだけある。

 いくら勇者の言葉に感化されたとはいえ、あの状況で『武人』としての有り様を選ぶことは、狂化を施されている以上は何があっても不可能だった筈だ。

 聖人よ、これは貴様の宝具によるものか?」

 

 

 思いがけず話を振られながら、それでも惑うことなく笑ってみせたのは、先だってヴラドと相対していたゲオルギウスだった。

 

 

「私の宝具には、付属的な効果ではありますが、対象に問答無用で『竜』の属性を与える力があります。

 貴殿がかつて『(ドラクル)』と謳われた気高き武人であり、逸話によって『悪魔(ドラキュラ)』と堕とされた者であるというのならば。

 私の宝具によって『竜』と属性付けることにより、貴殿の武人としての側面を強調させ、狂化に干渉させることが出来るのではないかと、駄目元でそんな想定をしていたことは確かです。

 面白い発想でしょう、マスターのものですよ」

 

「ほう、それは……確かに興味深い」

 

 

 消えかけた体に残されていた、もはや槍を振るうには至らない最後の力で動かした視界に、一人の少年が映り込む。

 誰が何と言おうとも、吸血鬼であることは決して変わることのないこの身を、そういうものだと受け入れた上で、真っ直ぐに見据えてくる眼差し。

 それに似たものを、ほんのつい先程、目の当たりにした覚えがあった。

 

 

「この戦場の只中でなお、己を見失わぬ男よ。

 縁があるのならば、次こそは余を召喚するがいい。

 であればその時こそ、我が槍の神髄を見せてやろう。

 護国の槍……民を護る武器は、さぞ貴様の手に映えるであろう」

 

 

 言うだけ言ったことに自分だけで満足して、そのまま消えていくだけの筈だったのに。

 笑いながら頷いた少年の姿を最後の意識に焼きつけたヴラドは、吸血鬼の末路とは到底思えないほどの穏やかさで、美しい黄金の粒子と化していった。

 

 

《ヴラド三世の消滅を確認、確認された竜の魔女陣営のサーヴァントはこれで全部だ!!

 最終決戦で戦力の投入を渋るとは思えないし、敵の戦力は大方削れたと思っていいんじゃないかな!!

 今度こそ本当の本当に最後だよ、退却した竜の魔女を追ってオルレアンへ》

 

「待ってドクター、余裕があるのなら……少しだけでいい、時間が欲しい。

 ……最後になる前に、色々と、きちんと話しておきたいんだ」

 

 

 通信の向こうで興奮していたロマニは、若干俯きながらの立香の言葉にほんの少し息を呑み、僅かな間を置いた後でそれを許可する言葉をくれた。

 誰と、何を話したいのかなんて、この状況で察せられない者はいない。

 本当はあの時、あの時点でそうしたかったことを、状況が許してくれなかった。

 一生懸命に気持ちを切り替えて、受けた衝撃と抱いた疑問を一時忘れて、目の前のことに力を尽くした。

 それが落ち着いて、もう大丈夫だと、ようやく話せると思えた今になって、あの時押し込めたものが改めて、じわじわと焼けつくような熱さを伴いながら込み上げてきている。

 そんな自分の内心を向こうも察して、そして受けとめようとしてくれているのだろう。

 笑顔で手を振りながら別れたのが最後だった、あの時は黙って見送るしかなかった背中の主が、本の表紙や挿絵で見た覚えのある衣装を、これこそが彼の本当の有り様なのだと思わせる自然な風格で纏いながらそこに居る。

 

 

「…………リンク」

 

「ごめんな立香、少し……いや、だいぶ遅れた」

 

 

 少し距離を置きながら向かい合う、伝説の勇者と人類最後のマスターを。

 ほんの少し前まで、共に仲良く笑い合っていた少年達を、そんな彼らを微笑ましく思っていた全ての者達が固唾を呑みながら見守っていた。

 





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