成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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最後の進撃

 

「良かったねえ、膝詰めで懇々と怒られ続ける羽目にならなくて」

 

「……そうでもない、下手な説教よりも余程効いた」

 

「それはご愁傷様。

 これを機に自分の悪癖をしっかりと意識して、直すように努めることを勧めるよ」

 

「…………ちょっと待て。

 アマデウス、お前何でそっちに居んの?」

 

「だって僕、リンクのこと知ってたし」

 

「少し前にバレた」

 

「はあああああああっ!!?」

 

 

 アマデウスがさらっと口にした爆弾発言が、一同を夢見心地から叩き起こした少し後。

 異なる形で美しい二頭の馬が、その背に乗せた者達と共に、彼方のオルレアンへと向けて駆けていく後ろ姿を、万が一の時の後詰めを任されながら、自分達の出番が来ることは無いだろうと半ば確信しているサーヴァント達が見送っていた。

 その内の一人であるアマデウスの手が、つい先程返してもらったばかりのオカリナを玩んでいる。

 特に意識しなくても、頭の中で自然と繰り返されるその際のやり取りが、彼の顔に子供のような無邪気な笑みを浮かばせていた。

 

 

『ねえ、リンク……あの時君は、僕の言葉を冗談だと思ったみたいだけどね。

 僕は本当に嬉しかった、君の力になれて本当に光栄だったよ。

 子供の頃から、君と、君の物語の大ファンだった』

 

『………えっ?』

 

『縁があればまた会おう。

 その際には是非とも、共に曲を奏でようじゃないか』

 

 

 照れて赤くなった顔で、それでも嬉しそうに笑いながら頷いてくれたその姿が、その事実が、アマデウスの中で宝石のように輝いている。

 

 

「……ずっと大切にしてくれていたのね。

 そのオカリナ、子供の頃に私がプレゼントしたものでしょう?」

 

「一番の思い出の品だったよ、今回の件で更に大切な宝物となった」

 

 

 アマデウスにとって自分そのものと言っていい音楽、その最も古い記憶は、勇者を真似てオカリナを吹いているところだった。

 曲を奏でることによって様々な奇跡を起こす姿への憧れが、音楽魔術に手を出したきっかけであり、魔術師連中からのちょっかいに辟易しながらもめげずに追及を続けた熱意の源だった。

 その果てにあったものが今回の出会いと旅路だったとするならば、決して万事が順調ではなく、人としての真っ当な寿命を生きたとは到底言えない生涯までもが輝かしく思えてくる。

 同じような想いが、他のサーヴァント達の中にも生じていた。

 

 

『妃でn、いや違う』

 

『リンクさん?』

 

『…………マリー』

 

『…っ!!』

 

『また会おう、その時は自慢だっていうお茶会に誘ってくれ。

 マリーが愛するフランスの素晴らしさを、何も知らない俺に是非とも教えて欲しい』

 

『ええ、ええ、お約束するわ。

 ジャンヌも一緒に、また女子会をしましょう!』

 

『お・茶・会』

 

 

 ひとつの約束を果たすと共に、新たな未来の約束を交わしたマリー。

 

 

『勇者殿……いや、貴殿にはあまり畏まらない方が良さそうだ。

 リンク、貴方と会えて良かった。

 短い間ではあったけれど、仲間として旅路を共に出来たことを誇りに思う』

 

『俺も同じだよ、ジークフリート。

 あんたのような人達が、俺が眠った後の世界をちゃんと守ってくれていたんだってわかって、とても嬉しかった』

 

 

 輝く財宝も、王や姫の賛美も、この一言には敵うまいと心から感じたジークフリート。

 加入時期の都合で直接の関わりを持てず、当たり障りのない挨拶しか交わせなかった者達は、満足そうに微笑む彼らへと少しだけ羨ましそうな眼差しを向けていた。

 

 

「彼らの旅路はこれからも続く。

 少しでも縁があるとするならば、また馳せ参じると致しましょう」

 

「縁とは待つものではなく結ぶものですわ。

 すぐにでも駆けつけます、何処までもお供すると誓ったのですから」

 

「……アタシは、ちょっと時間を置きたいかな。

 勇者リンク、か……何も知らない、まだ何もしていない頃のアタシだったら、純粋に憧れることが出来たんだろうけれど。

 もう少し自分に自信を持てたら、アタシ頑張ったって思えたら……その時には」

 

 

 そうやって見送られながら、フランスを蝕む特異点の真の黒幕の下へと向かうのは、立香、マシュ、リンク、そしてジャンヌの、今回の旅路の初期メンバーと言えるであろう四人。

 『王家の輝きは不滅なのです』と笑いながら、一度砕かれてしまったものを再度顕現させてくれた、マリーがマスターと友人達への最後の餞別として託してくれた硝子の馬に跨っているのは、マシュとジャンヌという女性同士の組み合わせだった。

 男女二人ずつなのだから、女性をサポートする為にも男女の組み合わせの方がいいのではないかと選択と状況に対して一人異を唱え、考慮するまでもなく却下され、二人乗りの後ろ側で未だに気にしている様子の立香は、知らないだけに理解していない。

 組み合わせの問題ではなく、リンクと二人乗りが出来るのが現状で立香だけだったのだということを。

 他を圧倒する名馬でありながら、その誇り高さ故にそうそう人を寄せ付けさせなかったと伝えられているエポナが、その背に主以外を乗せて駆けることを許容している光景が、『伝説』の既読者達をどれだけ驚かせているのかということを。

 とは言われても、いきなり鼻先を摺り寄せられた初対面に加えて、寄せ付けないどころか自ら手助けしてまで乗せてくれたという現状を前に、実感が湧かなかったとしても無理はなかった。

 

 

「俺、この子に好かれるようなこと、何かしたっけな……」

 

 

 そう呟きながら、心底不思議そうに首を傾げる立香だったけれど、それを聞きながら苦笑するリンクには少しだけ心当たりがあった。

 エポナはきっと嬉しかった、そして安心したのだろう。

 ハイラルの面影など何ひとつとして残っていない遠い未来に、一人放り出されてしまった主に、寄り添ってくれる誰かがいたことが。

 

 

(エポナにまで心配をかけてたんだな……)

 

 

 紛れもなく勇者の愛馬である彼女は、『自分』の旅路にはいなかった。

 だから、試しに呼んで来てくれた時には驚いたし、この体が彼女の乗り方とその際の感覚を覚えていることに気付いた時には何事かと思った。

 例え『リンク』だとしても初対面の筈の自分に、その限られた信愛を惜しみなく向けてくれた時の、胸の奥から込み上げた懐かしさと嬉しさは紛れもない本物だった。

 そんな馬鹿なことがと思わなくもないけれど、確証もない状況で根拠は殆ど勘だけなのだけれど。

 彼女と共に旅をした者達も含めた、全ての『リンク』がここに居るのだということを、リンクは胸元をそっと押さえながら密かに確信していた。

 その事実が何を意味しているのか、遥かな時を越えた先で一体自分はどんな存在になってしまったのか、落ち着いて色々と考えてみたかったのだけれど。

 決戦を控えているという状況が、それを許してはくれなかった。

 

 

《皆気をつけて、未知の魔力反応の出現を確認した!!

 ワイバーンとも骸骨兵とも違う、新たな敵性存在と想て……って何だあれ、気持ち悪っ!!》

 

「巨大なタコ、それともヒトデ!?」

 

 

 海産物を思わせる大小様々な、グロテスクと称して良いであろう異様な風体の軟体生物がオルレアンの城門から溢れ出てくる光景に、生理的な嫌悪感から竦み上がった者は多かった。

 見た目の気持ち悪さ、どんな攻撃をしてくるかわからない得体の知れなさに加えて、視界全てを埋め尽くそうとしているかのように後から後から湧き出てくる純粋な数の暴力が、既に心を決めていた筈の一同を躊躇わせた……のだけれど。

 慄き、恐れたとしても、それで諦める者、足を止める者はいなかった。

 どんな困難をも乗り越える『勇気』、それを誰よりも体現する者が居ることを、ずっと共に居てくれていたのだということを、皆は既に知っているから。

 

 

《すまないリンク君、何とかしてくれ!!》

 

「了解、ドクター。

 その判断は正しいよ、任せてもらえるのならむしろありがたい」

 

 

 的確な指示も助言もなく、丸投げされたと言っていいだろうロマニの懇願を、本来ならば酷い無茶ぶりである筈のそれを、笑いながらあっさりと受け入れたリンク。

 その姿と声が持つ力は、誰が相手でも何が起こっても大丈夫だと問答無用で思わせてくれる頼もしさは、既に周知されていた実力に素性が明らかになったことが加わって、ただ目の当たりにしただけの者達に感動と高揚を味わわせるほどのものとなっていた。

 

 

「……っておい待て、お前一体何するつもり!?」

 

「落ちないように、頑張ってしがみついてろ。

 そうすればエポナは自分で走る、下手に乗りこなそうなんて考えるなよ」

 

「ちょっ、リンク!!」

 

 

 愛馬を全力で駆けさせたまま、鐙から外した両足を鞍の上で揃えたリンクの姿に、立香が思わず脳裏に過ぎらせた嫌な予感は、次の瞬間現実の光景となった。

 彼が腰から下げていた石板、その壁面から迸る青い光と共に鞍を蹴って飛び降りたリンクの、猛スピードで通り過ぎていく地面にそのまま叩きつけられていてもおかしくなかった体が、青い光によって受け止められた。

 正確には、青い光が結集し、形作ったものによって。

 前後に二輪を備えた機械仕掛けの馬、生物由来とは思えない動力の存在を伺わせる爆音の嘶き。

 それは、ほんの少し前まで紛うことなき一般人だった立香にとって、魔術だの竜だのよりは余程馴染み深いものだった。

 

 

「マジか、それってもしかしなくてもバイク!?」

 

《勇者リンクのもうひとつの愛馬、古代文明の叡智の結晶、最古の二輪駆動ことマスターバイクか!!

 わざわざ乗り換えたってことは、まさか……》

 

「突っ込んで道を開く、立香達はそのまま続け!!」

 

 

 言うや否やエンジンを吹かせ、先行したリンクの手が青い光を掴んだ。

 それがまたしても何かしらを形作るであろうこと、状況からして武器の類であることまでは予想した一同だったが、その後で度肝を抜かされた。

 リンクの手の中に顕現したのは、体格と腕力に優れた巨漢の戦士が、両の腕を用いることでようやく振るうことが叶いそうな両刃の大剣。

 それを小柄な体で、一見しただけならば華奢に思ってしまいそうな細腕で、バイクの操縦もしなければならない為に必然的に片腕で。

 大気が唸る凄まじい音を立てながら軽々と担ぎ上げたリンクは、全開に吹かせたエンジンで後続をぶっ千切り、タコともヒトデとも言い切れないおぞましい海魔の群れへと突っ込んでいった……次の瞬間、鋭さで裂くのではなく重さを伴った純粋な威力で叩っ切られた大小様々な触手と肉片が、盛大に宙へと飛び散った。

 

 猛スピードを出していたバイクがいきなり急ブレーキをかければどうなるか、興味はあっても免許を持っていない立香や、バイクの現物を見ること自体が初めてのマシュでさえ容易に想像がつく。

 慣性の物理法則でそのまま吹っ飛ぶか、盛大に転倒してもおかしくはなかったそれを、リンクはまるで自身の手足であるかのように制してみせた。

 後輪に釣られて浮き上がりかけた前輪を押さえつけ、前方に向かってそのまま一回転しそうだった勢いを力ずくで横向きのものに変える。

 地を咬んだ前輪の一点を軸に、地面に対してほぼ平行に回転した車体は、乗り手が携えていた大剣に巨大な刃の弧を描かせた。

 剣をただ振り回すだけでなく、通常だったらただの転倒事故になりそうな角度や勢いでタイヤを滑らせながら、まるで実戦ではなく何かのショーのような華麗さと縦横無尽さで愛車を操りながら、時に振り上げたタイヤそのもので轢き潰すような荒々しさをも容赦なく見せながら、海魔の群れを切り開いていくリンク。

 数秒の後には数の勢いに負けて潰されてしまうであろうその僅かな空間へと、躊躇うことなく飛び込んだエポナとその首元に必死でしがみつく立香に、硝子の馬に乗ったマシュとジャンヌも続いた。

 

 

「ひいいいいっ、後ろもう埋まってる!!

 リンク、これ大丈夫なのか!?」

 

「少し強引なのは確かだけど、それでもこれが最短かつ最善だ!!

 恐らくこの魔物は、大元をどうにかしない限り際限なく湧いて出る類のものだと思う!!」

 

「ホラー映画やゲームの定番だな、雑魚敵にある程度群がられることや多少のダメージを覚悟で強行突破しなきゃいけない奴だな、わかる!!

 わかるけど、実体験する羽目になんてなりたくなかった!!」

 

「センパイの例え話がわかりませんけど、そういうことならば了解です!!」

 

「私達の方でも出来る限り後続を断ちます、突っ切りましょう!!」

 

「女の子達(馬含む)が頼もしい!!」

 

 

 蠢く海魔で半ば塞がってしまっていた城門を強行突破した一同の前に広がったのは、人を含めたまともな生物が生きていた痕跡などはとうに消え失せ、怪物が蠢くおぞましい魔都と化したオルレアン。

 かつての美しい街並みを想い、住民を悼むことすらも出来ない現状を惜しみながら、それでも決して足だけは止めることのないまま、一同は王城を目指す。

 立ち塞がった海魔ごと城の大扉をぶち抜き、飛び散った際には鮮やかな赤だったのであろう、どす黒い飛沫の跡がそこら中にこびり付いている床や廊下に、タイヤや蹄が傷を上書きさせることも厭わず。

 一気に駆け抜け、辿り着いた玉座の間にて一同はようやく、この特異点を築き上げた主と相対した。

 

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