成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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日常の終わり

 

「…………なあ、リンク。

 お前が今の時代について勉強を始めたのは、あの時カルデアに来てからだよな。

 それまではずーっと眠ってたから、ぶっちゃけ何も知らなかったんだよな」

 

「そうだけど?」

 

「じゃあ何で、この短期間で俺より世界史出来るようになってるんだよ。

 得意とまではいかなくても、平均点はちゃんと取ってた俺の義務教育は何だったんだ」

 

「本を読んだり、新しいことを覚えたりするのが純粋に好きだし、楽しいからだよ。

 ハイラルにいた頃だって、城の図書室で朝から晩まで過ごすこともあったし。

 だけど出来るって言ったって、世界中の歴史や伝説の中のほんの一部の話で、全体的に見ればお前の方がまだまだずっと知ってるじゃないか」

 

「すぐに追い越されるのが目に見えてるから愚痴ってんの。

 お前みたいに、新しい何かを覚えることそのものを楽しめる性分なら、勉強ももっと捗るんだろうけどなあ……」

 

「多分だけど、自分にとってそれが必要だと、大切だと強く実感出来るものに対してでないと、本気になれない性質なんだろ。

 ただ単に本を読んで情報を詰め込むよりも、血と心の通った話を知り合いから直接聞く方が、お前の場合は合っているような気がする」

 

「…………そっか、そうだ、当時を知っている人達がいるんだから直接聞けば良かったんだ。

 でも、いいのかなあ……皆それぞれ忙しいのに、俺の個人的な勉強につき合わせちゃって」

 

「英雄についてちゃんと知っておくのは、マスターの大事な役目のひとつ……だろ?」

 

「リンクさんの言う通りですよ、センパイ。

 サーヴァントの皆さんに順番に時間を作って頂けるよう、後でドクター達にも話を通しておきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルデアという組織と施設を存続させ、人理修復を進めるにあたっての重要な施設や設備の復旧は、粗方終えたと思って良さそうだな」

 

「はい……これでもう、水や電気の供給が滞って職員の命が危険に晒されたり、突然の強襲に対抗出来ないというような事態になることは免れました」

 

「それ自体は、本当に喜ばしいことなのだが……すまない、実は作業中から気になっていたことがある。

 参考として予め渡されていたカルデア内部の見取り図と、実際の構造に多少の差異が見受けられる部分があったのだが、あれは一体どういうことだったんだ?」

 

「あ~、それは……ここカルデアは造りや設備こそ機械的ですが、実際は秘匿主義の権化たる魔術師が、設計・建造した施設ですからね。

 秘密の部屋や通路が密かに造られていた可能性は否めませんし、下っ端の一般職員相手に配布されていた地図が正しいという確証がそもそもありません。

 ……好待遇を受けていた魔術師が密かに築いていた工房とか、溜め込んでいた素材や礼装なんかが、もしかしたら無傷で残っているかも?」

 

「おいおいおい何だ、思いがけず宝探しじみた展開になってきやがったじゃねえか!!

 復旧作業はこのまま続けようぜ、カルデアが広くなって使える部屋が増えることに文句を言う奴なんかいねえだろ!!」

 

「クー・フーリン殿、それは……何とも心躍る話だ、俺にも是非加わらせてくれ!!」

 

「話が分かるなジークフリート、お前はもっと真面目でお堅い優等生タイプかと思ってたわ!!」

 

「…………どんな場所でも、いつの時代でも、男の生態は似たようなものね。

 やるのは構わないけれど、ちゃんとマスターにも声をかけてからにしなさいよ。

 あの子も絶対、そういうものに目が無いから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや……珍しい、今日は招待から逃げなかったのかね」

 

「逃げたわよ、捕まったのよ、強引に連れて来られたのよ文句ある!?

 喜んで誘いを受けるような奴は他にもたくさんいるでしょうに、聖女サマといい王妃サマといい、どうしてわざわざ私に拘るのよ!!」

 

(怪我をさせることを辞さずに、強引に抵抗する選択肢もあるのにやらないこととか。

 嫌がって逃げても、いざ捕まれば文句は言いつつ観念することとか。

 そんな歪んだ素直さが可愛いと、王妃も聖女様も思っておられるのだと……言わない方がいいですね)

 

(それが賢明だな。

 茶も菓子も、足りなくなったらいつでも声をかけてくれたまえ)

 

(ええ、そうさせて頂きます。

 いつもありがとうございます、エミヤ殿)

 

「ねえねえ、ジャンヌ。

 せっかくオルタがお茶会に来てくれたのですから、前々から気になっていたあの件について、思いきって尋ねてはみませんこと?」

 

「いいですね、マリーに賛成です!」

 

「……何よ、あの件って」

 

「リンクさんとは召喚以来どうですか、ちゃんとお話は出来てます?」

 

「ブハッ!!?」

 

「あまり上手くいっていないようなら仰ってね、二人を一緒にお茶会にお招きするくらいなら出来ましてよ」

 

「ゲホッ……ちょっと待って、待ちなさい。

 あんた達、一体何を言ってr」

 

「何も言わなくていいですよオルタ、私達はちゃんと分かっています。

 リンクさんの中には決して忘れられないお姫様がいるとしても、私はあなたを応援するし、いつだってあなたの味方です。

 だって、あなたのお姉ちゃんですからね」

 

「聞けやっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たわけが、この程度の企画書に我が資金を出すとでも思ったか!!

 もっと論理的かつ効率的な案を提示することが出来れば考えてやる、疾く失せよ!!」

 

「はいっ、申し訳ありませんでした!!

 王の貴重なお時間を賜りましたことに感謝いたします、出直して参ります!!」

 

(あちゃ~、駄目か……立香君やマリー様達の目を盗んで、休憩時間を削ってまで纏めたのが裏目に出たかな)

 

(だとしても、王様が条件を出した上で『考えてやる』とまで言ってくれたんだから、まだ色々と甘いだけで別に悪くはないんだろ。

 気付いてほしいところは勿論、気付いてほしくなかったところや、自分では把握しきれていなかったことにまでしっかり気付いて、上手く出来ればちゃんと評価してくれる人だからな)

 

「念のため釘を刺しておくが、再考は予定されていた休みをしっかりと取ってからにするのだぞ。

 勇者がわざわざ、お前達のために頭を捻ってまで纏めた決まりごとを二度も無下にするようなら、我の寛大さも二度は持たぬからな」

 

「………………はい」

 

(そっちも気付かれてたか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他にも、現状ではどう贔屓目に考えても戦闘以外の生かしどころを一切見出せずにいる、仮面の怪人と黒騎士を壁役として酷使しながら、自身の喉を潤す為にではなく、カルデアで使用する魔力リソースの足しとする為に、エネミーの血と魔力を延々と絞りつつ溜め込んでいく魔眼の蛇怪と血の伯爵夫人とか。

 

 

《メドゥーサさん、カーミラさん、ファントムもランスロットもお疲れ様です。

 今日の分のノルマは今ので終わりました、もう帰ってきていいですよ》

 

「……ここはマスターの坊やだけではなく、周りの人間達まで甘いのね。

 怪物の吸血能力を、恐れるどころか頼りにして……ましてや、ああして労いの言葉までかけるなんて」

 

「ここはそういう所だと、割り切った方が早いし楽ですよ。

 ……良ければこの後、食堂までご一緒しませんか?」

 

「あら、お誘いなんて珍しいこと。

 構わないわよ、どうせ足を運ぶつもりだったし」

 

「搾り取った魔力を提供した後は、一気にお腹が空くんですよね」

 

「あそこの料理、悔しいけど美味しいのよね……食べ過ぎないように気をつけないと」

 

 

 サーヴァントを含めたスタッフ一同に普段使い用として配布予定の服を、提示されたデザイン案の酷さに考案者の正気を疑いながら、それでも何とか試作品の完成まで漕ぎつけた串刺し公とか。

 

 

「…………本当にこれで良いのか?」

 

「完璧だよヴラド三世、君の腕前を半ば疑った私をどうか赦してくれたまえ。

 目に痛々しい原色、胸元にてこれでもかと自己主張する『Buster』『Arts』『Quick』の意味不明な一枚絵。

 これを英霊達に配布するのが楽しみだよ、多種多様な表情と反応に加えて着て見せても貰えたら言うことは無しさ」

 

「言っておくが、余は着ぬからな。

 ……『天才』というのは、『変人』の別称のように思えてきたぞ」

 

「それは当然というものだね、普通とかけ離れているからこその天才なのだから」

 

 

 医務室で人を殺すのではなく生かすために働く処刑人と、今現在必要とされる場が特に無くて暇だからと、からかって時間を潰す為だけに、わざわざ彼を訪ねていく音楽家とか。

 サーヴァントとしてではなく、記録係としてカメラとペンとメモ帳を携えながらスタッフ達に交じっている姿が、既に違和感が無くなっている守護聖人とか。

 召喚に応じたことと、今もカルデアのどこかにいることは確かなのに、馴染むどころか一向に姿を現そうとしないことに対して、様々な思惑が向けられている反転の騎士王とか。

 様々な場所で、様々な人や英霊達が、それぞれの様々な日常を過ごしていた中で。

 それを瞬く間に破壊し、世界の現状を、カルデアの果たすべき務めを思い出させる威力を持ったロマニの声が、カルデア中に一斉に響き渡った。

 

 

《立香君、マシュ、リンク君、あとダ・ヴィンチ……ああもうまどろっこしい!!

 スタッフもサーヴァントも、手が空いている者や余裕がある者は片っ端から、今すぐにオペレーションルームへ集まってくれ!!

 新たな特異点の詳細な観測に成功した、緊急ミーティングを執り行う!!》

 

 

 二度目のグランドオーダーが、もう間もなく始まろうとしていた。

 






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