成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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防衛戦の合間にて

 

 王宮を後にする間際に、ネロの遣いが渡してくれた参戦を許可する勅命書を手に東門の防衛戦へと加わったのは、まだ日も高い頃合いだったのに。

 攻め込まれては耐え、戦線が保てないほどの損害を与えて一時撤退させることを、繰り返すこと数回。

 太陽が完全に姿を隠し、人工的な灯りの数や質が限られるこの時代故の真の暗闇が世界の大半を覆う中で、それでもまだ戦いは続いていた。

 辺りを一望できる東門の城壁、何か変化が起こった時に真っ先に気付くことが出来るその最上部に陣取っているカルデア一同からは、その気になればまたすぐにでも攻め込むことが出来るような絶好の位置に展開されている、多くの篝火を煌々と焚いてその辺一体を昼間のように照らしている敵陣の様子が一目で窺える。

 吹き曝しの城壁で、無いよりはマシな程度の薄い布を全身に巻き付けて、夜の寒さと乾いた風の中で見張り役を務めながら、立香は舌打ち交じりに呟いた。

 

 

「あーもー嫌だなあ、これ見よがしに自分達の存在をアピールしてプレッシャーかけてきて……」

 

《こうしていざそういう状況になってみると、攻める方より守る方が遥かに大変だって言われるのがよく分かるね。

 何せ向こうは自分達の都合のいいタイミングで動けるけど、こっちはいつ来るか分からない状況でずっと気を張り詰めながら、それに合わせて対応しなきゃならないんだから》

 

「でもそれは、頼りになる皆のサポートが無ければの話だよね?」

 

 

 口の端を僅かに上げて、少し含みを持たせながら立香の言葉を受けて、通信の向こうのロマニが自慢げに胸を張った気配が窺える。

 夜間の見張り役を自ら買って出て、守るべき町と民を背にしながらの戦闘の連続に、心身ともに疲れ切っていた兵士達を休ませてあげる選択肢を選ぶことが出来たのは、彼らの手助けを当てにしていたからこそだった。

 

 

《目視できる程度の位置にある、人の大まかな動きの流れを観測するくらいなら、カルデアの技術にかかればどうってことないからね。

 向こうが動き始めたらすぐに知らせるから、立香君は楽にしてて。

 あの二人も、そろそろ帰ってくるだろうし……》

 

「センパイ、ドクター、お待たせしました!」

 

「後でネロ陛下に確認した方が良さそうだけど、それでも、この特異点で何が起こっているのかを判断できる程度の話は聞いてきたよ」

 

《噂をすればだね》

 

 

 最前線で敵の大半を食い止める活躍をぶっ通しで続けた上に、まだ余裕があるからと見張り役まで買って出てくれた少年少女達への、せめてもの心遣いであろう。

 三人で食べるには十分すぎるほどの食料や、夜の寒さと吹き曝しの風に耐えるには十分そうな分厚い布などを抱えたリンクとマシュが、城壁にかけられた梯子を登りながら帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決して高級な茶葉ではなく、いつもエミヤが気をつけているようなお湯の温度や蒸らしなどは一切気にせず、ただ単にお湯で適当に抽出しただけのお茶だったけれど。

 火傷しないように息を吹きながら少しずつ飲んだ、腹の中から温まりそうなそれは、状況の特異さによる補正効果もあって本当に美味しかった。

 見張り役をオペレーターの観測に任せた立香達は、差し入れの食糧で腹ごしらえをしつつ、リンクとマシュが兵士達から聞いてきた情報の確認と吟味を始めた。

 

 

《『連合ローマ帝国』、か》

 

「やっぱり、在り得ない存在?」

 

《断言するよ、そもそもこの時代のローマが分裂の危機に瀕していることがおかしい。

 大帝国ローマの衰退と終わりはまだずっと先の話、それも他国の侵略によってではなく、人や仕組みなどの内部が長い年月を経るうちに徐々に腐敗したことによって至ったものだ》

 

「ただ一人の筈の『皇帝』を複数が名乗り、それらの連合によって築かれたもうひとつの『ローマ』によって、本来ならばひとつの大帝国である筈の領土が二分されている。

 その『皇帝』とは、召喚されたサーヴァントと考えて良いのでしょうか」

 

《バーサーカー・カリギュラの例もあるしね、彼以外にもローマに縁深いサーヴァントが複数召喚されているのかもしれない。

 ……それが全員、カリギュラのように強力な『知名度補正』を得ているかもしれないと考えると、ちょっと頭が痛くなってくるな。

 敢えて狙ったものだとしたら、今回の『マスター』は相当に頭が切れる厄介な》

 

「それはどうかな」

 

《……リンク君、何か見解があるのかい?》

 

「補正を得たバーサーカーは確かに強かったけど、俺から言わせれば策どころか、人選に至るまであれは失敗だ。

 あの人は、カリギュラは、心からネロ陛下を愛していた……後先考えない暴れっぷりが短所であると同時に最大の利点でもある筈のバーサーカーが、無い筈の理性を絞り出してまで、『ローマを襲え』『皇帝ネロを殺せ』というマスターの命令にギリギリで抗う程に。

 知名度補正は得られないとしても、ただの人を殺すには十分すぎるほどの力があって、何を命じようとも一切躊躇うことなく実行するだろう者と。

 知名度補正を得て盛大にパワーアップしていても、最も重要な命令に対して歯向かい、予定や想定を盛大に狂わせる危険性がある者と。

 選ぶべき、使うべきなのは、ドクターならどっちだと思う?」

 

《……成る程ね、リンク君の言う通り。

 真っ当な指揮官なら、能力で多少劣っていたとしても扱いやすい方、不確定要素の少ない方を選ぶに決まってる。

 だというのに、敢えてその選択をした敵の思惑は一体何なんだ?》

 

「考えられる可能性はいくつか。

 まずひとつ、『知名度補正』で基礎能力が上がることにしか、ただ単に考えが及ばなかった馬鹿。

 ふたつ、適当に召喚したら土地と人の縁でカリギュラが来て、結果的にそういう状況になっただけの偶然。

 みっつ、命令に歯向かう危険性よりも能力向上の利点の方を優先した、多少の問題は力で押し切れば問題ないという脳筋思考。

 そしてよっつ、これだった場合は本当に嫌なんだけど………問題点があること、非効率であることは承知もしくは気付いた上で、愛する血縁者や故郷を害することを強いられるサーヴァントや、親しかった知人や尊敬する先人に脅かされるローマの人々が嘆き苦しむさまを、嗤いながら楽しむためとか」

 

「……敵のマスターがレフ教授の可能性が、一気に高まった気がします」

 

《だね》

 

「あいつならやりかねない」

 

「…………どんだけ外道なんだ、そのレフ・ライノールとかいう奴は」

 

《それに関しては、またいずれちゃんと……ま、まあとにかく、現状の把握は粗方済んで、今後の方針も定まったんじゃないかな。

 難しいことは何もない、フランスの時と同じように敵対サーヴァントとマスターを倒して、在り得ない戦争を終わらせれば全て解決》

 

「それもどうかな」

 

《……リンク君、もういいから。

 上司とか指揮官とか気にしないで、僕にいちいち許可を取らないでいいから、君が最初から全部話しちゃって。

 よくよく考えてみれば、何でハイラル王国戦術顧問の君がいる状況で、医療部門の僕が参謀じみたことをする必要があるんだ》

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて。

 話を始める前にひとつ頼みがあるんだけど、ちょっとヴラドを呼んでくれないかな」

 

《余がどうした、勇者よ》

 

「そこにいたんだ、なら丁度良かった。

 皆に分かりやすく説明するために、護国の英雄として名高いヴラドの話も聞きたいんだけど。

 ……お前だったらこの状況で、本当の意味で国を護ることが出来ると思う?」

 

《無理だな》

 

《えっ……えええええっ!!

 そんな、君ほどの人があっさりと言い切るくらいに、今のローマは酷い状況なわけ!?》

 

《状況が『酷い』と言うよりは『違う』のだ、勇者がなぜ『本当の意味で』と前置きしたと思っている。

 余の国を脅かした、余が串刺しにしたのは、唾棄すべき他国の侵略者どもだ。

 故にこそ余は、紛れもない非道を行ない、この世の地獄を作り出し、後の世にその名と存在を怪物として刻みながらも、自身が魔物に堕ちようとも国を護ろうとした、ある種の英雄であると認められているのだ。

 聞くところによれば、マスター達が収めねばならぬ此度の戦は外からの侵略ではなく、発端こそ闖入者からの介入であったとしても、それによって誑かされた者達による大規模な内乱であろう。

 敵対するようになったとはいえ、かつては紛れもなく自身の民であった者達を串刺しにして野に晒そうものなら、それはなりふり構わず国を護るための苦肉の策ではなく、内側に対する粛清となってしまう。

 『余に逆らう者は、例えかつての余の民であろうともこうなるのだ』……という風にな。

 そうしてローマという国の『形』を護ったとして、あの華やかな紅の娘は変わらず民に愛され、自身の治世を保つことが出来ると思うか?》

 

「…………そうか。

 護らなきゃいけないのは、今現在の『ネロ陛下の治世』であって、ローマの国と土地が無事なだけじゃ駄目なんだ」

 

「……す、すみません、センパイ。

 それは一体、何が違うのですか?

 ローマを護ることは、イコールでネロ陛下の国を護ることだと、私はそのまま認識していたのですが」

 

「そうだなあ……さっきの、ネロ陛下の傍にいた人達のこと、マシュはどう思った?」

 

「………あまり、他人のことを悪く言いたくはないのですが。

 ローマの危機に対して必死に抗おうとしているネロ陛下に対してあんな、不忠と言っていいような態度を取るのはどうかと、問題なのではないかと思っていました」

 

「そうだな、そう思うマシュの気持ちはわかる。

 だけど俺には、あの人達の気持ちだって少しは分かるんだ」

 

「せ、センパイ!?」

 

「国の重鎮でありながらネロ陛下を軽んじて、ローマの品位と評判を落とす真似をしたことに対しては、イラっとして啖呵を切ったりもしたけれど。

 国が、自分達がこれからどうなるか分からない状況で、不安のあまりに疑り深くなったりヒステリック気味だったり、多少周りを害してでも自分を守ろうと必死になってもおかしくはないし、そこは咎めるようなことじゃないと思う。

 あの人達は、根っからの善人ではなかったけれど悪人でもない、言うなれば『普通の人』だよ。

 こんなことになったりしなければ……正しい歴史の中の、本来のローマでだったら、ネロ陛下がもうどうにもならない程に間違えない、彼女に仕えることで十分な見返りが発生する限り、心からの『忠義』は無くても普通に『仕事』として、傍で働いてくれた人達だったような気がするんだ」

 

「本来ならばあり得ない筈の異様な事態というのは、状況や環境だけでなく、人の心境や振る舞いにまで影響を及ぼしてくる。

 『戦争』なんてものは、中でも特にあからさまだ。

 自分の命や財産が脅かされる危険や恐怖をつきつけられて、それらを知らなかった時と、平和だった時と同じ心境や価値観を保てる人はそうはいない。

 今はまだ、ローマが如何に危機的状況に陥っているのかを、日々実感しているであろう上層部に不安と不信が広まっている程度で済んでいるけれど、それが兵や民にまで及ぶのは時間の問題。

 そして、人々の積もり積もった不満とストレスの最終的な向けどころは一体どこ、『誰』になると思う?」

 

「…………まさか、そんな。

 だってネロ陛下はあんなにも一生懸命に頑張って、兵士や町の人達から、あんなにも愛されていたのに」

 

《マシュよ、貴様は本当に善良かつ純粋であるな。

 最も重い責任を負っている、いざという時に我が身が破滅しようともそれを果たすからこそ、最も傲慢に振舞うことができる……それが、国を統べる『王』というものなのだ

 あの娘の統治を直に見ていないゆえ、実際の能力の有無に関しては何とも言えぬが、国の繁栄を象徴するかのような華やかな言動と立ち振る舞いによって人心を集め、民に愛されることによって国を纏めるという手法を重視していることは伺えた。

 平和な時勢であれば問題なく、むしろ国や町の発展をより一層促すのであろうが……命や財産を脅かされた、心身ともに切羽詰まった状況で、あの素なのか、それとも敢えて空気を読んでいないのか分からぬような振る舞いを続けられては。

 最初こそ励まされはしても、次第に腹立たしく思えてくるようになるであろうな。

 戦後にそれを巻き返し、離れてしまった人心を今一度取り戻す、我が身を犠牲にする以外の方法で民を納得させられるだけの現実的な手腕が、果たしてあの娘にあるかどうか……》

 

「皇帝陛下があれだけ若くて元気で、しかも本来だったら平和で、彼女の統治に何の問題もなかった筈の時期なんだから、後継者の準備が済んでいるとも進められているとも思えない。

 只でさえ異様な内乱で疲弊した上に、想定外の代替わり、もしくはまともな統治者の不在による混乱が長引けば、ローマ帝国は確実に、本来在り得た筈の繁栄を失ってしまう。

 例え目の前の敵を倒して、戦争()終わらせたとしても……それは十分に、偉大なる大帝国ローマの喪失という、人理に影響を及ぼす程の異常事態になり得るんじゃないかな」

 

《………ああ、そうだね、その通りだ。

 つまり、今までの話を纏めると……ただ単に、敵の兵やサーヴァントを倒して、戦争を終わらせればいいだけの話じゃなくて。

 後々にネロ陛下の評判を落としたり、陛下の責任問題になったりしないように、例え相手が形振り構わずどんな手を使ってこようとも、こちらは綺麗で真っ当な、または陛下の評判に貢献できるような痛快な戦い方を貫くしかなくて。

 僕達がこの特異点を去った後も、本来在るべきだったネロ陛下の治世がきちんと続くように、彼女がこれからもローマの華として人々に愛され続けるように、出来る限りの手を打っていかなければならないんだ》

 

「な、成る程、それは…………要するに、どうやってですか?」

 

《僕もわかんない、これ本当にどうすればいいの!?

 敵を物理的に倒せる力の有無よりも、政治的な思考や駆け引きができるかを問われる話じゃないか!!》

 

「今この状況になってから考えてみると、フランスの時はまだ簡単だったんだな。

 竜や魔女っていう分かりやすい、外から来た敵を倒せばいいだけの話で、その為に必要なのは対抗勢力を集めることだけだったんだから」

 

《ね、ねえヴラド三世、救国の英雄、何か案とか策はない!?》

 

《なぜそれをよりによって余に尋ねる、その件に関してはつい先程話したばかりであろうが。

 今の余ができるやり方では、国土と自陣営の民の命は確かに守れようが、代わりに王への支持と期待は失墜するぞ》

 

《ちょっとギルガメッシュ王、王の中の王を自称するくらいなら何か思いつかないかな!!》

 

《生憎だが我は、我自身の統治において民の機嫌や人気を取ろうとしたこと、考えたことなどは一切無い。

 王を敬い、王の言葉に従ってこそ民であろうが、それが出来ぬ者など一思いに切り捨ててしまえ》

 

《駄目だこれは、聞く相手を間違えた!!

 もっと他に、きちんと頼りになる人は………そうだ、一番肝心な人を忘れてた!!

 リンク君、伝説の勇者様、君の物語はこの時代のローマにおいても絶大な人気を得ていた筈!!

 君が正体を明かして、その上でネロ陛下を支持すると公言すれば、陛下の評判も鰻登r》

 

「いや~、そう簡単にいくかなあ……」

 

《今度は立香君か、一体どうして!?》

 

「作戦自体はアリだと思うんだけど、その場合、色々と根回ししたり状況を整えたりして上手く物事を運ばないと、リンク個人の人気が更に上がるだけで、それが『ネロ陛下のおかげ』と思ってもらうまではいかないと思う。

 むしろ逆に、『ネロ陛下があまりにも不甲斐なかったから見かねた勇者様が手を差し伸べてくれたんだ』とか思われでもしたら、評判が上がるどころか致命傷だろ」

 

「成る程……ネロ陛下の人徳が勇者様をも動かしたのだと、人々にそう受け止めて貰うためには、陛下自身の人気と評判がその時点でそれなりに高くなければいけないのですね」

 

「そうそう、あるんだよなー……条件は正しかったのに好感度が足りなかったせいで、イベントが発生しないもしくは失敗するパターン」

 

「センパイ、何の話をされているんですか?」

 

「…………ごめん、忘れて。

 と、とにかく、リンクが正体を明かすのは、他に色々と頑張った先での最後の一押しにすべきだと思う。

 となると、リンクの正体をとりあえず最初のうちは隠して、様子を見ることにした判断は正しかったな」

 

「この場で全ての方針と作戦を決めるには、情報や判断材料があまりにも少なすぎる。

 とりあえず今のところは、目の前の問題を片づけていこう。

 市街地を背にしながらの防衛戦があまり長引くようでは、そこに住んでいる人達の不安は募るばかり……そしてそれは、ネロ陛下への不満へと直結する。

 さっきも話したように、次の襲撃が来るタイミングでこの戦いを終わらせ」

 

《敵陣、動き始めました!!》

 

 

 皆が話している間も敵陣営の観測に集中していたオペレーターの一人が、変化が起こると同時に張り上げた声が、皆のやり取りを遮りながら響いた。

 途端に気持ちを切り替え、城壁の向こうの篝火で照らされた一帯を見据えた一同の目には、明確な異変らしきものは未だ見受けられない。

 それでも、カルデアの計測結果と、それを告げたオペレーターの言葉を疑うことのなかった立香達は、一斉に行動を開始した。

 予め決められていた流れに従い、立香が打ち鳴らした非常事態を報せる鐘の音に合わせて、城壁の下方で休憩しつつ待機していた兵士達が動き出した気配が伝わってくる。

 目視での判断よりもずっと早く気付くことができたおかげで、これから押し寄せてくるであろう敵を、準備を万端に済ませて待ち構えることができそうだった。

 その戦線に加わるために、愛用の大盾を手に取るマシュ。

 しかしリンクは、先の戦いまでマシュと共に最前線で活躍していた筈の彼はそれに続く気配を伺わせず、城壁の縁ギリギリに立って、夜の闇に包まれた眼下の光景を見下ろしていた。

 

 

「それじゃあマシュ、俺が抜けた分大変だとは思うけど……打ち合わせ通りに、頼んだよ」

 

「大丈夫です、マシュ・キリエライトにお任せ下さい。

 心配はいりません、リンクさんが目的を達成するまで耐えればいいだけのことなのですから」

 

「……ああ、俺もだ。

 マシュが護ってくれているからこそ、安心して自分の役目に集中できる」

 

 

 そう言って笑ったリンクは、城壁の先にある虚空へと向けて、まるでそこに地面があるかのようにあっさりと足を踏み出した。

 途端に重力に引かれて落下し、立香達の視界から一瞬で消えたリンクは、その身が地に叩きつけられるほんの一瞬前に身を翻し、城壁の一部を掴まえることでその勢いを殺してみせた。

 間髪入れずにその手を離し、両膝で再度勢いを殺しながら着地を決めるや否や、夜の闇に紛れながら駆け出したリンク。

 ふとあることを思いついたその唇から、誰に聞かせる気もない呟きが零れた。

 

 

「……この闇の、『影』の中でなら行けるかな」

 

 

 存在するという知識と、使える筈だという感覚のみがあった能力を意識し、精神を集中させた次の瞬間。

 宵闇の中で辛うじて『人』だと認識できていたリンクの影は、四つ足で地を奔る獣のものへと変わり、二本足よりもより速く、そして静かに、夜襲によって人気が少なくなった敵陣営へと向けて駆けていった。

 




 ご覧になって下さっている皆さんのご意見を頂きたいことがありまして、『活動報告』にてその旨を書きました。
 宜しければ、是非目を通していただければと思います。

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