成り代わりリンクのGrandOrder   作:文月葉月

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 ずっと温めていた第二特異点の山場(まだありますが実質的にはそうだと思う)を書き切ったのとリアルで忙しくなってきたのが合わさって、執筆が滞っています。
 前回の更新から少し間が開いてしまったので、中継ぎとして久々にネタ語りを入れることにしました。
 彼女の登場はまだ先ですが、共に戦える時が今から楽しみです。


『ゼル伝』が人理に与えた影響 反逆の騎士編 前

 

 まず初めにFate原典との違いとして、こちらの世界のブリテンでは、騎士達が自分にとっての騎士道というものを模索するための一種の教本のようなものとして『ゼルダの伝説』が扱われていました。

 この物語を読んで何を考えたか、自分ならどうしたいと思ったのかが、自身の為すべきことを見定めるためのヒントやきっかけになるのだと。

 モルガンの元ではきっかけが無く、アーサー王の元で騎士となってから初めて『ゼルダの伝説』を手にしたモードレッドは、ぶ厚い本の山に尻込みしながらも、父に認められるためにもと己の騎士道を求めて手を伸ばします。

 そうして、始まりこそ義務感と勢いであったものの、徐々に本心から胸を躍らせながら太古の英雄譚に没頭していったのだけれど。

 『伝説』を読み終えた彼女が最も強く抱いていた想い、彼女にとっての騎士道となり得るもの。

 周りの騎士達に前以って聞いていた例の中には一切存在していなかった、自分でもどうしてこんなことが気になるんだろうと首を傾げてしまったそれは、勇者の強さに対する憧れや、自分も彼のように人々を守らなければという使命感といった在り来たりなものとは異なっていました。

 

 

「どうして勇者(こいつ)は、そこいらにいるような何の変哲もない連中の、魔王を倒して姫や世界を救うという使命と比べたら鼻で笑えそうなちっぽけで下らない悩みや願いに、いちいち付き合ってやっているんだろう」

 

 

 自分の騎士道は自分の力だけで得るべきだと、実年齢もあってささやかな意地を張ったモードレッドは、誰に相談するでもなく彼女なりに考え続けた末に、彼女なりの答えを出します。

 それは、考え始めた彼女の頭に最初に思い浮かびながらも、そんな単純なことではない、もっと深い意味や理由がある筈だと即座に斬り捨てて、巡り巡った末に戻ってきたものでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守る、もしくは助けると心から誓った筈なのに、それを成し遂げられなかった。

 あらゆる困難に悩まされていた国の中枢、それに最前線で対応する騎士という立ち位置の周辺では有り触れていた様々な実例を前にしながら、モードレッドは考えました。

 何かを助けるという行為には総じて限界があり、当人がどんなに望んでいたとしても、その枠から溢れ出してしまったものは諦めるしかないのだと。

 多数を救うために少数を切り捨てるという決断は、その人が非情だからではなく、本当は全て救いたいのを仕方なく割り切っているだけなのだと。

 

 

「誰だって本当は、勇者みたいに全てを守りたい。

 誰かが困って助けを求めていれば、それがどんなにちっぽけなことであっても応えてやりたい、喜んで笑顔になってもらいたい。

 やらないんじゃなくて出来ないだけ……本当に大変なことなんだ、あの父上でさえ難しいくらいに。

 勇者が強くて特別な奴だってのはその通りだけど、その意味は俺が最初に思っていたこととは少し違った。

 あいつの本当に凄いところは腕っぷしじゃなくて、世界を救うという絶対の使命に加えて、目につくものをありったけ抱え込んでも零さずにいられる容量のでかさなんだ」

 

 

(ちなみに、当の本人がこの考えを耳にすれば「いやいやいや流石にそれは考えすぎだから、たまたま知り合った人の困りごとや頼みごとをあくまで俺に出来る範囲で手伝っただけで何もかも全部助けるなんて流石に無理だから!!」と全力で首を横に振ることになるけれど、守ると決めたものをきちんと守り抜いてきた事実を知っている周りからの同意は得られない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとつの答えを得たモードレッドは、自身の騎士道をこう定めました。

 

 

「少数を犠牲にしてでも多数を救う……そう決めて実践している奴は既にたくさんいるんだ、そっちは任せておいて問題ない。

 だから俺は、そいつらが取り零しちまった少数の方を何とかする。

 父上や他の円卓の奴らが大勢を助けて、手が届かなかった連中を俺が何とかして、最終的に全部を守り抜くことが出来れば。

 ブリテンは完璧だ、父上だってきっと俺を認めてくれる」

 

 

 大のために小を切り捨てるという非情な判断を(見かけとしては)たやすく下すアーサー王が、敬われると同時に人ではない別の何かのように思われて畏れられていた状況でその考えに辿り着き、純粋に力になりたいと思っていたモードレッドは、ほんの少し何かが上手く噛み合いさえすれば、忠臣として、あるいは息子として、王の元で尽くすことが出来たのかもしれなかったけれど。

 残念ながら、誰に相談することもなく一人で考え、一人で答えを得たモードレッドには、自分が何を思って行動しているのかを周りと共有するという発想がすっぽ抜けていました。

 犠牲なんて冗談じゃない、王の決断なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに、命令や基本方針の逆張りで動き続けるモードレッドの姿は、多数のためならば躊躇うことなく少数を犠牲にする非情で完璧な王への不満と反骨精神の表れにしか見えず、王自身もそう受け止めていました。

 

 王の意向に従わない者を円卓に置く必要は無い、不穏分子を追い出してしまえという声も、かなりの大きさであったのだけれど。

 王に見捨てられ、絶望のさ中にあったところをモードレッドに救われた者達が、心からの感謝と忠誠を以ってモードレッドの下に集まっていました。

 多数を救うためには仕方がないと切り捨てられた少数派だった者達が、少しずつながらも確実に増えていった結果、いつの間にやら一大勢力と化していたのです。

 王への不審と不満を胸中に燻ぶらせながら、モードレッドが望んでいないからというただそれだけの理由で大人しくている彼らは、モードレッドの意向次第で躊躇うことなく反逆者となるであろうことは分かり切っていて。

 ただでさえ問題だらけな現状で、更に余計な敵を作り出すわけにはいかず。

 注意は怠らないものの、円卓に落ち着いて最低限のラインを越えないでいる間は余計な手出しは無用ということで、モードレッドの存在は王に近しい者達の間ではいつ火がついてもおかしくない爆弾のような認識をされていました。

 

 しかし、もっと下っ端の騎士達や噂を耳にした一般人達の間では、僅かな人達を決して見捨てなかった騎士の中の騎士として、モードレッドの人気と評判は鰻登りで。

 モードレッドがアーサー王の落胤で、王に認められて後継者となることを望んでいるという噂もどこからか広まり、あくまで噂だと念を押しながらも、それが本当であることと叶うことを願う民の声は、アーサー王の元にまで聞こえていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進む先しか見えていない自身の行動がアーサー王を暗に責め立て、円卓の騎士達に不穏なものを感じさせているとは知る由もなく。

 「見てるか父上、俺は頑張ってるぜーっ!」という純粋な気持ちで自身の騎士道を邁進していたモードレッドは、認められるどころか遠ざかっているような現状に首を傾げながらも、それで自身が為してきたことの是非を疑ったり、歩みを止めてしまうような落ち込み方はしていませんでした。

 助けた者達の笑顔や感謝の声といった分かりやすい成果が、父に認められること一択だった彼女の価値観に少しずつ変化を与え、アーサー王に認めてもらうためではなく、ただ単純に助けを求めている誰かのためにという気持ちが強くなっていたのです。

 ……いつものように、切り捨てられた弱者達を助けようと奮闘したモードレッドが、そのために我が身を賭したことで瀕死の重傷を負ったのは、そんな心境の変化を自覚し始めていた頃のことでした。

 

 死の淵を彷徨いながらうわ言で父を呼ぶモードレッドの姿に、モードレッドの部下達は悔しさと遣る瀬無さに涙を流しました。

 モードレッドの傍で、彼女の本心に触れる機会が多かった彼らは、モードレッドの行動が世間で思われているような王への反逆ではなく、王の力の及ばなかった部分を補って、息子として認めて褒めてもらいたかったからであることを正しく認識していました。

 国のため、多数のためと、自分達のことをあっさりと見捨てた王への信頼や忠誠なんて消え失せているし、反逆だって上等だけれど。

 そんな自分達を諦めずに助けてくれたモードレッドが、王の愛を、王の元で力を尽くすことを求めているのならば、全力でそれを手助けしよう。

 そう誓っていた彼らは、実際に行動を起こしました。

 文句と不満がこみ上げそうで、会うどころか顔を見ることすら嫌だった王へと、命を賭した直談判に向かったのです。

 

 それを叶えてくれるのならば、自分達全員の命と引き換えにしても構わない。

 自分達のことを反乱分子として危惧していたのは分かっているし、実際にそれは正しいのだから、一掃してしまえるのは望ましいことの筈。

 それ程の覚悟と対価を引き換えに望まれたのは、普通に考えれば吊り合うとは到底思えないような……しかし、モードレッドにとっては心から渇望し、自身の全てを賭けてでもと願っていたこと。

 死にかけているモードレッドを見舞ってやってほしい……父としてではなく王としてで構わないから、優しい言葉をかけてやってほしいと。

 

 その場に居合わせた者達は、それを叶えてやってもいいのではないかという考えを見せました。

 それで後顧の憂いを無くせるのならばと打算的に考えたところはあったけれど、それ以上に、モードレッドが本当に死にかけていることを知っていたから。

 王の考えや方針に歯向かうという騎士としてあるまじきスタンスや、不穏分子の筆頭として国を脅かしかねないという事実を問題視していたとしても、弱者を決して見捨てないモードレッドの考えや行動自体は間違っていないと思っていたし。

 自分達には取れなかった選択をして、出来なかったことを成し遂げて人々の尊敬を集めるモードレッドのことを、個人的には認めていたから。

 

 そんな空気の中で、いつものように涼しげな表情で立つアーサー王の内心は、かつてない程に追い詰められていました。

 何故ならば、ここで彼らの要望に応えれば、様々なものを認めることになってしまうと思ったから。

 身に覚えのない不義の子であるモードレッドを、彼女がこれまで為してきた(じぶん)への反逆行為の正しさを。

 それしか無いのだという現実を前に、我が身を切られるような思いで許容してきた数多の犠牲が、王としての正解だと信じて行なってきたことが、実は間違っていたのだと。

 自身が王として立つための芯と言えるものを揺るがすような選択を前に、頭の中が真っ白になったアーサー王が無意識に取ってしまった行動は、その場から逃げ出すことでした。

 

 青ざめた顔色で、引きつった表情で、これ以上この場に居ることが耐えられないと言わんばかりの駆け足で。

 そんな無様な真似だけは晒すまいと、最後の理性がかぶせた王ととしての振る舞い。

 死の床にある恩人のために、顔も見たくなかった王へと下げたくもなかった頭を下げながら、命を懸けて懇願する……『騎士の王』と讃えられる者ならば、そうで無くてもほんの少しでも人の心というものがあれば震えずにはいられない筈の姿を、熱の失せた冷たい眼差しで一瞥するだけで、あっさりと背を向けて去っていく。

 当人からすれば一生懸命に取り繕った結果であるだけの後ろ姿は、『知ったことか、いっそそのまま死んでしまえ』という、機構に徹するあまりに人ではなくなったとしか思えないような王の冷徹な声を、居合わせていた全ての者の頭の中に響かせました。

 この時、この瞬間のアーサー王の選択と行動が、その後の展開を左右する大きなターニングポイントであり、円卓に走った最も大きな亀裂であったのだという考察が、後世において様々な形で行われることになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶え間なく襲ってくる熱と痛みに意識を暗転させていたモードレッドは、必死になって自身の名を呼ぶ者達の声と、自身の手を握る優しい温もりに呼び起こされました。

 目を開けることすら出来ない程に弱ってしまっている状態で、数少ない判断材料である聴覚が、辛うじて状況を教えてくれます。

 モードレッドの身が危ういと聞きつけた王が見舞いに来て下さったと、今手を握っていると、あなたの献身と功績を王は喜んでおられると。

 だから頑張って、死なないで下さい、生きて下さいと涙ながらに訴える声に釣られるように、閉じたままのモードレッドの瞼から涙が溢れ出す。

 喜んでもらえた、励ますことが出来たと思って安堵した一同は、次の瞬間、浮かれ気分を叩き壊されました。

 モードレッドが震える口で発したのが、王が来てくれたことへの感謝や感激ではなく、自分達に対する謝罪の言葉だったから。

 

 王の手の形や温もりがどのようなものかなんて知る由も無いけれど、それが『男』の手では無いことだけはモードレッドには分かっていたのだということを、励ますどころか残酷な現実を突き付けてしまったと打ちひしがれる一同は知る由もなく。

 力の入らない体で、開かない瞼から音も無く涙を溢れさせながら、ただひたすらに「ごめんな」と呟き続けるモードレッド。

 騎士として王に、息子として父に見捨てられ、生きる意志と希望を失ってしまった(と思った)モードレッドを繋ぎ止めるべく必死になって声を上げる一同は、そのことに夢中になるあまりに気付くことが出来ませんでした。

 モードレッドが口にする謝罪の意味が、「(こんな馬鹿な真似をさせてしまって)ごめんな」ではなく、「(父上に認められることばかりに夢中になって、お前達みたいなのがずっと傍にいてくれたんだってことに気付けなくて)ごめんな」であったことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、モードレッドは奇跡的に回復し、自身のことを明確に切り捨てたアーサー王へとついに本格的な反逆を始めるかと、キャメロットは一時騒然となったのだけれど。

 そんな危惧や思惑をよそに、モードレッドはいつの間にか、一人姿を眩ませていたのでした。

 『騎士としても息子としても至らぬ身でした、陛下の治世が続くことを祈っております』という、決別とも取れるような一言のみを残して。

 






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