「え、昼休みから移動開始なの?」
昼休みも早々に、いそいそと支度を始めたE組の様子を見て、悠人は目の前の菅谷に声をかける。
「あぁ、『E組は全校生徒の規範となる様、どの他クラスよりも先に集合して整列していなければならない』ってルールがあって」
「
「そう。いつもの」
悠人が納得した声を出し、菅谷もそれに応じる。
「まぁ、ウチは本校舎から離れてるから休憩時間から出発しないと間に合わないんだけどな」
「あ、そっか」
一頻り会話を終えて、他のクラスメイト同様表に出て、揃ってスタートする。
事件(……というか事故)が起こったのはその時だった。
恵美のいる女子班がボロボロの橋を渡り切り、悠人が千葉、三村、岡島に続いて足を踏板に踏み出した途端、老朽化していて、重みに耐えきれなかった木製の橋桁がポッキリとへし折れ、4人揃って川へ投げ出されたのだ。
『うわーっ!』
男子4人組の声が上がり、女子勢が振り返るも時すでに遅し。4人とも水中に没した後だった。
しかし、そこは元水泳部。着衣水泳という初めての経験の中でも、悠人は速やかにクロールに移って、あれよあれよと言う間に岸へ辿り着き、瓦の礫の上に身を投げ出す。
「あぶねぇ……」
『悠人(君)!』
と女子勢が驚いた声を上げるも、その声は三村の叫びにかき消された。
「岡島ァ~~!」
悠人共々女子全員が、声がした方へ眼をやると、両手を上げた状態で顔面蒼白の岡島が、クルクルと回りながら流されてくるところが見えた。
三村は右手で放心状態の千葉を支え、左手を伸ばして固まっている。
「回収するよ」
『オッケー!』
速水が音頭を取り、女子4人がかりで岡島の救出を始める。
「あー、死ぬとこだった。ありがとよぉ!」
救出され、一言呻いたあと、鼻の下を伸ばしながら二の句を継ぐ。
「このまま流した方が正解だったかも」
直後に速水がポツリと呟き、岡島はうつむく。その沈黙に居た堪れなくなった岡島は、驚異の回復力で飛び上がると、そのまま飛び出していった。
「さ、先に行くわ!」
今にして思えば、あれが悲劇の始まりだったに違いない。
(なんか、脳内に胡散臭いドングリが一瞬割り込んできた……)
『キャーッ!』
森の中に甲高い悲鳴が響く。原・不破・矢田の女子3名が、蛇の大群に絡まれていた。
「なんで藪なんかつついたのぉ!」
「間違って蹴とばした枝が藪に突き刺さっただけでしょ!?」
「藪をつついて蛇を出すとは、まさにこのことだね」
『原さん他人事すぎっ!?』
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
と、そこにどこからか聞こえてくる声。岡島だった。
蛇の集団のど真ん中を勢いで突き抜けてくかと思われたが、運悪く木の根っこに足を取られ、姿勢を崩して体が宙に飛んで行く。
さらに運の悪いことに、落下地点は蛇の飛び出してきた藪の中だった。
「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!」
『お、岡島くーん!?』
3人が声をかけたが、痛みに悶えながらも立ち上がった岡島の全身には、何匹もの蛇が絡みついていた。
しかしそれに目もくれず、川の水を滴らせながら飛び出していく岡島。
3人は、蛇の完全に散った道の中程で立ち尽くしていた。
そこに通りかかる悠人。
「ん、どうかした?」
「藪をつついちゃって出した蛇が、飛び込んできた岡島君にくっついていった」
不破がさらりとえげつないことを口にする。
「大丈夫かアイツ……」
「何かあったの?」
「さっき川に流された」
『川に流されたんだ………………
口を揃えて驚いた声を出す3人。
「飛び出してったから追いかけてたら、岡島の悲鳴が……」
そこまで言うと、遠くから微妙な地面の振動と
『お、岡島……』
巨大な落石に追い立てられるように、見当はずれの方向へ走り去っていった岡島の姿を見て、誰からともなく名前を呟いていた寺坂組のところに、急いでいる様子の悠人が追いつく。
「岡島は?」
「びしょ濡れで蛇くっつけたままあっちへ走っていったわよ」
「というかアイツに何があったんだよ」
「ちょっとした事故が重なって」
『
「あっちは遠回りになるから、先回りできるよな?」
「たぶんできるわよ」
立ち話も早々に、先回りに飛び出していった悠人。
どんどん進むにつれ、高度は下がり、
岡島の悲鳴も聞こえなければ、わずかに感じていた地面の振動も、途中で一度強くなってから弱まってきたので、先回りできたと判断した。
「誰だよ!蜂の巣刺激したの!」
今度は岡島ではなく、杉野の声が森の中に響く。そこでは、杉野・渚・菅谷・神崎・茅野・奥田が、今度は蜂の大群に襲われていた。
「うおっ!?あぶねっ!」
『何しに来た悠人!?』
「というかヤバイ!刺される!」
「キャッ!」
「神崎さん!?」
「動いたら余計に狙われるぞ!ゆっくり群れから……」
なんかてんやわんやだな、と思って場を収めようと声を出した悠人だったが、視界の端に
『お……岡島………』
「アイツ、大丈夫かな……なんか凄いことになってたけど……」
杉野がボヤく。その横に立つのは渚と悠人。蜂の群れは全て、
杉野は野球で鍛えた体力、渚と悠人は気配を消すことで体力の消耗を抑えて、辛うじて体力を残していた。
「落石はなんとか振り切ったっぽいな……」
「落石って……」
「川に流されて、蛇の大群のいる藪に突っ込んで、落石に追い立てられて、いまさっき蜂の群れを引っ張ってった」
「おいおい、アイツそのうち死ぬぞ……」
「悠人君は、どうしてここまで来たの?」
「あぁ、最初に橋が落ちたのに巻き込まれて、それで大丈夫なのか不安になって追いかけて、んでもって落石のところで岡島が遠回りルートの方行ったから、急いで先回りしたらこんなことになったというか……」
「そうだったんだ……」
「あー、急いだから疲れたわ」
「お、おう……」
そう言ってから、地面に横になる悠人。
「やーもう、蜂とかカンベンしてぇ……」
「でも、岡島が全部持ってったな……」
「岡島、厄払いでも受けた方がいいんじゃ……」
そこへ涼しい顔して現れる烏間先生。流石陸上自衛隊内でも最強と目されるだけはある。この程度では汗もかかないのだろう。
「今のペースなら、充分間に合う」
「ちょっと~!アンタ達~!」
山下り双六を、1D100のダイスで100の目でも出したかの如く、思い切り飛ばして下ってくるビッチ先生。
「休憩時間から移動なんて……聞いてないわよ……」
始業のベルは、今日もなる。
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