「……ば賞金百億だし」
「百億あれば、成績悪くてもその後の人生バラ色だしね」
さっきのキャラ変化有り分身授業でマシンガンのように浴びせられた内容を整理し、殴り書き用ノートから清書用ノートに書き写していると、矢田と中村の声が聞こえてくる。
「そ、そういう考え方をしますか!?」
慌てたような声色で殺せんせーが割り込む。
「ねぇ悠人。雲行きがちょっと怪しいんだけど」
右から恵美が囁く。頷きだけ返して、作業は続けたまま次の言葉に耳を澄ます。
「俺達、エンドのE組だぜ?殺せんせー」
「チッ、余計なことを」
小さく呟く業。苛立ちが伝わってくる。恵美の勘の鋭さは健在か、と作業を止めて教卓に視線を向ける。
「テストなんかより、暗殺の方がよっぽど身近なチャンスなんだよ」
「なるほど。よく分かりました」
真面目な相*1になって真面目モードの声を発する殺せんせー。急な展開に、誰もついていけていない。
「今の君たちには、暗殺者の資格がありませんねぇ」
そして、陰になって見えなかった、バツ印を浮かべた顔をして、校庭に出るよう言った。
「急に校庭に出ろなんて、どうしたんだ殺せんせー」
「さぁ?」
校庭のふちに立つE組のクラスメート達。
閑話休題。
『第二の刃を持たざる者は…暗殺者の資格なし!!』
というお説教*2が終わったところで、いよいよ本題。
1学期中間テストの日がやってきた。
一時間目:数学
(なんだ、全国区に名を轟かせる椚ヶ丘もこんなものか。他愛ないな)
分配法則*3、展開公式、共通因数をくくり出して展開公式の逆、と次々に平らげていく。
言うなれば、七面鳥にアサルトライフルを撃っているようなものだ。*4
周りが一瞬面くらっていた問4も、答えは見えている。
(各項の形を整理して、分母の有理化をすれば、全て$\sqrt{3}$の係数計算になる。次の問題次の問題)
二次関数の場合、定義域が軸を跨ぐなら値域の上限か下限は頂点まで下る*5のに注意して、完了。
次は円周角の性質と接弦定理を使えば普通にわかる。
次は中点連結定理を数回繰り返すだけ。
(よし、2枚目に突入。時間は……まだ35分あるな)
ここまで僅か10分という猛ペースで解いてきたが、悠人の集中力は途切れない。
(まぁ、形式的に係数$a$を求めるか……んでもって、点$A$の座標を式に代入して、$p<0$の条件から負の方の値を取る……と。次は……$AB//CD$だから$AB$の傾きと、点$C$から$CD$の式が得られて、連立方程式を解いて点$D$の座標は分かる、っと)
解答用紙にシャーペンを奔らせ、自身の思った解法を書き込んでいく。
(これは頂点を共有する三角形だから、底辺の比がそのまま面積の比になって、あとは手の運動)
と、1分程度で解を求めて解答用紙に書き込む。
問11.$f(x)$を求めよ。
3点が与えられているから、$y=ax^{2}+bx+c$にそれぞれ代入して$a,b,c$についての連立方程式として解くという手もあるけど、
$x$切片が与えられているんだから、$y=a(x-p)(x-q)$の式の$p,q$に切片の値を代入して、$a$についての一次式に最後の3点目の座標を代入するのが楽だな、とあたりをつけて計算していく。
(あれ、ここってテスト範囲だった?……まぁいいか)
問12.$g(x)$を求めよ。
(はいはい、平方完成して出しますよ)
と一瞬で式を求める。
(残り2問は最小値と最大値か。場合分けして……っと。…………これでよし)
と、全問解き終わって顔を上げる。ここまで25分。残り20分残っていた。
1日目のテストが終了。2日目の朝がやってきた。
「悠人、眠そうだけどどうしたの?」
「昨日、テスト範囲が大幅変更くらってたから、ヤマ張ってテスト勉強をやり直してた。一夜漬けだけど」
「おいおい、大丈夫かよ」
登校中に恵美と話していると、後ろからやってきた前原が話に入ってくる。
「大丈夫。1限目の問題を秒で解ききってから残り時間で寝る」
「無茶言うなよ」
「まぁ、昨日の数学は満点取れそうだし、それ以外は別にどうなっても構わないんだが……」
「そこに命かけてるんだ……」
「先生の責任です……」
黒板の方を向いたまま、うつむいて声を発する殺せんせー。テスト返却の後、深刻そうな顔*6をして沈んだ声を出していた。
テスト範囲の変更に追随できなかったE組は、その殆どがトップ圏外へはじき出された。
「この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです……君たちに顔向けできません……」
ここに来て、1人ピンピンしていた業がナイフを構え、殺せんせーの後頭部へ投げつける。
「いいの?」
と言い、立ち上がって殺せんせーへと近づいていく。
「顔向けできなかったらさ、俺が殺しにくんのも見えないよ?」
その手に返却されたテストが握られているのに気付いた悠人も立ち上がり、その後をつける。
「カルマ君!先生は今、落ち込んで……」
そこまで言って、渡された解答用紙を見て息をのむ。
「俺問題変わっても関係ないし」
「俺も」
と言い、悠人も問題を渡す。
国語:92点
数学:100点
社会:98点
理科:96点
英語:97点
5教科計:483点
学年:8位
「2人揃って数学100点かよ……」
「なんでそんな点取れるんだよ……」
『目の前にある数字を計算するだけだから』
「えっ……」
異口同音に答える悠人と業。思わずお互いを見交わすが、業の目力に堪え切れなくなった悠人は肩をすくめる。
「鳴り物入りで椚ヶ丘に来てるんだから、このくらいは取らないと」
「悠人のバカぁ!」
悠人が恵美に突っ込まれている傍ら、業は殺せんせーにケンカを売っている。
「ここで逃げるってことはさぁ、ただ殺されるのが怖いんじゃないの?」
「なーんだ、殺せんせー怖かったのかぁ」
『それなら正直に言えばよかったのに。怖いから逃げたいって』
『ねー』
怒った殺せんせーは、普段の顔色に戻ってからこう言い放った。
「今度は期末テストで、奴らに倍返しでリベンジです!」
何がおかしかったのか、誰かが噴き出す。瞬く間に笑いは全体へ広がり、さっきまでの暗い雰囲気は消え去った。
始業のベルは、明日も鳴る。
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