魔王倒したけどカズマが行方不明になった件 作:誰かも知れない
身体がふわふわとして、心許ない。
視界は真っ暗で何も見えない。
「(懐かしい感覚ね)」
そのまま導かれるように歩き続けると、目の前に大きな光が──
「お帰りなさい、アクア先輩」
そこは見慣れた白い部屋。
そしてニコリと笑顔を浮かべ佇むエリス。
そのことが示す事実はたった一つ。
「私、死んじゃった…?」
「えっ?」
エリスのこの反応、図星ってことよね?
「なんでよー!女神なのに!私女神らのにッ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい!」
「これが落ち着けるもんですか!ていうかパーティでリザレクション使えるの私だけなのに、私が死んだ場合どうやって生き返ればいいのよ!?」
「いや、あの、別にアクア先輩は死んでしまったわけでは…あっ、ゆっ、ゆっらっさっなっいっでっくっだっさっいっ!」
私は掴んでいたエリスの両肩を放さずにさらに力を込める。
こっちは緊急事態なのっ!
なんたって魔王軍と戦闘中なんだから!
「どうするの!?ねぇどうするのッ!?まだこっちは魔王軍と戦闘中なのよ!?回復役であるこの私が抜けたら勝てっこなんてないじゃない!返してよ!ねぇ返してよッ!私を元の場所に返してッ!!」
「ちょっ、ちょっと、やめっ、でちゃうっ!お腹の中のものでちゃちいますからぁッ!」
エリスがなんか言ってるみたいだけど、何が言いたいのか全っ然わかんないわ!
ていうか今はエリスの言うことなんか気にしてる場合じゃないの!
「早くッ!さあ早くッ!」
「まってッ、ほんとにッ、おちつい…うぷっ」
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「ですから、アクア先輩は死んでしまったわけでは無いんです」
なぜか口元を抑えながらおかしなことを言うエリス。
まさか私が揺らしすぎておかしくなっちゃったのかしら?
「そんなはず無いわ!だってここに来る直前に聞こえたのよ?ものっそい大きな爆発音!あれは爆裂魔法の音ねッ!女神の私が言うんだから間違いないわ!」
もうすっごい音だったんだから!
あまりにもびっくりして転びそうになったなんてことは、恥ずかしいから言えないけど!
「確かにそうですが…」
「じゃあもうその爆裂魔法に巻き込まれたに決まってるじゃない!ほらやっぱり死んでる…っていうか爆裂魔法ってことは私、めぐみんに殺されたの!?私めぐみんには何もしてないわよ!?なんで私仲間に殺されなきゃ行けないのよォッ!?」
確かに迷惑かけたり根に持たれるようなことはしたことあるかもしれないけど、何も殺すことはないじゃない!
私、めぐみんのこと仲間だと思ってたのにぃ!
「違います!違いますから!爆裂魔法を打ったのはめぐみんさんではありませんし、それで死んだのはアクア先輩ではありません!」
「ほかに誰が死んだっていうのよッ!?」
「魔王です!魔王が死んだんです!それに爆裂魔法を打ったのはめぐみんさんではなくカズマさんなんです!」
「へっ?…魔王?」
「はい魔王です」
「…ッ、いやいやいやカズマは冒険者よ?爆裂魔法なんて使えるはずが…」
「魔王を倒す直前に習得したようですね。スキルポイントはかなり余ってたみたいですから」
「えっ、じゃっ、じゃあまさか、ほんとに…?」
「はい!カズマさん、ひいてはアクア先輩達は無事魔王の討伐に成功されました!」
「っしゃあああああああああああああああああああ!!」
「…ですが、その」
「さっすがカズマさん!やれば出来る子だと思ってたわ!まあ女神であるこの私を連れているのだから当然の結果ね!それよりも魔王倒したんだがら報酬金凄い額になるわよね!?…宴会よ宴会!大宴会開催決定ねッ!シュワシュワ飲みまくるわよーッッ!!」
最近習得した新しい宴会スキルもお披露目しなきゃね!
待ってなさい私のファンの諸君!度肝抜いてやるんだから!
…あ、でもおひねりは受け取らないからそこんところよろしくね?
「あの、私の話を…」
「さあ早く来なさいカズマッ!魔王討伐の報酬で私を特典に選んでさっさと帰るわよッ!!」
…まさか日本に帰るなんて言わないわよね?
ちゃんと私達のお家に帰るわよね?
「ええと、そのカズマさんのことなんですが…」
「…なによ?カズマがどうかしたの?」
「その、爆裂魔法を打ってその爆裂に巻き込まれた後亡くなったはずなのですが、どうも消息が分からないんです」
消息が分からない?
…この子何言ってんのかしら?
「死んだんならここに来るはずでしょ?待ってたらそのうち来るわよ」
「いえ、そのカズマさんの魂が見当たらないんです」
「…ッ、なっ、なら実はまだギリギリ生きてて瓦礫の下にでも埋まってるんでしょ!虫の息のまんまじゃ流石に可哀想だから早く掘り起こして上げないと!」
ステータス自体は並以下のカズマのことだ、きっとゴキブリ並の生命力を持つカズマでも苦しいに違いない。
早く助けて上げないと!
「…それはあり得ません。爆裂魔法を至近距離で受けたのですから、髪の毛一本さえ残ってはいないでしょう」
「な、ならカズマはどうなったっていうのよッ!」
「原因はわかりませんが、もはや完全に消滅してしまったと考えるほかないかと…」
しょうめつ、ショウメツ…消滅?
「…ッ…そんな…!」
「…アクア先輩」
「…そ、そんなわけないじゃない!!どうせクズマさんのことだからどっかに隠れて私達の反応見て楽しんでるに違いないわ!!出てきなさいカズマッ!!今なら私のゴッドブローで許してあげるからッ!!カズマッ!カズマさー」
「アクア先輩ッ!!いい加減に」
「──じゃあなによッ!!!カズマの努力は無駄だったっていうわけッ!!?」
「…ッ、無駄だなんてそんなこと」
「だって無駄じゃないッッ!どんなに頑張って魔王を倒してもカズマが消えちゃったら全部無駄じゃないッッ!」
「消えちゃったら、カズマは報酬も賞賛も名誉も魔王討伐のご褒美も酒場でのチヤホヤもなにもかも手にできないのよ?」
「その上残された私達の気持ちはどうしろっていうの!?こんなの無駄以外何でもないじゃないッッ!」
「アクア先輩!!」
「それとも何!?天界がどうにかしてくれるわけ!?カズマを返してくれるわけッ!?」
「た、確かにこんな状況では、上に掛け合ったところでどうにもならないかもしれません…ですが」
なんかエリスはグチグチ言ってるけど、天界がたった1個人のために力を割くことはないと分かってる。
だからこそ、ここに居る意味は無い。
「──もういいわ、私帰る」
「あっ、だっ、だめです!まだ話は終わって…」
「もういいって言ってるでしょッ!…もう自分でどうにかするわ」
「許可無く勝手に降りたら怒られちゃいますよ!」
「そんなことどうだっていいわよ!だれがこんなとこ戻ってくるもんですかッ!」
「まっ、待って!」
エリスの私を止める声が聞こえるけど、もう立ち止まれない。立ち止まらない。
日常を、カズマを取り戻すために。
「…」
「行っちゃいましたね…」
「ほんとに、まだ話があったのに…」
「でもまあいいです。アクア先輩はまた戻ってきますから」
「必ず、またここに戻ってきます」
「ですから、そのときには"共犯"になってもらいますからね…アクア先輩」
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「だーはっはっはっ!!酒だ!もっと酒を持ってこいッ!」
俺は今、まさしく至福の時を味わっている。
何も気にせずに!息をするように何かをやらかす厄介なアイツらもいないこの場所で!白昼堂々酒を飲める!
なんて気分のいいことだろうか!
そしてイリアスもそんな俺を止めることは出来ない!
何故なら…
「そーらそーらぁ!酒をもっれこーいッ!…ヒック」
本来俺のストッパー役のイリアスもまた酒に酔っているからである!
と言うのもイリアスが渋々俺の要望に答えてシュワシュワを持ってきた(たまたまイリアスの後輩の天使がたんまり持ってた)のだが、イリアスにとっては初めて見る酒だったためか
「ちょっとどんな味か気になるなぁ…」
とかなんとか言い始めたため、仕方なく一口飲ませてやったらもうすぐにどハマり。
あれか、女神は皆シュワシュワの虜になる決まりでもあるのか。
というわけで、1時間と経たない内にこの状態になってしまったのである。
こいつ、アクア並の駄女神力を隠していやがったな。
だがそんなのは今の俺にはどうでもいいことだ。
なんせ俺、今1ヶ月の長期休暇中だから!
あの貧乏暮らしとアクの強すぎるパーティのメンバーから解放された今気分は上々!ヒャッホー!
「だーいたいなんで俺は毎回毎回こういう面倒な事態に巻き込まれなきゃならねーんだよ!?どいつもこいつも厄介な問題ばっか起こしやがると思ってたら、今度は天界がやらかすとかさ!どうしてそうなるんだよッ!…酒でも飲まんとやってられんわ!」
「そーらそーらぁ!もっと言ってやれーッ!…ヒック」
「その上アイツらすーぐ俺のこと頼ってくるんだよ…なんでだよ!?自分でどうにかしてくれよ!俺なんも悪くないだろうがッ!!…まぁ、たまぁに俺が悪いこともあるけども!ほぼほぼお前ら悪いだろ!」
「そーらそーらぁ!もいっちょ言ってやれーッ!…ヒック」
「その癖パーティのリーダーであるこの俺を軽んじやがって!!だぁれがヘタレクソニートじゃあッ!!お前ら俺がいなかったらどうにも出来んだろうがッ!!ステータスはいいのに頭脳がチンパンジー並の駄女神とか!天才の極みみたいな能力と魔力を有する紅魔族なのに爆裂魔法しか打たないロリっ子とか!攻撃力、防御力ともに一級品なのに自分の攻撃は当たらず敵からの攻撃には興奮するどM女騎士とか!お前らだけじゃ何も出来んだろ!?もっと俺を敬えッ!!」
「いーぞいーぞッ!なんらうちの上司みらいなこといっれるけどいーぞいーぞッ!…ヒック」
「つかめぐみんは俺を惑わそうとすんな!毎回期待させておいてお預けされんのはもう懲り懲りなんだよッ!!あとダクネスもだ!お前見てくれはいいんだから、その豊満な身体で毎度毎度夜這いされたら堕ちちゃいそうで怖いわッ!」
「そーらそーらッ!カズマさんはどーてーなんだぞぉ!もっと気遣ぇ!…ヒック」
「そーだそーだッ!童貞舐めんなッ!…ってお前が言うなお前がッ!!」
怒りに任せて酔っ払いの頭を手をグーにしてグリグリと捻りながら潰そうと試みる。
やっぱり今の俺でも許せんもんは許せんわッ!
「いらいッ!いらいれすーッ!!」
「うるせぇ!俺を童貞とイジくった罰だ!甘んじて受け入れろッ!!」
「ひええええええええッ!!……ぐえっ」
ひとしきりグリグリした後、満足したので放してやった。
解放された女神は痛む頭を抑え、頬を上気させ、涎を垂らしながら床をバタバタとのたうち回る。…なんかやらしいな。
アクアと違ってこいつ、まだヒロイン力があるぞ…。
そう思うとさらにエロいッ…ゴクリ。
このムラムラした気持ちをどうにかしたいが、コイツからまたパンツを毟り取ったら酔と痛みが合わさって暴走しそうだし…どうしたもんか。
「…あの、イリアス先輩大丈夫ですか?」
「ぬううううううん…いらい」
「ええと、頭冷やすための氷でも持ってきましょうか?」
「ぬううううううん…お願いしますれす」
…イリアスの後輩、君に決めた!
「なぁ、あんた」
「…私のことですか?」
「そうだ、あんたのことだ。…なぁ、俺と賭け事しようぜ」
「えっ、いや、そんな突然…」
「いいから、俺と賭け事しよう」
「いや、あの、私一応天使ですのでそういうことは…それに今氷取ってこないと」
「…うるせぇ!いいからやるぞ!俺がお前にスティールをしてパンツを取れたら俺の勝ち、パンツを取られたらお前の負けなッ!」
「それどっちも私の負けなんですが!?ていうか普通にセクハラですよねこれ!?」
「天界にセクハラもパワハラもねぇ!いいからヤラせろ!」
「なんか言い方がものすごく卑猥なんですがッ!?そもそも魔法使えなかったはずじゃ…」
「こっちの世界にもスティールはあったから使えたんだよ!この転がってる駄女神のパンツも毟ってやったしな!つかなんでテレポートは無いんだよ!おかげで帰れなかったじゃねぇかッ!」
「なにその理不尽な怒り!?私のせいじゃないですし、私じゃどうにも出来ませんから!」
「だーッ!もうゴチャゴチャうるせぇ!もうヤるからな!あと3秒したらヤるからな!」
「あなた酔っ払いすぎです!絶対後悔しますからッ!!」
「今やんない方が後悔する!」
「もう通報されても文句言えないですよッ!?」
「…それではいきまーす、3、2…」
「だめですッ!やめてくださいッ!!イリアス先輩も止めてくださいッ!!」
「ぬううううううん…氷、くだちい」
そう言って後輩にしがみつく泥酔いイリアス。
ナイスだ!そのまま押さえつけろ!
「ちょっと、離してください!!」
「…1!…『スティール』ッッ!!」
──その瞬間、イリアスの後輩の顔が真っ赤に染まる。
「ひゃああああああああああああああッッ!!」
手元を確認すると、それはまごうこと無き─パンツ!
「だーはっはっはっ!お宝二枚目ゲットおおおおッ!!」
「なんでそんなパンツばっかり取れるんですかぁッ!私のパンツ返してくださいッ!」
「やーなこったッ!うおらああああああああッ!!」
「きゃああああああッ!私のパンツふり回すのやめて!やめてくださいッ!!」
「ぬううううううん…お水も、くだちい」
…異世界生活、最高だぜッ!!
カズマさん、絶賛異世界生活堪能中。