Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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月の姫、花の騎士

1998年6月

現在俺達トイ・ボックスがいる場所は、日本の大阪湾に浮かぶ人工島、関西防衛島基地である。俺の元居た世界では、ここには関西国際空港があった。

だが、驚くのはその大きさだ。

だいたい関西国際空港の四倍の大きさがあり、この場所には海軍、本土防衛軍、斯衛軍からなる西日本並びに帝都防衛の重要な拠点でもある。しかも、琵琶湖と運河をつなげているためここから、戦艦をすぐに移動させることも可能となっている。

俺達がいるのは基地のほぼ中心の司令部である。まぁ、中に呼ばれたのはレオと護衛の数人で、俺達トイ・ボックスは廊下で待たされている。

俺達がここに来た主な理由は、何でも日本に渡した新兵器の状況確認と他にも色々と交渉するらしい。まぁ、表に出せる兵器なのだから俺達には必要の無い物か、それ以外の思惑があってのことなのだろう。

俺達が呼ばれたのは、日本の最新戦術機と模擬戦をさせて貰えるからなのだそうだ。

今の日本帝国の実力を肌で感じることが出来る貴重な機会を作って貰った訳だ。

因みに、ここでは俺達はネフレの開発部門に携わるレンタル国連軍の衛士としてきている。

「はぁ、後何時間待たされるのやろ・・・。」

俺達はかれこれ、五時間は待たされている。

「もうッ!そんな事言っちゃダメでしょ!」

そんな愚痴を零す俺にリリアが注意してきた。

「まぁ、良いじゃないか和真。俺達はこの後、日本の最新戦術機と戦わせて貰えるのだから、しかもまだ実戦配備されていない戦術機と戦える機会なんてそうそう無いことだぞ。つまり、俺達はラッキーだってことだ!その幸運のための苦労ならこれくらい我慢しないとな?」

俺達が話し込んでいると扉が開き中からレオが姿を現す。

「やぁ、待たせたね!」

レオの様子を見るとどうやらうまく行ったみたいだ。

「それじゃ、お待ちかねの模擬戦をしに行こうか!」

そのレオに俺は質問した。

「社長!」

「なんだね、和真君?」

「今回の模擬戦、勝ってしまっても構わないのですか?」

「もちろん!我々の力を日本の偉い人達に見せつけてやると良い。」

「「「了解」」」

俺達は待ってました!と口元を歪めレオに返事を返した。

 

俺は、今この関西防衛島基地の演習場近くにある格納庫にいる。

俺の前には、日本帝国斯衛軍の戦術機になる武御雷が聳え立っている。

その姿は、まさに鎧、嫌甲冑と言った方が良いか・・・。

全身がカーボンブレードで埋め尽くされており、近づく物は切り裂くと無言の圧力を放っている。

戦車級にとっては悪魔となるであろう戦術機だ。

しかも、近接戦闘に特化したこの戦術機はBETAと味方が入り乱れる混戦状態の戦場でその真価を発揮するのだろう。

俺は、その禍々しくも美しい姿に見とれていた。

「カッコいいでしょ!こんな戦術機は他所では作ってない筈よ?」

俺は、声を駆けてきた方向に振り返り階級章を確認して慌てて敬礼する。

相手の人は、それに自然な流れで答礼を返してきた。

相手の人を良く見る。

その人はおそらく俺の対戦相手になるのだろう、衛士強化装備を身にまとっている。

その強化装備が零式強化装備なのがこの人が、斯衛軍なのだと知らせてくる。

しかも強化装備服の色を見るにこの人は、五摂家の人間だ。

五摂家とは、煌武院、斑鳩、斉御司、九條、嵩宰の五つの家の者達をそう呼ぶ。

この中から、日本の全権を任される政威大将軍が選ばれる。

俺が元居た世界の日本では、考えられない事だが、この世界の日本ではそれが当たり前なのだ。

「はっ!余りの姿に少々見とれていました。」

「あははははははっ!!余りの姿って、確かに見た目怖いけど!」

つい本音が出てしまった俺は、慌てて言い繕う。

「で、ですが!鬼の様な姿は泣いている子も泣き止む程の威圧感を・・・、あっ。」

「ハハハハハハハハハハハっ!!もうダメ、お腹痛い~~!」

俺の目の前で、腹を抱えヒーヒー言っているこの人が、俺の対戦相手なのだろう。

俺はその時、自己紹介をしていなかったことに気が付き、慌てて自己紹介した。

「あ、あの~自己紹介させて頂いてよろしいですか?」

「は~は~っ!あぁ、そう言えばまだだったわね。私は帝国斯衛軍所属 嵩宰 恭子(たかつかさ きょうこ)少佐よ。今は、この武御雷のテストパイロットをしているわ。」

「はっ!自分は国連太平洋方面第九軍所属、五六和真少尉です。今はネフレでテストパイロットをしています。」

「あなたが、私の対戦相手ってことね。お互い最善を尽くしましょ!それじゃ、五六少尉、また後で!」

「はっ!」

嵩宰少佐は、俺にウインクを一回しその場を離れて行った。

俺は、五摂家の人間はもっとお堅い人達だと思っていたが、どうやら違うらしい。

もう一度、武御雷を見上げその姿を目に焼き付け俺もその場を後にすることにした。

 

俺は、ジュラーブリクE型に乗り武御雷と対峙していた。

今回は、格闘戦の模擬戦なのでお互いに突撃砲は持っていない。

俺は、モーターブレードを展開するが相手の武御雷は何も展開しない徒手空拳である。

いくら、近接戦に自信があろうともこれは舐めすぎだろと思っている時にCPから、模擬戦開始の合図が出された。

「先手必勝!!」

俺は、右手のモッターブレードを相手に突き刺すように前に出しながらロケット噴射し急接近する。

棒立ちの相手の胴部にモーターブレードが迫り、あと少しで当たると言うところで相手の武御雷は半歩左足を前に出して回避し顔面を掴もうと左手を前に突き出してくる。

「やらせるかよッ!!」

俺は、跳躍ユニットを使い機体を180度回転させ回避し、そのまま肩部円盤状のブレードベーンで軸足を斬り落とそうとする。

だが、相手は足を一瞬浮かせることで回避した。

それに気が付いた俺は、すぐに足の大型モーターブレードを展開し縦軸に回転しオーバーヘッドキックで相手を両断しようとする。

相手はそれを両手上腕部の00式近接専用短刀を展開し頭の前でクロスさせ受け止める。

俺は振り切るのは戦術機のパワーの差から無理と判断し一端距離を取る。

今度は、攻守が逆転し武御雷が攻めてくる。

だが、その戦法は斯衛らしからぬ武術とか技とか関係がないタックルだった。

だが、そのケンカ殺法が一番恐ろしい。

アメリカ産の戦術機では、運用思想の違いからまずこんな無茶なことはしないし、仮にしたとしても格闘戦ができるジュラーブリクE型の敵ではない。

だが、今相手をしている武御雷は全身が刃物と言っても過言では無いほどカーボンブレードで身を固めている。

しかも、パワーもこちらと比べると恐らく段違いだ。

そんな、刃物の塊が突っ込んでくるのだ触れるだけで大破判定を食らってしまう。

俺は、逃げ道を上空にし空に逃げる。

俺はてっきり追撃してくると思っていたが、武御雷はそのまま俺の下を通り過ぎ土の山に突っ込んだ。

俺は着地しその様子を窺う。

すると、砂の山は爆散し中から武御雷が姿を現す。

見た限りでは、傷1つない。

どうやら頑丈でもあるようだ。

だが、機体の性能に衛士がまだ追いついていない。

俺は、そこに勝機を見出し攻勢をかけることにした。

防御に回る武御雷の周りを蚊のように目につく鬱陶しさで飛び跳ね動き回る。

敵の攻撃は、受け流したり躱しながら動き回る。

俺の視界は、忙しなく天地が逆になり自分が今どちらを向いているのか理解するだけでも一苦労だ。

頭で理解する前に体が動く、どう対処すればいいか体が知っている。

これが、ザウルとリリアが言っていた経験の為せる技なのだろう。

相手のすべてを見通すように見つめ、動作した瞬間に戦術機を動かし回避する。

それを、何度も繰り返し相手が痺れを切らすのを待つが中々乗ってこない。

嫌、むしろ相手もこちらの隙を窺っている。

俺と敵の間では、見えない戦いが何度も続いている。

みずから誘いをかけたのに痺れを切らしてしまったのは俺の方だった。

「クソっ!燃料がヤバイ!!」

俺は、何度も跳躍ユニットを使っていたせいで、跳躍ユニットの燃料が底を尽きかけていた。

相手は、最低限の動きで流れるように攻防をしてくるので燃料はまだまだあるだろう。

だが、こちらからのチマチマした攻撃が効いて来たのか、動作が散漫になりつつあり、00式近接専用短刀も片方は使い物にならなくなっている。

まぁ、それと引き換えに俺の両足のモーターブレードは壊れてしまったが・・・。

俺は、これで最後だと空中で一気にロケットを噴射し相手の短刀を片腕を犠牲に動きを止め、もう片方のモーターブレードで止めを刺そうと相手のコックピットに向かわせる。

武御雷は逃げるのとは逆に跳躍ユニットを噴射し戦術機どうしを衝突させた。

そして、引き分けの文字が浮かぶ。

「またかよ!!」

今回引き分けになった原因を見ると、武御雷の角の様なセンサーマストが俺のコックピットに当たっていた。

「もしかして、そこも刃物なのか・・・。」

俺は改めて日本の恐ろしさを知った。

この戦術機なら、近接最強だと言われてもなんら疑問に思うところがない。

この戦術機が、ある意味近接用戦術機の1つの完成系なのでわないかと俺は、1人思っていた。

 

模擬戦を終えた俺は、1人待合室でザウルとリリアが乗るブラーミャリサと相手の白い武御雷の戦闘を見ていた。

結果から言うとザウル達の勝利で終わった。

常に相手の先を取りそのまま、右腕のモーターブレードで一閃し終了。

俺はあの二人が対人戦で負けたところを見たことが無い。

2人が乗るブラーミャリサは、第二世代機だと高を括って挑むと痛い目を見る。実質は、内部を殆ど改造されており第三世代機だ。そして、そのブラーミャリサにあの二人が乗れば、遠距離だろうが近距離だろうが関係なしに負ける。どちらか一方が勝ってももう一方で止めを刺される。

本当に2人そろうと化け物染みた戦闘をする。

あの戦術機はキツネの皮を被った獅子と言った所だろう。

相手の衛士が可愛そうだ。

俺となら、良い戦いが出来たであろう腕なのに相手があの二人だと俺程度の腕では、瞬殺だ。

そして、日本も哀れだな。

最新の近接戦が売りの戦術機がああもあっさり負けてしまったのだから・・・。

でも、恐らく今回の戦闘データから対BETAのみでなく、対人戦も視野にいれた改修がなされていくのだろうな。

「もしそれが完成したら、まさに鬼だな・・・。」

俺は1人待合室で鳥肌に襲われていた。

その時、部屋をノックする音を聞き俺は扉を空けた。

「先程ぶりね、五六少尉。」

相手は嵩宰少佐だった。

俺は慌てて敬礼し、嵩宰少佐も敬礼をする。

「それで、俺にどういった要件ですか?」

「んふふふふ・・・。」

いきなり含み笑いを始めた少佐に俺は少し後ずさる。

だが、俺が瞬きした瞬間には俺の前におり俺の肩に両手を置いて激しく揺さぶる。

「すごい腕してるじゃない、五六少尉!!まさか、私の武御雷をあそこまで追い詰めるなんて想像していなかったわ!」

「あわわわわわっ!し、少佐!!」

「もう、あの戦いの後の周りの連中の顔を見せてやりたかったわよ!皆、ハトに豆鉄砲くらったみたいな顔をしていたのよ!!」

やっと揺さぶりから解放された時には、俺はクタクタだった。

「・・・でも、今回の模擬戦のおかげで武御雷の改修点は解ったわ。ありがとう、五六少尉。」

「いえ、こちらも良い経験をさせて頂きました。こちらこそ感謝します。」

嵩宰少佐は、その後俺と少し世間話をした後にどこかに行った。

俺は、待合室に帰ってきたザウルとリリアと共に今度は、ネフレ日本支部がある京都に来ていた。レオは護衛に守られる形で日本支部のビルに入って行き、今日一日俺達は休みを貰うことができた。

俺達は、京都の町を観光して回っていたのだが、リリアが財布を落としてしまい帰ることができなくなってしまった俺達は、急遽近くでバイトを募集していたコンビニでバイトをすることになった。

「「「いらっしゃいませ~~!」」」

店内はそこそこの賑わいである、今のご時世これだけの客が来るのは久ぶりだと店長も喜んでいた。

まぁ、客の大半が男で目的がリリアなのは確実だ。

レジに並ぶ男達の視線がみなリリアの胸に行っている所をみるとなんだか、不愉快な気持ちになってくる。

俺は、お菓子を補充しながら内心で俺の姉に色目を使いやがってこの畜生共がと考えながら、商品を陳列していく。

すると、俺の後ろから何か柔らかい物が頭に押し付けられそして、俺の首に腕が回され抱きしめられた。

「もぅ~~♪嫉妬しちゃったの?かわいいなぁ~~!」

「ちょ、リリア止めて皆見てるから!!」

「後、ちょっとだけ~~。」

俺が視線に気が付きそちらを見ると、レジに並んでいた男共が俺を睨み付けていた。

そして、最前列にいる男共はレジを変わったザウルの良い笑顔に恐怖していた。

あの様子を見るに、ザウルもブ千切れる寸前だったのだろう。

額に青筋が浮いている。

それから、仕事をテキパキと終わらせていき外を見るとすでに暗くなっており夜であることが分かった。

その時、店に客が入ってくる。

「「いらっしゃいませ」」

今は俺とザウルが店番をしておりリリアは休憩をしている。

客をみるとどうやら女子学生で人数は五人だった。

「これなんていいんじゃない?」

「あ、これおいしそう・・・。」

「どれどれ・・・、おっ、良いね!山城さんもどう?」

「私はこれにしようかな?」

「きゃっ!!」

その時、女の子の内の1人が店内で扱けてしまう。

「ちょ、ちょっと唯衣大丈夫!?」

「う、うん・・・。」

だが、良く見るとスカートが捲れ下着が見えていた。

俺は、恥ずかしさから直ぐに顔を背けたがザウルはガン見していた。

「ザウルーー!!」

そして、店の裏から出てきたリリアに拉致られていった。

出てきたときには、頬に大きな紅葉をつけていた。

その姿のままザウルは、レジをする。

女の子達はそんなザウルを不思議そうに見ていた。

女の子達が店を出て行くとその内の一人の女の子の声が聞こえた。

「見た!?あのおじさんの顔~~。」

「ちょっと安芸(あき)笑い過ぎよ!」

その声が、ザウルにも聞こえていたのだろう肩を落としていた。

女の子達とは入れ替わりに店長が店に入ってくる。

「いや~、助かったよ!はい、これ給料ね。」

「「「ありがとうございます!」」」

俺達はその金を使い何とか日本支部のビルに帰ることが出来た。

ビルに着いた俺は、1人部屋のベッドで物思いに耽る。

「今九州では、大陸から渡ってくるBETA戦にそなえ半要塞化している・・・、入り組んだ迷路のような要塞だ。BETAが大規模で進行したとしても何とか持ちこたえてくれるハズだ。」

だが、不安要素が無いわけでは無い。

まず、初めにここ近年BETAの進行速度が急激に上がっていること、しかも部隊が壊滅的な打撃を受け撤退に転じなければならない状態をBETAが作り出している。例えば、補給基地など、非戦闘員が多くいるところ。他にも、自然災害が発生し人間側がうまく連携を計れない状況下において奴らは攻めてくる。人類が何をしようともそれこそBETA以上に勝見込みが無い、神格化された存在・・・、自然にでさえ奴らは臆することなく突き進み人を蹂躙する。これらのことから、BETAは学習しているのかもしれない、どこをどう攻めれば良いか解っているのかも知れない。そうなると、奴らは戦術を使っていることになる。そうなってくると人類に勝ち目はない0%だ。おそらくレオが慌てだしたのもそのためかもしれない。やつらがこちらの弱点を探してきている。なら、次に襲われるのはこの日本だ。日本が落ちハイヴが建造されればロシアは、カムチャツカを捨て逃げるしかないだろう、統一中華戦線も大東亜連合も終わる。そうなると次はアメリカだ。アメリカが戦場になれば人類は残された数少ない楽園を失うことになる。そうなれば、もう終わりだ。ネフレでは、その事はすでに承知済みだ。だからこそ、高い金を日本に支払ってまで樺太とその周囲の島々を買い取ったのだから、日本が落ちた場合はそこで防波堤となり後方の大陸を守る。そうすれば、ロシアは目前の敵だけに気を付けていれば良くなる。大分戦いやすくなるだろう。もし、日本が落ちればアメリカを除く呑気な後方国家も危機感を感じ即座に打って出るだろう。もしかすると、アメリカを中心に世界が1つとなるかもしれない。そう考えるとこのまま、日本が攻められても放置するのが今後の人類の事を考えると良いのかもしれない。俺はそこで、自分の額を思い切り殴りつける。

俺が腰かけていたベッドは額から飛び散った血で汚れる。

「馬鹿野郎が・・・。甘ったれた事考えてんじゃねぇよ。」

自分の馬鹿さ加減にいい加減に嫌気が挿し始める。

「日本を見捨てて世界を1つにだと?割にあわねぇだろ!ここで失った命を取り戻すのにどれだけの時間を使えば良い?」

そうだとも、それでなくとも少ない人口をさらに減らしてどうする。

最悪そうしなければならない時は、目先に結果が解っているときだ。

10を捨て100を拾えることが確定しない限り、捨てて良い命なんてないだろ!

そこで、俺は自分の矛盾に気が付き漠然とする。

「人を救いたいと願いながら、俺はその人を俺と言う天秤にかけ殺すのか・・・?俺は、神にでもなったつもりなのか・・・。悪魔の間違いだろ。」

そこで、俺は今までの思考をすべて切り裂く、そんな思考回路をしていたら目先の事も出来ないただの馬鹿になってしまう。

俺は、すべて無かったことにしようと眠ることにした。そうして、この底なし沼から逃げ出したかった。

 

目を覚まし時計を確認すると午前0時であることが分かった。

寝なおすには、少し目が冴えている。

俺は気分転換をしようと屋上に上がった。

屋上の重たい扉に手を添えた時扉の外から声が聞こえてきた。

俺は、そ~と扉を開け外の様子を窺う。

そこには、月の光に照らされ幻想的な姿を見せている二人の人影が見えた。

良く目を凝らしてみるとザウルとリリアであることが分かった。

俺がその光景に呑まれているとザウルが話し始める。

「本当は、あの場所で渡したかったんだけどな・・・。もう、あの場所に帰ることは出来ないから、ここで自分がこの世界に居た証を残して置きたかったから、自分勝手な我がままですまないとは思っているが、これから先、俺の隣にずっといてくれないか・・・?」

ザウルの言葉を聞きリリアは、口元を両手で隠すように覆っている。

リリアの瞳からは、涙が溢れだしその滴が月の光に反射してキラキラ輝く真珠のように見えた。

ザウルはそんなリリアに微笑み、小さな箱を取り出し蓋を開ける。

そこから出てきたのは、宝石も何も着いていないただの銀で出来た指輪だった。

だが、その指輪は月の光を吸収し輝き、どれほど価値がある宝石を組み込まれた指輪よりも高価に見えた。

止める事ができない涙を精一杯拭いながらリリアが流れる涙をそのままに口を開いた。

「はい、よろしくお願いします・・・ッ!」

ザウルは、まるで中世の姫に使える騎士のように優しくリリアの左手を取り薬指に指輪をはめた。

そして、どちらかともなく永遠の別れ何てこの世には無いと思わせてくれるような、まるで舞踏宴でダンスをするかのような高貴な姿で口づけを交わした。

「月をバックに、涙を流すお姫様の腰に手を回し王子様のようにキスをするとは・・・、カッコイイ。」

俺の声が聞こえたのだろう、ザウルとリリアが離れこちらに顔を向ける。

「か、和真!!い、いつからそこにッ!!」

リリアは、急いで涙を拭き取り顔を真っ赤にして聞いて来る。

「おぉ~~!リリアって、照れると乙女になるねんな~。」

俺はしみじみと頷く。

「か、和真―――!」

リリアは顔を茹蛸のように真っ赤にしながら怒声を上げるが、雰囲気が雰囲気なので可愛くしか見えない。

「くっくくくくく、見られた物はしかたないだろ、リリア?それと、和真!今日隣の部屋が少し騒がしくなると思うから、耳栓して寝てくれるとありがたいな。」

等々、リリアの頭から煙が噴き出す。

「はいはい、お楽しみの邪魔はしやんよ。元気な子供を俺は期待するで?」

「そうか、そうか!ハハハハハッ任せとけ!」

俺は、これ以上二人の邪魔をするのも何なのでその場を立ち去ろうとするが、ザウルが呼び止める。

「和真、ちょっとこっちに来い。」

俺は、不思議に思いながらも二人の傍に暗闇の中から月の光が挿す優しい世界に出る。

俺が二人の傍に近寄るとリリアは俺の前髪を掻き上げた。

「・・・和真、悩み過ぎは時に心を壊して判断を鈍らせるよ?」

リリアは優しく俺の額の傷に手を添える。

そして、ザウルが後ろから俺に抱き着いてくる。

「和真・・・、お前はお兄ちゃんになるかもしれないんだ。強くなってくれよ?だが、時には後ろを振り返って自分が何を守り何をしたいのか考えるんだ。・・・良いな?」

俺は、ザウルの言葉を聞き驚く。

「・・・俺が、お兄ちゃん?」

俺は、一瞬多恵のことを思い出す。

だが、その感情を内面で押し殺しアイツと俺はもう何の繋がりもない赤の他人だと言い聞かす。

そして気持ちを切り替えるためにリリアをからかうことにした。

「じゃあ、今晩はリリアは頑張らなあかんな?」

「なッ!なななななッ!!」

再びリリアの顔は真っ赤になった。

「ま、そう言うことだ!でだ、俺なりの1つ目のけじめだ!和真、これをやるよ。」

ザウルから渡されたのは、タバコとライターだった。

「さすがに、今から禁煙しとかないといざ子供が出来た時に困るからな。まぁ、そのタバコはゲン担ぎみたいな物だが、俺もそろそろ卒業しないといけないからな・・・。無理に吸う必要はないからな?捨ててくれても構わない。」

「・・・いや、大切にするよ。」

「そうか・・・。」

俺は、2人から少し距離を取りタバコを一本取り出し慣れない手つきで火をつけ一気に肺に紫煙を入れる。

「ゲホッゲホッ!!」

「初めの内は皆そうだから気にする必要はないぞ?」

ザウルがさりげなくフォローをいれてくれた。

「和真、タバコは体に悪いから沢山吸っちゃいけないよ?良い、約束だよ?」

リリアは俺の事を心配してくれる。

普段なら怒るリリアだが、今回は違った。

恐らくこのタバコはザウルも誰かに進められた物だろう、その人の意志を煙と一緒に体に入れている。俺は、何故だかそんな気がした。

俺はもう一度煙を体の中に入れる。

「ゲホッゴホッ!!」

どうやら、まだ慣れていないようだ。

だが、煙と一緒に何か暖かいモノが体の中に満ちて行きさっきまで俺の体を支配していた冷たいモノを溶かしていく。

俺は、その暖かいモノがリリアとザウルと他の人達の思いなのだと理解していた。

お兄ちゃんか、俺は月を見上げながら多恵の事を思い出す。

二度と会えないと解っていても俺には、未練があるようだ。

前までの俺なら、情けないと一蹴していたが今となってはこの感情も大切にしようと心からそう思えた。

「それじゃ、俺は先に戻るわ!」

俺は2人にそう言って部屋に戻る事にした。

「今夜は気持ち良く眠れそうや!!」

 

――――だが、そうはうまく行かないのが世の定め。

「あっ、ザウル~~。もっと、もっと来て・・・!!」

隣の部屋から聞こえて来る艶かしい声、俺はその声のせいで眠れずにいた。

「・・・ザウルの言う通り耳栓を買っとけば良かった。」

 

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