Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
俺はあの作戦の後東京に来ていた。
ストーは第一町に先に帰っている。
レオから直に俺に下された命令は城内省に向かえとの命令だった。
なぜ、今この時期に俺が行かなければいけないのか聞いた所、新たな政威大将軍が即位するからだそうだ。
ネフレは日本との関係を親密にするためにも、色々な方面からパイプを作りたいそうだ。
日本帝国と言う国は俺達にとって扱い難い国でもある。
まず皇帝を頂点にしその下に政威大将軍その下に城内省と内閣総理大臣がいる。
そして、全権を持っているのが政威大将軍だ。
総理大臣などはこの政威大将軍に意見することしか出来ない。
しかも、この政威大将軍は五摂家の中から選ばれる。
その五摂家すら周りをガチガチに城内省に固められている。
しかも、城内省すら工作員を送り込むのが難しいと言うのが現状だ。
国民代表の総理大臣がもし全権を持てるのならやりようはいくらでもある訳だが・・・。
その癖に、普通そのような政治体制なら腐敗すると思うものだが未だにこの国の上層部の連中は腐っていない。
そして、日本が島国で単一民族であるとういうのも問題なのだ。
つまり、統一感が半端ないのだ。
一度敵と認識されれば日本と言う一つの生命体が襲い掛かってくる。
そして、その力は歴史が証明している。
日清戦争、日露戦争が良い証拠である。
そして、アメリカ合衆国と言う最強の国に真正面から戦争をしたのもだ。
本当に扱いが難しい国なのである。
「やからってただの衛士である俺に政治まがいの事をさせるなよな。」
日本を取り込む事はアジアを取り込む事に等しい。
黄色人種の国家で一番栄えているのは日本帝国だ。
日本を取り込む事が出来れば統一中華戦線も大東亜連合も取り込む事がたやすくなる。
だが、今となっては明星作戦がうまく行けばの話だ。
「しかもタイミングが良い事に嵩宰家が俺をご指名するとはな、レオも五摂家の一角とお
近づきになるいいチャンスだから行って来い、ついでにセイカーを売り込んで来いやからな。マジで勘弁して欲しいで・・・。」
すると、待ち合わせ場所で待つ俺の目の前に一台の車が止まる。
「五六和真中尉ですね。お迎えに上がりました。」
運転席から降りてきた初老の男性は丁寧に頭を下げる。
「迎えありがとうございます。国連太平洋方面第九軍、五六和真中尉です。」
「嵩宰様がお待ちです。どうぞ、お乗りください。」
「失礼します。」
車に乗り込むとゆっくりと車が加速していく。
車内から東京の街を見る。
町に残っているのは軍人とその家族のみで避難民はもっと北の地に行かされているのが解る。
大きな道路には戦車や装甲車が行ききをしており、帝国本土防衛軍立川基地方面に戦術機が飛んで行く。
横浜に建設されたハイヴ。
回数こそ少ないが、そのハイヴからは確実にBETAがやってくる。
これに対し、日本は多摩川を防衛ラインにし、ここを挟む形でBETAと睨み合いをしている。
立川基地は横浜から比較的離れた位置にあり、前線の中では後方に位置している。
車が町の中心部に入って行くと立川基地は、東京のビルの森により俺の視界から姿を消した。
着いた場所は帝都城内にある城内省、俺の元居た世界ではここは帝都城ではなく江戸城だった。
そして、日本人として心に深く感動を覚える威風堂々とした城の姿を俺は子供のように輝いた瞳で見ていた。
だが、それも一瞬である。
今の俺は国連軍そしてネフレからの客人としてここに来ている。
俺の行いの1つでこれらの評価が下がる危険性があるのだ。
下手な真似は出来ない。
仮にここが前線の基地であるならば羽目を外す事も出来ただろうが、ここは銃を持って戦う場では無くイスをケツで綺麗にする連中が戦う場である。
土俵が違うからこそ、何をすればいいか解らないからこそ、俺はいつも以上に気合をいれていた。
そのせいかも知れないが俺は先程からしきりに窓に写る俺の顔を見ながら、髪をいじり、髭を確認し、不清潔でないか確認する。
「・・・傍から見たら完全にナルシストやん。」
俺が呟くと同時に車が止まり扉が開かれる。
そこには、斯衛が待っていた。
「五六和真中尉、お待たせしました。お館様の所までご案内します。」
「はっ!よろしくお願いします!」
城内省内部は、城の見た目通りでは無く基地の内部とほとんど同じだった。
気分としては、大阪城の中に初めて入った時と同じだ。
古臭いのを期待していたのにエレベーターがあり近代的で肩すかしを食らった。
それに近い感情を俺は抱いていた。
すると、目の前に本当にエレベーターが姿を現した。
「・・・やっぱしか。」
「なにかおっしゃいましたか、五六中尉?」
「い、いえ何も・・・。」
「・・・そうですか。」
俺はヒヤヒヤしながらエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターが止まり長い廊下を歩いていく。
各扉の前には、最低1人の斯衛が立っており彼らは俺の動作の1つ1つを確認している。
それは、城内省に入った時から感じていた。
しかも性質が悪い事に、相手に悟られないように自然にである。
だからこそ、俺は肩の力を抜くタイミングを取り損なっていた。
その視線に耐えながら廊下を歩いていくと1つの扉の前に辿り着く。
案内役の斯衛が扉に立つ斯衛に何かを見せている。
そして、その後指紋と網膜を扉に設置された機械で確認する。
それらが終わるとやっと扉をノックした。
「お館様、五六和真中尉をお連れしました。」
そして、中に通される。
「五六和真中尉であります!失礼します!」
「急に呼び出してすまないわね五六中尉、まずは楽にしてちょうだい。」
「はっ!」
俺は椅子に座るように促され座る。
すると、嵩宰少佐は案内役の斯衛を退出させた。
「もぅ・・・、そんなに肩を張らなくても大丈夫よ?」
「いえ、そう言う訳にはいきませんので・・・。」
「はぁ・・・、五六中尉?あなたは客人としてここに来たのよ。それに私は軍属では無く嵩宰家当主として、そしてただの恭子としてあなと話たいの・・・。」
俺はそう言われ少し肩の力を抜く。
すると、嵩宰少佐は満足そうに頷いた。
そこからは、お互いに衛士としての腕を認め合った仲として近況を話し合ったりした。
「五六中尉、この町を見てどう思った?」
「正直に話しますと、悲しく思いました。」
「何故?」
「ついこの前までは何事も無く日々を過ごしていた人達がある日突然にその日常を奪われ絶望を叩きこまれた。俺程度ではそれがどれほどのモノか想像するしか出来ませんが、日常を奪われる辛さは、理解しています。だからこそ、悲しい・・・。」
すると、突然嵩宰少佐は頭を下げてきた。
「た、嵩宰少佐!止めて下さい!」
「五六中尉ッ!恥を忍んでお願いしたいッ!私にネフレ社長と話す機会を作って頂きたいッ!」
今日呼び出された理由はそれか・・・。
「それは、何故ですか?」
俺が聞くと嵩宰少佐は頭を下げながら肩を震えさせ話始める。
「今の日本は死に魅入られている!国民は北に追いやられ今日食べる物も無く、苦しむ我が子に薬を用意してやることさえ出来ないッ!皆が明日に希望を持つことが出来ずにいるッ!このままでは、近い将来日本は死んでしまうッ!明星作戦が成功しようとも国民には関係が無いッ!我が日本国民は明日を生きることすら難しい状況なのですッ!国連からの配給では間に合わないッ!アメリカからの支援も受けづらくなったッ!もう、私達にはあなた達しか頼る相手がいないのですッ!だから、どうか五六中尉ッ!私を、私がダメなら他の者をネフレ社長と話させて頂きたいッ!」
嵩宰少佐は涙で斯衛の服を汚す事を気にもぜずに俺に頭を下げてくる。
出来る事なら俺もレオに掛け合って日本にさらなる支援を要請したい。
だが、それが出来ないのも知っている。
ネフレで作られている合成材料や医療品は、すべて国連を通して世界に回している。
これは、各国家間でいらぬ争いを起こさせないためだ。
生産ラインは常にフル稼働状態あり在庫なんてあるはずが無い。
その中で日本にそれらを流すなら、どこかを削らなければならない。
どこかを削ればその分削られた国の人が死ぬことになる。
それは、世界が許さない。
「・・・1つ言っておきますが、俺は国連軍人であり今はネフレに仮所属しているだけであり、ネフレ社長に近い訳ではありません。この前は模擬戦をするためだけにたまたま社長の傍にいただけです。」
「無理を言っているのは解っていますッ!それでも、私にはあなた以外に頼る相手がいないッ!どうか、お願いします!」
レオは表に出て来ていない。
五摂家の人でさえ会う事が出来ないのだ。
そして俺と顔見知りなだけで、こんな一歩間違えれば国を孤立させるような事をただの中尉に話すはずが無い。
おそらく嵩宰少佐は、俺がレオと親しい仲、もしくは近い人物だと知っているのだろう。
情報省がその事を掴んでいると言う事は、レオがわざと情報を流したのか、それとも日本がこうなる事を見込んで、あの日、ヒントを与えるために態々模擬戦をしにきただけの俺達を会議室の前で待たせ親しげに話掛けて来たのか。
どちらにしろ、レオはこうなる事を予見していた。
なら俺の答えもこれしか無いのだろう。
「・・・解りました。出来る限り社長との会談の場を設けられるように尽力します。」
俺がそう言うと嵩宰少佐は顔を勢い良く上げ、その涙で赤く張れた目を笑顔に変える。
まるで、俺に希望を見出したかのように俺の事を神の使いのように見てくる。
「ありがとうッ!ありがとう、ありがとう!」
「ですが、うまく行くか解りません。ですから、その言葉はすべてがうまくいった時にもう一度お願いします。」
「えぇ、でも言わせて・・・。ありがとう、本当なら拒絶するはずなのにあなたは私の言葉を聞いてくれた。それだけでも、私はうれしい。」
俺は無言の空間になるのが怖くて話題を変えた。
「それより、せっかくの美人が台無しですよ?」
俺がそう言うと、嵩宰少佐は目元を拭いながら恥ずかしそうにする。
「ごめんなさい。お客人の前で私・・・。」
「俺は待っていますから顔を洗って来ていただいても大丈夫ですよ?嵩宰少佐は涙も似合いますが、笑顔の方が美しいですから!」
「ふふ、ありがとう。お言葉に甘えさせていただくわ。」
嵩宰少佐はそう言うと、部屋を退室していく。
「はぁ~。」
俺は体の力をすべて抜き背もたれに全体重を預ける。
俺にはあの答えしか思い浮かばなかった。
顔も知らない誰かよりも俺はこの日本で生きていると信じている皆の事を優先した。
「何が人々を救うだ・・・。」
表で誰かが笑えばその裏で誰かが泣く。
こんな簡単な事を俺は認めていなかった。
でも、今日それを思い知らされた。
「馬鹿野郎・・・。」
それだけじゃない、先のBETAの進行で生き残った人を今度は明星作戦で見殺しにすることも知っている。
また、多くの人が泣くことになるだろう。
もし、この世界に俺を連れて来たのが神様みたいな奴で、そいつは俺に何をしてほしいのだろう?
何故こんな悲しみが溢れる世界に俺を連れて来たのだろう。
神様が今の俺達を見ているなら、何故人を救ってはくれないのだろう?
どうして、皆を笑顔にしてはくれないのだろう。
「神様・・・。もし、聞いてるならはっきり言ってやるよ。・・・俺はアンタが大っ嫌いだ。」