Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
あの後、俺は嵩宰少佐に俺の仕事であるセイカーファルコンの説明を形だけすませた。
「五六中尉、この後のご予定は?」
「この後は港で一泊して第一町に戻りますよ?」
「もしよければ家に泊っていかない?もちろん、そちらが良ければだけれど。」
その提案に俺は少し考える。
だが、レオは五摂家との繋がりを深くしておけと言っていた。
なら、この好意に甘えても大丈夫だろう。
「はい、では今日一日お世話になります。」
俺はそう言って頭を下げた。
場所は移って帝都城内にある嵩宰邸。
邸内には、嵩宰家の使用人だけでは無く、数多くの斯衛軍関係者がいた。
嵩宰少佐が言うにはBETA進行により住む所を無くした人達に寝る場所を与えているそうだ。
それと、いかな事にも迅速に対応できるようにするためでもあるらしい。
俺は客間に案内された。
「ふぅ~。」
俺は部屋の壁を背もたれにし座り込む。
畳の懐かしい香りが俺の疲れを癒してくれる。
俺はセイカーファルコンの資料が入った鞄の中からタバコを取り出すが直ぐにそれを仕舞い込む。
俺はタバコ中毒になってしまったようだ。
無意識にタバコに手を伸ばしてしまう。
暇を持て余した俺は窓障子を開ける。
すると夕陽の暖かい光が室内を満たす。
「絶景やな・・・。」
俺は帝都城から見下ろす形で広がる町とそれを照らす夕陽の光景に言葉を失ってしまう。
それを見ていると俺はある事を思い出す。
俺は鞄を漁り中から作りかけのぬいぐるみを取り出しそれを窓の下の壁を背もたれにし作る作業をする。
これも趣味の1つとして定着してしまった。
黙々とぬいぐるみに綿を入れて形を整えて行く。
すると、綿にシミが広がる。
気が付くと俺は涙を流していた。
何故涙を流しているのか自分でも理解できないが、次々とシミが広がる。
俺はぬいぐるみを畳の上に置き膝を抱える。
「止まれ、止まれ、止まれ・・・。」
部屋を満たす光は和真には届かない。
和真のいる所だけが外界から隔離されたように陰になっていた。
涙が止まると同時に部屋がノックされた。
俺は目元の涙を拭き取り鏡でチェックし大丈夫なのを確認してから扉を開ける。
すると、そこには二人の少女がいた。
「五六中尉のお世話をさせていただくことになりました。篁唯衣少尉であります!」
「山城上総少尉であります!」
篁少尉は山吹色の斯衛の服を山城少尉は白い斯衛の服を着ている。
2人とも緊張しているのかピシっとしている。
「お世話だなんてそんなに気を使って貰わなくても良いのだけれど・・・、五六和真中尉だ。」
2人が敬礼するのに俺は答礼を返す。
「お夕飯を用意しました!」
山城少尉はそう言うと手に持っていたお盆を見せる。
お盆の上には握り飯が三つあった。
「ありがとう、いただくよ。」
俺はそう言うとお盆を受け取る。
すると、篁少尉が話掛けて来た。
「あの・・・。」
「うん?」
「五六中尉はその・・・。」
俺は篁少尉が握り飯に視線が行っているのに気が付く。
「あぁ、これで良いよ。むしろ贅沢なくらいだ。嵩宰少佐にもそう伝えてあるから君達が気に病む必要は無いよ!」
すると、どこからか、くぅ~、と言う可愛らしい音が聞こえた。
「ち、ちょっと篁さんッ!」
「す、すみません!!」
音の正体は篁少尉の腹の音のようだ。
「ハハハハハっ、別に構わないよ!そうだ、良かったら一緒に食べてくれないかい?1人で食べるのは少し寂しくてね。」
2人は色々言っていたが俺は半ば強引に部屋の中に招いた。
「それじゃ、2人とも夕飯がまだだろう?良かったら食べてくれないか?」
俺はそう言って握り飯を指差す。
「い、いえ私達は大丈夫ですので・・・。」
山城少尉が慌てて言ってくる。
「ご飯は大勢の人と食べる方がおいしいだろう?だから、な?」
俺はそう言うと二人に強引に握り飯を渡す。
「「「いただきます。」」」
そして、三人で握り飯を食べる。
俺は食べている2人を見る。
背筋を真っ直ぐ伸ばし静かに食べる山城少尉。
背筋は真っ直ぐ伸ばしているがどこかリスのように食べている篁少尉。
綺麗とかわいい女の子二人に囲まれている今の状況・・・。
こう言うのを両手に花と言うのだろうか。
整備班の連中に話してやったらおもしろい反応をしてくれそうだ!
俺は先程までの暗い気持ちをどこかに放り捨て光の当たる中で静かに食べた。
「あの、五六中尉・・・。」
握り飯を食べ終えると山城少尉が話掛けて来た。
「あの時はありがとうございました!」
そう言って二人は俺に頭を下げる。
「あの時?」
「・・・京都駅で私達はあなたに助け出されました。そのお礼を言いたいとずっと思っていました。」
「あの時の子達なのか・・・?」
「「はい!」」
俺はそれを聞き天井を仰ぎ見る。
「・・・五六中尉?」
篁少尉が心配してくれる。
だが、俺は涙が流れ落ちないように必死だった。
俺のやった事で救われた人が今もこうして生きていてくれる。
それがどうしようもなく嬉しかった。
俺は涙を拭うと2人を視線の中に収める。
「お礼を言うのは俺のほうや。・・・生きていてくれて、ありがとう!」
それから俺達は色々話合ったり将棋やお手玉をして時間を潰していた。
篁少尉がお手玉八個をしてみせ、それを教えて貰ったり。
山城少尉と将棋の勝負をしたりと有意義な時間を過した。
それらをするうちに俺達は仲良くなり、二人の事を唯衣ちゃん、上総ちゃんと呼ぶようになり、2人からは和真さんと呼んでもらうようにした。
これで、整備班の連中に自慢できることが増えた。
―――計画通りだ。
月が輝きを増し時刻が夜になったのを教える。
すると、唯衣ちゃんが立ち上がった。
「恭子様がそろそろご帰宅なさいますので、私は一端席を外させて頂きますね。」
そう言うと同時に上総ちゃんも立ち上がろうとするが唯衣ちゃんがそれを制する。
「私が行くから山城さんはここに居て?」
「分かったわ。」
「それでは、失礼します!」
そう言って唯衣ちゃんは部屋を出て行った。
「ねぇ、上総ちゃん?」
「はい、なんですか?」
「お手玉教えて貰ってもいいかな?唯衣ちゃんが帰ってきたら驚かしてやりたい!」
「ふふ、えぇ、構いませんわ。」
それから俺は上総ちゃんに教えられながらお手玉を練習していく。
「四つ目いきましてよ!」
「あぁ、来い!!」
四つ目のお手玉が投げ入れられる。
タイミングは完璧。
後は、こちらがキャッチして流れに乗せるだけ。
だが、流れに乗せる事が出来ずにすべてのお手玉が落ちてしまう。
「あぁ、おしい!」
「もう少しですわね!」
「その通りだ!もう一回!!」
その時、部屋の明かりが消える。
「―――ッ!」
俺は何が合っても大丈夫なように体中の筋肉を臨戦態勢にまで上げる。
その時、部屋の扉が開かれ斯衛の人が現れる。
「すみません、ブレーカーが落ちてしまったようですので復旧までしばらくお待ちください。」
「解りました。」
俺が返事を返すと、申し訳ありません、といい扉を閉めた。
室内は月の明かりのみの世界となる。
「何も無くて良かった・・・、上総ちゃん?」
上総ちゃんの顔色は悪く体が小刻みに震えている。
「上総ちゃん、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
そして、月が雲に隠され室内を本当の闇が支配する。
その時、ほんの小さな音がした。
「―――ッ!」
上総ちゃんは、その小さな音に過剰に反応し体を抱くような姿勢になる。
「い、嫌、来ないで、わ、私は・・・。」
上総ちゃんは暗闇の中で何かから自分を守るように脅えていた。
たぶんだが、上総ちゃんは京都駅での事がトラウマになってしまっているのだろう。
あんな事を体験したのだから当然の事とも言える。
俺は少しでも安心して貰おうと上総ちゃんの肩に手を乗せ語りかける。
「大丈夫、大丈夫や。ここには君を怖がらせる奴はおらん。それにここには俺がおる。やから安心し・・・。」
すると、上総ちゃんは顔をそっと上げその脅えた瞳で俺を見つめる。
「・・・な?」
俺が出来るだけ安心させるために笑顔を作る。
すると、上総ちゃんがその震える指で俺の胸元の服を掴む。
俺はそれを優しく握り閉めた。
そして、上総ちゃんの頭を優しく壊れ物を扱うように抱きしめる。
昔、元の世界で親父にしてもらったように心臓の音を聞かせる。
「大丈夫、君は生きているよ。」
俺が語りかけて行くと上総ちゃんの震えも落ち着き呼吸も整って行った。
しばらくそうしていると、部屋の暗闇は人工の光に弾け飛ばされる。
「おっ!やっと復旧したみたいやな?」
俺は話しかけるが上総ちゃんから返事が返ってこない。
良く見ると上総ちゃんは眠りについていた。
「くく、安心しきった顔してんな。」
俺は一端上総ちゃんを横にし、布団を敷きそこに上総ちゃんを寝かせるために抱き上げる。
「随分軽いな・・・。」
女の子をお姫様抱っこした経験なんて無いが、想像していた以上に上総ちゃんは軽かった。
これも、合成材料などの食物を管理コントロールされている弊害かもしれない。
戦うために必要な筋肉しかついていない。
俺は少し悲しく思いながらも布団に上総ちゃんを寝かせる。
「う、うん・・・。」
上総ちゃんが少し苦しそうにする。
俺は上総ちゃんの額を優しく撫でていく。
「大丈夫だから、今は今くらいは安心して眠り・・・。」
俺は上総ちゃんの悪夢を払うために優しく撫で続けた。
「すぅ~、すぅ~・・・。」
そうしていると、上総ちゃんはやすらかな顔で眠っていた。
「そう、それで良いんや・・・。」
俺が満足していると廊下をバタバタと走る音が近づいて来る。
「山城さん!!」
扉を勢い良く開け中に飛び込んで来たのは唯衣ちゃんだった。
「しぃ~~~!」
俺は口元に人差し指を置き言いたい事を伝える。
「す、すみません・・・。」
唯衣ちゃんは直ぐに自分の失態に気が付き顔を赤くした。
俺はそれに笑いかけながら事の経緯を説明した。
「すみません、直ぐに山城さんを寝室に運びますので!」
そう言って立ち上がる唯衣ちゃんを俺は手で制する。
「いや、このままでかまわへんよ。」
「ですが・・・。」
このままでは話が平行線を辿りそうなので話題を変えることにした。
「それより、嵩宰少佐は俺についてなんか言うてた?」
「あっ、ハイ、お風呂を用意したのでそれを伝えるようにと。」
「お風呂なんて、気を使い過ぎやで?水も基調やろ?」
そう言い遠慮する俺に唯衣ちゃんはどこか誇らしげに胸を張る。
「いえ、ここのお風呂は温泉なんですよ!しかも、源泉かけ流しです!もちろん多岐にわたって利用していますが何分量が多いため未だにお風呂としても利用しているんですよ?」
「ほぅ、そいつは楽しみやな!」
俺はそう言うと立ち上がる。
「あっ、ご案内します。」
「いや、唯衣ちゃんは上総ちゃんの傍にいたって?」
「ですが・・・。」
「安心し、真っ直ぐ向かうから。」
俺は少し含みを持たせて言うと唯衣ちゃんは怒った顔をする。
「そんな心配はしていません!」
「くくく、ごめんごめん。」
「もぅ・・・。」
俺はかわいく膨れっ面になる唯衣ちゃんに謝り道順を聞いて部屋を移動した。
「ふぅ~良い湯やった。湯の花なんて初めて見たわ。」
俺は火照った体を冷ますために帰りの道中にある縁側に腰を下ろす。
松の木の上には満月が輝き月の光が庭全体を照らし幻想的な風景をしていた。
どれくらいの時間その風景に呑まれていたのだろうか、俺の体はすっかり冷えていた。
そして、部屋に戻ろうとすると嵩宰少佐が温泉のある方からこちらに歩いてきた。
「ここにいたのね、五六中尉。」
「どうなされたのですか?」
「いえね、一杯付き合って貰おうと思って!」
そう言って嵩宰少佐はその両手に持つコップを俺に見せる。
俺はそれを受け取ると嵩宰少佐も縁側に座る。
お風呂上りなのだろう嵩宰少佐は髪をおろし浴衣に身を包んでいる。
まだ雫が残る髪が月の光に反射し、そのたわわに実った胸が谷間を作り色香を無意識に振り撒く。
―――これが、ハニートラップと言う奴か!!
俺は、意味不明なことを考えてしまう。
それほどに、見たこともない嵩宰少佐の姿は美しかった。
「ねぇ、五六中尉?」
「は、はい!」
「私達は勝てるわよね?」
私達、その言葉は日本をさしているのだろうか。
それとも、人類のことをさしているのだろうか。
・・・おそらく両方の意味だろう。
「勝てますよ・・・。俺達は勝てますよ。」
それは、希望的観測だ。
今の世界を見ればそれがいかに難しいことであり、奇跡なのか解る。
それでも、俺達はそう信じて戦う以外に戦う意味を見出せない。
皆、その奇跡を夢見て、希望に縋り戦っているのだ。
「そうよ・・・ね?」
「そうですよ!」
だから俺は断言した。
人は負けない。
絶対に負けない!
「それじゃ、人に・・・。」
そう言って嵩宰少佐はコップを持ち上げる。
「皆に・・・。」
「「乾杯!」」
キンッと綺麗な音がなる。
俺はコップに口をつけ液体を喉に流す。
「これ、水ですか?」
「お酒だとでも思った?」
「いえ、凄く美味しかったから・・・。」
「日本の水は世界一だからね!当然よ!!」