Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
1999年5月
ケアンズ基地市街地模擬演習場
日頃から酷使され続けた町は、まるで深海の中に沈む海中都市のように風化している。
流れる風が、灰色に汚れるコンクリートを撫でて行く。
そして、そんな忘れ去られた都市を我が物顔で泳ぎ回る人魚の影が2つ。
片方は上半身が深海魚のような物体。
それは、流れる潮に身を任せるように緩やかに都市内部を遊泳する。
その後方からまだ見ぬ生物を捕獲しようと銛のような銃から次々と弾丸を放つダイバーのような物体。
ダイバーを嘲笑うかのように泳ぐ深海魚は、その距離を一定に保ち挑発するかのようにクルクル回る。
挑発を受けたダイバーはさらに追う速度を増すが元は地上の生き物、海で生まれ海で果てる原住民に敵う筈が無く、ダイバースーツを壁に擦りながらも突き進む。
だが、身体を痛めつけながらもダイバーは学習していく。
そして、遂に捕獲の時が来た。
深海魚の行動パターンはすでに頭に入っている。
所詮野生生物、知的生物の敵ではない。
ダイバーはそのピンク色に光る唇を舌で湿らせる。
動悸が速くなっていくのが解る。
この散々手こずらせてくれた深海魚を捕える事が出来れば、ご褒美が待っている。
そして深海魚は道に沿う形で90度のコーナーを苦も無く進む。
余裕を見せていられるのもここまで・・・。
ダイバーは最後の力を振り絞りビルを飛び越えた。
ここを飛び越えれば深海魚の真上に出ている筈、あとは銛で突いてやれば良い。
簡単なことだ。
ダイバーはすでに、捕えた後の事を考える。
それは勝利を確信したが故の余裕。
だが、ダイバーは忘れていた。
この世界を知り尽くしているのは相手の方だと。
だがもう遅い、ダイバーの前には捕えるべき獲物がいない。
そこでダイバーは気付く。
捕獲者は自分の方では無い、誘われたのは自分の方なのだと。
そして、それに気が付いた時には後方から深海魚の大きな咢にダイバースーツ諸共血肉を食い破られた。
「模擬戦闘を終了します。・・・お疲れ様でした。もう少しでしたね?ストー少尉、そして、今回もお見事でした和真中尉。」
地面に横たわるセイカーファルコンを見ながら俺はCPに返事を返す。
「まぁ、まだ俺が抜かれる訳にはいかんよな?でも、もう少しやったぞストー?」
「痛たた・・・。和君酷いよ、あそこまで追い詰めさせてから撃墜するなんて!」
「まぁ、そんだけストーが強くなったと言う訳やな!・・・それにククリナイフの良い練習にもなったし。」
「何か言った、和君?」
「別になんでもないよ。」
俺は適当にはぐらかしながら、ストーの事を考える。
もともと、衛士としての才能はあった。
だが、そこには違和感があった。
ストーの場合は成長していると言うよりも思い出している。
それが、俺が持つ違和感の正体だった。
1つの事を説明して十の事を理解出来るのは素晴らしい事だ。
それだけの努力をしてきた証拠でもあり、天才としての証でもある。
だが、ストーの場合はその一すら必要としない時がある。
きっかけさえあれば、忘れていたモノを思い出したかのように的確に答える。
ESPを使っているからだと言われればそれまでだが、動作にすら表す事が出来るのはおかしい。
現に今さっきの追い込み方も咄嗟の判断でやったにしてはうまく出来過ぎている。
それを、完璧にこなして見せた。
なんだろうか・・・。
俺は何か大切な事を忘れている気がする。
嫌、もしかするとその大切な事をこれから体験することになるのか・・・。
俺は1人で思考の海に潜って行った。
「和君!」
「な、なんや!?」
辺りを見るとセイカーがすでに立ち上がっていた。
「ハンガーに戻るように指示が出たよ。」
「わかった。それじゃ、帰投しよか。」
「うん!」
PXに移動した俺達は何台も設置されている内の1つのテレビを見る。
ここに大量に設置されたテレビは各国のニュースをそれぞれ写しているため数が膨大だ。
こんなにも多くのテレビを設置しているのは、それぞれの前線に赴く職員に情報を提供するためだ。
俺が見ているテレビは日本のニュースが映し出されている。
そこにはパレードの様子が映し出されていた。
そして、その主役は日本帝国の新しい顔、煌武院悠陽の姿だった。
幼いと言うハンデを背負っていながら、その姿は堂々としており、パレードに参加しているすべての人々を安心させる。
「例え贄だと解っていても、君はなにかをしたかったんだね・・・。」
このタイミングでの一番若い彼女がトップに立つ。
誰が見てもその場しのぎの存在なのは明白、大博打をうつために用意されたのも明白。
その事を一番理解しているのは、他でも無い彼女自身の筈だ。
「やっぱり、君は誰よりも強くて、輝いている。」
あの時と何も変わっていない。
その強さ、気高さ、尊さ、すべてを持っている。
すると、カメラが彼女をより良く写すためズームしていく。
彼女の乗る車の座席の横にそれはあった。
「あの時の、ぬいぐるみ・・・。」
それは、俺が彼女に救われ友達となった日につまらない理由で選んだ猫のぬいぐるみ。
「ハハハッ、君はまだ、俺の事を友達だと思っていてくれてるんやな・・・。」
その事実が俺の心を温かくする。
俺はそれを逃がすまいと心臓の位置に手を置いた。
月日はさらに経ち、1999年六月。
明星作戦まで残す所後僅かとなった。
その中で、遂に日本にレオが向かう事となり。
そこに俺も付きそう事となった。
なんでも、俺は帝国軍ではちょっとした有名人になっているらしい。
国連軍の阿修羅―――。
俺のことがそう呼ばれているらしい。
京都での戦いが彼らにそう呼ばせているそうだ。
そんな俺を同行させることで僅かながらも相手に圧力になるとのことだった。
「ストーは今回もお留守番やな。」
俺は船の甲板から海を眺めながら隣にいるレオに話掛ける。
「くくく、なんだ?寂しくなったかい?」
「別にそんなんちゃうよ。」
聞くべきかどうか、迷っていた事を聞くための前振りでしかない。
「レオは、日本に何を求めるんや?」
「横浜ハイヴだよ。」
やっぱり・・・。
「後は、まぁ色々と要求するさ。」
「お手柔らかに頼むよ。」
そう言う俺にレオは笑う。
「あぁ、欲しいのはあそこだけだからね。それ以外の所は譲歩しても構わないと考えている。無理なことは頼まないさ。」
日本に進む俺達には夏だと言うのに、冷たい風が吹き付けていた。
第二帝都仙台
そこにある第二帝都城に俺達はいた。
レオは護衛を数人引き連れ先程から会議をしている。
そんな中、俺は帝国軍の人達と親睦を深めていた。
「俺は先の京都撤退戦であなたに助けられた1人です・・・。あなたがいなければ俺は家族と再び会う事が出来なかった・・・。ありがとうございます!」
「それはお互い様ですよ。俺もあなた方が戦っていてくれなければあそこで死んでいた。・・・俺の命を救ったのもまた、あなた達帝国軍人の皆様なんですよ。」
「「「「「我らが阿修羅様に乾杯!!」」」」」
「日本の誇り高い剣に乾杯。」
そして、俺達は笑う。
今の帝国軍人は危うい心境をしている。
アメリカ軍が撤退し、彼らは不信感を持っている。
また裏切られるのではないかと、そもそも在日国連軍は国連軍の名を借りたアメリカ軍と同じなのだ。
彼らが不安になるのも解る。
国連軍すら彼らを見限れば今度こそ日本は終わるのだ。
その中で俺が来たことには多少なりともやはり影響があったみたいだ。
設定上日本の血が半分入っていることになっており、そして京都撤退戦で避難民を守るために単身BETA群に突っ込み戦い抜いた六つの腕を操る阿修羅。
彼らは、俺と言う虚像の英雄がこの地に来たことで国連軍はまだ日本を見捨ててはいないと感じているのだろう。
俺はそんな高等な人間ではないのに・・・。
時刻を確認すればそろそろ会議が終わる時間だった。
「それでは、俺はこの辺りで失礼します。」
俺はそう言い残し、会議室入り口まで向かった。
会議室から出てくる高官達は一様に苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。
レオの奴は相当な事を言ったのだろうか?
次々出てくる高官に俺は周りに習って頭を下げながらやり過ごす。
「和、真・・・ッ。」
俺が顔を上げるとそこには、政威大将軍、煌武院悠陽がいた。
「お初にお目にかかります。国連太平洋方面第九軍所属、五六和真中尉です。」
俺の淡々とした口調に悠陽も我に返る。
「あなたの事は聞き及んでいます。大変、大義でありました。日本帝国を代表してあなたに心よりの感謝を・・・。」
「はっ!ありがとうございます!!」
悠陽は俺にそう言うとまだ何か話したそうにしていたが、護衛の人に先を急がされ去っていたった。
「・・・頑張れ。」
聞こえない声量で俺は彼女にエールを送った。
「すまないね、和真君。私はもう少し話し合いを続けたくてね、どこかで時間を潰していてくれ、呼び出しはこちらから行うからね。」
「了解!」
俺はレオにそう告げ会議室を後にした。
時刻はすでに夜の八時だ。
空に昇る月が俺を優しく照らす。
俺は第二帝都城内の端にある丘の上でその月を見上げる。
「もうすぐ明星作戦が始まる。リリア、ザウル、父さん、俺はこれで良かったのかな?」
今日俺と共に騒いだ帝国軍人の皆、嵩宰少佐や唯衣ちゃん、上総ちゃんは確実に出撃するだろう。
だが、その作戦に参加することは死にに行くようなものだ。
俺はそれを知っていながら何もしないでいる。
リリアとザウルが命がけで守った人が死ぬかもしれない。
救える人がいるかもしれないのに、俺は大局を見たつもりになって少数を切り捨てようとしている。
こんな俺を見たら父さんはなんて言うのだろうか。
「でも、それでも、俺にはどうすることも出来ないんだ・・・。」
俺は拳を握り閉める。
「今回の結果は確実に人類に有益な情報をもたらすことになるんだ。」
今回の作戦が成功したとしても、しなかったとしても、人類にとって掛け替えのない何かをくれる筈なんだ。
「それでも、俺は誰にも死んで欲しくない。誰かが泣く所なんて見たくない・・・。消えて欲しくないんだ。」
俺は自分の身勝手さに憤り。
そして、それでも何も変わらないのが確定している世界に絶望し涙を流した。
日本に来るとすぐに涙を流してしまう。
それは、ここに来れば何もかもを忘れて初心に戻る事が出来るからなのかもしれない。
膝を付き頭を下げ、月に対して懺悔をする。
だが、その思いすら踏み貫くように雲が月を隠す。
それでも俺は流れる涙をそのままに、震える体を無視し懺悔し続けた。
だが、光は届かない。
深く淀んだ冷たい暗闇が俺を包もうとする。
だが、次の瞬間にはそれらすべてが一瞬で吹き飛ばされた。
「あっ・・・。」
太陽が俺を包む。
圧倒的なまでの光が俺を満たす。
「無理をしないで下さい。あなたは、泣いていいのですよ?」
その言葉が切っ掛けとなり何かが込み上げてくる。
「うっ、ひっく・・・、ごめんなさい・・・、ごめん・・・さない、ごめんなさい。」
俺は懐かしい温もりに抱かれ謝り続けた。
それからどれだけの時間泣いていたのだろうか。
レオからの連絡が無い事からもそんなに時間が立っていないのだろうか。
俺が太陽を自ら遠ざけると懐かしい声が降ってきた。
「もう、よろしいのですか?」
「くく、それやったらホンマにあの時の再現やな。・・・久しぶり、綺麗になったね悠陽。」
「ふふふ、お世辞が上手くなりましね?お久しぶりです、和真。」
「それにしても、政威大将軍がこんな所におっていいんか?」
「邸内からあなたが、こちらに向かうのが見えまして、それで・・・。」
「えらい無茶をするお姫様やな?」
「最強の騎士様がいますから安心しています。」
「それは、俺の事でいいんか?」
「ふふふ、さぁ、誰のことでしょう?」
そこから俺達は丘の上で、雲からようやく顔を出した月を見ながら語り明かした。
「それでな?俺、焼きそば作るの自分でもうまくなったんちゃうかなと思うんよ!」
「まぁ、それでしたらいつかご馳走して頂きたいです。」
「おう!そん時が来たら今までの集大成の焼きそば作ったるわ!」
「ふふふ、今から楽しみです。」
その二人の姿は、階級や生まれや立場なんて関係がない、本当にただの友人と語らっているだけの風景だった。
だが、この2人にはその時間が殆どなく、そしてそれが掛け替えないものだと理解したうえで、これが最後かもしれないと話会っていた。
「そろそろ、行かなくては行けませんね・・・。」
そう言って悠陽が俺に向き直る。
「そっか・・・。なぁ、悠陽?」
「はい?」
「ここ最近は日本にも毒蛇が増えたみたいだから、気を付けてな?」
俺の突然の発言に悠陽は一瞬驚き固まるが、すぐに笑顔に戻した。
「はい、その毒を制する血清を作るために別の毒蛇を飼っています。ですから、大丈夫ですよ?」
「・・・そっか、安心した。」
俺はそう言うと、悠陽を抱きしめた。
「か、和真?」
俺は悠陽の耳元に口を寄せ話す。
「ごめん。多分、こんな事が出来るのもこれが最後になると思うから・・・。」
俺は母に甘える子供のように抱きしめ、その温もりを体全体で感じとる。
すると、悠陽も俺を抱き返してきた。
「ふふ、私の初めての友人は甘えん坊のようですね?・・・大丈夫、大丈夫ですよ。」
そして、抱き合っていた俺達はどちらかともなく体を離し、そして別れて行った。
レオから通信が入る。
「もういいのかい?」
「あぁ、ありがとうな待っといてくれて。」
「別に構わないよ。それより、君は私に言いたい事があるのじゃないかな?」
「なんでも、お見通しか・・・。なぁ、レオ?」
「なんだい?」
「俺、やっぱりここに住む皆を見殺しになんかできやんわ。」
「・・・それで、君はどうしたいんだい?」
「なぁ、レオ・・・。俺、明星作戦に参加するわ。」