Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

36 / 97
ただ前へ

1999年7月22日:東京

横浜ハイヴまで目と鼻の先のその場には、数多くの人々がいた。

朝日が昇るよりも前の時間、今にも泣きだしそうな空がこれからの未来を予想しているみたいだ。

そして、そこにいる人々は二種類に分けられる。

見送られる人と見送る人の二種類に―――。

 

「俺は生き残るよ・・・。生きて、君に言いたい事があるんだ。・・・その時が来たら、俺の話を聞いてくれるかい?」

ある青年の戦車乗りは生きて帰るために愛する者に誓いをたてる。

 

「子供達の事を頼んだわよ?こらっ、何泣きそうな顔してるのよ。男でしょ?シャキッとしなさい!」

ある女CPは、戦場に立つ事が出来ない夫と今年二歳になったばかりの子供に愛を囁く。

 

「我ら斯衛は、日本帝国の剣であり盾である。・・・そう教えられ育ってきた。でも、今ならはっきり言えるよ。俺は、お前達を守るためにこの剣と盾を手に入れたのだと。」

ある斯衛の衛士は跡継ぎとなる子供に真に守るモノは何かを言い聞かす。

 

「まさか、この歳になって御国のために働けるとはの・・・。わしらも、まだまだ捨てたモノじゃないの?」

「えぇ、これで先に逝った我が子に誇れる事ができますね?」

ある老夫婦は衛生兵として戦場に赴く事を我が子の墓前で誇らしげに語り合う。

 

「泣かないでくれよ母さん、これで僕もやっと一人前になるんだ。兄さん達に追いついたんだ。あぁ、ほら笑ってよ母さん!僕はちゃんと帰って来るよ!母さん1人を置いていくはずないだろ?そんな事をしたら、靖国で待つ父さんや兄さん達に怒られちゃうよ。」

ある心優しい母親思いの少年衛士は、その首に兄のドッグタグを付け、心に父の思いを乗せて、泣き虫な母を慰める。

 

「よろしくお願いします・・・。」

「この子、夜泣きが凄いから大変だと思うけど、お願いね母さん。」

「任せなさい・・・。でも、出来るだけ早く帰って来なさいよ?」

ある夫婦の戦艦乗りは、まだ乳飲み子の子供を祖母に預け、子供の未来を想像する。

 

「山城さん。」

「なに、篁さん?」

「頑張ろう!」

「えぇ!!」

ある斯衛の少女達は、先に逝った友に勝利を誓う。

 

「私が守る・・・。今度こそッ!だから、私に力を貸してくれ。・・・和真、彩峰中将。」

ある帝国軍最強の部隊に所属する衛士は、先達が叶えられなかった思いを背負い力に変える。

 

太陽の光が雲の切れ目から人々に降り注ぐ。

まるで祝福しているように、勝利を約束しているように―――。

そして、思いが叶うように・・・。

―――時が来た。

この国を取り戻す時が、愛する者達を守る時が、未来を掴みとる時が。

その先に待つのが例え絶望であろうとも、残した思いが実りを迎える事を願い、守り人は戦場に向かう。

 

愛する者と泣きながら抱き締めあい。

泣く夫を笑いながら抱きしめ。

自分の事を尊敬の眼差しで見つめる子供達を優しく抱きしめ。

そこにいる子供に見せつけるように、昔のようにキスを交わし。

泣きながら無理に笑おうとする母に、最高の笑顔をプレゼントし。

親と引き離されるのが分かったのか、泣き出す子供に優しくキスをし。

あの頃と同じように、いないはずの三人の友を合わせた五人で拳をぶつけ合わせる。

見つめる先には、戦場のみ。

 

そして、巻き起こる万歳の嵐。

それは、最高のエール。

背を伸ばし戦場に送り出してくれる言葉。

例え、その顔が泣き顔でもその言葉がすべてを乗せている。

 

戦場に向かう者達は役割も力も違う点が多い。

だが、彼らには1つ。

たった1つだけ共通するモノがある。

それは・・・。

「俺が―――。」

「私が―――。」

「僕が―――。」

 

「―――――守る!!」

 

名も無い、歴史に残る事すらない人々の思いが1つとなりそれが大きな渦となって固まり、力となった。

後はただ、前に進むのみ。

 

1999年8月5日

遠方に聳え立つ忌々しいモニュメントを見つめながら作戦開始の時刻を待つ。

数々のモニターには、様々なモノが浮かんでは消えて行く。

暗い室内には、キーボ-ドを忙しなく叩く音が響く。

「司令、作戦開始時刻です。」

「いよいよ、か・・・。」

司令と呼ばれた男は大きく深呼吸をする。

「作戦司令部より、殿下へ。―――星は落ちた。」

「了解。星は落ちた、繰り返す、星は落ちた。」

「この時を待ち望んでいた・・・。どれだけ夢想しようとも叶わぬと思っていた事が現実のものとなる。」

「司令!城内省、政威大将軍、煌武院悠陽殿下より返電。東方より日は出(いずる)、以上です。」

「諸君ッ!現時刻を持って明星作戦を発動する!!」

 

同時刻:高度500km地球周回低軌道上

テレビの中でしか見たことがなかった世界がそこには広がっていた。

真っ暗な世界の中で青く光る球体。

地球を外から見るのはこれが初めてだ。

「これが、ただの宇宙旅行やったらテンションがMaxになるねんけどな。」

すると、モニターに映し出された映像に変化が現れた。

「遂に始まった・・・。」

俺が見つめるモニターの先では国連宇宙軍により放たれた無数の爆撃。

それは、横浜ハイヴに降り注ぐ大量の対レーザー弾頭弾(ALM)。

それは海からも放たれ、空一面に濃厚な煙幕を広げていく。

そして、それらが地表より放たれる光の矢の威力を減衰させる。

その後、今度は殺傷能力のある砲弾が放たれていく。

まずは、これを繰り返し出来うる限りのBETAを葬る。

その光景を目の当たりにしながら、俺は昨日の事を思い出す。

 

「何故、俺が明星作戦に参加する事を認めてくれたんや?」

「それは、日本帝国との交渉の結果我々が参加する事が決まったからさ。」

「それだけの物を日本は提示してきたんか?」

「まぁね、1つは人的資源。つまり、難民としてネフレにやってきた日本人から技術を公然的に得られるようになったこと。二つ目は、日本帝国が進めている新型戦術機の開発にネフレを加えること。三つ目は、情報省が掴んでいる情報の一部開示と。これほどの条件を提示されたんだ、我々が加わらない理由がないだろう?それに、これでハイヴが攻略出来た場合我々の作った物が爆発的に売れる。兵器をネフレ一色に出来る可能性もある訳だ。もし、そうなったら世界を1つにする時間が短縮される。」

「どちらにしろ、今回の作戦は成功することがほぼ決まっている・・・。いわば出来レースか。」

「そう言うことだ。恨まれるにしても、それはアメリカで我々では無い。」

「・・・G弾はそこまでの威力なんか?」

「それは、明後日の楽しみだよ。」

レオと話した後、俺はストーの元に向かった。

言わなければいけないことがあるからだ。

「和君・・・。」

ストーが不安げね表情で俺を見る。

それに俺は膝を付きストーを優しく抱き寄せる。

「・・・ごめんな、ストー。今回の作戦には参加させることができひん。」

「なんで!?」

「今回の作戦は危険が多すぎる。トイ・ボックスから2人も出してしまって、もし俺達二人が死んでしまったら計画が遅れてしまうかもしらん。」

「やだっ!!やだやだっ!私は和君と行く!どこまでも付いて行くって、決めてるの!・・・決めたの!!」

ストーがここまでの我儘を言うのは珍しい。

俺は、それが嬉しかった。

いつもどこか一歩引いてるところがあったストーが成長した気がした。

「ごめんな・・・。」

俺はそう言って強く抱きしめる。

すると、ストーは俺の首元を力一杯噛んできた。

俺をどこにも行かさない様に、離さない様に・・・。

「・・・ごめんな。」

ストーは泣きながら噛み続ける。

まるで、こうなることが分かっていたかのように。

そして、俺はストーを引きはがす。

「それじゃ、行ってきます。」

そう言って俺はストーに背を向ける。

「ダメだよ・・・。行っちゃダメだよ・・・、私を1人にしないで・・・。」

ストーの泣声が後方から聞こえて来る。

俺はそれを聞かない様に速足でその場を離れた。

 

 

「ストーは、怒っているやろうな・・・。」

それでも、解って欲しい。

ストーは、まだ初陣を終えたばかりなのだ。

二回目の戦場がハイヴ攻略なんて馬鹿げている。

「過保護過ぎるな・・・。」

俺はそう言いながら、苦笑いを浮かべた。

 

東京湾沖合

暗い暗い海の底には、鳥がいた。

その鳥はクジラのような船の先端に張り付いている。

「全モンスターズ、発進準備!繰り返す、発進準備!!」

ソードフィッシュ級潜水艦から解き放たれた鳥は、餌場を求めて彷徨い出る。

海が爆ぜ、その水柱の中より姿を現したのは闇色を纏った戦術機。

世界初のステルス搭載機だ。

その姿は、まさにモンスター。

逆間接の足。

大きく長い腕に尖った爪。

頭が無い胴体には、虫のような複眼が光る。

この戦術機の名はナイトホーク。

攻撃機でありながらステルス機能を世界初搭載した。

夜鳥である。

「こちとら、欧州から態々来てやったんだ。ボーナスは出るんだろうな?」

「あら、じゃあこの前の貸したお金を返して貰えるわね?」

「うるさいぞ、お前等!俺達は言われた事をすればそれでいい。」

「モンスターズリーダーより各機へ、仕事の時間だ。怪鳥の爪を奴らに食いこませてやれッ!!」

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

同沖合:ニミッツ級戦術機空母

その甲板にはトムキャットの姿。

だが、それにしては武装が異色を放っている。

肩部にフェニックスミサイルが計12発。

脚部に3連装ミサイルポッド。

腕部にはバズーカ。

その戦術機の名はボムキャット。

BETAを殲滅するためだけに存在を許される戦術機。

「ボマーズリーダーより、各機へ。日本から我らが会社に恩を輸送するぞ?食った者勝ちだ。実にシンプルで解りやすい!全機ッ荒ぶれよ!!」

「「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」」

 

そして、日本帝国軍、斯衛軍、極東国連軍、大東亜連合、ネフレからなる連合軍が大地を多い尽くすBETAの群れにその身を投げ入れる。

相手は津波。

岩を投げ入れた程度では、止められるはずが無い。

だが、その岩の数を増やし、同時に投げ入れ、大きな波紋を作り出せば津波を相殺。

嫌、飲み込む事すら出来る。

「全機、兵器使用自由ッ!!下等生物共に思い知らせろ!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

あれから何時間たった?

あれからどれだけの人が死んだ?

俺は震える手を握り閉め、その時を待つ。

この作戦での俺の役割は、道を切り開く事。

簡単に言えば、特攻だ。

俺を運ぶ再突入型駆逐艦(HSST)に搭載されている再突入カーゴは少し違う。

HSSTには本来二機分の再突入カーゴを取り付ける事が可能となっているが、このHSSTに一機分しか搭載出来ない。

それは、再突入カーゴが大きすぎるためだ。

その理由が今回の任務のために用意された兵装。

それは超大型のブースターだった。

そのブースターはジュラーブリクE型の下半身すら飲み込んでいる。

途轍もなく長いそのブースターの外装には、合計八個の小型ブースターが取り付けられており、これで各ブースター一回限りの緊急回避を行う。

見た目を言ってみればミサイルの先端にジュラーブリクがめり込んでいる感じだ。

その時、通信が入る。

「五六中尉。」

「はい。」

「作戦開始から10時間が経過しましたが、今だ敵の内部に入り込むだけの数を減らせていません。」

「俺の出番と言う事ですね。」

「はい。次の降下ポイントに到着しだい、作戦を始めます。」

「了解!!」

 

旗艦艦内

「艦長!」

「どうした?」

「作戦司令部より、陣形の変更命令です!」

「このタイミングで?・・・一体何を考えているんだ。」

その陣形は少し変わっていた。

太平洋方面から横浜ハイヴに向かって一本の道を作れと言うのだ。

はっきり言って悪手である。

わざわざ今の位置を移動してまで行う必要があるとは思えない。

だが、命令とあっては従わなければ行けないのが軍人だ。

艦長は命令通りに指示を行っていく。

 

「再突入カーゴ、分離!御武運を・・・。」

HSSTから放り出された俺は、真っ直ぐに地球に吸いこまれていく。

「ぐっ・・・!」

身体に途轍もないGが掛かる。

意識が吹っ飛んでしまいそうだ。

そうなれればどれだけ楽だろうか。

だが、俺の体は意識を決して手放したりしない。

身体中の筋肉が悲鳴を上げ息を吐く事すら出来ない。

「つぅあ・・・。」

薬はすでに飲んでいる。

脳のリミッターも切っている。

正真正銘の本気でやつらを殺しにいく。

大気に再突入カーゴを燃やされながら高度2000mに到達する。

「再突入カーゴ、分離!!」

俺を守っていてくれていた殻は、役目を終えるとその身を砕き空に消える。

心臓が高鳴る。

腕が重い。

今から何をするのか、ときどき忘れてしまいそうになる。

海が近づく。

「メインブースター!」

このままでは、海にその身を砕かれてしまう。

「点火!」

空に投げ出された鋼鉄の芋虫のケツに火がともる。

それは、爆音を上げ次々と誕生日ケーキのローソクのように別のブースターにも火を灯す。

次の瞬間、世界が止まり、そして線になった。

 

「くそっ!下等生物共がぁ!!」

撃震に乗る帝国軍大尉は叫びを上げる。

もともと出来て間もないハイヴ、フェイズも2である事が確認されている。

だが、BETAの数が多すぎる。

「うわぁああああああっ!!」

また、仲間が死んだ。

後残りどれだけの仲間がいる?

俺達は、他国に助けを借りてでも、この作戦を絶対に成功させなければならないのに。

それでも、俺は、人類は、奴らに勝つことが出来ないのか・・・。

その時、CPから通信が入る。

「進行ルート変更です。ただちに指定されたポイントに向かって下さい。」

その命令が俺には信じられなかった。

「なに馬鹿な事を言ってやがる!ここを離れちまったら陣形に穴を開けちまうだろうが!」

それは真っ直ぐにBETA内部、忌々しい光線級がいるポイントまで線を引いたような陣形だった。

「命令に変更はありません。」

「クソッ!各機聞いていたな!?ただちに所定ポイントまで向かうぞ!」

戦域マップを見れば他の部隊も移動を開始し、東京湾から真っ直ぐに線が引かれていく。

それと同時に空を飛ぶ多数の無人爆撃機がBETA内部へと進行していく。

「国連のお気に入りか何か知らないが、企業の連中は馬鹿なのか?」

そして、それらは光線級のレーザーに次々と落とされていく。

「言わんこっちゃない・・・。」

貴重な爆撃機をこんな所で無駄に消費しやがって、金を手に入れると頭が馬鹿になるものなのか?

だが、意味の解らない命令のつけは別の所にも影響を与える。

開けた陣形内をBETAが進行を開始したのだ。

「クソッ、最悪だ!」

そして、それは穴の開いた箇所にいる部隊にも影響を与える。

「BETA総数1000!まだまだ増えて行きます!」

部隊の仲間から通信が入る。

「解っている!全機、こんな意味不明な命令のために死ぬなよ!」

こんな理不尽で死んでたまるか!

俺はそう言いながら突撃砲を構える。

「た、隊長!」

「今度はなんだ!」

「東京湾から何かが来ます!」

「なに!?」

レーダーを見ると途轍もない速度で進んで来るなにか・・・。

「あれは、ミサイルか?・・・嫌、違う、これは・・・友軍機!?戦闘機がなんでここにいやがる!?」

それは、戦闘機と言うには大きすぎる。

だが、そうとしか思えない速度、もしくはそれ以上の速度で陣形を開けた場所に侵入する。

すると、企業の無人爆撃機がそれを守るように集まりレーザーに撃ち抜かれて行く。

「馬鹿野郎!自殺行為だ!!」

だが、そいつは止まらない。

何かに追い立てられているかのように突き進む。

そして、すべての無人爆撃機が落とされた時にアラートが鳴り響く。

「これは・・・、S-11!!?全機!耐衝撃、急げ!!」

戦闘機のような何かから放たれた多数のミサイルはそれぞれ真っ直ぐに進み、光線級がレーザーを放つ前に爆発する。

凄まじい衝撃が機体を揺らす。

「無茶苦茶だ!!」

部隊に合流したばかりの新人が喚く。

皆がそう思っている筈だが、それに相槌を打っている暇は無い。

何故なら、今までどうあっても進行することすら出来なかったBETAの壁にぽっかりといくつもの大穴が空いているからだ。

世界が静寂に包まれている気がした。

向かってくるBETAを殺している筈なのに現実感が無い。

アイツは何をした?

ただ、BETAの群れの中に突っ込んでミサイルを撃っただけ。

だが、そんな事が出来る筈がないと誰もが思っていた。

俺は夢を見ているかのような感覚を覚えていたが、そんな俺を現実の世界に引き込む声が聞こえた。

 

俺は一生この時の事を忘れないだろう。

その声は、俺達の心を揺さぶり血肉を滾らせるのに十分だった。

 

「―――ここからッ!人類のッ!人のッ!俺のッ!反撃開始だッ!覚えてやがれ下等生物共ッ!!―――俺が、俺達がッ!テメェらの天敵種様だッ!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。