Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
暗い部屋の中に淡い人工的な青色が光る。
その青に照らされている白衣を着た人物は光の元であるパソコンのディスプレイを睨み付けていた。
そのディスプレイには、様々な情報が記載されている。
「五六和真、性別男、ニクスが自分から初めて触れ合った異性、黄色人種、国連仕様の衛士強化装備服とヘルメット、ククリナイフを所持していることから国連のインド洋方面か太平洋方面の人物と仮定、ただしデータベースにはその様な人物はいない、か。・・・ふぅ。」
白衣を着た人物、博士はそれらを一通り目に通すと大きく溜息を吐く。
「・・・この人物はどうしますか?」
部下の1人が声を掛けてきた。
「・・・まだ、上層部に連絡するほどの事でもないだろう。引き続き情報を集めてくれ。」
その判断に部下が驚く。
「・・・消さなくてよろしいのですか?」
「彼と接触したことによりニクスにも変化が現れ始めた。もう少しデータが欲しい。この変化が吉と出るか凶と出るか、それらが判明してからでも遅くは無い。」
すると、別の部下が不快感を露わにしながら心境を吐露した。
「その必要は無いのではありませんか?」
「・・・どう言う事だね?」
「我々の研究はアレを更なる高みへと登らせることです。人形に感情は不要でしょう。早急に邪魔な存在は片付けアレを完璧な兵器にするべきです。そもそも、女体を選んだのが間違いだった。最悪の場合、情報を奪われる可能性もある。対象が我々の研究成果を奪うために用意された存在なのかもしれないのですよ?」
他の部下たちもその発言を肯定するかのような空気を出す。
「・・・言いたい事はそれだけか?」
だが、博士は違った。
その瞳を刃物のように鋭くし、発言した部下を睨む。
「ニクスに現れた変化は良い物だ。そもそも、君達は勘違いしている。我々はただの人形を作っている訳では無い。人でありながら兵器である存在を、最強の人間を作ろうとしているのだ。・・・そこをはき違えるなよ?」
「くっ・・・解りました。」
太陽の容赦ない光が俺を無理矢理覚醒させようとする。
くそっ、俺の体内時計ではまだ一時間は寝ていられるハズなんだ。
邪魔をしないでくれ。
俺は太陽の光を遮るために枕で顔を覆おうとする。
だが、手さぐりで探そうとも枕が無い。
「う~ん・・・。」
俺は手さぐりで探すが中々枕が見つからない。
もう何でもいい、何かないのか。
その時、俺の手に何かが触れた。
感触からして柔らかい、きっとこれが枕だろう。
やっと、見つけた。
そして、俺はそれを勢いよく引き寄せ抱きしめる。
「きゃ・・・。」
そして、それを力一杯抱きしめる。
これで、俺の安眠は邪魔されない。
だが、枕にしては感触がおかしい。
弾力があって気持ちがいいのだが挟み込まれているみたいだ。
それに、すごくいい香りがする。
俺の枕ってこんなにいい香りがしたっけ?
だが、そんなことより睡魔が勝っていた俺はそれらすべての疑問を投げ打ってさらに強く抱きしめ、この感触を楽しんだ。
―――ぽふっ。
何か柔らかいものが俺の頭に当たる。
ふっ、だが俺はその程度では起きんよ!
さらに枕にしている何かの感触を楽しむ。
―――ぼふっ、ぼふっ。
「う~ん、なんや?」
そして、俺は等々観念して目蓋を開いていく。
すると、そこには大きな肉まんが二つあった。
なんだ、これは・・・?
「よく解らないから、もう一度抱きしめるとしよう。」
「・・・いい加減にしなさい。」
その声は俺の頭上から降ってきた。
「・・・はい。」
そして、俺は飛び起きる。
「やぁ、おはようニクス!」
俺は元気なのを無駄にアピールしながら挨拶をした。
ニクスは手に枕を持ちながら、顔を赤くしベッドに横になっていた。
そして、その顔を枕でかくしてしまった。
「ご、ごめん。やから、機嫌治して?」
すると、ニクスは枕から少しだけ顔を出す。
「・・・エッチ。」
グハッ―――。
どうにかして俺の腕から逃れようとしたのか衣服が乱れ、所々肌が露わになっているニクスは破壊力抜群だった。
俺達は朝食を済ませおばちゃんの店に向かう。
「なぁ、機嫌治してくれよ。」
「・・・。」
さっきからずっとこれだ・・・。
「分かった、分かったよ。何でも言う事1つ聞くから、な?」
すると、ニクスがピクリと反応した。
「何でも?」
「あぁ、男に二言は無い!」
「じゃあ、次のヨンソク一緒に行こ?」
「ヨンソク?」
確か、ノルウェーの祭りだったかな。
「分かった!一緒に行こう!!」
「・・・良かった。」
「おばちゃん、おはようございます!」
「おはようございます。」
「待ってたよ!あら、可愛い髪留めしてるじゃないさね!ニクスちゃんは、可愛いのだから、その武器を生かすべきさね!やっぱりあたしの目に狂いは無かったと言う訳さね!それじゃ、店番頼むね!あたしは、ヨンソクの準備をしなきゃいけないからね。少し店を開けるよ!」
おばちゃんはそう言うと、どこかに行ってしまった。
「それじゃあ、俺達も仕事の準備を始めようか!」
「・・・うん。」
だが、やはり客は来ない。
俺達の露店だけが忘れ去られているように孤立していた。
「・・・。」
ニクスは目に見えて落ち込んでいる。
ここは、俺がなんとかしないとな。
俺に力を貸してくれ、元の世界のサービス業の皆様!日本式接客業の力を今こそ見せる時!!
「そこ行く綺麗なおねぇさ~ん!新鮮な山菜はいかが?いらっしゃいませ~!ちょっと、おっちゃん見て言ってよ!」
そんな少し強引な接客を続けることかれこれ5時間、客足は依然変わらなかった。
もうダメなのか・・・、そう思った時だった。
「おい、ジジィ。俺の物と物々交換してくれねぇか?」
「あっ、てめぇはあの時の泥棒ガキ!」
だが、泥棒ガキは俺の事を無視し俯くニクスの方を見る。
「ジジィより、こっちの綺麗な姉ちゃんの方が気分がいいな!なぁ、姉ちゃん俺の麺とその山菜物々交換といかない?」
いきなり話を振られたニクスに驚きと喜びと緊張が一気に押し寄せる。
「えっ、あっ・・・、うっ。」
そんなニクスの手を俺はしっかりと握った。
すると、俺を不安に支配されたニクスの瞳が見つめる。
それに俺は笑顔で頷く。
すると、ニクスは一度大きく頷いた。
「い、いらっしゃい、ませ~。は、はい、物々交換ですね?まいど、ありがとうございます。」
「そうかい!ありがとうよ姉ちゃん。仕事頑張ってな!・・・それと、早く爆ぜろジジィ!」
「んだと、ガキ!」
「ははははっ、じゃ~なぁ~!」
そう言うと、泥棒ガキは元気に走り去って行った。
「たくっ・・・、良かったなニクス!・・・ニクス?」
俺が呼んでも固まったままのニクスはガキから受け取った麺を呆けた顔で見つめていた。
そして、それを振るえる手で見せてくる。
「あ・・・あ、・・・。」
緊張が限界に達してしまったのか何を言ってるのか解らない。
「やったじゃないかニクス!」
俺は手放しで喜びを表現した。
すると、ニクスの震えは体全体に伝染していく。
なんて言うか、小動物みたいにプルプルしていた。
そして、ニクスの顔の筋肉が緩むと同時に感情の波はニクスを覆い尽くした。
「おわっ!」
ニクスが勢いよく俺に抱き着いて来る。
そして、俺の胸元に顔を埋め喜びを表す。
「やった、出来た・・・、出来たよ。」
その喜びはさらに俺にも伝染する。
「あぁ、頑張ったな!」
そして、俺達は抱き合った。
すると―――。
「見せつけてくれるじゃないさ!」
いつの間にか帰って来ていたおばちゃんが、ニヤニヤしながら俺達を見ていた。
そのおばちゃんの微笑ましい物を見たと言った表情を見た瞬間に俺達は慌てて離れる。
「いや、あの、これは、その・・・。」
俺は頭が熱でパンクし何を言ったら良いのかうまく口に出せない。
ニクスも頭から湯気を出し俯いてしまっている。
「ははははははっ、若いってイイネェ~!おやっ、初めての商売で手に入れたのはそれかい?」
おばちゃんはそう言ってニクスが手に持つ麺を指差した。
すると、コクリとニクスが頷く。
「そうかい、良かったね!・・・それじゃ、仕事を続けようか!」
「はい!」
「・・・はい。」
それからは、いつもより少なくはあるが客足は戻りつつあった。
気に入らないがあのガキが切っ掛けを作ってくれたのだ。
それに祭りが近いと言うのもあったのだろう。
皆機嫌が良かったのか、皆がニクスと話たいと思っていたのか知らないが少なくとも常連客などの人達は、ニクスとも会話をしてくれていた。
俺達はゆっくりではあるが、町の人間になっていたのだ。
そして、仕事が終わると同時にニクスに連れて行きたい場所があると言われ俺はついていくことにした。
そこは、町から離れた海が一望できる崖だった。
そして、その崖の先には海を照らす灯台のように大地に根ずく一本の木。
「ここは・・・?」
「ここは、いつも私が来ていた場所・・・。嫌なことがあったらいつもここに来ている。」
「へぇ、綺麗な場所だな。」
夕陽に照らされる海にそれを見守る一本の木。
どこぞの絵画の中のような風景だ。
俺は木に手を付け海を眺めているニクスの傍に立つ。
「この風景を和君に見せたかった。」
「あぁ、凄く綺麗だ。」
「・・・ここに来ると、自分が何をしたいのか思い出させてくれる。」
ニクスが目を細め眩しそうに海を眺める。
「そろそろ、帰ろ?」
「・・・そうやな。」
そして、俺達は手を繋ぎ帰路についた。
またここに来ようと約束をして・・・。
「・・・今日の晩御飯はなに?」
「今日はおばちゃんから貰った食材と、あのクソガキと交換した麺を使って俺の一番の得意料理をしてやるよ!」
「・・・手伝う。」
「いや、今日は手伝いは良いよ。やから、待っといて。」
「いや、手伝う。」
「やから、良いって。」
「手伝う。」
ニクスはそう言うと、包丁を俺から取り上げ俺の作業を奪った。
「痛っ・・・。」
「ほら、慌てて作業するからッ・・・。」
ニクスの指からは包丁で切ってしまったのか赤い血が流れ落ちていた。
だが、それにはあるはずの無い物が混じっていた。
それは、一瞬、ほんの一滴だったが確かに俺は見た。
赤に混じる緑を・・・。
それは、俺の体内に流れる物と同じ色をしていた。
いやいや、さすがに見間違いだろう。
俺は自分にそう言い聞かした。
ナノマシンはこの時代に無いはず、その筈なんだ。
「ほら、早く傷口を消毒しな。そこのタンスの中にあるから。」
俺は出来るだけニクスの顔を見ずに言い切る。
俺の動揺した顔を見せないために・・・。
そして、料理を作り終えた俺はテーブルで待つニクスの元に作った料理を差し出す。
「これはな、俺の自信作、焼きそばや!まぁ、ソースとか無いから代わりに塩を使ったけどな?でも、ちゃんと塩焼きそばってあるからな?偽物ちゃうで?はははははっ。」
「・・・・・・。」
ニクスは先程から俯き何かに脅えるように震えていた。
俺はそれに気が付かないふりをし、無理矢理場の空気を良くしようと努める。
「はやく食わんと冷めてまうで?一応合成物やけど、肉油使ったし味は大丈夫やと思うねんけど、あむ・・・、Oh、パサパサしとる。ま、まぁ食えん事は無いかな?はははははっ・・・はは、は。」
だが、ニクスはまるで叱られるのが解っている子供のように震えたままだ。
「・・・なぁ、ニクス。」
ビクっと、ニクスの体が一度跳ねる。
「俺は、べつに―――。」
俺がそう言った瞬間にニクスは椅子から立ち上がる。
「お、おい・・・。」
そして、外に出て行こうとした。
「ど、どこに行くんや?外は真っ暗やからな、俺も・・・。」
そう言って俺も席を立とうとする。
「ついてこないでッ!!」
それは拒絶、ニクスと俺の間には超える事が出来ない壁が出来上がってしまった。
その事実に固まる俺を置いてニクスは走り去っていった。
だが、俺は見てしまった。
走り去るニクスの涙を、泣いていたんだニクスは!
ならッ――――。
「そんなこと、出来る訳ねぇだろッ!!」
そして、俺はニクスの後を追う為に外に飛び出す。
だが、飛び出したは良い物の完全に夜の闇に支配されており何も見えない。
「くそっ!これじゃ、探す以前の問題だぞ!」
だが、ここで諦める訳にはいかない。
俺は、意識を集中する。
そして、脳のリミッターを解除した。
次の瞬間には俺の視界は昼の様にすべてを捕えていた。
「意地でも見つけ出すぞ、ニクスッ!」
そして俺は、夜の闇の中に走り出した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
町の中を走り回る。
ニクスと行った所はすべて回った。
なのに、ニクスどころか人っ子一人いない。
「ニクス、どこだーーっ!!」
俺の叫びは空しく闇に吸い込まれていく。
だが、人よりも感覚が研ぎ澄まされている今の俺には聞こえた。
それは、波の音だった。
その時俺は思い出す。
夕方、ニクスと共に行った場所の事を。
「馬鹿野郎!なに、一番大切な事を忘れてんだよ俺はッ!」
そして、俺は見つけた。
ニクスは崖の先に寂しく立つ木にもたれ掛り泣いている。
「ニクスーーーッ。」
俺に気が付いたニクスは脅えた瞳で俺を見る。
「嫌ッ、来ないで、来ないでよ!」
俺はニクスの心からの叫びに足を止めてしまう。
「お、俺なにかしてしまったかな?ごめん、謝るよ。だから・・・。」
「ちがっ、違う、和君はなにも悪くない。悪いのは私なの・・・。」
ニクスはその綺麗な瞳から涙を流し首を振る。
「ニクスは何も悪くないッ!悪くないんだ!!」
俺が一歩踏み出すと、ニクスも一歩下がる。
俺達には、もうどうしようも無い壁が出来上がっている。
「和君も見たでしょ?私の血の中に混ざり込んでいた物を・・・。」
「それは・・・。」
「私は、人間じゃにない。私は・・・、私は、魔女なんだよ。」
「そんなわけないだろッ!」
「魔女なんだよッ!なにも知らない癖に、私の事なんて何も知らない癖に、適当な事を言わないで!!」
「知らねぇよッ!俺が知ってるニクスは、いつも俯いていて何考えているか解らなくて、頑固で意地っ張りでその癖に恥ずかしがり屋で、でも俺みたいな訳の分からない男を助けて、世話を焼いて、時たま見せる笑顔が凄く可愛くて、優しい。そんなニクスしか知らねぇよッ!それ以外のニクスなんて、まだ知らねぇよ!でも、俺はそれ以外のニクスも知りたいんだ!笑ったり、泣いたり、怒ったり、悲しんだり、そんな・・・、まだ知らないお前を俺は知って行きたいんだよ!」
「・・・これを見てもまだそんな事が言える?」
ニクスはそう言うと、手首に力一杯噛みついた。
「やめっ!」
そして、流れる血と共に溢れ出す緑色のナノマシンが傷口を塞いでいく。
「ほら、これを見ても私が人間だと思うの?」
ニクスは涙を流しながら、精一杯の辛そうな笑顔を作り見せつけてくる。
その顔を俺は知っていた。
すべてに絶望した、父さんを殺した時の俺と同じ顔をしていたからだ。
だから俺は断言しよう。
「思う。」
その俺の即答にニクスが目を見開く。
「なん、で?・・・なんで、解らない。解らないよ!私と一緒にいたって不幸になるだけなんだよ!?」
「ならねぇよ。ニクスと共に降りかかる不幸なら、俺にとっては望む所だ、別にかまわぇよ。それに、俺が不幸になんてさせやしねぇよ。だから安心しろ、俺がお前を闇の中から光に押し上げてやるよ。・・・魔女以上の怪物が言うんだ間違いないだろ?」
「・・・そんな事、出来っこないよ。」
「出来るッ!俺がそう言ったんだ、やって見せてやるよ!」
「ふふふ、何故だか和君なら出来る気がする。ねぇ、和君・・・、私ッ!」
その時、ニクスの足元が崩れ落ちる。
「キャッ!」
そして、ニクスはそのまま崖下に吸い込まれていった。
「ニクスーーーーーーーーッ!!!」
間に合え、間に合え、間に合えッ!
「間に合えーーーーーッ!」
そして、崖から飛び降りた俺はニクスの姿を見つけニクスを守るように抱きしめる。
「ガぁ!」
飛び出していた岩が俺の肩や背中を傷つけ肉を抉って行く。
あぁ、クソ薬飲んでねぇや・・・。
でも、ニクスだけは守る。
何が何でも、守り切って見せる。
そして、俺達は暗い海に吸い込まれていった。
「はぁ、はぁ、くっ、ニクス大丈夫か?」
なんとか海岸まで辿り着くことが出来た俺は、ニクスの安否を確認する。
「私は、大丈夫。」
「そっか、良かった・・・。痛ぅ!」
「和君ッ!傷が、・・・ッ!?」
ニクスが俺の傷口を見て息を飲む。
当り前であろう。
自分と同じ存在が目の前にいるのだから。
「だから、言ったろ?お前は人間だよ。」
「和君?」
「あぁ、なんだよ?ガァっ!」
俺の体中から緑色の結晶が生まれ始める。
身体を酷使したせいではないだろう。
薬をなるべく飲まなかった俺の怠慢だ。
「和君ッ!!」
「悪ぃ、小屋まで連れて行ってくれ、強化装備服の中にぐっ、薬があるから・・・。」
そこで、俺の意識は途切れてしまった。
「和君、和君ッ!?」
どうしよう、私のせいだ。
私のせいで和君が・・・。
「・・・ここで、あなたを死なせない。死なせたくない。失いたくない!」
そして、私は和君の腕を肩に回し持ち上げ小屋に向け歩みを進めた。
小屋に戻った私は和君をベッドに寝かし薬を探す。
「薬、薬・・・、あった!」
和君の体からは、緑色の結晶が付き出している。
このままでは命の危険があるのは知っている。
私は和君の体が結晶に飲み込まれないために、最後の望みを託して、薬を用意した水と一緒に和君の口内に流し込む。
「和君、薬だよ。頑張って飲み込んで。」
「ごほっ、ごほっ・・・。ヒュー、ヒュー。」
だが、和君はその薬を吐き出してしまった。
それに、喉も圧迫されているのも解る。
「和君!お願い薬を飲んでッ!」
だが、衰弱している和君にはその体力すらないのも感じていた。
だから私は、和君が吐き出した錠剤を自分の口に放り込み唇を噛み千切る。
唇から溢れた血と混じりナノマシンが溢れ出す。
そして私は水を口に含みそれらを交じり合わせ、和君の頭を持ち上げ軌道を確保し自分の唇と和君の唇を合わせた。
私の口の中から水とナノマシンが錠剤を運び和君に流れ込んでいく。
和君が咳き込み苦しそうにもがく。
だが、私は引っかかれても唇を離さずにいた。
そして、和君が薬を飲み込んだのを確認すると唇を離す。
和君と私の唇から赤い糸が伸び途切れる。
そして、数分すると和君の体中から飛び出していた結晶は四散していった。
「良かった、間に合った、間に合ったよぅ・・・。ひっく、ぐす、うぇ・・・。」
私の泣声は小屋の中に広がって行く。
すると、暖かい手が私の頭に置かれた。
泣声が聞こえる。
誰だ?
誰が、泣いているんだ?
「ひっく、ぐす、うぇ・・・。」
この声は、ニクス?
誰だニクスを泣かしやがった奴は!!
そして、俺が目を覚ますと目の前には泣き顔のニクスがいた。
「・・・泣き顔も可愛いな?」
俺はそう言ってニクスの頭を撫でる。
「和君?和君、和君ッ!」
ニクスが緩みきった笑みで俺に抱き着いてきた。
「ご、めん、さない。ごめんなさい、ごめんなさい。」
「謝らんでも良いよ、それにご褒美も貰えたしな?」
「・・・ご褒美?」
俺はニクスに見えるように人差し指を向ける。
そこには、俺の体に覆いかぶさる格好のニクスにより出来上がった二つの潰れた大きな双丘。
すると、ニクスの顔はみるみる赤くなっていく。
「・・・エッチ。」
すると、離れると思っていたニクスはさらに抱き着く力を強めた。
俺は、そんなニクスを優しく抱きしめた。
それから一時間後、容体が回復した俺は立ち上がる。
それはニクスのお腹が可愛らしい音を出したためだ。
「じゃあ、焼きそばは冷めてもうたし別の作ろか?」
そう言って料理を運ぼうとするとニクスが俺の腕を掴む。
「それが食べたい。」
「えっ、でも、これ冷めてるし美味しくないで?」
「ううん、それが良いの。」
「・・・わかった。」
そして、ニクスが焼きそばを食べて行く。
「ほらな?美味しくないやろ?」
俺がそう尋ねるとニクスが勢いよく首を左右に振る。
「ううん、美味しい、美味しいよ。凄く美味しい・・・。」
ニクスは涙を流しながら焼きそばを食べて行った。
その日の夜は、ニクスは帰らずに俺と同じベッドで寝る事になった。
同じベッドで同じ布団の中にいる。
なのに、今の俺には邪な感情なんて起こらなかった。
ただ、今俺の腕の中にいる温もりを感じていたかった。
「ねぇ、和君?」
「うん?」
「和君の心臓の音が聞こえる。」
「ニクスの心臓の音も聞こえるぞ?」
「ふふふ、和君は暖かいね?」
「あぁ、ニクスも暖かいな。」