Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
朝、いつも通り目を覚ます俺はすぐにいつもと違う事に気が付く。
「おはよう、和君・・・。」
「あぁ、おはよう。」
いつもと違う事、それはニクスがすぐ傍にいる事だ。
俺は、俺の腕の中でモゾモゾ動くニクスをきつく抱きしめた。
「苦しい。」
「おっと、悪ぃ悪ぃ!」
俺が腕を解くとニクスがスルリと抜け出る。
そして、何かを探し始めた。
俺はニクスが探しているモノに検討がつき、共に探す。
すると、それはすぐに見つかった。
「ほら、髪留めあったで?」
「ありがとう。」
ニクスは髪留めを俺から受け取るとそれを手慣れた動作で取り付ける。
そして、朝日よりも輝く笑顔で笑いかけた。
「おはよう、和君!」
俺はそれに一瞬見とれてから笑い、もう一度挨拶をした。
俺は今1人で仕事をしている。
それはニクスがあの後帰ってしまったからだ。
一応晩御飯までには戻ると言っていたが、それまで俺はどうしよ?
そこで俺は首を傾げた。
「ニクスが傍にいないだけで、ここまで暇になるなんて・・・。」
そして、俺は呆けた顔で店番をしていた。
そろそろ店じまいをしようかと動き出した所でおばちゃんから声を掛けられる。
「和真君!ちょっとヨンソクの準備で男手が欲しいのだけれど良いかい?」
俺はこのおばちゃんに恩返しがしたかったのもあり快く返事を返した。
ちょっと、ニクスを待たす事になるかもやけど、ニクスも解ってくれるやろ。
そして、俺はおばちゃんの後をついていった。
完全に外界から隔離された白い壁に覆われた部屋の中にはいくつもの卵型のカプセルが存在した。
そのカプセル内には、それぞれ人影が見える。
その人影の内の1つはニクスのものだった。
そしてそのニクスを雲の上から眺めるように見ている人物が1人。
「ニクス体内のナノマシン抽出完了しました。これより、解析に入ります。」
「分かった続けてくれ・・・。」
「はい。」
そして、解析を進めていた部下の1人が叫び声のような声を上げる。
「は、博士ッ!」
「どうした?」
「何か異物が入り込んでいたらしく、それを調べていたのですが、それが・・・。」
「・・・異物?」
博士が怪訝な顔で部下に尋ねる。
その博士にたいし部下は信じられないと言った顔で答えた。
「はい、それは我々が研究を進めている物と同等の物、いえ・・・、もしかするとそれよりも遥かに高い技術で作り出された物です。」
「な・・・、に?」
ありえない・・・。
博士はそう信じて自ら解析データを覗いていく。
だが、博士はまるで幽霊でも見たかのように青ざめた。
「・・・君は引き続き、ニクスの方を頼む。こちらは、私が解析しよう。」
そして、博士自らが解析していく。
そして、それを見つけた。
それは、見覚えのある解除コードだった。
博士はそれを見て震えあがる。
「そんな、馬鹿な・・・。」
ありえない、たまたまだ。
博士は震える手で解除コードを入力している。
頭の中では疑問がさらなる疑問を生みだし収集が付かない状態となっている。
だが、博士は迷う事無くコードを打ち込んで行った。
そして、最後のコードを入力すると隠されていたデータが次々と溢れ出してくる。
だが、それらの情報を見ている暇なんて博士には殆どなかった。
ただ脳の中では1つの疑問が支配している。
―――何故、ニクスと同じ解除コードなのか?
それは、博士自信が考えた解除コードであり、博士以外知りえない情報だった。
偶然にしては出来過ぎている。
だが、その答えはすぐ目の前に表示されていた。
ニクス計画・1998年・被検体番号101・五六和真
そして、出てくるデータと言う名の蓄積された記憶。
それらが、真実だと告げる。
それらを確認した博士は、それらのデータを自分のノートパソコンに全て移し替えて行く。
そして、今まで使っていたパソコンのデータすべてを消し去り、どこにも流れていないか確認する。
そして、何かあった時のために用意していたウィルスを侵入させる。
後は、演技をしただけだ。
慌てる上官を演じデータの保護とウィルスの駆除を部下に命じる。
そして、指示を出していく中で博士はこれからの事を考えていた。
太陽は完全に沈み月明かりが照らす。
俺は予想以上に時間がかかってしまった事をどうやってニクスに説明するかを考えていた。
「まずいな、予想以上に仕事量が多かった・・・。なんて、言おう。」
そして、小屋に明かりがついているのを確認すると俺は慌てて小屋に向かった。
「ただいま!ご、ごめんッ!町の人に祭りの準備色々頼まれちゃ・・・、誰だ?」
「随分不用心だな?以前の君ならここまで緩みきっていなかったと思うが?そうか、町の雰囲気が君を堕落させてしまったのかな?」
俺にそう言ってきた男はヨレヨレの白衣を着ており無精髭を生やしている。
その姿でイスに腰掛け、まるで自宅にいるかのように寛いでいる。
「そう怖い顔をしないでくれ、むしろ私は今の君を見て安心している。以前のような君なら迷う事無く、私は君を殺していた。」
「俺は誰か、と聞いたと思うが・・・?」
「そう言えば自己紹介がまだだったな。そうだな、博士とでも呼んでくれ。私が何をしているのかというと、ナノマシンを研究・製作している者だ。」
その瞬間には、博士の喉元にククリナイフが押しつけられていた。
「・・・ニクスはどこにいる!ニクスに何をした?」
俺が博士を睨み付けながらそう問うと、博士はその目を細めニヤける。
「・・・ふふ、成長したのかとも思ったが君はなにも成長していないのだな?」
「そんな事はどうでもいいッ!!」
「殺したければ殺すがいいさ、・・・出来るのならな?」
博士の目は本物だった。
俺の価値を計っている。
そのためなら、ここで死んでも構わないと考えているのが伝わってきた。
博士の首から血が流れ落ちる。
だが、それは俺が故意にしたことではなかった。
俺の手が震えていたために傷つけてしまっていたのだ。
「人を殺すのがそんなに怖いか?」
「・・・ッ!」
「今ので確信した。お前は弱い、弱すぎる。そこいらの訓練兵の方がましな位に弱い。・・・そこが、美点でもある訳だがな。」
そう言うと博士は俺の手を握り閉め、ゆっくりとククリナイフをどかす。
「話をしようじゃないか。」
「まず先に、私はネフレの人間だ。」
「なん、だと?」
「正確には、ネフレ技術部に所属している。そこで、ナノマシンの開発・研究をしている。」
「それを、信じろと?」
「信じるも何も真実だ。もし不安なら、君お得意の催眠術とやらで私から聞き出せば良い。」
―――コイツ、どこまで俺の事を調べ上げやがった?ここでは、催眠術は使っていないぞ?
「不思議そうな顔をしているな?まぁ、その種明かしは後ですることになる。まずは、我々が行っている研究内容を説明しよう。」
そこから先の事は俺を驚愕させるのに十分な内容だった。
「まず、我々の目的は人でありながら人を超越した存在、言うなれば進化し続ける人を作ることから始まった。
人はか弱い、ちょっとしたことで直ぐに死んでしまう。
まずは、それをどうにかしようと研究が開始された。
だが、BETAが来たことでそれらが別の道に進む事となった。
今までは病気やケガなどのために開発されていたナノマシンは、戦争の道具となった。
人の体を内側から強化し、人が出来ない事をさせる兵器を作ることとなった。
例えば人は9G掛かると生命が危険になる。
だが、ナノマシンが体内に存在する人はそれらを軽く耐えてしまう。
そして、次に知識の問題だ。
BETAに勝つためにはそれなりの戦闘経験と知識、技術が必要になる。
だが、被検体に一から教え込むのでは時間が掛かり過ぎる。
そこで、ナノマシンにそれらの知識と言う名の経験を記憶させ、他の被検体に上書きすることにした。
後は簡単だ。
記憶されたデータ通りにナノマシンが体を作り変え、元の体が限界を迎えるまで戦い抜き、そして死んだ後もその経験は次の被検体に上書きされる。
これを繰り返して行けば、最強の人の完成だ。
そして、君も気が付いていると思うがナノマシンは他者の体に入り込む。
本来ならば慣らすために処置を施すのだが、元からの適合者なら問題はないだろ?
君のデータはニクスに渡っていた。
おそらく、ニクスのデータも君に写っているだろう。
そして、ニクスのデータを解析中に君がどういう経験をしてきたのかを見させて貰った。
和真、・・・君は、未来から来たね?」
その説明に俺は驚愕した。
なら、俺の体を流れる物とは・・・。
「あぁ、君の体には何十もの命が流れている。
別にそんな些細な事はどうでもいい、君の記憶を覗いたことで私も色々と危ない橋を渡る事となった。和真、君はネフレに帰れ、そこまでの準備なら私がしてやろう。」
「なっ!」
ネフレに帰れる。
レオに会えば俺が長い時間、この時代に留まっている原因が解るかもしれない。
でも、いいのか?ニクスを皆を置いて、俺だけが・・・。
「それと、これ以上ニクスと関わるな。」
「・・・何故?」
震える喉から無理矢理声を捻りだす。
「そのままの意味だ。事情は君が一番知っているだろう?・・・私はニクスを悲しませたくないのだよ。」
その発言に俺は呆けた顔を向けてしまった。
「おかしいか?被検体に親愛感情を持っているのが、これでも彼女達との付き合いは誰よりも長いのでね。」
博士は言いたい事だけを言い立ち上がる。
「迎えの日取りが決まりしだい再びここにくる、準備していろ。」
そして博士は小屋から出て行った。
「俺は・・・。」
俺自身解っていた。
いつか、別れる日が来ることは・・・。
俺は、いつかこの時代から去る事になる。
それは、多分確定している。
なら、このまま合わない方が良いのだろう。
だが、俺の心がそれを否定したがる。
なにが確定しているだ!まだ解らないだろ!?
そう俺に言ってくる。
だが、俺はその声に耳を傾ける気にはなれなかった。
あれから、一週間が経過した。
ニクスは小屋には来ていない。
あの男はニクスを愛していると言った。
あの顔は本気だ。
あの男に任せておけばニクスは俺といるよりも幸せになる事ができるのかもしれない。
そこまで考えてから、俺は太陽が昇り始めたのを確認した。
「・・・そろそろ、仕事にいくか。」
そして俺は覚束ない足取りで町に向かう。
「休んでも大丈夫なんだよ?」
露店に到着した瞬間におばちゃんにそう言われた。
俺の顔はそんなに酷かったのだろうか?
「ニクスちゃんが来ないだけで、大分変っちまうもんだねぇ。この店も看板娘がいなくて泣いているよ。」
泣きたいのは俺の方だ・・・。
そう考えてしまった俺は、首を振り醜い部分を追い払う。
「・・・仕事をしますね。」
「はぁ・・・。」
おばちゃんは、溜息をつくと祭りの準備に向かった。
祭りは明日だ。
町はいつにもまして忙しなく動いている。
だが、その喧騒すら俺には煩わしかった。
「はぁ・・・。」
今度は俺から溜息が出る。
俺はそれを追う様に空を見上げた。
何時間空をみていたのだろうか。
もう空は赤くなっていた。
その時、目の前に俺を呼ぶ存在がいることに気が付く。
「余計に老けやがったな、ジジィ。」
そいつは泥棒ガキだった。
「・・・いらっしゃい。」
すると、何かを感じ取ったのかガキは真剣な顔つきになる。
そして、店内に無断で入り込む俺の隣の席、ニクスが座っていたイスに座る。
「なんか、あったのかよ?姉ちゃんもいねぇしさ。」
「お前に話しても仕方ねぇよ・・・。」
「確かに、そうかもしれねぇけどよ。これでも、俺は聞き上手でな!色々と相談を受けてたりすんだよ!そんでよ、いつしかアドバイスをするようになってよ。今では、町の相談役みたいになってんのよ!・・・だからよ、力になれるかもしれないだろ?」
こんな奴に話したってなんの解決になるのか。
だが、コイツには話しても良いと思える自分がいた。
今のコイツは、俺なんかよりも大きな存在に見えたからだ。
「・・・じゃあ、俺の話を聞いてくれ。」
「任せとけ!」
それから、所々端折りあの時の事を話した。
「てぇ~ことは、アレか?お前は、そのお父さんに言われたから、姉ちゃんと会わねぇてか?その方が、姉ちゃんの幸せっていわれたから、身を引くってか?」
「・・・まぁ、そういう事だ。」
俺がそう言うと、コイツは盛大な溜息をつきやがった。
「はぁ、お前はアレだな・・・。フニャチンだ。・・・最悪だ、女の気持ちをまったく解っちゃいねぇ。」
その言葉に俺は過剰に反応してしまう。
「んだと?テメェに何が解る!?俺がどれだけ迷ったと思ってやがる!?ニクスにとっての幸せがッ!これが、最善だと思ったから、俺はッ!」
その瞬間俺は倒れていた。
どうやら、頬を殴られたらしい。
「おっと、悪ぃつい手が出ちまった。今の無しで。」
コイツは悪びれもしないで、そんな事を言ってくる。
「う~ん、俺から言えることは1つだけだ。・・・お前のやりたい事をやれッ!」
コイツは倒れる俺に指を刺しながら、そう言った。
「・・・は?」
「は?じゃねぇよ。今までの話を聞いて、俺がしてやれるアドバイスはこれだけだ。」
それを聞いて俺は呆れかえってしまった。
「・・・結局、なんにも変ってねぇよ。」
所詮この程度か、相談した俺が馬鹿だった。
「お前、俺の話聞いてたか?俺はやりたい事をやれって言ったんだぞ?」
「だから、やってんだろ?」
「これだから男って奴は・・・。良いか、俺にはお前が何かに耐えてると思ったからそう言ったんだよ。それにさ、疑問に思ったんだけどよ?それ、姉ちゃんに直接聞いたのかよ?」
「・・・何を?」
「だからさ、お前といると幸せになれないって姉ちゃんの口から言われたのか?」
「いや・・・。」
身体が震える、なにかが弾け飛びそうになる。
「だから、女心がわかってねぇフニャチンなんだよ、お前は。」
コイツはそう言うと、偉そうにそして優雅に椅子に座りなおす。
「幸せてのはさ、一体なんなのだろうな?」
そして、遠くを見つめながらそんな事を言い出した。
「幸せの定義って誰が決めたんだ?
普通の幸せの普通って誰が決めたんだ?
富を得る事が幸せか?
名声を得る事が幸せか?
誰からも慕われることが幸せか?
俺は違うと思うんだ。
俺はね、最後に笑っていられる事が幸せなんだと思うんだ。
嫌な言い方だけれど、終わりよければすべて良し、まさにこの通りだと思う。
誰かに決められたモノなんて意味が無い、価値がない。
最後に自分の意志で笑っていられた人が幸せなんだ。
・・・だからな、ジジィ。
後悔だけはすんな。
すべてをやりきってその先に深い闇しかなかったとしても、お前は最後には笑ってろ。」
そして、このガキは俺をその透き通りすべてを見通すような瞳で見つめ、笑いかけてきた。
「・・・な?」
その顔を見た瞬間に俺は思い出した。
初めて悠陽と出会った時に言われた言葉を・・・。
「・・・人は誰かに甘え、甘えられることで世界に存在できる。」
俺は知らず知らずの内にそう口にしていた。
「良い言葉じゃねぇか。」
そして俺は立ち上がる。
「なぁ、聞かせてくれ?」
「なんだ?」
「お前が、もしニクスならどうして欲しい?」
「俺は、姉ちゃんじゃねぇから何とも言えねぇけど。そうだな、俺なら決着をつけたい。」
その言葉は今の俺と同じものだった。
「・・・そうだよな。」
そう言って俺も笑う。
「お前のおかげで決心がついたよ。・・・俺はニクスに会いに行ってくる。」
俺がそう言うと、ガキは満面の笑みで笑う。
「そうしろ、そうしろ。そんで、玉砕して来いッ!」
「くく、言ってろ。」
「それと、もう一つアドバイスしといてやるよ。」
「なんだ?」
「女の子と言う生き物は、何時だって白馬の王子様を待ってるものなんだぜ?」
「最高のアドバイスだな。」
「だろ?貸し1な?」
「はは、分かったよ。」
そう言って俺達は笑い合った。
そうだよな、皆が皆正しいと言ったってそれが正解じゃない。
問題なのは、俺が今何をしたいか。
それ以外に存在しない。
そうさ、俺が間違っていた。
誰になんと言われようとも、俺が正しいと思ったことを命がけでやればそれでいい。
例え、その先が絶望であったとしても、そこから見える景色はきっと最高な筈だ。
俺が俺自身の事を、信じてやらなくちゃいけなかったんだ。
・・・なんだよ、結局原点に帰っただけじゃねぇか。
「くくくくくっ・・・。」
「なんだ、壊れちまったか?」
「嫌、自分の馬鹿さ加減に笑っていただけさ。」
そして、俺は店を出る。
「おばちゃんには、俺から言っといてやるよ。」
「サンキュー。」
そう言って俺は駆けだそうとしたが、ある事を思い出して立ち止まる。
「あっ、そうだ。その俺って言い方、治しといた方が良いぞ?仮にも女の子なんだからな。」
「―――なっ!?」
それだけ、言い残し俺は駆けだした。
「バレてるし・・・、変装は完璧だったハズですのに。」
ガキと呼ばれた少年、いや少女は今までとは明らかに雰囲気が変わっていた。
「あれだけ、ヒントを与えていればいたしかたないかと・・・。」
その男は自然に、しかし突然現れた。
「臆病な子羊を導いただけですわ。」
しかし、それに自然に返す。
彼がいることは、解っていたことだからだ。
「それよりも、父様が呼んでいるのかしら?」
「はい、自由時間は終わりだそうです。」
「・・・解りました。」
そう言って、今まで腰掛けていたイスから立ち上がる。
「それでは、参りましょう。―――マリア様。」