Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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失って

暗い室内には、博士と四人の男がいた。

だが、談笑を楽しんでいる訳では無い。

1人の男が立ち、1人の男が押さえつけられ、二人の男が押さえつけている。

その光景はまるで裁判をしているようであった。

「博士、いい加減に解除コードを教えて頂きたい。我々には、時間が無いのです。スポンサーは我々の研究内容に興味を持っておられる。だが、その研究結果を示すためには、解除コードが必要なのですよ。・・・博士、これが最後のチャンスです。教えて頂きたい。でなければ、あなたを共にお連れすることは出来ない。」

まるで自分が神にでもなったかのように、人の人生を掌で転がせるのが相当楽しいのか、元部下の男、ジルは博士に優しく語りかける。

「・・・なんと、言われようとも教える訳にはいかない。私の研究成果を貴様らのようなガキに奪われる訳にはいかない。」

そう言った瞬間に、博士は地面に叩きつけられた。

「・・・なら、仕方ありませんね。あなたから、言わせて下さいとお願いするような状況を作り出してあげますよ。・・・連れて行け。」

そして、博士は両脇の男に連れて行かれる。

博士も自分がこの後、なにをされるのか理解しているが抵抗もしない。

いや、出来ない。

それほどまでに、博士は衰弱しきっていた。

それでも、博士の口元は微かに吊り上っていた。

 

暗い廊下を歩く。

いつも使い慣れた道は、やはり使い慣れた道で別に変ったところなんて存在しない。

だが、ジルは確かな不快感を感じていた。

それはまるで油田のように次々とどす黒い物を押し上げてくる。

「博士・・・。私は信じていたのに。」

それは、憧れから来る嫉妬そして失望と言う感情だった。

「我々には、時間が無いんだ。こんな所で、この技術を腐らせる訳にはいかないんだ。」

そして、この男を突き動かすのは故郷を取り戻すと言う焦りだった。

動悸が激しくなる。

吐き気が込み上げてくる。

こんな筈じゃなかった。

どこで選択肢を間違えてしまったのか、その答えを与えてくれるものなど存在しない。

ジルは壁に手を付き息を整える。

「・・・この技術があれば、BETAを殲滅出来る。博士、私はあなたと違う。あなたとは、違うんだ・・・。」

そして、廊下の突き当たりに1つだけ存在する扉の前に立つ。

ここを潜ってしまえば、引き返す事が出来なくなる。

だが、その思考をジルは笑った。

「・・・もう、引き返せない所まで来ているんだ。」

そして、ジルはその扉を開いていく。

この男もまた、前に進む以外に道が存在していなかった。

 

「がぁあああああっ!!!痛っぁあああ、あああああああああッ!!!」

まるで、世界すべてを憎しみで支配しようとするかのような叫び声がそこを支配していた。

それは、別室の音を拾っているだけである。

だが、その声は耳元に直接叩きつけて来るかのような、何かを持っていた。

「解除コードは聞き出せなかったよ。まぁ、時間の問題だろうがね。」

そう言ってジルは、只々煩わしい音を発するだけの物を見る。

それは、身動きがとれないように固定された和真だった。

和真は、卵型のカプセルに寝かされており体のあちこちに穴を開けられ、直接パイプに繋げられていた。

「・・・うるさいな、黙らせてくれ。」

「しかし、それですと効率良く抽出できませんが?」

「構わないよ、あの音は不愉快だ。」

「わかりました。」

そして、注射針のような物が和真に突き刺ささる。

それだけで、空気を震わせるモノは存在しなくなった。

「・・・ですが、構わないのですか?」

「なにがだね?」

「被検体から強引にナノマシンを吸い出していることです。このままでは、仮にデータを解析出来たとしても、被検体が壊れてしまいますよ?」

「何を言い出すかと思えば・・・、私が欲しいのはアレの体に流れるナノマシンだけだ。アレ自体がどうなろうと構いやしない。アレは所詮器に過ぎないのだから。」

そして、作業は続けられていく。

和真の体に流れる膨大なナノマシンが吸い出されていく。

ジルはその作業を眺め、視線だけを和真が写るモニターに向ける。

彼の存在に気が付いたのはたまたまだった。

博士がニクスのデータを見ていた時に、何かを隠そうとしていたのは知っていた。

そのデータが信じられない物だと言う事も、それの第一発見者に聞いた。

そして、博士に知られないようにニクスと共に監視していた時に、それを見た。

ニクスよりも、高性能なナノマシン・・・。

崖から落ち、ズタズタだった体を一瞬で回復させたナノマシン。

それを見た瞬間に私は思ったよ。

あれがあれば、人類は負けないと・・・。

さらなる高みに上る事が出来ると。

だから、悪く思わないでくれよ?

すべては、ニクスと出会った君が悪いんだ。

 

「あれ?俺は・・・?」

俺が目にしていたのは懐かしい風景だった。

俺は、足元を見てからグルリと辺りを見回す。

そこは、光州だった。

「・・・光州?」

なにがなんだか解らない。

だが、俺は自然と歩き出していた。

そして、辿り着いたのは自宅。

家に辿り着いた俺はドアノブに手を伸ばし、家の中に入る。

そして、リビングの扉を開けたようとした時、中から楽しげに話す二人の話声。

「和真の野郎さぁ~、最近体力ついて来てよ!持久走じゃ、置いてけぼりくらいそうになっちまうんだ。」

「う~ん、それは歳じゃないかな?君も若くないのだから無理をしちゃいけないよ?そうだ!今から診察をしてあげよう!!」

「えぇ~!勘弁してくれよ!」

その声を聞いた瞬間に俺は崩れ落ちそうになる。

「うっく、ぐす、あぁああ・・・。」

くまさん・・・。

父さん・・・。

俺は、俺は・・・。

そして、俺は扉をゆっくりと開ける。

そして、光に満ちたリビングの中に2人はいた。

父さんとくまさんが、楽しそうにコーヒーを飲みながら語り合っている。

そして、父さんが俺の存在に気が付いたのだろうか振り返る。

「なんだ、和真起きて――――。」

だが、次の瞬間には父さんの声はノイズで掻き消された。

声だけじゃない、父さんの顔も壊れたテレビのようにノイズで隠されている。

それはくまさんも同様だった。

「あぁ、あぁああ・・・。」

喉が震える。

頭の中から何かが抜け落ちて行く。

粘性のある液体が零れ落ちるようにゆっくりと、だが確実に失っていく。

解らない。

あれが何か解らない。

顔のすべてをノイズで隠された人は、立ち上がり近づいて来る。

「うわぁああああああッ!」

そして、俺はその存在から逃げた。

走る。

走って、走って、走り続けた。

俺を見ているすべての人がノイズで隠されていく。

「なんなんだよッ!なんだってんだよこれはッ!!」

解らない、何が起こっているのか解らない。

知り合いを見つけ、助けを求めようとしたらその人が誰なのか解らなくなる。

そして、走りいつの間にか辿り着いたのはケアンズ基地のPXだった。

「はぁはぁはぁ・・・。」

皆が酒を飲んで騒いでいる。

そして、そこにレオと兄貴を見つけた。

俺は、何故今まで走っていたのかも忘れ、2人の傍に近づく。

「レオ!兄貴!これは一体・・・ッ!」

だが、2人の顔を見た時にはすでにノイズで隠されていた。

誰だ、誰なんだこいつらはッ!

解らない、先程まで名前を呼んでいた気がするのに、なんて言っていたのか思い出せない。

すると、今度は景色が歪む。

「つぁ―――。」

そして激しい眩暈に襲われる。

それが治った頃には、俺は向日葵畑に立っていた。

視界一杯に広がる黄色。

それらは、今の俺の心を洗い流してくれる気がした。

そして、そんな向日葵畑の中で佇む二人の人影。

その二人を見た時に俺の瞳からは涙が溢れだした。

「リ―――。」

だが、俺はすぐ傍に行きたいのに、声を掛けたいのに、近づけない。

近づけば、二人の事を忘れてしまう。

俺は俯き、唇を噛み締め目蓋に力を入れ視界を閉ざす。

リリア、ザウル。

会いたかった、ずっとずっと、会って謝りたかった。

守ると言ったのに、強くなるって、二人の背中を守れるように強くなるって言ったのに・・・。

そして、震える俺の肩に手が置かれた。

ビクつく俺に声がかけられる。

二度と、聞けないと思っていた。

暖かく、優しい声―――。

「なに、泣いてんだよ和真?また、寂しくなったのか?」

「和真、寂しくなったらいつでも相談に来て良いよっていったでしょ?」

だが、俺は震えるままで2人を見る事が出来ない。

そんな俺にザウルが溜息を付き、リリアが優しく話しかけてくる。

「和真?私とザウルは、和真の事が大好きだよ?だから、和真は一人ぼっちじゃないよ。孤独じゃないんだよ?」

「うっく・・・。」

その声に後押しされ俺は、顔を上げてしまう。

だが、和真の目に写り込んだのはやはり、ノイズで顔を隠された存在だった。

「あぁああああああああああッ・・・。」

零れ落ちる、大切な思い出が記憶が無くなってしまう。

そして、俺は俺を見つめるノイズの渦に心を飲み込まれた。

「うわァアアアアああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

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