Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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ストー・シェスチナ

1999年8月―――。

この時に私は光を失った。

掛け替えのない光・・・。

たった一つの光・・・。

私の光・・・。

「和君・・・。」

あの日、突然私の前に現れ私を闇の中から光の世界に引っ張り上げてくれた人。

あれから私達の世界は確かに変わった。

自らの意志で、生きて行けるようになった。

諜報員として世界各地に飛んで行った子もいた。

好きな人を見つけて幸せに生活している子もいる。

博士の研究に志願した子もいた。

博士から聞いた話では、ナノマシンは飛躍的に進化し、もう体内に入れても暴走することは無くなったらしい。

これらもすべて和君の遺産が為した事。

だから、先代の記憶は引き継がれることが無かった。

嫌、膨大な記憶の中に埋もれてしまったということだろう。

でも、私の中にはそれが生きていた。

何故かは結局解らない。

でも、ニクスの想いは確かに私の中に生きている。

ニクスがどれだけ和君の事が好きだったのか、知っている。

だから、その思いを叶えて上げたくて社長が良いという時まで待っていた。

そして、その時が来て会う事が出来た。

その姿を見た時、心臓が跳ね上がった。

記憶の中と変わらない姿、解っていた事だけれど、和君が私に向ける視線は赤の他人に向ける物と同じだった。

寂しかった・・・。

痛かった・・・。

ニクスの想いが私の心臓を締め上げる。

それが少しでも安らぐようにと、彼の後をついて回った。

始めの内は和君は鬱陶しそうにしていた。

怒鳴られる時もあった。

でも、和君は最後にはいつも辛そうな顔で謝ってくれた。

そして、私の事を大切にしてくれた。

家族が皆、別々の道に進み1人取り残された私を彼はなんだかんだ言いつつ、いつも待っていてくれていた。

この時からだろうか?

私が私として、和君を見る様になったのは・・・。

だから、私は最後のニクスを宿す者として、そして私として和君の傍にいると誓った。

なのに、和君は私の目の前から姿を消した。

いつか、こうなる事は解っていた。

和君がこの時代から消える事は解っていた。

でも、離れたくなかった。

どうしようも無く一緒にいたかった。

だから、我儘を言ってしまった。

泣く私を見て和君も悲しそうな顔をしていた。

違う!私はそんな顔をしてほしくないのに・・・。

ただ、笑っていて欲しかっただけなのに。

でも、その時気が付いた。

私は、ニクスにすら和君を渡したくなかったのだと。

私は私として、ニクスの想いを満たすためでは無く。

私を満たしたいと思う様になっていた。

でも、和君はもういない。

いつ帰って来るかもわからない。

もしかしたら、帰ってこないかもしれない。

だから、私は私に誓った。

もっと強くなって、強くなって和君が帰って来ても守れるような私になると。

和君が世界を守るなら、和君は私が守る。

だから、早く帰って来て―――。

 

2000年4月:日本

そこには、1人の女性がいた。

もともと少女だった女性は、皆が目を引く美しい銀髪を風に撫でられながら空を見つめていた。

彼女の正体はストー・シェスチナ。

だが、その姿は少女と言うには成長し過ぎていた。

彼女がいきなり成長を果たしたのには訳がある。

和真を守れるようになりたい。

戦場ですら彼の傍にいたい。

その願いを聞き届けたレオ、そして博士が成長を促進させたのだ。

そのため、彼女の体には和真のナノマシンを元に開発された新ナノマシンが入れられていた。

始めの内は皆に止められた。

だが、彼女は折れなかった。

子供の体では、限界がある。

ならば、大人となって戦うしかない。

彼の傍にいるためには、こうする以外に方法がない。

これが、彼女の言い分だった。

そして、急激な成長を促され少女は女性になった。

初めてその姿を見たレオは、リリアが蘇ったみたいだと言っていた。

 

それらを思い出しながら私は空から視線を下げる。

「ストー少尉、お話したいことが・・・。」

「そのような言葉使いは止めて下さい、篁少尉。私達は同じ階級で歳は篁少尉の方が1つ上ですから・・・。」

「いえ、そういう訳にはいきませんので・・・。」

衛士強化装備を身に纏う篁少尉に対し、ストーはそう言う。

だが、篁少尉はそれを蹴り去った。

篁唯衣もまた、ストーとはことなる理由で少女から女性へと成長していた。

それは見た目の違いではない。

そのありかた、心の持ちようが歴戦の戦士のそれへと変わっていた。

ストーが日本に来てから二ヶ月、彼女はホワイト・ファング隊と行動を共にしている。

だからと言って仲が良いわけでは無い。

命を預け合う戦友としてなら、彼女達は信用し合っている。

ただそれだけの関係・・・。

年頃の女の子らしく、ファッションや恋話に花を咲かせることがない。

なぜなら、時代がそれを許さない。

ストーが配属されてからも配属される前からも、ホワイト・ファング隊は戦争を続けていた。

明星作戦―――。

それが、アメリカのG弾によりハイヴのモニュメント諸共、地上にいたBETAをそして仲間を消し去った。

彼女達も人間だ。

怒りもしよう、悲しみもしよう。

だが、その暇すら奴らは与えない。

横浜ハイヴの生き残りのBETA群が佐渡島に向かい進行を開始したのだ。

そして、その進行経路上に存在していたのが東京。

明星作戦で心身共に疲れ切っていた軍は、攻めていたのを今度は守りに入らざる負えなかった。

時間が立つにつれ不足していく物資、疲れから普段の十分の一の実力すら出せずに散って行く仲間達、その状況が少女を女性に変えた。

傍から見れば、ストー少尉と篁少尉は同い年、もしくはストーの方が年上に見える。

もし仮に、この世界が平和なら今頃買い物の話でもしていたのだろう。

だが、この世界はBETAと戦争を続けており日本はその最前線、いくら東京を守りきり、今はBETA敗走群の殲滅任務中であったとしてもそんな話をしていられる程に余裕なんてあるはずがなかった。

それを解っているストーは、和真と同じように慎ましく溜息を付き篁少尉に尋ねた。

「それで、話とは?」

「はい、江の川沿いを抜けてきたBETA群に対しての本作戦で、あなたを私の指揮下に置きたい。」

それに対し、ストーは眼光を鋭くする。

その表情は、彼女の存在を現しているようでもあった。

氷、触れる物を凍えさせ切り刻む。

誰の助けもいらない孤高の存在。

それが、今のストーの姿だった。

篁少尉もその事は承知している。

だが、ストーの力を加える事が出来れば部隊の戦力は上がる。

だが、彼女が言いたかったのはそれだけでは無い。

目障りだ、うろちょろするな。

篁少尉の本心はこんな所だろう。

「ですが、私には単独行動権が与えられています。今までは、たまたま行動を共にさせていただいていた、・・・だけですよ?」

「ですが、あなたの行動は作戦域での我が軍を混乱させている。・・・あなたの事は、信用はしている。あなたの実力は本物だ。だが、我々は軍人だ。作戦時に置いては仲間を切り捨てなければいけない時もある。」

「・・・つまり、救える命を見捨てろと?」

「そうじゃない!そうじゃないんだ・・・。あなたが、勝手に動き回れば危険でなかった人でさえ危うい状況に置かれるかもしれない。私は、それをッ!」

「篁少尉の意見は解りました。ですが、私は自分の判断で動かせて頂きます。こればかりは、譲るつもりは無い。・・・それに言いましたね?私が動くことで他の人が危険になると、ならその人達も私が救い出してみせますよ。」

「その考えは・・・、傲慢だ。」

篁少尉はそう言うと、ストー少尉に背を向ける。

その背にストーは言葉を投げた。

「五六和真中尉なら、すべてを救いきってみせますよ。」

「・・・ストー少尉、あなたは彼じゃない。」

 

2000年5月

私達は劣勢に立たされていた。

江の川沿いのBETA群、大陸からのその群れを私達は迎撃していた。

ただし、ほぼ近接戦で戦っていた。

これの理由は解りやすい。

単純に弾薬が無いだけだ。

明星作戦、その後の東京防衛戦、そしてBETA追撃戦、これらが日本から弾薬を奪い去って行った。

大東亜連合軍は、明星作戦の傷が癒えておらず援軍に来ることが出来ない。

それは、ネフレも国連群も同様だ。

嫌、国連軍は基地防衛と言う任務を文句を言わずに黙々とこなしている。

ただ、比較的安全圏にいるだけだ。

ネフレに関しては、国のように助けをこう訳にはいかない。

ネフレは国では無く企業なのだ。

見返りを用意出来なければ、助けてくれるはずがない。

そのせいで、日本帝国は彼らに怒りを向けている。

アメリカよりはましだと言っても、やり場のない怒りを向ける対象にしていることに変わりは無い。

「被害者意識の塊だ・・・。」

彼らは理解しているのだろうか?

今食べている物が、どこで作られているのかを。

それを、格安で購入出来ている訳を。

横浜ハイヴの攻略が叶い、日本が国としてあり続けていられるのは誰のおかげなのかを。

それらは、結局の所大東亜連合やアメリカや国連、そしてネフレがもたらしたモノ。

それだけ、日本と言う国は自力ではどうすることも出来ない所まで追い詰められている。

なのに、それを知ってか知らずか。

彼らは、物資が無い事をネフレが出し渋りをしているからだとか。

アメリカの陰謀だとか言い、逃げている。

確かに足りない物資の中で大量のBETAを倒せと言うのは無理がある話だ。

だが、BETAと戦争をしているのは日本だけでは無い。

そこを理解して貰わなければ困る。

私は仮設補給基地で燃料の補給をする愛機を見ながら溜息を吐いた。

「私達に対する風当たりもキツクなってきたな。」

その時、帝国軍の衛士達の話声が聞こえてきた。

「本当に困るな、企業の奴らと言うのは・・・。」

「はい、奴らは金のことしか見ていない。」

「企業は国連の管轄下にある、つまりアメリカの手先と同じだ。帝国から搾りだせるだけ出させて、また見捨てるのかもしれないな。」

「・・・金の亡者共め。」

私はそれに聞こえていない振りをする。

すると、それが気に入らないのか恐らく新任の衛士だろう男が私に絡んできた。

「聞こえて無いのか?お前たちの事を言っていたんだよ!」

それに対し私はいつも通りに返す。

「・・・なにか?」

「知ってんだぜ?あんたら企業は、避難民の日本人を強制的に働かせて技術を盗んでいるってな。そもそも、横浜にアメリカの新型爆弾が落とされるのをテメェらは知っていたんじゃないのか?だから、テメェらの部隊は被害が最少で済んだッ!お前らがもっと早く俺達に教えてくれていれば、皆死なずに済んだかもしれないんだぞッ!!」

「私には関係の無い事です。」

「あぁッ!?」

「避難民を働かせることで技術を盗まれていると言うのなら、確認して頂きたい。これは、日本政府とネフレの合意の上での処置です。新型爆弾に関しては、私も知りません。よって私には関係が無い事です。」

私は、冷たい瞳で見下すように言う。

「テメェ!」

「止めないかッ!!」

その時、基地内を怒声が支配した。

「た、嵩宰少佐・・・。」

それは、嵩宰少佐の声であり、少佐の後ろには篁少尉と山城少尉が控えている。

「貴様の戯言は、日本帝国そして殿下を辱める行為と知れッ!」

「し、失礼しました。」

今まで威勢よく私に怒鳴っていた衛士は、嵩宰少佐の言葉に尻込みし逃げ去るようにその場を離れて行った。

「・・・ごめんなさい。でも、あれが日本全体の気持ちだとは思わないで。」

「はい、解っています。」

「ありがとう、補給後には直ぐに出撃することになる。気を休めておいて。」

「・・・ありがとうございます。」

そして、離れて行こうとする嵩宰少佐に私は言葉を投げた。

「・・・優しいのですね。」

 

2000年5月26日

大規模BETA群が進行を開始したとの情報を手に入れた私達は日本にあるありったけの物資を手に入れ、迎撃していた。

「チッ・・・、数が多い!」

私は、愛機のセイカーファルコンの新武装フォルケイトソード2を手に取り振り回しBETAを切り刻む。

前方から突進をしてくる突撃級を長さと大きさが倍になった刀で甲羅ごと叩き伏せる。

「うわぁああああああ・・・。」

「あ、足がぁああッ!!」

「た、助け・・・。」

もう戦える状況には無い。

それでも、HQからの作戦の変更命令が来ない。

「チッ・・・。」

救うんだ。

私が、救うんだ。

でないと、和君の傍には行けない。

行けないんだッ!!

「はぁああああああ!」

要撃級の攻撃を噴射跳躍で躱し瞬時に反転、跳躍ユニットの噴射をそのままに流星の如く、刀を叩きつけ殺す。

その姿は、和真の戦いを思い出させる。

その時、嵩宰少佐から連絡が入った。

「米子のHQが落とされてしまったらしい。おそらく大陸からの浸透上陸のせいだろう。」

「ハイドラ1・・・」

篁少尉が私達を代表して答える。

話の内容は私達を絶望の淵に叩き落とすのに十分だった。

「個体数二万越え・・・。」

今ですら、やっと戦線を持ち直してきたばかりなのに・・・。

足元がグラつく。

「私は・・・、私はッ!」

救わないと、強くならないとならないのに・・・。

本当の私は強くなんてない。

あの頃と同じままだ、何も変わっていない、変わった振りをしていただけだ。

そうこうしている間にも、帝国軍の人達が殺されていく。

いくら私が動き回ろうとも、それを上回る速度で人が死んでいく。

「あぁ、あぁあ・・・。」

もっと、もっと、もっと多くの人を、1人でも多くの人を!

「・・・任せておけ!」

その時、嵩宰少佐の報告を聞き終わる。

それは、嵩宰少佐が殿をするというモノだった。

「死ぬ、死んでしまう・・・。」

和君の知り合いの人を私が弱いばかりに殺してしまう。

「ダメッ!」

「トイ2、ストー少尉、どこへ!?」

山城少尉から通信が入るがそんな事を気にしてはいられない。

「どけぇええええええッ!!」

そして、私は目の前に現れるBETAを切り裂きながら突き進む。

「嵩宰少佐ッ!」

「ストー少尉、何故ここに!?命令を聞いていなかったのか?」

「私には単独行動権が与えられています!」

「・・・すまない。なんとしても、ここで押しとどめるぞッ!」

「了解ッ!」

そして、私達は帝国軍が逃げ切るまでの時間稼ぎを行った。

「はぁあああッ!」

フォルケイトソード2を竜巻を作るかのように振り回し斬り裂く。

そして、血霧の中を嵩宰少佐の青い武御雷が突き進み演武を踊る。

二個中隊の武御雷と瑞鶴のハイドラ隊、そして私を合わせた25機の戦術機は次々溢れ出すBETAを斬り裂いていく。

それでも、次々に仲間が食われていく。

「うぅ、くっ・・・」

涙が溢れだす。

誰かが死ぬ度に、和君の背中が遠ざかる。

「・・・邪魔だぁああああああッ!!」

目の前に現れた要撃級を切り裂き、膝のナイフシースからナイフを取り出しそれを飛び掛かってきた戦車級に突き刺す。

その時、私は何かに叩き落とされた。

「キャアアアッ!」

私を叩き落としたのは要塞級だった。

「あ、あぁ・・・。」

「ストー少尉下がれ!」

要塞級に叩き落とされ、動かなくなった私の戦術機の前に嵩宰少佐が立つ。

でも、私は解っていた。

嵩宰少佐の武御雷も兵装の殆どが使用出来ず、跳躍ユニットの燃料も底を尽きかけているのを・・・。

要塞級が長く尖った触覚を構える。

死ぬ―――。

ここで、私は死んでしまう。

例え、要塞級を倒せてもこの状態ではいずれ死んでしまう。

「わた、し、は・・・。」

死にたくない。

まだ、なにも伝えてない。

会いたい、会って抱きしめたい。

一杯甘えたい。

そして、要塞級は喜びを表すかのように振り回していた触覚を叩き落としてくる。

「―――和君。」

 

その時、要塞級の触覚は何かに弾け飛ばされあらぬ方向に弾け飛ばされた。

それと同時に、要塞級に弾丸がめり込み内部から破裂する。

それでも立とうとする要塞級は、赤い悪魔に斬り裂かれた。

要塞級の血が降り注ぐ。

それは大きな池を作り出し、血の池地獄を作り出す。

そしてその中に現れた悪魔。

「あぁ、うっ、ぐすっ、うぅ・・・。」

―――知っている。

私は知っている。

あの光を・・・。

私の光を・・・。

私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔をそのままに届くはずがないのに手を伸ばした。

「和君、和君、和君・・・。」

だが、私には感じることが出来た。

暖かい、そして懐かしい手が私の手を握り返すのを。

それと同時に今まで堪えていた者が、仮面と共に崩れ去る。

「和君―――――ッ!」

 

 

 

 

「・・・あいよ」

 

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