Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
小鳥のさえずりが聞こえる。
うるさい位にチュンチュン鳴きやがる。
そして、懐かしい重みが俺を眠りの世界から覚醒させる。
「・・・重い。」
「女の子にそれは無いんじゃないかな、和君?」
重みの正体は、毎度のことながらストーだ。
ストーは、浴衣姿のままで俺にうつ伏せで抱き着いている。
温泉の効果なのかほんのりと頬が赤い、そして浴衣の隙間から覗かせる胸元とめくれ上がった布団の隙間から覗かせる生足が、年齢に合わない色香を漂わせる。
「・・・う、ん。」
ストーはそう言うと、俺に再び抱き着いて来る。
そして今度は頬ずりをし始めた。
自らの体重で潰れたストーの胸が苦しそうに上下に動く。
こんな所を誰かに見られたらただ事じゃない!
俺はそう思い体を無理矢理起こした。
「キャッ!」
ストーは急に俺が起き上がったせいでコロンと横に転げ落ちる。
「う~ん・・・。」
ストーはまだ眠たいのか目を擦りながら起き上がり女の子座りをする。
「髪の毛くわえてんぞ?」
「ほぇ?」
ストーの太陽の光すらキラキラ反射する銀色の髪の毛の一部が肩から前に出ることで、その一部をストーはくわえてしまっていた。
俺がなにを言っているのか理解していないのか、頭を傾け?マークを作る。
俺はそれに笑いながら、ストーの髪の毛を整えてやった。
いくら体系が変わろうが、成長していようがストーは俺が知るストーのままであり、それが俺を安心させる。
「さ、お前は自分の部屋に戻りなさい。唯衣ちゃんや上総ちゃんが探してるかもしれんやろ?」
俺がそう言うと、ストーは元気よく頷いた。
「うん!」
朝食を食べ終えた俺は通信室に案内され、俺を呼び出した人物と画面越しに話し合っていた。
「お久しぶりです、艦長。」
「極秘任務ご苦労だったな、五六中尉。今回は社長から言伝を預かっていてね。」
「はい」
「日本政府の強い要請の元、ヴァローナと武御雷に模擬戦をしてほしいそうなんだ。」
「搭乗衛士はどちらにしましょうか?」
「日本政府は是非にとも君をと言う話だ。」
「構わないのですか?」
「なにがだね?」
「俺の戦闘データを与える事です。ヴァローナはまだ実戦配備すらしていない機体です。それにおそらく相手は嵩宰少佐です。俺も全力を出さなければ満足な戦闘は出来ないと思います。ですが、そうするとヴァローナのデータをすべて日本側に知られてしまうかもしれない。」
俺がそう言うと、艦長は微かに笑みを作った。
「社長は君の本気では無く、君の力の本気を全力で出せと言っていたよ。」
「・・・そうですか」
「浮かない顔をしているな?」
「嵩宰少佐とは、俺自身の力で戦いたかった。皆の力を借りずに勝ちたかった・・・。まぁ、我儘ですけどね?それでも、それが命令なら俺はその通りにするだけですよ。」
俺がそう言うと、艦長は少し沈んだ顔をした。
「我々は軍人だからな、命令には忠実でなければならない・・・。」
俺は申し訳なく思い、笑顔を作り言った。
「解っていますよ!それでも、俺達は上を信じて戦うのみです。守るべきモノが後ろにあるなら、なおさらですよ。」
そして俺達は少しの間雑談をしてから通信を閉じる。
通信室を出て行く中で俺なりに今回の命令の真意を考えてみた。
レオはおそらくヴァローナで武御雷に完勝するストーリーを望んでいる筈だ。
俺の力を使う、それはつまり脳のリミッターを切った状態で戦えと言う事だ。
そしてナノマシンの力も・・・。
レオは本格的に世界に売り込むつもりなのか?
先の京都戦の結果から近接密集戦で他国から高い評価を得ている武御雷を打ち負かす。
日本をだしに使ったデモンストレーションだ。
この模擬戦の結果によっては他国が飛びついてくる筈・・・。
ヴァローナを交渉に何かを得るつもりなのか?
もしくは、兵器を売りさばき当初の予定通り世界に自社製品を溢れさせ軍事的、政治的に利用するのだろうか?
そこまで考え、俺は頭を振るう。
「考えても仕方がないな、正直な所、こう言った話は俺には荷が重すぎる。俺は衛士なんだ。それに、嵩宰少佐と再戦する機会を得られたんだ、ポジティブに行こう!」
それから三日後、俺達は横浜にある市街地演習場に来ていた。
ここに、来ているのは東京近辺で一番近く直ぐに利用できる演習場がここしかなかったからだ。
国連軍の基地扱いになってはいるが、ここは他とは異色を放っている。
アメリカ軍関係者がいないのだ。
いや、第五計画関係者がいないと言った方が適切だろう。
それもそのはずだ。
ここ横浜基地は、オルタネイティブ第四計画の本拠地なのだから、そしてネフレが魔女に与えた城でもある。
戦術機の目から市街地演習場として扱われている元町を見る。
人の伊吹なんて微塵も感じさせない。
破壊の限りを尽くした。
まさに、人類終焉の現場を見せつけられているかのようだ。
倒れるビルや、半壊した民家らしき物には、灰色の世界には似つかわしくない晴やかな黄色が塗り諾られている。
それは、ここで日頃からペイント弾を使用した演習を繰り返し行われている証拠でもある。
それは、人類の力を牙を研いでいることなのだと頭では理解できる。
だが、心がそれらを行った人達に対して、そして今からそれを行おうとしている俺自身に憎しみを向けてしまう。
ここには、何人もの人が住んでいたんだ。
一日一日を精一杯生きていたんだ。
それを、戦術機の冷たい足裏で踏み抜いていく気がしてしまう。
温もりを踏みにじっているような気分になってしまう。
その踏み抜く対象が俺の過去と重なり、昔、ここで遊んでいたこんなことになるとは予想もしていなかった俺の日々とダブって見えてくる。
そしてその過去の景色が俺の視界を覆い尽くそうとした瞬間に俺は自分の唇を噛み千切ることでなんとか誤魔化した。
「・・・そんな事を今さら考えてもしかたがないだろう。あの頃の俺がガキだっただけだ。俺に力がなかったからこうなってしまった・・・。ただ、それだけだ・・・。
今は、目の前のことに集中するんだ。」
その時、管制官の声が通信越しに聞こえる。
「これより、模擬演習を行います。各衛士は準備を始めて下さい。」
今回の模擬戦は前回とは違いJIVESを使った本格的な対人演習だ。
対戦相手は俺の予想通り嵩宰少佐だ。
俺はそれらを確認し終わると、脳のリミッターを切る。
世界が止まって見える。
流れる血潮を感じる事が出来る。
戦術機の外を流れる風さえ感じることができるような気がしてくる。
「さて、頑張るとするか・・・。」
武御雷は跳躍ユニットを強引に吹かし、ビルに機体を擦り付けてしまいそうな程に幅寄せしながら、なんとか36mm弾を回避する。
そして、カーブを曲がりビルを背にすることで何とか一息つくことが可能となった。
「一体なんなのよ、あの戦い方はッ!私は対人戦をしているのではなかったのか!?これではまるで・・・。」
嵩宰少佐は混乱する頭を愚痴を零すことでなんとか冷静にし、自らの甲冑である武御雷の状態を確認する。
左腕大破、推進剤残量も残り僅か、突撃砲の弾数残り90・・・。
近接長刀はすでに失っている。
違和感を感じたのは、模擬戦が始まってから数分してからだ。
私は、敵の出方を窺うためにそして搖動も兼ねて移動していた。
そして、少し開けた一本道に出た瞬間に狙撃をされたのだ。
彼我距離は数キロ離れている筈である。
それを、コックピットブロックを寸分違わず狙ってきたのだ。
咄嗟に左手でガードしながら回避したが、そのせいで左手を持っていかれた。
こちらが、相手に向かって射撃をするも影のように消えてしまう。
そこからは、ジリ貧だった。
出ては狙われ、隠れても狙われ、うまく移動させられているとさえ感じた。
一度だけ近接戦をする機会があった。
その時に、近接長刀を失ってしまったが敵に対しても負荷でを負わせることが出来たと思う。
ただ、その時に私は感じた。
敵、すなわちヴァローナに乗る五六中尉から感情が読めなかったのだ。
人と対峙している時、そこにはなにかしらの感情が見える。
それは気として、伝わってくる。
戦術機と言う箱の中に入っていようともそれは同じだ。
だが、ヴァローナからはそれが感じられない。
百発百中を思わせる射撃制度、感情がこもっておらず機械のように行われる近接戦闘、そしてどこから攻撃を加えられるか予想も出来ない状況・・・。
そう、これではまるで―――。
その時、背にしていたビルから振動波が感知される。
そしてビルがヒビ割れると同時に私は武御雷を緊急回避させた。
それとほぼ同時にビルが爆ぜ、砂埃の中からモーターブレードをかん高く鳴らしながら、赤い悪魔が姿を現した。
「まるでBETAではないかッ!」
俺は青い武御雷に視線を向けながら内心愚痴っていた。
くそっ、決めきれない!
始めの一発で決めるつもりだった。
それが回避されてからのプランも考えていた。
なのに、すべてがことごとく流されていく。
後一歩と言うところまで来られても、無かったことにされてしまう。
今だってそうだ。
俺はこれで終わらせるつもりで、攻撃をしかけた。
なのに、それすら回避されてしまった。
120mm水平線砲改は、すでに使い物にならなくなり捨てている。
G11も、撃ち落とされてしまった。
残る兵装は固定武装のモーターブレードのみだ。
俺はそれらを整理しながらも次の動作に移った。
砂埃の中を弾丸が通り過ぎ、灰色の煙に風穴を開けて行く。
それは蜂の巣を作るかのように、次々と穴を作り上げる。
だが、本来そこにいる筈のヴァローナはいなかった。
これくらいでどうにかなるほど、軟な相手では無い事は百も承知している嵩宰恭子は、相手がどんな行動をしてきても対処できるように全神経を逆立てる。
もう、相手が人間などとは思わない。
あれはBETAだ。
嵩宰恭子はそう自分に言い聞かせ、脳のスイッチを切り替えた。
張りつめる空気は、すでに模擬戦などと言うママゴトの域を脱していた。
これは、殺し合いだ。
対処を1つでも間違えれば、死が襲い掛かる戦争をしているのだとこの場の空気が物が立っていた。
その時、唯一残る地面と近い位置の砂埃が爆ぜる。
その中から現れたのは、有り得ない体制を取っているヴァローナだった。
膝から上を倒し、地面と身体を水平にしてまるでリンボーダンスをしているかのように、弾丸を回避しながら突き進んで来たのだ。
彼我距離は50m、ヴァローナの推進力を考えれば一瞬の距離だ。
だが、武御雷に乗る嵩宰恭子は対人戦をしていない。
相手はBETAだと認識している。
今のヴァローナは言わば要撃級と同じだ。
武御雷は、突撃砲をヴァローナに向かって投げ捨てる。
それと、同時に残された右腕の00式近接戦用短刀を展開する。
ヴァローナは、向かってくる突撃砲をラプターと同じ跳躍ユニットである利点を生かす。
推力偏向ノズルを器用に扱い円を描くように回避する。
それは、バレルロールと呼ばれる空戦機動と酷似している。
そして、丁度バレルロールが終わる位置。
武御雷と交差する位置を割り出していた嵩宰恭子は、交差するであろう位置に向かって、00式近接戦用短刀を突き刺した。
「なッ!」
だがそれは、ヴァローナが左肩部ブースターを使い無理矢理機動修正したことにより回避される。
嵩宰恭子の視界では、目の前に迫っていたヴァローナが突然消えたように映った筈だ。
そのころのヴァローナは、左肩部スラスターと跳躍ユニットを使い回転し、失速機動領域内で縦軸に回転、武御雷の後方に降り立とうとしていた。
「ククリナイフ成功ってな!」
だが、対人戦をしている和真に対し嵩宰恭子は対BETA戦をしている。
闘士級ならこの程度やるかもしれないと、次の一手を打つ。
地面に降り立とうとしていたヴァローナに対して後ろ蹴りをしたのだ。
武御雷のカーボン装甲により刃物とかした足部がヴァローナの胴部を狙う。
ただの戦術機であり、ただの衛士であればこれで決着がついたであろう。
だが、ヴァローナに積まれているアビオニクス、そして長年時間をかけて熟成されたOS、なにより搭乗する衛士が並の存在ではない。
ヴァローナは跳躍ユニットを垂直に噴射し、武御雷の蹴りは空を切る。
そして、ヴァローナは空中で縦軸に一回転し踵落としを逆に繰り出した。
だが、生への執着を見せる武御雷は体を何とかずらすことで頭部への踵落としをさけ、ヴァローナの重い一撃を肩部装甲で受け止める。
肩部装甲を支える副腕が悲鳴を上げる。
それすら無視し、武御雷はヴァローナを振り払うかのように回転した。
振り払われたヴァローナは、地面に足をつける。
これにより、一瞬の隙が生まれる。
BETAであろうと、人間であろうと、重力に支配された地球では着地と言うのは硬直時間でもある。
それを見逃すはずがない武御雷は00式近接戦用短刀を振り抜いた。
だが、本来ならばあるはずの切った感触が伝わってこない。
嵩宰恭子はこの時油断してしまっていたのだ。
最後にヴァローナが見せた機動は、和真が前の模擬戦で嵩宰恭子に見せた動きでもある。
それが、彼女に対BETA戦であるという意識を一瞬だけ吹き飛ばしてしまったのだ。
それが、回避行動をとらずに短刀を振り抜く攻撃に出た訳である。
戦術機ならば必ず存在する硬直時間を利用した一手・・・。
それが己の油断であり、慢心だと気が付いたのは自らがおかれている現状を武御雷の目から見た時だった。
ヴァローナは、再度膝部から上部を倒すことで回避していた。
そして、その両手にはモーターブレードがギラつきながら荒い刃を回転させている。
「しまッ!」
嵩宰恭子がそう叫び行動に移ろうとするがもう遅い。
戦場に置いて、一瞬は一生を奪い去ってしまうのだ。
ヴァローナの両腕のモーターブレードは武御雷のコックピットブロックを嵩宰恭子諸共轢断した。
「模擬戦闘を終了します、お疲れ様でした。」
管制官からそう通信が入る。
だが、私はそれに返事を返すことが出来なかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
これが、殺し合いで無くただの模擬戦だと思いだしたのは管制官の声を聞いてからだ。
神経をすり減らし、筋力を極限まで使用していた私はそれを理解すると同時に体の力が抜けて行くのを感じていた。
息をするのですら、苦しい・・・。
喉が渇き口を動かす度に口内で粘性の音がする。
私はシートに寝そべるように体を移動させる。
負けてしまった。
そう思う反面、私は満ち足りていた。
「ふふふ、こんな思いを抱くのはいつ以来だろう・・・。」
私の瞳からは、涙が流れ出す。
だが、それは暖かく私が忘れていたモノを思い出させてくれる。
「悔しい、悔しいな・・・。」
私は、誰にも見られていないと解っていながらも両手で目元を隠す。
だが、私の心には新たな火が灯っていた。
私は体を起こし、愛機のコントロールパネルを撫でる。
「・・・ごめんなさい、私のせいでアナタの力を十分に出してあげられなかった。」
愛馬を労わるように、優しく撫でる。
「でも、次は次こそはこんな醜態をさらさない・・・。だから、力を貸してくれる?武御雷・・・。」
私には、その時武御雷が返事を返してくれたような気がした。
「うん・・・、頑張ろうね」
その時には、私の涙はすでに暖かい炎により蒸発していた。