Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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炎の剣

寒々とした空が、太陽の光を遮る。

限りなく広がる荒野には等間隔を開けながら多種多様な兵器が並んでいた。

向かってくるは、異星起源種。

数にモノを言わせ暴力の限りをつくし、人々を貪る下等生物共に風穴を開けるために、今か今かと砲塔が身構える。

ただ数しか能が無い無能の軍勢を相手にするには、策を何重にも敷き罠にはめ嬲り殺す。

それが、最善手なのは誰もが知っている。

だが、今回ばかりはそう言う訳には行かなかった。

何故なら、彼らの後ろには守るべきモノがまだそこにあるからだ。

ならばどうするか。

答えは、全面戦争。

真正面から、奴らを殺しに掛かる。

奴らが数で来るのなら、こちらも数を用意しよう。

奴らが盾を用意したのなら、それを破る矛を用意しよう。

奴らが蹂躙してくるのなら、奴らを駆逐してやろう。

頭上の上を数多のミサイルがファンデーションが爆撃機が飛んで行く。

それは、狼煙を意味していた。

奴らはもうすぐ目の前にまで迫っている。

 

俺はジュラーブリクE型のコックピット内で、深呼吸をする。

「・・・はぁ」

そして数刻前の事を思い出す。

 

それは突然の知らせだった。

「推定個体数8万・・・」

俺はその余りにも有り得ない数のBETAに空いた口が塞がらない。

そんな俺を見てもラトロワ中佐は、咎める事をしなかった。

それだけ有り得ないことなのだ。

「ヴェルホヤンスクハイヴでは、それほどのBETAを作り出せない筈です。一体どこからそんな数のBETAが・・・」

そんな俺の疑問に対し答えてくれたのが、ダルコ司令官だった。

「・・・先のBETA戦で奴らはカズィクル地雷原を地中進行することで回避した。その際に地上に出て来たのが、奴らの斥候軍だったとしたら?」

「あの数で斥候軍・・・」

「そして、奴らは固い岩盤で作られている山岳を掘り進むよりも地上に出て進む方が、効率的だと学習していたとすれば、無理矢理にでも納得が出来る。だが、幸いなことに自然は我らに味方してくれている。すべてのBETAが山岳を越えてくると解っているのなら、対処はしやすい」

俺はそこでふと思った疑問を聞いて見た。

「まだ別働隊のBETAが地中進行してきている可能性は?」

「それはない、各地に無数に埋め込まれた振動センサにはなんの反応も今はないからな、それよりも我々が気にしているのがこのデータだ。」

ダルコ司令官はそう言うと俺にパソコンのディスプレイをみるように進めてくる。

そして俺がそれを見ると、さらに俺は驚愕した。

「なんですか、この振動パターンは・・・?BETAが大挙として地面を掘っている時のパターンとも違う。これではまるで、一つの大きな何かが蠢いているかのような。・・・まさか、新種のBETA!?」

俺がそう言うと、ダルコ司令官は眉間に皺を寄せた。

「もし仮にこれが8万ものBETAを運んできたのだとするなら、我々には残された時間が少なすぎる。そこで、私は君に、嫌ネフレに頼みたいことがある」

「なぜ、国連軍所属の俺にそのような事を?」

「我々を甘く見ないで貰いたいな。君がネフレの職員だと言う事はすでに知っている。・・・私からの要求は、この地に残る民を安全な土地に逃がして欲しい。そのために、国連軍をすぐさま動かす事が出来る可能性を持つネフレに一番近い君に頼んだ。」

ダルコ司令官はそう言うと、俺に頭を下げてきた。

それに続きラトロワ中佐も俺に頭を下げる。

「・・・確証は出来ませんが、俺に出来る事を全力でします!」

「・・・ありがとう」

 

「今頃、ネフレが各国連軍に対して要請を出している筈だ。アラスカにいる無能達は、今頃大慌てしているかもな。ここまで、国連の介入を許してしまったのだから」

だが、そうするとダルコ司令官が心配だ。

良くて左遷、悪くて暗殺。

だが、あの人の意志は本物だった。

それに、これが最良なのは俺でも解る。

出来る限り、彼の身を守って貰えるようにレオに掛け合ってみるか?

あの人のような人材は必要なんだ。

本来ならダルコ司令官のような人がソ連首脳部にいてくれれば、今のソ連の現状とは違った結果になっていたかもしれない。

だが、俺はそこまで考えて思考を切り替えた。

これから、戦争をするからだ。

遠くに聳え立つ山岳の先では閃光が絶え間なく見える。

ミサイルが爆弾がBETAを蹂躙しているのだと、俺に教えてくる。

「これだけの規模の爆撃の嵐を見るのは初めてだ・・・」

なっちゃんが通信越しに言ってきた。

なっちゃんの頬には汗が流れ落ちており、緊張からか体が震えているのが解った。

そんななっちゃんに、皆が笑顔を向ける。

「綺麗な眺めだろ?特等席を用意して貰ったんだ。楽しまないとな?」

俺がそう言うと、なっちゃんの顔にも活力が湧いてくる。

「あぁ!!その通りだ!」

その時、戦域に展開するすべての部隊にオープン回線で通信が入った。

「私は、ジャール大隊指揮官ラトロワ中佐だ。今より、10分後爆撃の嵐に荒らされたボロ雑巾共が汚い体液を零し、あの山頂から姿を表す。我々はその掃除をしなければならない。薄汚く誰もしたがらない仕事だが、態々好き好んで手伝いに来て下さった国連軍の方々は、立派だと思う。だが、この土地は我々のモノだ!我らの後方には、守るべき家が存在している!いくら固く分厚い門に遮られていようとも、奴らは薄汚れたその体をねじ込み擦り付けてくる!その先に待つのは、我らが家族だ!この土地を守る雷神達よ!今こそ我らがジャール(情熱)を見せつける時だ!奴らの汚れた体を薄汚い体液諸共、我らがジャールの炎で焼き尽くせ!!」

「「「「「「「「「「「「「ナシュウラー!」」」」」」」」」」」」」」(祖国万歳)

 

ソ連軍に所属戦士達の叫びに俺は震えていた。

群れでの一体感とは、こういった震えの事を言うのかも知れない。

俺は知らず知らずの内に鳥肌に襲われていた。

行ける!

こいつらとなら、どんな壁も越えていける!

そう思わせる程に心強い雄叫びだった。

 

戦域は三つに分断されており、左右を国連軍の部隊が展開しておりジャール大隊が前衛、後衛にスルト大隊が待機している。

真正面からBETAとぶつかるのは間違いなくジャール大隊だ。

国連軍は、はみ出したBETAを殺していくだけである。

これだけの話なら、随分国連軍が楽をしているように見えるがそうでない。

ジャール大隊から距離を置いて左右に展開している国連軍はなにか不足の事態が発生した時にすぐに行動に移せるようにこの陣形にされているのだ。

ジャール大隊は、彼らのおかげで目の前の敵にだけ集中すれば良い状況にある。

だが、それでもだ。

八万なんて数を、防ぎきれるハズがない。

国連軍が主導で避難誘導を始めていたとしても、すべての人を救えるとは限らない。

一匹のBETAでも通してしまえば、何百と言う数の人が死んでしまうかもしれないんだ。

その時、HQから通信が入った。

「残存BETA群5万を切りました。作戦は順調に推移しています!」

HQの声には確かな自信が見受けられた。

高揚しているのが感じられるその声は、爆撃による殲滅がうまく行っていることを嫌というほど物語っていた。

「このまま俺達の出番が無かったら、もったいない話だな?」

アナが通信越しに話掛けてくる。

「これだけの戦力を展開するだけでも、かなりのお金が飛んでいるものね?」

オカマがそれに呼応し頬に手を添えた。

「これだけでうまくBETAが殲滅されてくれたら、楽が出来ていいんだけれどにゃ~!」

そんな隊の皆に、俺は溜息を付きながら答えた。

「はぁ、別に徒労でも良いだろ?誰も危険な目に合わずに済むならそれに越したことはないさ」

「ゴリンの言う通りだぞ貴様等!」

俺の発言になっちゃんがそう言う。

「そうわ言ってもよ、俺腰が痛くてさ・・・。」

そう言って腰をさすりながら言うアナに俺は苦笑いしながら答えた。

「昨晩はお楽しみだったものな?だがな、頼むから寝室でするのだけは勘弁してくれ・・・」

「別にいいじゃねぇか!なぁ、ワンコ?」

「あ、あれはそっちの方が燃えるからってアナが!!」

「はいはい、ご馳走様・・・。次からは時と場所と空気を選んでいたして下さいね?」

俺達は戦時中だと言うのに他愛のない話しを繰り返す。

皆理解しているのだ。

こんな余裕があるのは、これが最後かもしれないと言うことを・・・。

 

「あれから五時間か・・・」

データリンクで戦域地図を更新するとBETAの数はうまい具合に減少しているのが確認できる。

そればかりか、BETA群は円状に群れを作らざる負えない状況を作られていた。

「作戦通り過ぎて逆に気持ち悪いな・・・」

そして頭上を新たなファンデーションが飛んで行く。

それと同時に、先にBETA殲滅に向かっていた航空部隊は引き返してきた。

「そろそろ終わりの時かな」

あのファンデーションに積まれているのはS-11ミサイルだ。

あれで、まとまったBETA群をそれぞれ一気に殲滅して綺麗に掃除する。

これですべてが終わる。

結局、山岳を越えてくることが出来たBETAは一匹もいなかったな。

俺がそんな事を考えていると、特大の地響きが世界を覆う。

数多のキノコ雲を作り出し砂埃の雨を降らせる。

「おほぉ~~~~!」

アナがそのすさまじさに声を漏らす。

「終わったのか・・・?」

俺がそう呟いた瞬間、アラートがコックピット内を満たす。

「ッ!!」

「10体の要塞級が生き残りました!30秒後山頂に姿を表します!戦域の全部隊は迎撃準備を始めて下さい!!」

「「「待ってました!!」」」

皆がそう言う中で、俺は気持ち悪い感覚に襲われていた。

あの爆撃の嵐の中を、どうして要塞級だけが生き残ることが出来た?

あんな鈍足なんて、真っ先に死に絶えるはずじゃないか?

俺はそんなことを考えながらも、吐き気が込み上げてくるのを我慢し操縦桿を握りしめる。

そしてカウントダウンが始まった。

 

「0、来ます!」

砂埃が立ち込める山頂から大きな10体の影が姿を表した。

望遠にしてその姿を見る。

それは満身創痍の要塞級の姿だった。

所々が焼けただれ、吹き飛ばされ、動けることが不思議なくらいに傷ついた要塞級達は一歩一歩確かめるように、歩みを進めていた。

その姿を見た戦車部隊の隊長に国連軍の隊長が号令を飛ばす!

「シチメンチョウ撃ちだ!」

そして、無数の弾丸に砲弾が要塞級に突き刺さる。

流れ弾が山岳を削り、削られた山岳の一部すら粉々に吹き飛ばすほどの弾幕。

それは、確実に要塞級の命を削って行った。

砂埃が天に伸び、カーテンを作り出し要塞級の姿はすでに見えない。

――――勝った!

誰もがそう思い、ただの的と化したであろう要塞級に楽しんで引き金を引く。

だが俺はそれに参加することが出来なかった。

動悸が激しくなる。

なにかがおかしい。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

流星のごとく的に突き刺さる様を見ていれば誰でも勝利を確信するだろう。

事実八万もいたBETA群は残すところあの十体の要塞級だけなのだから。

なら俺はなにが気に入らないんだ?

なにを心配している?

そして、俺はそれを見つけた。

ナノマシン内に残された数多の戦場の記憶の中から、それを拾い上げ思い出した。

―――この状況はッ!

それに気が付いた時には俺は叫んでいた。

「止めろッ!撃つなァーーーーッ!!」

その瞬間40に及ぶ光の矢が砂埃の闇の中から姿を表した。

それは、左右に展開する国連軍部隊。

そして砲撃を繰り返していた戦車部隊に突き刺さる。

HQから通信が入る。

「せ、戦車部隊の半数並びに・・・、国連軍戦術機部隊、2個中隊が壊滅しました・・・」

そして時間が止まったかのように茫然とする俺達を嘲笑うかのように山頂の砂埃が晴れて行く。

そこから姿を表したのは、40体にも及ぶ光線級の群れだった。

そう要塞級はただの盾であり、本命は光線級であった。

まるで朝日が昇ったかのように山頂を光が支配する。

そしてそれを知覚した時には、第二射が放たれた。

「躱せぇええええええッ!」

俺達小隊は、俺の叫びと同時に跳躍ユニットを吹かせ移動する。

すると、隣に待機していた第二小隊が光の矢に貫かれた。

爆散する戦術機を見ながら俺は叫ぶ。

「この野郎ォオオオオッ!」

ガンソードを展開し、砲身を光線級の群れに向け放つ。

だがそれは光線級に当たることは無かった。

「距離がありすぎる!」

要塞級なら当てることが出来たが、光線級では小さ過ぎ当てることが出来ない。

狙いを定めようと動きを止めた瞬間には初期照射警報が鳴り響く。

そして初期照射から逃れたと思えば別の戦術機が貫かれ溶かされた。

「これじゃあこっちがシチメンチョウだッ!」

アナが叫ぶ。

だが確かにその通りなのだ。

俺達がいるのは、山岳の下に広がる平野部。

対する光線級は見晴の良い山頂。

あの場所を陣取られた瞬間に俺達の負けは決定してしまった。

「全機反転急速離脱ッ!壁の内側か遮蔽物に身を隠せ!」

ラトロワ中佐からの命令を聞き展開していた部隊は蜘蛛の子を散らすように離脱した。

 

「はぁはぁはぁ、生きてる?」

なんとか基地に帰投出来たアナは自分の掌を見つめ呟く。

「・・・最悪ね」

オカマは怒りを孕んだ瞳で外を睨み付ける。

「クソッ!!」

そんな中で俺はハンガーの壁を殴りつけていた。

俺達はなんとか皆無事に帰ってくることが出来た。

だが、さらに一個大隊が奴らに食われた。

――――完敗だ。

BETAに出しぬかれた。

光線級がいないと言う勝手な希望的観測で立てた作戦がこの様だ。

物事に100%なんてありえない。

それは俺が一番理解している筈なのに・・・。

「クソッ!!」

その時、スルト中佐が手にウォッカを持ち現れた。

「よっ、荒れてるな?」

「スルト中佐・・・」

俺がそう言ってスルト中佐を見るとスルト中佐は手に持っていたウォッカを隠した。

「コイツはやんねぇぞ?」

「なんで、そんなモノを・・・、まさかッ!!」

スルト中佐の後方には手にウォッカを持ち酒を飲みかわす衛士達。

だが、それは一部の者達だけでありその他の衛士は飲んでいない。

そしてそれに対して文句を言う衛士は1人もいなかった。

逆に皆が皆そいつらに話掛けては離れていく。

そんな事を繰り返していた。

まさか、まさか、まさか――――ッ

聞いた事がある。

昔、BETAの猛攻に耐えきれなかったソ連はスピオトフォズに乗る衛士に特別な任務を与えた。

それは核を戦術機に積み込みBETA諸共吹き飛ぶ特攻兵器になれと言う命令だった。

そのため片道切符となったスピオトフォズの衛士達にはなけなしのウォッカが贅沢に振る舞われたと。

ならスピオトフォズの後継機であるブラーミャリサに乗るスルト大隊にウォッカが振る舞われている訳は・・・。

俺の中でドロドロとした黒い渦が出来上がって行く。

吐き気が込み上げてくる。

「・・・そんな顔をするんじゃねぇよ」

「ですがッ!!」

「止めろゴリン!」

スルト中佐に掴みかかろうとした俺をなっちゃんが止める。

「作戦の変更をダルコ司令官にするんじゃねぇぞ?これは、俺達スルト大隊の総意なんだからな」

スルト中佐の有無を言わせぬ迫力に俺は飲み込まれる。

「ですが、でもッ!」

「なぁ、五六中尉・・・。このまま俺達が行かなかったら、この基地は滅びを迎えるだろうな。聞いているだろ?八万に及ぶBETAの内実際に爆撃で倒せたのは4万だけ、その他のBETAは地中に再び隠れることで生き残っているって話」

「はい・・・」

「やつらは直ぐにでも進行を開始するだろうさ。そうなれば、ここエヴェンスク基地は奴らの手に落ちる。避難が猛スピードで行われているからと言っても、まだ避難できていない人達もいる。その人達諸共BETAはここを蹂躙するだろうな」

「・・・」

「だから、俺達が行くんだよ!俺達が神が与えた滅びを打ち破るんだ!燃えるだろ?神が描いた筋書を消し飛ばして世界を作り変えるんだ。こんなに痺れることなんてそうそう無い、夢が叶うんだ!」

「・・・夢?」

「そう夢だ!ここで俺達が生かした命が、俺達の意志を受け継いで。新たなスルトとなって世界を真の意味で作りかえる!俺達はそれを信じている。その可能性を信じている!だから、行くんだ!!」

・・・そこまで、嬉しそうに。

本当に嬉しそうに話されてしまったら、なにも言えないじゃないか。

あぁ、解っているさ。

ここで小を捨てて大を生かすには、これ以外の方法が無いってことくらい。

俺は試されている。

ここでこの人達を否定してしまえば、俺は俺の夢を仮初で張りぼての夢にしてしまう。

いくら、口で偉そうにカッコつけて切り捨てるなんて言っていても、俺はどこまで行っても甘ちゃんのままだった。

俺はここで俺の言葉が嘘では無いと、俺自身に見せなければならない。

俺はスルト中佐に向け敬礼をする。

「あなたの夢は叶っていますよ」

「どういうことだ?」

「あなたの意志は俺の中に確かに宿っています。あなた達の生きざまを俺は何時までも覚えています。だから、安心して下さい・・・。世界は俺が作り変えます。」

「ゴリン・・・」

いつのまにかなっちゃんは、俺を抑えるのを止めていた。

「へっ、そうかい・・・」

スルト中佐はそう言うと、鼻を掻く。

そして俺の頭にポンと手を乗せた。

「・・・ありがとう」

 

長い廊下を歩き、スルト中佐は指令室に向かっていた。

ダルコ司令官に最後の挨拶をするためだ。

ヤーコフ達訓練兵達には、先に挨拶を済ませている。

皆、この世の終わりと言った顔をしていたが俺が五六中尉にした話を同じ話をしたら、皆納得してくれた。

それだけじゃなく、五六中尉と同じことを言いやがった。

「まったく、若いっていいな」

すると、廊下の隅で見知った顔を見つけた。

「嬢ちゃん・・・」

それはラトロワ中佐だった。

ラトロワ中佐は、ただスルト中佐を見つめるだけで何も言葉を発しない。

だが、お互いに満足したように笑顔になりスルト中佐はラトロワ中佐の前を通り過ぎる。

「・・・先にアイツの所に行ってくる」

そう言って先を進むスルト中佐の背に、ラトロワ中佐を敬礼した。

 

ブラーミャリサが飛びったって行く。

盾の役割であるファンデーションを引き連れ基地を飛び立っていく。

核の代わりに用意されたのは大量のS-11。

それを背負い、ブラーミャリサは戦場に向かう。

スルト、それは炎の魔剣レーヴァテインを手に世界を灰に変えた魔神である。

今から彼らは、その神話を真実の物とするのだ。

 

「目標光線級まで残り200ッ!」

「テメェ等、良くここまでついて来てくれた!先に逝った奴も多くいるが、そいつらの意志も俺達が叶えてやれば良い!」

光の矢が通り過ぎて行く。

それは、部下達が乗るブラーミャリサを貫いていく。

初期照射のアラートが等々、鳴り響く。

大きな爆風が後方で発生する。

それすら利用し、先に散っていった仲間達の意志をその背に受け速度を増す。

もう敵まで、目と鼻の位置だ。

「フィカーツィア!俺達の炎で世界を灰に変えてやろう!俺の名はスルト!!世界を灰に変え、新たな命を生み出す男だぁああああああああああッ!!」

 

俺は1人皆の輪から離れていた。

暗い影を落とすかのようにコップの注がれたウォッカに移る自分の顔を眺める。

これで良かった。

この選択がベストだった。

自分にそう言い聞かす。

彼らの死は無駄なんかじゃない、自分にそう納得させる。

だが、1つ納得できないことがあった。

それは、スルト大隊の皆が死んだのに、合成の酒を片手に馬鹿騒ぎをしている基地の連中が今目の前にいるからだ。

確かに、作戦は成功した。

山頂に陣取っていた光線級を排除出来た。

だが、皆死んでしまったんだ。

なのにお前達はどうして笑っていられる。

そう思う俺がいた。

その時、俺の隣に誰かが腰かけた。

「なんて顔をしているんだ坊や」

それはラトロワ中佐だった。

「・・・別に」

そう言う俺にラトロワ中佐は珍しく微笑んだ。

「なぁ、坊やなんであいつ等は笑っていると思う?」

ラトロワ中佐はそう言うと、馬鹿騒ぎをしている連中を指差す。

その中には俺の小隊の皆もいた。

「・・・」

黙り込む俺にラトロワ中佐は話を進める。

「アイツ等はな、今でも私達の傍にいる。・・・ここにいるんだ。」

ラトロワ中佐は、そう言って俺の胸を指差す。

「だから、笑うんだ坊や、アイツ等と共に馬鹿をするんだ。・・・辛気臭い酒の席に招待してやっても誰も喜ばないだろ?だから、笑うんだよ、坊や。」

それを聞いた時、俺は気が付いた。

俺にはナノマシンがあるから、死んだ皆との繋がりを感じ取ることも出来る。

だが、あいつ等は違う。

それでも、皆自分と一緒にスルト大隊の皆がいてくれていると信じているから、いつもと同じように馬鹿騒ぎをしていたんだ。

俺みたいにナノマシンに頼らないで繋がりを信じていたんだ。

それに気が付くと、心に温かいモノが満ちてきた。

今までの気持ち悪さは、いつの間にか無くなっていた。

「ありがとうございます、ラトロワ中佐!」

そして俺は馬鹿騒ぎをしている輪に加わった。

皆が笑っていた。

泣きながら笑っていた。

皆俺以上に悲しかったんだ。

それでも、スルト大隊の皆を笑顔に変えたいから、無理にでも笑ってはしゃぐんだ。

いつの間にか俺も泣きながら笑い、酒を飲み、騒ぎ倒していた。

スルト中佐が、共に酒を飲んでいる気がしたからだ。

 

安心して下さいスルト中佐・・・。

あなたの意志は、ここにいる皆にちゃんと芽生えていますよ。

だから、見ていて下さい。

俺達の頑張りを・・・。

 




プライベートの方で忙しく、執筆活動を行えていませんでした。
そのため、今話はリハビリを兼ねています。
おかしな点などがありましたご指摘よろしくお願いします。

更新速度は送れると思いますが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。
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