Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
翌日、俺は体育館のような建物の扉の前に立っていた。
固く閉ざされた扉があっても尚ラトロワ中佐の声が聞こえて来る。
「現時刻を持って、貴官達は衛士となった!祖国と人民に尽くせ!」
そう、今日は俺とスルト中佐が受け持っていた訓練兵達の卒業式だ。
守られる側を卒業し守る側になる。
羽ばたく術を教えられて間もない雛鳥達はいきなり崖に突き落とされるのだ。
本来のペースよりも早くに訓練兵達がこの日を迎えてしまったのには訳がある。
ソ連本国からスルト大隊の変わりを務める部隊が来ないのだ。
国連軍から度々申しだされていた増援は結局こないと言う事で決定してしまった。
ソ連首脳部はこの基地を放棄したのだ。
そのため、穴埋めのために訓練兵達は繰り上げ任官されてしまった。
初陣すら済ませていない。
まともに戦術機に乗ったことの無い者達が、人が足りないと言う理由で4万のBETAなんて馬鹿げた数の敵と戦うことになる。
「こんなこと誰も望んでいないはずなのに・・・」
スルト中佐が我が子のように可愛がっていた子供達を心構えをする暇も無く戦場に立たせる。
「・・・ちくしょう」
自分も教導に関わっていただけに余計に腹立たしさが募ってくる。
その時、扉が開かれた。
「あぁ!こんな所にいた!!」
俺を見つけるや否や人差し指をビシッと指してきたのはトーニャだった。
「ッんだよ、さぼんなよなッ!!」
そう頭を掻きながら言うのはキールだった。
「へっへーん!見てよ見てよ!!これがあたし達のウィングマークさ!」
そう言って誇らしげに衛士の証を見せて来たのはイリーナだった。
瞳を輝かせながら、俺に話掛けてくるコイツ等を見ていると昔の俺を思い出す。
初めて戦術機を渡された時の俺と同じ瞳をしていやがる。
だからこそ、コイツ等の危険性を理解することが出来た。
「お前等、ソイツを渡されたと言う事がどういうことか理解しているか?」
俺がウィングマークを指差しながらそう言うとキールが皆を代表して答えた。
「戦術機に乗って下等生物共をブチ殺すことが出来るようになったんだろ?」
キールのその言葉に、元訓練兵達は意気込んだ。
「そうさ!守られてばかりの俺達じゃない!」
「私達は力を手に入れたんだ!!」
「スルト中佐の仇を撃てる!」
本当に、昔の俺を見ているようだ。
だからこそ俺は言わなければならない。
コイツ等が俺と同じ過ちを繰り返さないために・・・。
「馬鹿野郎ッ!」
俺の怒声が響き渡る。
「テメェ等、戦場がどんな場所か知っているのか!?知らねぇだろ!?あんな地獄に行くことのなにが嬉しいってんだッ!」
俺の突然の怒声に皆固まってしまう。
「想像できるか?熱に溶かされる苦しみが、生きたまま食わる苦しみが、グチャグチャに潰される苦しみが、お前達は想像できているのか?」
頼むから死なないでくれ、そう願いを込めて言葉を吐いていく。
「それも自分が味わうなら納得できるだろうさ。それは自分の落ち度なのだからな。けどな、それが隣にいる自分の仲間だったら?家族だったら?・・・お前達は、大切な人の叫び声を、助けを求める声を聞いても正気でいられるのか?」
俺の言っていることを想像したのか、青い顔をして隣にいる仲間の顔を見て行く。
「・・・お前達の仇を撃ちたいって気持ちは痛いほどに解るさ。俺も大切な人達をBETAに殺された。・・・いくら楽しかった過去を夢見て切望してもその日々は帰ってこない。だから、俺達は肥溜めのような地獄の今を必死に戦うしかないんだよ。そのウィングマークを渡されたって事は、その苦しみを味わう権利を与えられたのと同義なんだ。・・・だから、頼むからそんなに戦場を甘く見ないでくれ、頼むから・・・。」
俺達の間に静かな世界が出来上がる。
風だけが通り過ぎ、後には何も残さない。
誰も息すらしていないかのような静けさが出来上がっていた。
そして、それを壊したのは1人の少年だった。
「解ってるさ、そんな事・・・」
そう言って現れたのは、ヤーコフだった。
ヤーコフは、今まで泣いていたのだろう赤く腫らした目を擦りながら言ってきた。
「・・・俺達皆、そんな事は百も承知だ。死の八分を越えられるのがこの中の半分以下になるかもしれないことくらい解ってる。だから、虚勢を張ってビビッてないと皆に見せてるんだ。」
「あっ・・・」
俺が再び皆の顔を見た時、コイツ等は笑っていた。
恥ずかしそうに笑っていやがった。
こんな子供が、すでに覚悟を決めていやがった。
「クッ・・・」
俺は途端に恥ずかしくなった。
なら、俺が今言ったことはこいつ等にしてみれば当たり前のことなんだ。
俺がそう考えていると、ヤーコフが提案してきた。
「だからさ、俺達を鍛えてくれないか?」
「へっ?」
「俺達だって死にたくないし、家族が死ぬところを見たくない。だからさ、そうならないために俺達を本格的に鍛えてくれないか?」
その提案に俺は狼狽する。
「い、いや、でも・・・」
すぐに答えを出したい。
コイツ等を鍛えてやりたい。
だが、いつBETAが来るかもわからないこの状況下でそんな事をしている暇がはたしてあるのだろうか?
だが、その答えは意外な所から出てきた。
「構わないんじゃないか?」
そう言ってきたのはダルコ司令官だった。
「新任を1人でも多く生き残らせるためには、力を持つものからの吸収が一番手っ取り速いからね。」
「で、ですが、哨戒任務などもありますし、いつBETAが進行してくるか解らないこの状況で・・・」
「そこは私がなんとかしよう」
ラトロワ中佐が、ダルコ司令官の後ろから声を発した。
「私の部隊に来ることになるヒヨコ共をせめて羽ばたけるレベルにまでしてもらえるのなら、なんとか都合をつけてやる。」
その言葉を聞いた瞬間俺は頭を下げていた。
「ありがとうございますッ!」
俺はすぐさま小隊の皆に伝え、手伝って貰うことにした。
「違うぞヤーコフ!お前は一体何を学んできたッ!突撃級相手に真正面から36mmを使うとは、余程貴様は余裕があるようだな?」
「すみませんッ!」
シュミレーター室の半分を貸しきりで使用させてもらい俺達はそれぞれの分野に分かれて教導をした。
アナが射撃を教える。
「良い?格闘戦は距離感が大切だよ。常に相手と自分の距離を一定に保ち必殺の一撃を与える隙を窺う。突撃前衛は洞察力が重要だからにゃ~!」
ワンコが格闘戦を教える。
「分かったわね子猫ちゃん達?BETAと言えども所詮男・・・。良い女を追う事しか能が無いの・・・。だから、私達良い女はそこを逆手に取るのよッ!」
「「「「「「ハイッお姉さま!!」」」」」
オカマが立ち回りを教えて行く。
「良いか貴様等!要撃級の弱点は確かに顔の様な感覚器だ。ここを撃ち抜けば確かに奴らは動きを止める。だが、今の貴様等にそのような事は誰も求めていない。貴様たちが狙うのは要撃級の胴体、二つの衝角の間のここだ!20発撃ち込めば奴らは動きを止める。これだけで要撃級が絶命する訳では無いが、今の貴様達にはこれ以上のことは求めない!だからこそ、この程度の事やってみせろよ?できませんと言う言い訳は聞かんぞ?―――よろしい、次は突撃級についてだ。」
なっちゃんが、座学を担当した。
教本通りの教えでは無く、現場を知る物からの生の声を教えるのだ。
ためにならないはずがなかった。
そんな中俺は・・・。
「よし、次トーニャ来なさい。」
「はい・・・」
俺はトーニャと視線を合わせる。
「ゆっくりと、深呼吸して、そして俺の目を見るんだ」
俺の仕事は、催眠術を使った恐怖の克服。
後催眠暗示により多少の恐怖を紛らわす事が出来ると言ってもたかが知れている。
俺はその上から、さらに催眠術を掛けることでBETAに対する恐怖心を無くす。
そして、少しでも多くの事を吸収して力に出来るように暗示をかける。
「もう良いよ」
俺がそう言うとトーニャは立ち上がった。
「それじゃ、もっと強くなってくるよ!」
そう言って離れていくトーニャを見送った俺は天井を見上げた。
「もう少し、もう少しだけで良い。まだ、来るんじゃねぇぞ・・・」
三日後―――。
なんの反応も見せないBETAに対して俺達は、どうしようもない気持ち悪さに襲われながら過ごしていた。
そんな時である、国連軍が撤退することが決定したのは・・・。
それも当然と言えば当然なのだ。
このエヴェンスク基地にいた無力な人達の避難がなんとか完了したのだ。
だが、俺達はここに残ることになった。
俺達と言う言い方は可笑しいな。
エヴェンスク基地所属のソ連軍は残ることが決定したのだ。
その理由がまた笑えてくる。
他の地のロシア人のアラスカ避難が完了するまで時間を稼げと言うのだから・・・。
「馬鹿げている」
俺の声が司令官室に響く。
「ここにいる皆に無駄死にしろと言ってるのですか!?」
ダルコ司令官が腕を組みながらそれに返事を返した。
「これが党の決定ならば従うしかあるまい・・・」
「―――ッ」
「だが、安心したまへ・・・。新任衛士達は、カムチャツカ行きが決定している。明日には出立する予定だ。君達が手塩にかけて育てた者達は、この地を離れることが出来る。そして、君の任務もここまでだ。」
「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。君は現時刻を持って国連軍と随伴してこの地を離れなさい」
「・・・ふざけないで下さい」
すると、今まで黙っていたラトロワ中佐が口を開いた。
「分を弁える事を、坊やは覚えた方が良い」
「弁えるつもりなんて毛頭ありませんよ!俺に、仲間を、家族を見捨てろと言うのですか!?そんなことまっぴらごめんだ!俺はなんと言われようとも、ここに残る。ここで俺の家族と最後まで戦う!そして皆で無事に生き残るんだ!」
そして俺は、司令官室を飛び出した。
寝室では2人の影が重なっていた。
重なり合う影はワンコとアナだった。
2人は一枚のシーツに身を包み合い抱き締めあっていた。
「なぁ、アンナ聞いたか?」
「うん、私達はここで死ぬまで戦うんだよね・・・」
「あぁ・・・」
震えるアンナの手を優しく包み込む。
「アナトリー、私怖いよ。あなたと離れるのが凄く怖い・・・」
「大丈夫、俺達は死んでも一緒だ。生まれ変わっても一緒だ」
「・・・うん」
アナトリーは、アンナの額に優しくキスをする。
「アイツは、残るらしいな・・・」
「ゴリンは、頑固だからね」
「本当に馬鹿な野郎だよ」
「うん、優しくて仲間想いの馬鹿だね」
そして二人はクスクスと笑う。
「生き残ろうな、皆で」
「うん!」
ナスターシャは扉の前に立っていた。
「―――ッ」
すると、扉が突然開かれ中からラトロワ中佐が姿を表した。
「す、すみません中佐・・・」
ナスターシャのその姿を見てラトロワは微笑む。
「部屋に入りなさいターシャ」
「は、はい」
部屋に通されたナスターシャは、ラトロワに抱き締められる。
それは、いつもの行為だった。
ナスターシャは、普段気丈に振る舞っているがそれは臆病な自分を隠すためであった。
それを知るのはラトロワのみ、そんな彼女を知るラトロワは出撃前に必ず部屋にやってくるナスターシャを我が子のように抱きしめてやっていた。
だが、ナスターシャはいつものように甘えてこなかった。
それどころか、自らラトロワを遠ざけた。
「中佐、私怖くないんです。可笑しいですよね?いつも出撃前は脅えていたのに、今では怖くないんです」
ナスターシャは笑顔を作りそう言った。
「・・・家族の温もりを知らなかった私に、小隊の皆は温もりをくれました。だからなのか、私は今なんでも出来そうな気がするんです。彼らが共にいるなら、なんでもできそうな気がするんです。」
「そうかい」
ラトロワは優しく笑い、子供が成長したことを喜んだ。
「・・・だから、生き残りますよ。皆で!」
基地の外で空を眺める俺に声をかけてきたのはオカマだった。
「こんな所で、なにをしているんだ?」
オカマは、いつものケバイ化粧を落としスッピンの状態でいた。
「オカマ、嫌今はボリスと呼んだ方が良いか?」
「あぁ、今の俺はボリスだからな」
ボリスはそう言うと、俺に一枚の写真を見せてきた。
それは、幼い女の子を抱き上げ笑うボリスの姿だった。
「俺の子だ」
「ボリスお前結婚していたのか?」
「可笑しいか?」
「あぁ・・・」
「俺が女装をしだしたのも、妻が先に他界しちまってな。悲しんでいた娘を元気づけるためだからな!」
「でも、娘さんは・・・」
「あぁ、軍の奴らにつれていかれちまったよ・・・。でも、いつかどこかで会うかもしれないだろ?だから、いつ会っても娘が寂しがらないようにって女装を続けているのさ!」
「お前って、いいお父さんじゃないか・・・」
「だろ?」
俺達の間に風が通り過ぎた。
「俺は娘をこれ以上悲しませないために・・・、生き残る。お前等皆にも、娘を自慢するために、嫌でも生き残って貰うから覚悟しておけよ?」
そう言うボリスに俺は笑った。
「あぁ、楽しみにしているよ!」
離れていくボリスを見つめ俺はさらに決意を固めた。
「生き残るぞ、皆で!」
そして俺は出来る事をするために、ある場所に向かった。
翌日―――。
体育館のような建物中には、エヴェンスク基地所属の人達が集まっていた。
今日出立するヤーコフ達もここにいる。
壇上にはダルコ司令官が立っている。
「本日、1500BETA共が進軍を開始し山岳を越えてくることが分かった。
我々はここにいる数少ない者達だけで、四万の敵と戦うことになる。絶望的だろう、助けを求めたくなるだろう。だが、考え方を変えて欲しい。この程度、大陸を追われてこの地に来た我々からしてみれば微温湯だ。そしてこの程度の事を成し遂げれば、我々は英雄になれる。家族に自慢できるぞ?・・・敵は確かに強大だ。だが、我々ジャールで繋がった家族は、この敵を必ずや撃ち滅ぼすと信じている。」
そして、ダルコ司令官は一端演説を区切った。
「我らと共にあるスルト大隊の隊規を皆で唱和しようではないか、彼らもきっと我々と共に戦ってくれるはずだ。」
ラトロワ中佐が叫ぶ。
「スルト大隊隊規、宣誓ッ!」
我らは剣、錆びて仇すら取れない鈍―――――
怒りの業火に溶かされ先達の屍により鍛えられた我らがジャールは、スルトの意志を乗せ
世界すら斬り壊す―――――
我らの道を阻むモノは例え神であろうと、ぶっ殺す――――
皆が声を揃え叫んだ。
俺達の道を阻む存在は許さないと、家族に手出しする愚か者には制裁をと叫んだ。
それを聞いていたダルコ司令官が静かに言った。
「・・・よろしい、ではジャールの担い手である我が家族よ、下等生物共に教授してやれ、我らが剣を振るうには、貴様達では役不足だとな!」
――――――ウ・ビーチ!!(殺す)