Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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生き残る

エヴェンスク基地から離れていく船を俺達は見つめていた。

これからを担っていく若人たちの航海の無事を祈りながら。

「行っちまったな?」

アナが俺に話掛けて来た。

「そうだな・・・」

そう言った俺にワンコが明るく言ってくる。

「教官殿は寂しいでありますか~?」

「なっ、そんなんじゃねぇよ!」

すると今度は、化粧を完璧に終えたオカマがいつものように頬に手を添え言ってきた。

「あら、可愛い所があるじゃない。その気持ち凄く解るわ~!」

「お、お前らなッ!」

俺達がじゃれ合っていると、なっちゃんが走り寄ってきた。

「いつまで遊んでいる気だ?そろそろ、時間だ」

それに対して俺達もいつもと同様に気ダルそうに答える。

「りょ~かい!」

「あいよ~」

「にゃ~!」

「はい~♡」

そんな俺達に対してなっちゃんが溜息を吐き額に手をやる。

「はぁ・・・」

そして俺達は死地へと趣に行った。

 

エヴェンスク基地から放たれた誘導弾が頭上を飛び越えて行きBETA後方に突き刺さる。

大型小型のBETA関係無しにその圧倒的な爆風でひっくり返していく。

爆炎と共に黒い煙が立ちこみ、風向きの影響からジャール大隊をその煙が包み込もうとする。

その死を運んでくるかのような先の見えない黒い煙の中から5機の戦術機が姿を表した。

「はぁああああああああッ!!」

ジュラーブリクE型を先頭に、第03小隊がBETA群に突っ込む。

ジュラーブリクE型は、深海魚のようなその独特な頭部複眼モジュールから多数の赤い光を漏らし闇を切り裂く。

着地と同時にガンブレードを縦に振り抜く。

圧倒的な重量を誇るガンブレードは、要撃級を真っ二つにすることで地面と激突し刃先がこぼれる事態を回避した。

ジュラーブリクE型は、要撃級を切り裂いた力を逃がすように回転する。

ガンブレードにこびり付いた赤い血をまき散らしながらキャリングハンドルを左手で握る。

ガンブレードは左右に裂け中から大型モーターブレードが姿を表す。

かん高く命を刈り取る音を奏でるガンブレードを大きく回転しながら振り貫く。

するとそれは、左側を通過しようとしていた突撃級を削り斬った。

重く倒れる突撃級を飛び越え姿を表したのは二機のラーストチカ。

アナが乗るラーストチカが四門の突撃砲を展開する。

オーバーワード方式の二つのガンマウントが火花を散らしながら展開されると同時に、両手の突撃砲を左右に向ける。

その姿は十字架を思わせる。

そしてアナが引き金を引いた瞬間には前、左右の戦車級の群れは蜂の巣に変貌させられていた。

そんなアナに狙いを定めた要撃級はその体躯から信じられない跳躍を見せ、強靭な前腕衝角で殴りかかろうとする。

だが、アナと要撃級の間に滑り込むように姿を表したワンコの乗るラーストチカにそれは阻止された。

ワンコは、腕部モーターブレードを展開するとそれを頭上に掲げる。

そして、跳躍ユニットを使い軽く前方に移動した。

それだけで、空を飛ぶ要撃級は腹を斬り裂かれ血肉をまき散らす。

トドメにと脚部の大型モーターブレードを展開しオーバーヘッドキックを要撃級側面に叩き込む。

要撃級は為す術が無く無残な死体となって大好きな地面に横たわった。

着地したワンコの前方から突撃級が姿を表す。

一瞬の膠着状態にあったワンコのラーストチカは、背部の突撃砲二門を即座に展開し目の前の地面に向け120mm弾を放つ。

それにより前足を吹き飛ばされた突撃級は一瞬動きを止めてしまう。

その一瞬を利用しオカマが乗るラーストチカが突撃級後方から36mm弾を突撃級の尻に叩き込み絶命させる。

オカマは跳躍ユニットを使い飛び上がり移動を始める。

36mm弾をばら撒き小型種を吹き飛ばしていく。

だが、男と女の間に存在するオカマはしたたかだった。

対人探査能力の高い要撃級の群れを巧みに誘導していく。

30体の要撃級がオカマにより一点に集められる。

それを確認したオカマはロケットモーターを使用し即座に離脱。

離脱するオカマの側面を無数の弾丸が通過した。

なっちゃんがのるジュラーブリクの四つの突撃砲から放たれた弾丸は吸い込まれるようにして要撃級を瞬く間に蜂の巣に変えていく。

120mm弾で顔のような感覚器を吹き飛ばし、36mm弾の雨で胴体をミンチに変えていく。

背後から姿を表した要撃級に気が付いたなっちゃんは射撃を止め要撃級に向けタックルの構えを取る。

そして要撃級が衝角を振り上げた瞬間に跳躍ユニットを噴射。

肩部ブレードベーンが要撃級に突き刺さる。

要撃級の衝角が後方に振り抜かれる。

要撃級に抱きかかえられるような姿勢になりながら、なっちゃんの乗るジュラーブリクは右手の突撃砲の銃口を要撃級にめり込ませ発砲。

36mm弾を放ち火花を散らせながら暴れる突撃砲を固定し撃ち続ける。

弾丸が要撃級の体を貫通するまで撃ち続けられ、動かなくなった要撃級を見たなっちゃんは要撃級に背を向け新たな敵を探す。

だが、要撃級は生きていた。

音も立てずに起き上がった要撃級になっちゃんは気が付かない。

そして、要撃級が渾身の力を振り絞り放たれた右手前腕衝角。

それはなっちゃんを捕えることは出来なかった。

空を舞う衝角。

要撃級と衝角の間には巨大な剣が存在していた。

和真が乗るジュラーブリクE型は、重いガンブレードを持ち上げ絶望する要撃級に残酷にガンブレードを付き刺し止めを刺した。

要撃級に突き刺さったガンブレードを手放し両手を広げ、スラッシュアンカーを射出。

それは意志を持つ蛇のように動き回り周りにいた戦車級を貫いていく。

そして蛇が住処に戻る時には辺り一面血の海に変わっていた。

ジュラーブリクE型は、死体となった要撃級を踏みつけ突き刺さったガンブレードを引き抜く。

そして、BETAを挑発するように大きく振り上げ右肩にそれを乗せた。

それと同時に第03小隊の面々が王を守護するかのように舞い降りる。

「やっべ、マジやっべ、俺達最強じゃね?」

アナが興奮気味に通信を繋げて鼻息荒く言ってくる。

「愛が為せる技ね♡」

「良い事言うにゃ~!」

「油断するなよ貴様等!」

そう叱咤するなっちゃんも口元を微かに吊り上げている。

俺達は長年共に戦ってきたかのような連携を取れていた。

その気持ちよさを感じながら、俺は皆に命令する。

「良し、一端ジャール大隊本陣にまで引き上げる。いつ光線級が姿を表すか解らないしな。要塞級にも、注意を払って行けよ!」

「「「「了解!」」」」

 

ジャール大隊本陣に戻ってきた俺達は、補給をすませていく。

すると、ラトロワ中佐から通信が入ってきた。

「中々いい働きをするじゃないか坊や」

「優秀な仲間がいますからね!」

戦車部隊が補給所を守るように砲撃をBETAに叩き込む。

エヴェンスクを守護してきたのは、なにも戦術機だけではない。

戦車部隊の圧倒的な火力支援あっての戦術機なのだ。

そしてその技術・練度共に高いレベルに達している戦車部隊は突撃級を甲羅ごと粉砕していく。

しかも、ただ粉砕するだけではない。

致命傷となるように、相手が瀕死になる程度に砲撃を加えている。

こうすることで、自然とBETAの盾が出来上がって行った。

それでも、実際に減らせているのか疑問に思う程のBETAの海。

圧倒的な数のBETAは徐々にその距離を縮めてくる。

ラトロワ中佐が隊形の変更を命令する。

「全部隊、隊形をウイング・ダブル・ファイブに変更。戦車部隊に作戦を次の段階に進めると伝えろ!」

ラトロワ中佐がそう号令を出すと同時にすべての部隊が移動を始める。

コの字型の陣形が三つ出来上がり、空いている所に戦車部隊を配置口の字型の陣形に変更される。

これは、遅滞作戦をするためだ。

本来、俺達のこの戦いは終わりが見えない戦いである。

だが、俺はそれを良しとしなかった。

そのため俺は終わりを作ったのだ。

俺がしたことは、単純にレオに伝えただけである。

ニミッツ級戦術機空母を派遣してほしいと。

この地で戦い生き残った皆は、精鋭中の精鋭と言っても過言ではない。

そんな人材を馬鹿の馬鹿な命令で失うのは損だ。

だから、俺はレオにこう言った。

彼らが味方に付けば、戦力の大幅なupが機体出来る上に政治的にも強力なカードになると。

そして、俺の願いは聞き届けられた。

ダルコ司令官、ラトロワ中佐にもこの事は伝えている。

2人ともなんとか了承してくれた。

命があって初めて何かが出来る。

その事を理解してくれたのだ。

この戦域にいる皆にもその事は伝えられている。

その事が、皆を希望に導かせ戦う力を振り絞らせていた。

 

皆が隊形を整えていく中で俺は跳躍ユニットを使い飛び上がり、補給コンテナ二つを足場にガンブレードを構える。

そしてキャリングハンドルを掴み上げる。

すると、剣の中から姿を表したのはMk57だった。

俺は銃口をBETA群の中腹に存在する要撃級の群れに向ける。

肩部四つの突撃砲はそれぞれ部隊の掩護をするために、別々の方向に向ける。

そしてラトロワ中佐の号令の元全部隊の砲から弾が放たれていく。

それは、波とかしたBETA群を押しとどめる。

その中で俺は目蓋を閉じ意識を集中していた。

「良し・・・」

目蓋を開く。

俺はリミッターを切っていた。

遅く過ぎていく時間の中で、冷静に銃口を向ける。

そして引き金を引くと57mm弾が放たれそれは要撃級の感覚器をぶち抜いた。

一発で終わらせずに次々と弾丸を吐き出していく。

それらはすべて要撃級の感覚器を貫き一撃で要撃級を再起不能に追いやる。

リリアの力を引き継ぐ和真にとってこの程度造作もないことだった。

肩部に搭載された四つの突撃砲は、それぞれが別々の動きをしながら各部隊を掩護していく。

「すげ~・・・」

ジャール大隊のだれかから声が漏れ出した。

それを聞いていたラトロワ中佐は溜息を零すかのように言った。

「・・・国連軍の阿修羅、か」

 

その時、エヴェンスク基地から放たれた誘導弾が撃墜された。

「等々出やがった・・・」

俺はすぐさま補給コンテナから飛び降りる。

戦域地図を確認すると、新たな点が浮かび上がっていた。

「光線級20に重光線級が1か」

ラトロワ中佐がそう呟くと俺に言ってきた。

「やれるか?」

それにたいし俺は普段と変わらずに答える。

「いつでも!」

ラトロワ中佐は、すぐさま別の命令を飛ばす。

「全戦術機の散弾でBETA前面の戦車級を吹き飛ばした後、戦車部隊は後方に下がり補給を開始、戦車部隊の補給が完了し戦線に復帰後、第03小隊はレーザーヤークトを行う。ブラスト・ガードは花道を作ってやるために誘導弾用意、良い所を見せてやれ!」

「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」

全戦術機による120mm散弾を浴びせられ、戦車級を始めすべてのBETAが足を止める。

その隙をついて戦車部隊が後退を始めた。

「皆聞いてくれ」

俺は第03小隊の皆に通信を繋げる。

「このレーザーヤークトが成功することで皆が生き残る確率はグンと上がる。俺は、これを確実に成功させたい。」

俺の話を真剣に聞いて来る。

「だが、見て分かる通り光線級はBETA群の最後方だ。本来なら迂回して叩くべきだが、俺達には時間がない。俺達がモタモタしていたら、それだけ他の人達の命が危険にさらされる時間が長くなる。だから俺は・・・、BETA群を突っ切ってレーザーヤークトを行いたいと思う。」

エヴェンスク基地から放たれた無数のAL弾により濃厚な重金属雲が出来上がる。

俺は皆の顔を見渡し深呼吸した。

「だが、俺1人の力ではなせないことだろう、だから・・・、力を貸してくれ!」

そして皆の顔を見た時、皆満面の笑みを作っていた。

その言葉を待っていた、と。

そんな皆の顔を見て、俺も肩の力を抜いていく。

「フッ、それじゃあ行こう!第03小隊、突撃体制に移れ隊形はアローヘッド・ワンだ!」

「「「「了解!」」」」

戦車部隊が隊列に復帰しようと前進を始めた。

俺達なら、何でも出来る。

さぁ、始めよう!

そう思った時だった。

「ぐわぁあああああッ!」

突然の悲鳴。

それは、俺達を凍えさせた。

HQから通信が入る。

「べ、BETAの地中進行です!」

「右翼の部隊が食われた・・・」

そんな中にあっても尚、ラトロワ中佐は冷静であった。

「戦車部隊は後退しながら援護射撃!各戦術機部隊は主脚走行で後退!防衛ラインを下げるッ!」

だが、一度出来た綻びをBETAは見逃さない。

「ラトロワ中佐――――ッ!」

ラトロワ中佐のチェルミナートルは、突撃級に吹き飛ばされた。

「グ、ガハッ・・・」

ジャール大隊に緊張が走る。

俺はすぐさまバイタルチェックを行う。

ヤバい―――ッ!

データを見た俺は、ラトロワ中佐が危機的状態であることを知り指示を出した。

「全ブラスト・ガード、BETA前面に向け誘導弾発射ッ!それと同時に後退開始!エヴェンスク基地城壁前でBETAを迎え撃つ!」

俺が指示を出すと誘導弾が放たれ、光線級に迎撃されるよりも早く多数のBETAを吹き飛ばす。

「なっちゃんは、ラトロワ中佐を拾って基地に後退しろ!」

「なッ!ゴリン!」

「急げッ!!お前のジュラーブリクがこの中で一番速いんだよ!」

「くッ、死なないで・・・」

そしてナスターシャは、ラトロワ中佐をジュラーブリクに移し移動を始めた。

「ジャール大隊残存部隊は、ナスターシャを中心にサークル・ワンで移動を始めろ!」

そして、俺は重い息を吐き出す。

戦車部隊隊長に通信を繋げる。

「・・・すみません」

「良いってことよ!」

「あなた達には、殿を務めて頂きます・・・」

「戦車じゃ、戦術機の速度には敵わないからな、お前の判断は間違っちゃいないさ!」

「・・・」

「お前達だって、同じようなもんだろ?気にすんな、それじゃ下等生物共に人間の意地って奴を見せてやろうか!」

「はいッ!」

戦車部隊隊長との通信を閉じると同時に、俺は仲間に通信を繋げた。

「・・・悪いなお前等、地獄まで付き合ってくれ」

だが、コイツ等はあくまでいつも通りだった。

「はいよ~!」

「皆となら、どこだって良いよ~!」

「良い男には、良いオカマが憑き物よ♡」

そんな皆に俺も笑う。

「まったく・・・、第03小隊、力を見せつけるぞッ!!」

 

「第03小隊ッ!」

「全戦車乗りッ!」

「突撃ッ!」

「撃てッ!」

 

重金属雲が立ち込める中を、戦術機が突き抜ける。

後方からは放物線を描きながら砲弾が飛翔し前方左右のBETAを根こそぎ吹き飛ばしていく。

俺達は俺を先頭に矢のように突き進む。

邪魔をする壁は、ぶち壊し進み続ける。

砲弾の数が減って行く。

それと同時に、俺は背中が重くなっていくのを感じていた。

―――死んだ。

俺の命令で、人が死んでいく。

命の重さを俺はこの時、確かに感じていた。

皆、戦術機の速度を常に最高速度にキープしている。

俺はナノマシンと脳のリミッターを切っているおかげで、そこまで苦ではないが皆は違う。

かなりきつい筈だ。

その証拠に先ほどから、誰も口を開いていない。

重金属雲のおかげでデータリンクも使えない。

俺達は、付かず離れずの距離を絶妙に保ちながら真っ直ぐ目標に向け突き進んで行く。

BETAの海が割れて行く。

それと同時にガンブレードを構える。

光線級が姿を表した瞬間にその群れには弾丸がめり込む。

「五キルッ!」

―――残り15体と一体。

突き進む。

―――目標まで残り800。

再びBETAの海が開ける。

邪魔をするBETAを無視して、四機すべてが銃弾を叩き込む。

一回の俺の動きを見ただけでコイツ等はそれをものにした。

やっぱり、コイツ等は最高だ!

「光線級残り5体!重光線級にも何発か120mmがぶち当たった!お前等最高だ!」

柄にも無く喜び叫ぶ。

まるで、部活動をしているかのような気分だ。

この仲間ならこの程度なんてことはない。

そう思えた。

その時、進行上の地面が爆ぜた。

「ッ!躱せぇ!」

それは旅団規模のBETA群だった。

そのBETA群の出現により、一本の矢は三本に分かれてしまう。

 

「キャアッ!」

「アンナぁあああああッ!」

アンナのラーストチカは、BETAが地上に噴き出してきた瞬間に要撃級に殴られ戦術機が操縦不能になりBETA群の中に墜落してしまっていた。

データリンクは使用不能、だが仲間の安否は部隊長であるゴリンには伝わる。

アイツが今のこの状況を見たら、おそらく引き返してくるだろう。

そう思ったアナトリーは、コンソール叩いていく。

それは欺瞞情報だった。

無事に自分達の戦術機達は目標に向かっている。

戦域地図にそう表示されるように変更した。

「アンナ・・・」

アナトリーのラーストチカがにじり寄ってくるBETAを蜂の巣に変えながら降り立つ。

その姿は、手負いの姫を守る騎士のようだ。

「アナトリー・・・」

アナが泣きそうな顔をしながら、名前を呼んでくる。

「大丈夫だ、俺達はいつまでも一緒だからな。ずっとそうだったろ?」

アンナは走馬灯のように昔のことを思い返す。

親元を引き離され集められた施設でアナトリーと出会った事。

感情を無くし、人形のようだった自分に笑顔を取り戻させてくれたアナトリーの事を。

そして、数多くの戦場を共に生き抜いてった事を。

幼馴染であり、戦友であり、家族であり、恋人である。

アナトリーはいつも私の味方でいてくれた。

私の王子様なのだ。

そして、今も私に寂しい思いをさせないでいてくれる。

アナトリーのラーストチカの弾丸が尽きる。

BETAが私達を引き離そうと近づいて来る。

「アンナ・・・」

アナトリーのラーストチカが、私を抱きしめる。

「ずっと、一緒だ・・・」

「愛してる」

そして、私達は自決装置を機動させ光に包まれた。

 

「アナトリー、アンナ、ボリス!無事か!?」

俺はBETAにより分断された皆に通信を繋ぐ。

だが、帰ってくるのは雑音ばかり。

「クソッ、皆無事か!?返事をしてくれッ!」

その時、戦域地図が更新され皆が無事なことを俺に知らせてきた。

皆真っ直ぐに光線級に向かっていた。

俺は内心でホッとしていた。

そして気持ちを切り替える。

「よしッ、目標目の前、これはチャンスだ!絶対逃がすなよッ!」

そして俺は、跳躍ユニットを吹かせた。

その時、BETA群の群れの中で大爆発が起こった。

数多のBETAを青白い閃光と共に吹き飛ばし、爆炎を上げ大地を削る。

「・・・S-11?」

嫌な予感がした。

フリップのでもとを確かめる。

爆発の位置を確かめる。

すると、それはアナトリーとアンナのフリップが出現した位置と重なっていた。

「・・・どういう事だ、これは?」

止めろ、止めろ、止めろ――――

考えるな、その先を考えるな。

だが俺の思考は止まらない。

震える手でコンソールを叩いていく。

小隊長権限で、アナトリーとアンナの戦術機の状態を確かめる。

そこには、なにも無かった。

すべてが、エラーで表示されていた。

「あ、あぁ、あ・・・」

震える。

手が震える。

解っていた。

死ぬことは解っていた。

でも、それでも・・・。

頭の中の湖の無数の腕たちが俺を締め上げるだけでは飽き足らずに、暗い湖の底に引きずりこもうとしてくる。

動きを止めた、俺のジュラーブリクE型に要撃級が狙いを定める。

前腕衝角を振り上げる。

だが、現実世界にいない和真はそれに気が付かない。

だが、獅子の声を聞いて和真は我に返った。

「ぼさっとしてんじゃねぇッ!!」

「ボリスッ、お前生きて―――ッ!!」

俺を殴り殺そうとしていた要撃級は、白い流星に斬り裂かれ崩れ落ちる。

流星は、俺に見向きをしないで光線級に向かって行く。

「・・・1つ頼みごとがあるんだが、良いか?」

ボリスのラーストチカは飛べる事が不思議なくらいに傷つき、所々から火花が散っていた。

それだけでは無く、何匹もの戦車級に取り付かれていた。

「ボ、リス・・・?」

 

「情けねぇ顔してんじゃないわよ♡」

俺は、絶望の底に叩きつけられたような顔をしている和真にいつもと同じように答える。

コックピットブロックが齧られ出来た隙間から戦車級が腕を伸ばしてくる。

俺はそれを、無言でコックピットに備え付けられているAk-47で打ち抜く。

戦車級の腕が粉砕され、返り血が吹きかかる。

「俺の・・・、私の娘に会うことがあったら伝えて欲しい。お前の父親は、最高にカッコイイオカマだったって・・・」

初期照射警報が鳴り響く。

コックピット内に張り付けられた、写真に手を伸ばす。

そして娘の顔を優しく撫でる。

目蓋を閉じ、楽しかったころを思い浮かべ、もし小隊の皆に娘を紹介していたらどうなっていたかを妄想する。

それは、凄く楽しい世界だった。

優しさに溢れた世界だった。

自決装置を機動させる。

100m先が、輝いているのが見えた。

「や、やめてくれ・・・」

和真がそう言ってくる。

そう言ってくる和真に、俺は思った。

コイツが息子なら、さぞ手を焼く事だろうな、と。

でも、それも良いかもしれないな、と。

だから俺は、我儘な息子に困った父親のように苦笑いしながら言った。

「お前はこんな所で終わっちゃいけないだろ?為したい夢があるんだろ?そのためには、良い男にならなくちゃな!」

そして俺は、自決装置のボタンを叩きつけた。

 

眩い閃光が俺の視界を覆い尽くした。

「あぁ、ぁああああ・・・」

死んだ―――。

俺の仲間が―――。

家族が―――。

痛みが俺を襲う。

その痛みが糧となり、湖の中の腕たちは俺を引きずり込もうとした。

だが、和真の皮膚が湖に触れそうになったとき誰かが俺を引き上げてくれた。

誰かは解らない。

だが、その三本の腕が俺を引きとどめた。

――――俺達の想いを無駄にするな

俺には、確かにそう聞こえた。

すると、俺は現実世界に帰還していた。

「また、お前達に気づかされちまったな」

眼前の敵を睨み付ける。

ボリスの自決により出来た大穴が光線級までの道を切り開いていた。

「お前達を犬死になんてさせないッ!」

ジュラーブリクE型が真っ直ぐに全力で開けた道を突き進む。

一匹の光線級が狙いを定め光の矢を放ってきた。

「うぉあああああッ!」

機体を無理矢理捻り回避しようとする。

ナノマシンの力、リミッターを切った力を使用している和真にはその程度の機動なんてことはない。

そして、仲間の想いを背負った和真を止めることは誰にもできはしない。

光の矢をなんとか回避する。

だが、光線級はそんなに甘くない。

照射元である光線級は瞳を動かした。

それだけで、死の線が再び迫る。

それを跳躍ユニットを使用し側転するように再び回避した。

だが、その時右手が溶かされてしまう。

だが、左手に持ち替えていたガンブレードの銃口、そして肩部に搭載された四つの銃口はすでに敵に向けていた。

他の光線級が初期照射を放つ中、すべての銃口が火を噴く。

すると、膨大な熱を溜めていた光線級は弾け飛び高熱をまき散らし空気上の水分を一瞬で蒸発させる。

残る重光線級の姿がそれで見えなくなる。

だが、そんなこと和真には関係が無かった。

すかさず左手のスラッシュアンカーを水蒸気の中に放つ。

確かな手ごたえ。

何に突き刺さったのか理解していた和真は、スラッシュアンカーを巻き上げる。

跳躍ユニットはロケットモーターを吹かす。

ジュラーブリクE型はガンブレードの柄を胴体に押し付け固定、刃先を眼前に向ける。

そしてその体を煙の中に引きずり込んだ。

 

煙が晴れる。

純白の煙は風にさらわれ流れ去る。

重金属雲もすでに存在していなかった。

透き通るような青空、その眼下では死のメロディーが奏でられていた。

弾け飛ぶ血飛沫、痙攣する巨大生物、淀んだ瞳を貫く巨大な剣。

力を誇示するように複眼を光らせる阿修羅は、重光線級を蹴り飛ばし剣を引き抜いた。

倒れる重光線級相手に、止めにと120mm弾を四発放つ。

重光線級の体弾け飛ぶ。

青い空が、赤に塗りつぶされた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

俺は四方を確認した。

全方位、すでにBETA一色だ。

逃げ場なんて存在しない。

だが、俺は口元を歪めていた。

最高方なのもあり、BETAの数が少しましだと言っても負傷した単機でどうにか出来る数ではない。

それでも、俺は余裕だった。

「良いぜ、相手になってやるよッ!」

そして、BETAの海に飛び込もうとした時センサーが何かを見つける。

「コイツは誘導弾?ミサイルか・・・。そっか、ネフレが援護に間に合ったからエヴェンスク基地も余裕が出来たんだな」

だが、それを望遠で見るとそれは違っていた。

「随分デカイな?エヴェンスク基地にあんなのは、なかった筈・・・」

そしてミサイルは一発ではなく5発用意されており、それぞれが別々の方角に飛んでいた。

おかしい・・・

そう思った時、ナノマシン内の情報が俺に警報を鳴らした。

あれは、ソ連の戦略地対地弾道ミサイルであると。

そしてその弾頭は、戦略核兵器であると。

俺は慌てて弾着地点を計算する。

すると、その一部はエヴェンスク基地に設定されていた。

俺はコントロールパネルを叩きつける。

「ちくしょうッ!そうか、そういうことかよッ!」

納得が行った。

ソ連が何故、爆撃機を出さずに増援をよこさずにいたのかを、どうして俺達をここに足止めさせたのかを。

「すべては、ここでハイヴ建造に動いていた全BETAを殲滅するために、俺達を捨て駒にしたってことかよッ!」

和真は、天に向かって吠えた。

世界の不条理に、こんな事を行うのが同じ人間であることが理解できないと叫んだ。

「皆はッ!お前達にとって所詮捨て駒でしかないのかッ!?なんでそんなことを平然と出来る!?皆の命は、お前達の所有物じゃないんだぞッ!」

1つの核ミサイルが、BETA後方に迫る。

それは、俺の今いる所からさほど離れていない所だった。

「あいつ等、俺達が光線級を排除するタイミングを見計らっていやがったッ!」

憎しみが和真を襲う。

どうして人に殺されなければならない。

俺達の敵はBETAの筈だ!

小隊の皆の命が散った意味が解らなくなってくる。

皆の想いが踏みにじられたかのような気がしてくる。

俺はジュラーブリクE型を急速離脱させる。

人から逃げるために・・・。

「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉおおおおおおおおッ!」

そして和真は、灼熱の太陽に吹き飛ばされた。

 

「今すぐ船を戻してくださいッ!」

ナスターシャは救援に来たネフレ軍ニミッツ級戦術機空母の中で叫んだ。

「無茶を言わないでくれ、もうエヴェンスク基地に向け戦略核ミサイルがアラスカから放たれた。今戻れば、我々も死んでしまう」

「それでも、戻って下さいッ!あそこには、今もジャール大隊の皆がダルコ司令官が、司令部の皆が、今もまだ戦っているんですよッ!?」

ナスターシャとラトロワ中佐は、エヴェンスク基地に帰投後、十分な医療施設の整っている空母に乗り込んでいた。

ラトロワを預けたナスターシャはすぐに戦線に戻ろうとした。

だが、その時にはすでにアラスカから核ミサイルが放たれた情報が入り込み。

急遽戦術機空母はエヴェンスクから離れることとなった。

その結果、ナスターシャとラトロワ中佐は、核ミサイルの効果範囲ギリギリ外にいた。

ニミッツ級戦術機空母艦長も最後の望みを託し、ギリギリの位置に船を残している。

1人でも多くの人がこの船に逃げ込んでくることを信じて。

だが、それは無慈悲に貫かれた。

灼熱の閃光がエヴェンスク基地を包み込む。

それだけでは無く。

それは戦域すべてを包むかのように、次々と太陽が生まれ出てくる。

「耐衝撃、急げッ!!」

艦長が叫ぶ。

だがナスターシャはその場に崩れ落ちてしまった。

「う、そだ・・・。嘘だ・・・、嘘だぁああああああああああああッ!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

和真は灼熱の大地を歩いていた。

和真の愛機、ジュラーブリクE型にまた命を救われた和真は、焼け焦げた相棒に別れを告げ生きるために地獄を歩いていた。

「死なない、俺は、死なない・・・」

和真の体からは、緑色の結晶が生まれては砕け、生まれては砕けを繰り返していた。

右目は飛び出しすでにどこかに、落として来てしまった。

身体中が焼けただれ、右手は存在していなかった。

吸い込む空気、吐き出す空気が喉から漏れ出す。

それでも、和真は生きていた。

仲間の皆が俺の足を無理矢理動かせ、生きろと言ってくる。

それに後押しされ、和真は一歩を踏み出す。

だが、とうとう倒れ込んでしまった。

灼熱の大地が和真の頬を焦がす。

その時、風が和真を撫でた。

そして巨人が舞い降りる。

誰かが、俺に走り寄ってくる。

「―――ッ――――――――ッ!!」

何を言っているのだろうか?

解らない・・・。

俺は何故、倒れているのだろうか?

歩かなければ、皆を犬死させる訳にはいかない。

生きなければ・・・。

だが、体が動かない。

命の炎が消えていくのが感じられる。

「ち、く、しょぉ・・・」

 

「和君ッ!お願い目を開けてッ!!嫌だッ、嫌だよぉ!和君!和君ッ和君ッ!!」

 




これにて、エヴェンスクでのお話しは終わりとなります。
次回から、別の話しに進みます。

ここまで、読んでいただきありがとうございます。
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