Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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交わる刃

 樺太に存在する病院の屋上には和真の姿があった。

 慣れた手つきでタバコに火をつけ、久々の味を楽しむ。

 柵に腕を乗せ、もたれ掛り空を眺める。

 空には夜の暗闇の中でも精一杯に光り輝く星々の輝きが和真の目に飛び込んでくる。

 和真は右前髪を掻き上げる。

 空の星々にいる誰かに、俺はここにいると自己主張するかのように和真の右目は緑色に輝いていた。

「はぁ~……」

 口から流れ出る紫煙を目で追いかける。

 それは、俺を包み込む様に流れ去る。

 その煙を追いかける様に体を反転させると、そこには三人の人がいた。

 屋上から院内に通じる扉前には、トイ・フラワーの姿があった。

 トイ・フラワーの三人は無言で和真に近づく。

 和真はとっさに右目を前髪で隠してしまう。

 そして何事もなかったかのように、声を掛けた。

「どうしたんや?もう帰ったかと思ってたわ」

 三人を代表するかのように千夏がハニカミながら答えた。

「少し聞きたい事があってね!」

「聞きたい事?」

 和真は不思議そうに首を傾げた。

 すると園子が一歩前に踏み出し和真の前髪を優しく持ち上げる。

 急に園子に接近された和真は、驚き一歩下がろうとするがすぐ後ろが柵であり逃げることが出来ない。

 園子は、緑色に光る和真の右目を見ながら笑顔で言ってきた。

「うん、大丈夫そうですね」

 そして接近していた顔を離す。

 園子の暖かい雰囲気が和真を拒絶させずに素直にさせた。

「……うん」

 すると、月子が和真の隣に移動し柵に肘をかけ背もたれにし、空を見上げる。

 月子の紫色の長い髪が重力に負け地面に真っ直ぐ垂れ下がる。

 月子は、乱れたヘアースタイルを気にも留めずに星を見つめる。

 そして、見飽きたのか首ごと和真のほうに向けた。

「聞きたいことってのはさ、リリアとザウルさんのことだ……」

「リリアとザウルのこと……?」

 和真は目に見えて暗い顔をした。

 その顔は罪悪感に支配されており、和真の内面を表していた。

 そして、未だに2人の死を引きずっていることも……。

「あっ……」

 気が付けば和真の右手は千夏に握り閉められていた。

「辛いことだと思うけれど、話して欲しいの……、2人の最後を……」

 

 俺はそこで思った。

 俺を守るために死んでしまった大切な兄と姉のような存在である2人の話をするのに、俺が暗い気持ちで話てはダメだと。

 ザウルとリリアは俺の確かな誇りだった。

 誰にでも自慢できる存在だった。

 俺は、2人との思い出を思い返す。

 振り返ってみれば、辛いことも楽しいことも三人で乗り越えてきた。

 それに良く考えれば、辛い事よりも楽しかった頃の記憶の方が多い。

 そのことに気が付いた俺の顔は、すでに先程までの暗い顔とは真逆の顔をしていた。

「うん、話さなきゃいけない……、嫌、聞いて欲しいんだ!二人の事を……」

 

 そして俺は話した。

 俺達が京都で経験したことを、ザウルとリリアが命を懸けて俺を守ってくれたことを、すべて。

 

「……そっか、リリアらしぃな」

 月子がポツリとそう零した。

「ザウルさんも、そう言う人ですしね」

 園子さんが涙を堪えながら、そう言う。

「……2人は、どこまでも一緒なんだね」

 千夏さんが誇らしげにそう言った。

 そして三人は、帰って行った。

 三人を見送った俺はまた空を見上げる。

 空には点々と星々が光り輝き、さらに満月が姿を表していた。

 俺は満月に右手を伸ばし、月を握り閉める。

「ザウルやリリアだけじゃない、俺を生かしてくれた皆の分まで俺が戦う。

もぅ、皆の死を重しになんてしない。だから、見ていてくれッ!」

 

 基地に帰投したトイ・フラワーの三人は廊下で立ち止まっていた。

「……ごめん、今日はPXに行かないでおくよ」

「そう、ですね。私もその方が良いです」

「次に会う時は、いつも通りだよ!」

 そして三人は、それぞれの部屋に向かう。

 堪えきれない涙を必死に笑顔で隠しながら誰にも邪魔されない場所に向かって行った。

 その日の晩は、誰かが静かに泣く声が響いていた。

 

 レオに呼び出された俺とストーは、急遽身支度をすませ日本に向かうこととなった。

 時刻はすでに夜中の三時、太平洋を進む船から伸びる明かり以外には何もない無の世界が広がっていた。

 でも、良く目を凝らせば見えてくるモノも確かに存在している。

 海面に反射する月の光、時々飛び上がる魚の群れ、船に集まってくる鳥、潮の混ざり合う音。

 何もないと思っていた世界には、意外と色々なモノが溢れていた。

 視点を変えるだけで、こうも違う世界が見えてくる。

 今までの俺なら、こんな風に見ることが出来なかった。

 船の甲板にいた俺は、薄く笑いながら船内に引き返そうとした。

『あなたは、どこにいますか?』

「また、あんたか……」

 俺は海に向き直る。

『あなたは、どこにいますか?』

 幻聴にしてはしつこすぎるその声に、俺はもう何度目になるかわからない問答をした。

「……俺は、ここにおるよ。だって、ここには俺の好きな人達が一杯おるからな!だから、あっち行けって言われても、俺はここにおるよ!」

 すると、声が聞こえなくなった。

 俺はそれを確認すると、船内に戻るために扉に手を掛けた。

 その時、俺の耳に懐かしい声が聞こえた。

『――そうか、頑張りなさい』

 俺は一瞬ハッとするが、振り返らない。

 俺の居場所はここだからだ。

 だから俺は、出来るだけ明るく言った。

「うん、頑張るよ。親父!」

 そして俺は、扉を開け光をその身に浴びた。

 

 和真は、船内で他の職員と共に雑魚寝しているストーの傍に座り込む。

「すー……すー……」

 静かに寝息を立てるストーを和真は微笑みながら優しく髪を撫でてやる。

「う、ん……」

 するとストーは、気持ちよさそうに首を細め和真に擦り寄った。

 人肌が無性に恋しくなっていた和真は、それに拒否反応を示すことなく受け入れる。

「人って、こんなにも暖かいんだな……」

 そう言いながら、和真はストーと少し距離を開け横になり眠りに着こうとした。

「和君も暖かいよ……」

「起きていたのか、ストー?」

「今、起きた」

 ストーはそう言いながら、自らが被っていた布団を和真を入れる形で被りなおす。

「えへへ、こうすればもっと暖かいよ?」

 ストーは和真の腰を抱きしめ、顔を和真の胸に埋める。

「……恥ずかしいから、止めてくれ」

 そう言いながら、ストーを引きはがそうとするがストーは離れない。

 諦めた和真はマグロ状態になってしまった。

「もうどうにでもしてくれ……。」

 そうぶっきらぼうに和真は言うが、その顔は安心した顔をしていた。

 それを上目使いに見ていたストーはさらに笑顔になり、温もりを逃がさないように優しくけれど強く、和真を抱きしめた。

 

 翌日、和真とストーは日本の大地に足を乗せていた。

「う~ん……」

 大きく伸びをするストーは、懐かしい空気を体全体で感じようとしているようだった。

「そろそろ行くとするか」

 ストーにそう声を掛け1人先に足を進める和真もまた、ストーにばれないように深呼吸をしていた。

 

「ここが、帝国国防省戦術機開発研究所か」

 研究所を見上げ中に入って行く。

 すると、そこには懐かしい顔があった。

「任務ご苦労様、和真君!」

「レオ久しぶり!」

 笑顔で手をブンブンふるレオに苦笑いしながら、ストーと共に近づいていく。

「それで、なんで俺達を呼んだんや?」

「今日は日本のおもちゃの完成具合を見に来たと言うのが表向きの理由なのだがね……」

 ゴクリと唾を飲み込む。

 なにかあるのか?

 真剣な顔で黙り込むレオの表情には鬼気迫るものが感じ取れた。

「君達の顔を直ぐにでも見たくてね!呼んじゃった!」

 笑顔でそんな事を平然と言いやがった。

「呼んじゃった!じゃ、ねぇよッ!!急に呼び出すからビックリしたやんか!?」

「ごめんごめん、でも健康そうで良かったよ!」

 レオはそう言うと、俺の右目に視線を合わせてくる。

「あぁ、感謝してるよ。おかげで不便せんですんでるからな」

 俺がそう言うと、レオは二度頷く。

「それじゃ、和真君にして欲しい事を言うよ?帝国本土防衛軍帝都防衛第一師団・第一戦術機甲連隊に所属している衛士と模擬戦をして欲しいんだ!」

「わかったわ」

 俺がそう聞くとレオはキョトンとした。

「何故模擬戦をしなければならないのか疑問に思わないのかい?」

 そう言うレオに対して俺は、なんてことないように返す。

「敵を倒せばいいだけやろ?じゃあ、それ以外の情報は必要ないよ」

 俺の返事を聞いたレオは難しい顔をする。

「……そうか。なら、行ってくると良い」

 俺はレオに手を軽く手を上げ俺の案内役のネフレ職員の元に向かう。

「はいよ、叩き潰してくるわ」

 

 歩き去る和真の背を見ながらレオは隣に立つストーに問いかけた。

「……まだ、大丈夫なのかい?」

 それに対しストーは辛そうに俯き答えた。

「和君は、なんとか踏ん張ってる。自分に負けないように、壊れてしまわないように、必死に……」

「……そうか、ストー君彼を支えて上げてくれ」

 ストーは俯いていた顔を上げた。

 その瞳には決意の色がありありと浮かんでいた。

「和君をあっちには行かせない、絶対にッ!」

 

 和真は、今回の模擬戦のために用意されたセイカー・ファルコンに乗り込み演習場に立っていた。

「たまには、対人戦もしておかないとな」

 和真は力強く操縦桿を握り閉める。

「……いつかは、することになるかもしれない」

 セイカー・ファルコンに装備されている武装を確認する。

 背部に突撃砲G11が一門にフォルケイトソード改が1つ。

「お前達に生かされたこの命で、俺は世界を変える」

 だから―――

「レオの邪魔を、俺達の邪魔をする存在は叩き潰すッ!」

 そして、模擬戦が開始された。

 

 ビルが立ち並ぶ演習場を爆風が支配する。

 ビルの壁をアスファルトを砕く爆風は移動するかのように次々と生まれては消えていく。

 敵の不知火が36mm弾を放つ。

 灰色を纏う不知火は、的確に行く手を阻むかのように弾幕を張って行く。

 だが、そんな弾幕など存在しないかのように突き進むセイカー・ファルコン。

 主脚を使いアスファルトを抉り、跳躍ユニットの噴射でコンクリートの壁を吹き飛ばす。

 お返しにと、セイカー・ファルコンの突撃砲が火を噴き36mm弾を放つ。

 どの突撃砲よりも速い発射速度を誇るそれは、不知火が作る弾幕を上回る弾幕を形成する。

 それを確認した不知火は屈み、跳躍すると同時に一瞬のロケット噴射。

 不知火の空力特性を生かし僅かな推進剤の使用ですべり込むように弾幕を躱す。

 通り過ぎていく弾幕を見、移動を始める。

 曲がり角を曲がり後方を確認すると、ロケットモーターを最大噴射にして追いかけてくるセイカー・ファルコンの姿が目に入る。

 あの速度ではコーナーを曲がりきれない。

 不知火に乗る衛士がそう判断し、銃口をセイカーに向け放った。

 どちらにしろこれで終わり、誰の目にもそう映ったであろう。

 だが、セイカー・ファルコンはビルにぶつかる寸前で跳躍ユニットを逆噴射し急制動を掛ける。

 人間が耐えられないであろうGが敵の衛士の体を潰してしまう。

 本来ならばそう判断しすぐさま管制官に通信を繋げ医療班の準備を申し込むだろう。

 だが、不知火に乗る衛士はそうしなかった。

 彼は、今までの戦闘からセイカー・ファルコンに乗る衛士はあの機動を耐えてみせると判断していた。

 案の定セイカー・ファルコンは苦も無く次の動作に移る。

 機体とビルが鼻先をぶつけてしまいそうな距離でビルを足場に飛び上がった。

 不知火の放った弾丸がセイカーの足元を通り過ぎていく。

 逃がすまいと不知火は銃口を上げる。

 線となってセイカーを追いかける36mm弾をセイカー・ファルコンは空中で側転し自ら距離を狭めることで回避した。

 不知火目掛けて落下してくるセイカー・ファルコンと不知火の銃口が交差する。

 お互いに真正面から撃ちあい、同じタイミングで突撃砲が被弾し使い物にならなくなる。

 突撃砲を投げ捨て、セイカー・ファルコンと不知火は息を合わせているかのように背部から長刀を手に取る。

 セイカー・ファルコンのフォルケイトソード改のロケットスラスターに火が灯り不知火を両断しようと一文字に振り抜かれる。

 不知火はそれを苦も無く、74式近接戦闘長刀の刃先を地面に向け受け流した。

 刃と刃が擦れ火花が散り、フォルケイトソード改は爆音を上げアスファルトの地面を叩き割る。

 不知火は74式近接戦闘長刀の刃を返しフォルケイトソード改を振り抜いた状態のセイカー・ファルコンの背を斬り裂こうと振り抜く。

 だが、それは不知火自ら中断された。

 不知火は長刀を振り貫こうとしたのを無理に止めたために、右手間接が悲鳴を上げるが気にもしない。

 嫌、それどころではなかった。

 セイカーの右手に握られたナイフがコックピットブロックを突き刺そうと迫っていたからだ。

 不知火は瞬時に左ナイフシースからナイフを抜き取り防御する。

 機体と機体が擦り合うほど接近した中で、不知火に乗る衛士は関心していた。

 相手の生への執着の強さを。

 そして、和真も感心していた。

 不知火に乗る衛士の判断能力の高さを。

 不知火はセイカー・ファルコンを蹴り飛ばし一端距離を取る。

 この敵は一筋縄ではいかない。

 そう判断した不知火に乗る衛士は、脳を高速で回転させ次の作戦を考える。

 だが、その必要はなかったようだ。

 セイカー・ファルコンはナイフを放り投げフォルケイトソード改を構えていた。

 不知火の衛士は静かに笑う。

「……フッ、アイツもこう言った事が好きだったな。ならば、答えるしかあるまい」

 不知火はナイフを捨て、74式近接戦闘用長刀を構えた。

 和真は親友の構えを不知火の姿から思い出していた。

「あの構え、アイツに似てるな……。」

 先程までの騒がしさが嘘のように、静かな世界が構築される。

 不知火とセイカー・ファルコンの間を風が通り過ぎていく。

 お互いに使い慣れた刀を構えあうその姿は、時代劇のワンシーンを思わせる。

 もはやこの戦いは戦術機の戦いでは無くなり、人と人の決闘と化していた。

 そして、コンクリートの壁が崩れると同時に不知火とセイカー・ファルコンは全力で突っ込み、愛刀を振り抜いた。

 

「負けてもうたな……」

 和真はそう言いながらも清々しい顔をしていた。

「リミッターは切らなかったのかい?」

「レオ……、うん今回は普段の俺の力で戦いたかったからな」

「負けたのに随分と嬉しそうな顔をしているね?」

「なんでやろな?今回の模擬戦は勝ち負け無しに気持ち良かったわ……」

 レオと和真が他愛ない話をしていると1つの足音が近づいて来た。

 それに気が付いた和真は、そちらの方に振り返り固まる。

 それは相手も同じだった。

「……和真」

「な、尚哉ッ!?」

 

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