Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
翌日、バッキンガム宮殿からバーミンガム、アストン・ホールに向かう車内の中でオルソン大尉から言われた任務内容を思い返す。
「本日アストン・ホールで行われる会合には、イギリス高級将校だけでは無く、多国からも多くの著名人が集うこととなった」
「急な話ですね?」
「なんでも、イギリスだけですべてを終わらせる予定が多国の強い要請の元急遽参加が認められることとなったそうだ。そのため、今までよりもさらに強固な警備でなければ守りきれなくなる可能性が十二分にある」
「……本格的なテロが予想されると言うことですか?」
「あぁ、そう言うことだ。ただし、今回は特別急にすべてが決まった。テロリスト達にも予定を立てている時間はないだろう」
「それを見込んで、予め決められていた予定を急に決まったなんて形にしたのですか?」
「憶測の域を出ていないことを、軽く口にするものではないぞ中尉」
「はッ!申し訳ありません!」
「ふむ、そのため君達にもアストン・ホール内での銃の所持が認められるようになった。用意はできているな?」
「はい、ネフレから支給されています」
「よろしい、念には念を入れて車を四台用意している。その内、ダミーが三台、残り一台に姫様が乗られる。私を含め君達にもどの車に姫様がお乗りになられるかは伝えられないことになっている。良いな?」
「「「「はいッ!」」」」
和真は車の後部座席に座りながら任務内容を思い出し、ふと隣に座る人物を見る。
「まさか、お前のそっくりさんが三人もおったとはな」
和真は、自然と関西弁で会話を振った。
すると、隣に座る人物。
影武者では無く本者のマリアが少し驚きながら答えた。
「あの子達の中から俺を一発で見抜いたのは、セバスチャンと和真だけだ!それにしても、よく解ったな?」
そう言われ和真は確認するかのように、マリアを見る。
長い金髪を後頭部で団子のように一つにまとめ、動きやすいように男用のスーツに身を包んでいる。
どこから、どうみても出来る男、優男、女たらし、そんな風貌だった。
だが、そこには微かにかつての泥棒ガキだったころの面影が残っている。
「昔のお前を成長させたらこうだろうなって言うのが軽く想像できたし、なによりあの当時の雰囲気が滲み出すぎや。代わりの連中にはそれが無かった、それだけやよ」
すると、今まで頷きながら話しを聞いていたマリアが突然怒り出す。
「あの子達を、俺の代わりのように言うなッ!あの子達には、あの子達の生き方がある。俺の友達をそんなふうに言うんじゃねぇッ!!」
その凄まじい怒りように、和真は驚きながらも嬉しいそうに笑った。
「そう、やな……。ごめん、俺が悪かったよ」
「解ってくれればそれでいいんだ」
すると、耳に取り付けた通信機から連絡が入る。
「オルソン大尉だ。100m先の一つ目のT字路で2台ずつに別れる。その後、2つ目にでてくるT字路でそれぞれ別れアストン・ホールに向かう。各員は無事に護衛対象をアストン・ホールまでエスコートするように、3時間後に会おう!」
オルソン大尉がそう言うと、それぞれ声が聞こえて来る。
「A班、了解!」
「B班了解!」
「C班了解!」
「D班了解!ストー、オルソン大尉に迷惑をかけるなよ?」
「わ、わかってるよッ!」
そして、一端通信が閉じられる。
「オルソン大尉からか?」
子供のように瞳を輝かし、俺の耳に取り付けられている通信機に興味津々の様子だ。
「あぁ、次のT字路で2台ずつにまず別れることになっているからな、それの確認やよ」
すると、マリアは表情を暗くする。
「どうしたんや?」
「俺は、狙われているのか?」
「どうやろうな、王位継承権がある言うても4位やし、狙われるとしたらアストン・ホールに集まる連中とちゃうか?やから道中狙われるなんてことは無いと思うけどな」
「そうか……」
和真は安心させるために、言ったつもりだったが逆にマリアの顔は深く沈む。
「あの子達は、大丈夫だろうか……。もし、俺と勘違いされでもしたら」
今にも泣き出してしまいそうなマリアを見た和真は、マリアの頭にそっと手を乗せた。
「大丈夫、他の車には皆が付いてる。俺といるよりも安全な筈や!やから、な?」
和真がそう言うと、マリアはクスクスと笑い目元の雫を指先で掬い取る。
「それじゃあ、俺が一番危ないのかよ」
「さぁ、どうやろ?」
「クスクス、私を守って下さいね。私の騎士様?」
そう言いながら、微笑む姿を見た和真は頬が一瞬紅潮していくのを感じた。
だが、すぐに冷静に戻る。
「ったく、表情をコロコロ変えて、忙しいお姫様なことで……」
そして、和真達が乗る車がそれぞれ別れて行き和真達は一台となった。
舗装された道を数多くの車に紛れながら進む。
和真達が乗る車は、一般車と見た目が同じだ。
木を隠すなら森の中である。
実際見た目にそぐわない程に頑丈に作られているが、護衛車も付けずに走ると言うのは、良い気がしない。
和真はスモークガラス越しに外を見る。
大通りを抜け住宅街に差し掛かっていた。
何者かがしかけてくるならこの場所だろうと予め目星を立てていただけに、緊張が走った。
一軒の民家には血の匂いと叫び声が響いていた。
カーテンの隙間から僅かな光が漏れ出す。
その光が特に荒らされた様子も無い室内を照らしだす。
数十人いるであろう人物達は、それぞれが兵装に身を包んでいる。
ある者は、コンピューターを叩きどこかと通信をしているようだ。
また、ある者は銃器の手入れをしている。
優しい空気が流れる民家には不釣り合いな人物達は、我が物顔でリビングのソファーに座りテレビを見ている。
ニュースには、明日の天気予報が流れている。
それを見ていた男は足元に転がる生暖かい物を踏みつけた。
赤く暖かい液体が噴き出す。
「おい、誰かこのゴミをどけろ。集中して天気予報が見れないだろうが」
「かしこまりました中佐!」
中佐と呼ばれた男がそう部下に命令すると、部下は本来の家の主の死体の足を持ち上げ引きずり、廊下の隅に放り投げた。
ゴミから伸びた赤い液体が長い線をキレイなフローリングに残す。
ゴミを捨てに行った部下と入れ替わるようにして、リビング横の寝室の扉が開かれ中から複数人の男達が姿を表した。
「……もう、済んだのか?」
「はい中佐、おかげですっきりしましたよ!」
出てきた男達は、歪んだ笑みを浮かべながらズボンのチャックを上げ、衣服を正す。
「いやぁ~、やっぱり女はイギリスに限ります!日頃から使われていたのか少しブカブカで楽しみがいが半減しましたけど」
「「「「「ハハハハハハハハハッ!!」」」」」
男の1人がそう言うと、寝室を指差す。
その先には、衣服が引き裂かれ生臭い液体を体中にぶちまけられた女性が横たわっていた。
ピクリとも動かないその姿は人形のようでもある。
開け放たれた扉から寝室の中を見た中佐は微かに眉間に皺を寄せた。
「臭い、扉を閉めろ」
「おっと、失礼しました」
最後尾にいた男が慌てて扉を閉める。
扉を閉めた男はまだ物足りないと、爬虫類のような瞳をある一点に向けた。
「……俺は、キツイ穴も味わってみたいですね」
「―――ッ!!」
視線の先には、まだ10歳になったばかりの女の子の姿。
全身をロープで巻かれ、口元はテープで塞がれている。
大きく開かれた瞳は絶望しか写しておらず、流れる涙と鼻水を拭う事すら叶わない。
その姿がさらに、男達を興奮させた。
「中佐、あれも良いですか?」
ゆっくりと獲物を指差す。
だが、それは中佐により止められた。
「残念ながら、もう時間だ。所定の位置に向かえ」
「はっ!」
男達を含めた部下達は、名残惜しそうにしながらも所定の位置に向かった。
それを見届けた中佐は、残りの部下に確認を取る。
「悪魔の実の進捗状況はどうだ?」
「ポイントα、β、γ、それぞれ設置に向け部隊が進行中ですが、BETAの奇襲に会いうまく進んでいないとのことです。ですが、中佐の部隊、青騎士(ブラウエ・ライター)が迎撃に当たっていることから、後数日あれば設置は完了するかと……」
「……分かった。後は我々がどれだけ、時間を稼げるかだな」
「はい」
中佐は、それを聞くと重い腰を持ち上げ立ち上げる。
「こんな世界で神を信じる愚か者共の手を借りなければ、なにも出来ないとは自分の力無さが口惜しい、だが、我々はそれでも行わなければならない。我らを切り捨てたこの国に、我らを切り捨てると言う事がどれだけ愚かな行いだったかを、悔い改めさせなければならない」
中佐は悔しさを打ち消す様に唇をきつく噛み締める。
そして踵を返し、未だに振るえる女の子の元に歩みを進める。
「……奴らへの手土産も用意しなければならんしな」
中佐は部下の1人から、1つの注射針を受け取る。
そしてそれを女の子に突き刺した。
「すまないな、すべてが終わった頃には君も親の元にいける。それまでの辛抱だ」
中佐の声には憐みや悲しみは含まれていない。
そこにあるのは、慈愛だけだった。
和真達が乗る車は住宅街の出口まで後数十mと差し掛かった所にいた。
住宅街から、都会へと向かう道だけあり片道三車線の道路は酷く混雑しており和真達が乗る車は、その渋滞に巻き込まれていた。
四方八方を車により固められ、直ぐにでもこの場を離れたがっていた和真は苛立ちを募らせる。
だが、それも隣で不安そうにしているマリアを見ればすぐにでも引っ込ませることが出来た。
「そう言えばさ、フォートスレイヤーってさどう言った経緯でその異名がつけられたんだ?」
和真は少しでも会話をすることで不安を掻き消そうと試みる。
「BWS-3の事?」
「あぁ!」
「あれはな、前政府の私兵部隊、今で言う所のツェルベルスのような緊急即応部隊の功績から名づけられたんだ」
「政府に私兵部隊が?」
「あぁ、各国の優れた衛士、その力を欲した前イギリス政府が監視の意味合いも含めて政府直轄の部隊を作り上げた。ツェルベルスよりも過酷な戦場にいの一番に向かわせ、殿を務めさせる。……衛士を使い捨ての駒と完全に割り切った部隊だったそうだ。その当時は、各国もイギリスに媚び諂わなくちゃいけなかったから喜んで生贄を差し出したそうだ。そして、その部隊はBWS-3を好んで使い数多の勲章を上げた。その中でも飛びぬけて要塞級を殺した数が多かったことから、BWS-3はフォートスレイヤーと呼ばれるようになった、と言う訳だ」
イギリスの負の歴史を語るマリアを見て、やってしまったと思ったと和真は思ったが、好奇心が募りさらに聞いてしまう。
「その部隊は、今はどうなったんだ?」
「去年の大規模テロで前政府が解体され、その時にテログループに加担していた疑いから、部隊は解散、主要メンバーは銃殺されたよ」
「最後に1つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「その部隊の名前ってなんていうんや?」
和真がそう言うと、マリアは苦い顔をしながら答えた。
「青騎士(ブラウエ・ライター)、イギリスの闇が生んだ最強の部隊だ」
マリアがそう言った瞬間、和真達が乗る車は炎に包まれた。