Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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弱さ

 銃撃音がすべてを支配していた。

 空に黒煙が上がり、先程まで乗っていた車は天地逆さまになり炎に包まれていた。

 間一髪脱出に成功した和真とマリアは、後方を走っていた車の影に隠れていた。

「え……あ、……なに、が……?」

 マリアは突然の出来事に我を忘れ呆けたままだ。

 周囲を見渡せば、イギリス近衛軍が周りにいた一般車両から次々と姿を表し銃撃を行っている。

 敵の数は未だ不明、目的はおそらくマリアの殺害か拉致。

 対するこちらは、俺を含め近衛軍が30名、明らかに分が悪い。

 耳に取り付けた通信機には、ノイズしか走っておらず通信妨害をされていることも裏付けていた。

 激しく繰り返される銃撃戦の中、パニックになり逃げだそうとする多数の一般人が撃ち抜かれて行く。

 和真の中で何かが蠢く。

 夢の世界を実現するためには、邪魔な存在は必ず現れる。

 和真は、自然とネフレから支給されたサブマシンガンを構えていた。

 民家の窓からこちらに狙いを定めている人物と目が合う。

 その瞬間、和真は引き金を引いていた。

 だが、弾丸はテロリストの右肩に当たり命を奪うまでには行かなかった。

「クソッ!!」

 和真は、苛立ち叫ぶ。

 あの時、和真は相手を殺すつもりで引き金を引いた。

 だが、心がそれを拒絶したのだ。

「姫様を連れて早くお逃げくださいッ!!」

 近衛軍の1人がそう叫ぶ。

「1班は現地点で迎撃、2班、3班は姫様と共にこの場を脱出するッ!行けッ!!」

 その言葉を合図に一斉に走り出す。

 道路を挟むようにして隣接された建物のどこからテロリストが狙っているか解らない中で、縫うように渋滞している車の間を走り抜ける。

 車を捨て逃げ出す一般人は道路を逆走していく。

 泣き叫ぶ子供、我を忘れた群衆に踏み殺される老人、走っている最中に後頭部を撃ち抜かれる男性。人に寄る人の殺戮が目の前で確かに行われていた。

 頭がグラつく、胃液が逆流する、腸が締め付けられる。

 銃撃を交わす近衛軍の1人が、決断し叫ぶ。

「ここにいてはさらに民間人が危険にさらされる。姫様、我々が命を懸けてあなたを守り貫きます。ですから、我々の指示に従って下さいッ!」

 そして近衛軍は路地裏に俺達を誘導しようとした。

 その時、マリアが俺の手を払いのけ1つの車のボンネットに飛び乗る。

「私は、イギリス王位継承権第四位マリア・ヴィクトリア・メアリーですッ!このような事は、おやめなさいッ!!無辜の民を傷つけ、あなた方はなにがしたいのですか!?私はここにいますッ!狙うなら、私一人になさいッ!!」

 その瞬間、銃撃が一瞬止む。

 車が燃える炎が煙がまるで彼女を避けているかのように、道を開ける。

 その姿は高貴だった。

 民を背に見えない敵に立ち向かうその姿はまさしく、国を背負う者の姿だった。

 物語の世界なら、ここで敵のボスが登場して話し合いに持ち込んだりするのだろう。

 物語上の敵なら、信念ある敵なら、話し合いの場に姿を表すだろう。

 だが、ここは違う。

 そんな夢物語が通じる世界では無い。

 銃撃が止んだのは一瞬、次の瞬間にはマリアに向け数多の銃口が火を噴いた。

 銃弾がマリアに当たる寸前でマリアは地面に引きづり下ろされる。

「お前なにやってんだッ!!」

 引きずりおろしたのは和真だった。

 和真は、信じられないと言った表情のまま荒々しく叫ぶ。

「離せッ!俺は王女なんだッ!!俺のせいで民を傷つける訳にはいかないんだッ!!」

「そんな事が通じる相手かッ!?見ろ、この惨状を!あいつらは、誰彼かまわず撃ち殺すような連中だぞッ!話しの通じる相手じゃないんだ!」

 そう、話しの通じる相手じゃない。

 話合いで解決できるならこんな事にはならない。

 俺自身が自分で言ったその言葉を否定したかった。

 口ではそう言うが、心ではまだ他の可能性が、これ以上誰の血も流れない方法が残されているのではないかと叫び続ける。

 和真の心と体は真逆の反応を見せていた。

 体は、すぐにでもあいつらを殺せと疼く。

 心は、人を殺したくないともがく。

 和真は別々の反応を見せるそれらを脳で黙らせた。

「とにかく、ここから早く逃げるんだッ!狙いがお前なら、なおの事速くッ!」

 そう言いながら、マリアを連れて行こうとするがマリアはまだ動かない。

「マリアッ!!」

 マリアの体は震えていた。

 そればかりか、マリアが履くズボンが濡れている。

「―――ッ!」

 それに気が付いた和真は、すぐにマリアの顔を持ち上げる。

「クソッ!」

 マリアは過呼吸になっていた。

 それほどまでに、恐怖し緊張していたにも関わらず、マリアはその身を投げ出した。

 今の和真にはそれが尊くそして輝いていると感じられた。

 和真はマリアの状態を確認すると、抱きかかえその場を後にしようとする。

「RPGぃいいいいいッ!!」

 だが、その声と共に近衛軍が和真達に覆いかぶさり身動きがとれなくなる。

 和真も体に力を入れ、マリアをRPGから守る様に丸くなる。

 和真達が隠れる車両に向け飛翔するロケット弾、だがそれは一発の銃弾に撃ち抜かれ爆散した。

 衝撃波が和真達を襲う。

 それと同時に、通信機から聞きなれた声が聞こえてきた。

「大丈夫ですか!?」

「その声、イルフィか?」

「良かった~、動かないで下さいね。今増援が向かいましたから!」

「増援?」

 体を起こした和真の目の前に見慣れた少女が姿を表す。

「いつまで呆けてる気?あんたの股にぶら下がっているのは鉛玉かしら?」

 そこには、近衛軍の増援を率いたベルナが立っていた。

 ベルナはその小さな体に似合わないアサルトライフルを手に、俺を睨み付けてくる。

 だがそれも一瞬で、すぐに応戦を始めた。

 それを合図に和真は我に返り、すぐさまマリアの容体を確かめる。

 依然として、過呼吸は収まっていなかった。

「少し苦しいが我慢してくれ」

 増援が来たことにより、多少の安全が確保されたことで、和真は応急処置を行う。

 和真はマリアの首元を緩め肌を露わにする。

 そして左右の鎖骨の間のツボ、天突を人差し指と親指で押した。

 するとマリアは咳き込み、瞬時に息を吐きだした。

「ガハッ、ケハ、ゴホ、ごほ……、はぁ、はぁ……」

 その様子を見た和真は、深く息を吐きだす。

「……良かった」

「良くないわよッ!あんたも、手伝いなさいッ!」

 ベルナに叱責され、和真も射撃を行う。

 だが和真が放つ弾丸はテロリストの息の根を止めることをしない。

 和真が行ったのはあくまでも威嚇射撃なのだ。

 安心していた。

 逃げていた民間人は、すでに近衛軍の部隊に保護され安全な場所に誘導されている。

 つまりは、この場にいるのは兵士のみ。

 数もおそらくこちらが圧倒的に有利。

 武装もなにもかもこちら側が有利になったと和真は確信していた。

 和真はその確信を本物とするために、最後の確認をベルナに行う。

「ベルナ、通信が回復しているってことは……」

「そう、妨害していた奴らがいた所にはストーとオルソン大尉、その護衛についていた近衛軍により制圧されたわ。どんな方法を使ったかは解らないけれど、テロリストの潜伏場所もすでに判明してる。制圧部隊がすでに行動を起こしているわ」

「そうか」

 そう言って見るからに安心した和真をベルナは眉を顰めて見つめる。

「あんたやる気があるの?」

「なんの話だ?」

「見ていて解るわよ。あんた、さっきから敵を1人も殺していない」

 その言葉に和真の体が一瞬跳ね上がる。

「護衛と言う任務からで言えば、あんたは確かに姫様を守り貫いた。でもね、あんたの腕ならば護衛しながらでも、敵を着実に減らしていけた筈。ましてや、今は姫様の脱出ルートを確保するために、1人でも多くの敵を黙らせなくてはならない。それにも、関わらずあんたはさっきから威嚇射撃か無駄玉を撃ってワザと敵の急所を外している。相手はテロリストよ?遊んでいられるような相手じゃない。殺される前に殺さなければならない」

「だ、だがッ!もっと、うまく行く方法があったかも知れない。敵も味方も被害を最小限にする方法がきっとッ!」

「甘ったれるなッ!!」

「―――ッ!」

「あんたの言葉はすべて甘い戯言だッ!被害を最小限?そう思うなら敵を一秒でも早く殺せ!あんたが引き金を引くのをためらった一瞬が、仲間の一生を奪う!中尉にもなってそんな事も解っていないのかッ!?あんたが守るべきは敵じゃないッ!姫様だ、民間人だ、仲間だッ!そこに敵も加えるなッ!……でなければ、次はあんたのせいでこの地獄が再現される」

 ベルナはそう言うと、顎で周囲を見る様に促す。

 燃える家、幸せを桜花していたはずの一般人の死体、撃ち抜かれる仲間、何かを叫びながら蜂の巣になる敵。

 BETA戦とは違った地獄が広がっていた。

「俺は、それでも……、俺は……」

 和真の手に握られたサブマシンガンが小刻みに震える。

 

 解っている。

 そんな事は解っている。

 つい先ほど、マリアに同じことを言ったのは自分自身だ。

 なのに俺は、未だに自分の手を血で汚す事を恐れている。

 マリアを見る。

 マリアは俺と同じように震えていた。

 だが、口から漏れ出す言葉が和真と決定的に違うと知らせてくる。

「俺のせいで、俺のせいで、こんな……」

 この場においてマリアは他人の事を想い、俺は自分のことばかりを考えている。

「俺は、こんなにも、弱かったのか……?」

 

 和真の口から自然とそんな言葉が漏れ出した。

 だが、その言葉は誰にも聞こえず和真自身にそのまま跳ね返った。

 

「クソッ、奴らもう来やがったッ!……ぐわぁッ!」

「た、助けてくれ、ギャッ!!」

「し、死ねぇええええええッ!!」

 スピーカーから流れる呪詛を聞きながら中佐は深く息を吐きだす。

「はぁ、ごろつき共ではこの程度が関の山か……」

「ですが、これで数日は稼げるはずです。イギリス新政権も大慌てでしょう!」

「第一段階はなんとかクリアと言った所か……。よし、第二段階に移る!情報通りなら、目標は必ず食いついてくる筈だ」

 中佐はそう言うと、立ち上がる。

「はッ!奴らへの土産は私が必ず持参します!」

「……よろしく頼む」

 中佐はそう言うと、民家を後にしようと立ち上がる。

 向かう場所は真の仲間、青騎士が待つ場所。

「―――ッ!―――――ッッ!!」

 縛られ捕えられた女の子は目を覚ますと同時に泣き叫ぶ。

 声にならない声が、口を塞いだテープの隙間から漏れ出す。

 中佐はその女の子に近づき、頭を一撫でし、戦域を離れた。

 

「敵の制圧も時間の問題です。今の内に脱出しましょう!!」

 近衛軍の1人がそう言うと、マリアの腕を引き走り出そうとする。

 それに続くように、ベルナと和真も立ち上がる。

「援護するわ、急いでッ!」

 遥か後方からイルフィが通信越しに叫ぶ。

 和真はマリアを守るように最後尾につけ安全を確かめるために後ろを振り返る。

 その時、和真の瞳に信じられないモノが写り込んだ。

 それは、戦場と化した住宅地の1つの路地裏から姿を表した。

「ママぁ、パパぁッ!」

 目元を擦り、泣きながら現れたのは1人の女の子。

 その子は何故自分がここにいるのかも解っていないかのような、たまたま親から逸れてしまったかのように銃弾飛び交う場所に姿を表した。

 女の子の位置は、戦場の丁度中間地点。

 銃弾が飛び交い、歩く事すら躊躇われる地獄。

 誰も気が付いていないかのように、銃撃は止まない。

 テロリストは、自らが生き残るために必死で引き金を引き。

 近衛軍はマリアを生き延びさせるために敵に集中している。

「なんであんな所に女の子がッ!?」

 ベルナもそれに気が付くが、もうどうしようも無いと、今は任務に集中するべきだと、自分に言い聞かせる。

 だが予想もしていなかった言葉が隣から聞こえてきた。

「先にマリアを連れて避難していてくれ、あの子は俺が助ける」

 言うと同時に和真は駆けだした。

「中尉ッ!クソッ!!」

 ベルナは悪態をつく。

「行かせて上げてください」

 その様子を見ていたマリアは、ベルナに言った。

「姫様、ですがッ!?」

 そしてマリアは声を張り上げる。

「近衛軍に命令します!出来るだけで構いません。五六中尉を援護して下さいッ!」

 

 

「もう少しッ!」

 和真はリミッターを切り、人には無しえないような動きで進んでいく。

「パパぁ、ママぁ……」

「間に合ったッ!!」

「ふぇ……?」

 和真は女の子を抱きしめると、跳躍し女の子が出てきた路地裏に体を放り込む。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 和真は女の子の様子を確かめる。

 どこにも傷が無い様子から、和真は一気に力を抜いた。

「もう、大丈夫だからね」

 和真はそう言うと、安心させるように女の子の頭を撫でる。

 救えた、守れた。

 それが焦燥していた和真の心を少しだけ癒した。

 俺が弱かったせいで、覚悟が足りていなかったせいで死んでしまった人がいた。

 でも、俺は確かに小さな命を救えた。

 マリアもあれだけ近衛軍がいて、ベルナもいるなら大丈夫だろう。

 和真は自分にそう言い聞かせる。

 でないと、ベルナが言った真実が心を体の方に傾けてしまう。

 その恐怖から和真は逃げた。

 だが、恐怖とは常に戦場の隣にあり、それは無常なのだ。

 なんの反応も示さない女の子を案じた和真が再度声を掛けようとする。

「なッ!」

 抱いていた女の子の体が突然膨れ上がり、そして――――。

 

 爆ぜた。

 

 狭い路地裏は、赤い塗料をぶちまけたかのように染め上げる。

 和真は手榴弾を抱きしめていたかのように、腹部から胸部にかけての肉が吹き飛んでいた。

 和真の体内のナノマシンが急いで修復を開始し、内臓が擦れる音を出しながら傷口を塞いでいく。

 和真は赤に染まった世界、元々少女だった水たまりを見つめ思考が停止してしまった。

 




次話は、7月27日0時に投稿します。

今話も読んで頂きありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。
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