Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
「作戦は成功だな」
その様子を見ていたテロリストの1人が部下を引き連れて姿を表す。
「それにしてもこんなにうまくいくなんて思ってもいませんでしたよ。こいつは、馬鹿ですか?簡単に餌に食いついた。あんな所に、生存者がいるハズがないなんてことは、誰にでも判断できる筈だ。なら、罠であることも解る。仮に、逃げ遅れがいたとしても、態々単独で助けにくるなんて愚の骨頂だ」
「まぁ、そう言うな。こいつが馬鹿なおかげで私達は作戦を予定通り行える。……それにしても、銃弾の嵐の中から安全地点を即座に割り出した観察力、死を恐れない行動力、その行動を可能とした常人離れした身体能力。こいつは、馬鹿というよりも、頭の中がお花畑なのだろうよ」
「「「「ハハハハハッ!」」」」
先頭に立つ隊長らしき男が、水たまりと化した女の子に向け黙祷を送る。
「……すまない、我々のために君を不幸にしてしまった。だが、約束しよう。我々が再び表舞台に立つ時、君の死を無駄にしないために多くの人命を生き延びさせ、人類を発展させると。……連れて行くぞ」
「はッ!」
隊長の言葉に従い、部下達は遺体袋を手に横たわる和真に近づく。
そして、横たわる和真を跨り正面から和真を見た部下の一人が吐き気を抑えるように口元に手を当てた。
「うッ……」
「どうした?」
「隊長……、恭順派の連中がコイツを欲しがった訳がわかりましたよ。コイツは……、人じゃない。別の何かだ」
「……どういうことだ?」
隊長は部下の意味不明な言葉を確かめようと移動する。
そして、それを見た。
「なんだ……これは……」
和真の傷ついた体は緑色に輝く結晶が蠢き、治癒していた。
切れた皮膚などの治癒は見ていて特に不快にはならない。
単に、協力関係にあるキリスト恭順派の連中が欲しがった訳が理解できた程度だ。
恐らくは、アメリカかオセアニアあたりの人体実験の成果だろう。
そう思えた。
だが、一番損傷の激しい胸部を見た時、圧倒的な不快感が込み上げてきた。
「虹色の、クリスタル?」
心臓が本来あるべき場所、そこには虹色に輝く拳ほどの大きさのクリスタルが埋め込まれていた。
それに、大樹の根のように肉がこびり付いており脈動している。
そしてまるで別の生き物を体内に飼っているかのように、緑色の液体と共に肉が蠢き傷を修復していた。
「こ、コイツは化け物だッ!ここで、殺しておかなければ俺達が食い殺されちまうッ!!」
吐き気を必死に堪えていた部下の一人が発狂し銃を構えた。
そして、引き金を引こうとしたその時、それは起こった。
「なッ!」
気が付けば、先程まで横倒れになっていた男が立ち上がっていた。
それは、隊長が瞬きをした一瞬の出来事だった。
隊長はなにが起こったのか、解らないと顔を上げる。
隊長の瞳に写ったのは、両目を緑色に光らせた化け物が先程まで発狂していた部下の顔を掴んでいる姿だった。
和真は、横たわり空と血液の水たまりと化した少女を見る。
あぁ、あの赤いのはなんなのだろう?
それよりも俺は、何故こんな所で寝ころんでいるのだろうか?
確か、アストン・ホールに向かっていて……。
そうだ、途中でテロにあったんだ。
それから、どうしたっけ?
そうだ、テロリストからマリアを守りながら、一緒に逃げたんだ。
そう言う任務だったじゃないか……。
マリアはどうなったんだ?
……ベルナとイルフィが助けに来てくれたから、マリアは無事だったんだ。
そうだ、無事だったんだ……。
無事……?
無事ってなんだ?
何事も無かったのか?
なら、なんで俺は逃げた?
なにから、逃げていたんだ?
テロリストからか?
あの程度の連中なら、俺はすぐに鎮圧することが出来た。
鎮圧って、どうすれば一番うまく出来たのだろう……?
……そんなの、決まっているじゃないか。テロリストを殺せば良かったんだ。
俺にはそれが出来た。
イギリス近衛軍もいたし、彼らに任せておけば今よりうまく出来たかもしれない。
今より……?
今、どんな状況だった?
そうだ、俺が躊躇ったから、殺す事を脅えていたから、綺麗なままでいたかったから、いっぱい死んでしまったんだ。
俺は、楽観視していた。
マリアさえ逃がしてしまえば、テロリストも撃つのを止めて死傷者を減らせることができるって……。
でも、結果はどうだ?
殺し合いは今も続いていて、関係の無い人もたくさん死んでしまった。
これからも、どんどん増え続けていくだろう。
なんで、こうなってしまったんだ?
それは俺があの時、躊躇ったからだ。
殺すことをためらったから、こうなってしまった。
なら俺があの時、テロリストを一人残らず殺していたら?
こうはならなかった。
でも、殺人はいけない事だ。
人が犯してはいけない最大の罪だ。
それを行うのは、外道だけだ。
じゃあ、民間人を殺したテロリストもテロリストを殺した仲間も皆外道だ。
外道ばかりだから、何の罪もない人達が死んでしまうんだ。
だって、俺の手や壁や地面を赤くしているあれは、元は少女だったじゃない か……。
こんなことが出来るのは、外道以外にいない。
笑い声が聞こえる。
なんで笑っていられるんだ?
そうか、彼らも外道だから笑っていられるんだ。
そしてこの場にいると言う事は、この女の子をこんな風にした奴等に違いない。
……やっぱり、彼らがこんなことをしたんだ。
じゃあ、彼らは敵か……。
そういや、ベルナが言っていたな。
被害を最小限にしたいなら、敵を殺せって……。
マリアや民間人や仲間が殺されるから、殺せって……。
そうだよな、敵は殺さなくちゃいけない。
邪魔な存在は消さなくちゃいけないんだ。
俺は言ったじゃないか。
大を生かすために小を見捨てるって
レオに誓ったじゃないか。
夢の世界を、皆が笑顔でいられる世界を作るために、外道になるって。
俺は初めて誓った時、なんて言った?
この身はすでに外道だって言ったじゃないか。
そうさ、俺は父さんを殺した時に外道になったんだ。
俺は知っていたじゃないか。
この世界には、外道がたくさんいるって、俺達の邪魔をする存在がいるって。
あぁ、なんで俺は躊躇ってしまったのだろう。
どうしてもっと早くに気が付かなかったのだろう。
彼らが人殺しを行う外道なら、殺されたって構わないじゃないか。
俺達の邪魔をするなら、死んで当たり前じゃないか。
この冷たくて深く暗い湖に沈んで行く感覚。
死を、与えてもいいじゃないか。
……なら、殺そう。
今ここにいるコイツ等を殺そう。
まずは、俺に銃口を向けているお前からだ。
和真はリミッターを切る時に訪れる頭の中の湖の世界にいた。
だが、湖面場には和真の姿が無い。
そればかりか、無数に存在していた腕も見当たらない。
和真の姿は湖の底に沈んでしまっていた。
そこで、和真は理解した。
この世界を、綺麗ごとだけではすまされない死を、託された数多の想いに報い夢を実現するためには、どうすればいいのかを。
すでに和真の心は決まってしまった。
体はすでに準備を整えていた。
心と体が決めたために、脳は調整を行う必要がなくなった。
もう、後戻りは出来ないのだ。
隊長は信じられない光景を見ていた。
化け物に銃を向けた部下が、いつのまにか宙に浮いていたからだ。
嫌違う、その化け物に持ち上げられていた。
顔を握られ持ち上げられていたのだ。
化け物が静かに口を開く。
「これやったの、お前達だろう?」
その声が、散歩の途中で出会った友達に向けられるようなモノで、誰も反応を返すことが出来ない。
「こんな事が出来るお前達は、俺達の邪魔をするんだろ?」
まるで昨日のテレビ番組の話をするように、自然と語りかける。
「……だから、そんな事をさせないために今ここで、死んでくれへんかな?」
そして、部下の顔面を握りつぶした。
「あ、あぁ、あ……」
その光景を見ていた他の部下達も恐怖に震えあがる。
そしてほぼ同時に、手に持つ銃を化け物に向けた。
だが次の瞬間には、部下達の首は地面に転げ落ちていた。
「……やっぱり、ただの鉄じゃ刃こぼれするな」
そう言った化け物の手には、湾曲したナイフ、ククリナイフが握られていた。
「まぁ、えっか……」
化け物はそう言うと、私に向かって歩みを進める。
「く、来るな……」
余りの恐怖に、身動きが取れない。
汗が噴き出すことすら、辛い。
化け物は、私の目の前にくると緑色に輝く二つの瞳を私に向ける。
「お前、隊長って呼ばれてたよな?……じゃあ、色々情報を持ってるよな?」
私は覚悟した。
私はここで死んでしまうと、だが情報を与える訳にはいかない。
私は舌を噛み切ろうと決意した。
だが、その決意も化け物の次の言葉にすべて無にされてしまう。
「俺の目を見ろ」
和真は情報を聞き出すと、1人考え込む。
「……これは伝えなあかんな」
その時、知るすべての情報を和真の催眠術により吐かされた隊長は茫然としながらも、怒りに震え腰からハンドガンを取り出し化け物を射殺しようとした。
だがその怒りも無かったことのようにされてしまう。
「がッ―――」
噴水の様に噴き出す鮮血、それが自分の首から溢れ出した血だと、自分は切られていたと知った時には、隊長は息絶えてしまった。
「……手間かけさせんな」
和真はそう言うと、手を大きく振るいククリナイフについた血を掃い、腰に取り付けられている鞘に戻す。
そして、自分が殺した者達には見向きもしないで血の水たまりと化した少女の元に向かう。
膝を曲げ手を伸ばし、乾き始めた血を指で撫でる。
「ごめんな、俺が臆病やったばっかりに、君を救えんかった。ほんまに、ごめんな……」
その言葉には、心からの謝罪が乗せられていた。
和真が立ち上がると、数歩後ろにはメアリーが立っていた。
「なんや?」
「……今後の予定を伝えにきました」
「ちょうど良かったわ。俺もレオに伝えなあかんことがあんねん。言伝を頼める?」
「……はい」
「ははっ、相変わらず眠そうやな」
和真とメアリーはその周りにある死体など眼中にないと会話を進める。
「なぁ、メアリーさん」
「はい?」
「人……、嫌、俺って最低の生物やと思うわ」
「……何故ですか?」
「慣れてもうた、人殺しに、慣れてしまった。もう、吐き気もしなければ涙も出ない」
メアリーはそう言う和真を見ながら、小さく笑いそれを肯定する。
「そうですね。何にでも慣れてしまう人と言う生き物は、おそらく最低なのでしょうね」
銃撃音はすでに聞こえてこない、イギリス近衛軍が残りのテロリスト達を制圧したのだろう。
和真は、空を見上げる。
和真の緑色の瞳は、淀み荒んだ空を見つめる。
五六和真は、静かに本人ですら気づかない程自然にかつての世界での常識を壊しゆっくりと、だが着実にこの世界に慣れて行った。