Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
あれから三日たった。
俺が得た情報は、すべてメアリーさんを通じてレオに伝えてある。
だが、その得た情報はそれ以外の人達には伝えていない。
これは、レオの指示だ。
レオは、今回のテロ、そして奴等青騎士(ブラウエ・ライター)の計画を利用しようと言ったのだ。
奴等の目的は、自分達の必要性をイギリス新政権に解らせる事。
その準備段階としてのテロだった。
今回のテロが原因で、イギリス新政権に対する多国の信頼はグラついてしまった。
欧州連合の盟主であるイギリスが信用を失うと言う事は、欧州連合の瓦解に繋がる。
もし、こんな状況でBETAに進行されようものなら、まともな作戦立案など出来る訳も無い。
足並みが揃わないのだから当然だ。
だが、奴等はそこに目を付けた。
すでに、旧フランス領オルレアン・ブロワ・トゥールにG元素を散布している。
これに引き寄せられたBETAは、押し出されるようになり進行を始めるだろう。
欧州最後の砦、イギリスに……。
欧州連合、国連軍は大パニックに陥るだろう。
現場の兵士にたいしまともな作戦を伝える事も出来ずに、窮地に陥ってしまう。
だがそこに、統率が完璧に取れ数多のBETAを葬る部隊が現れればどうだ?
そして、BETAを退けることが出来れば?
皆が思うだろう。
彼らがいたからこそ、イギリスは救われたのだと。
青騎士の狙いはそこだ。
自らを必要な存在だと、すべての人物に知らしめる。
青騎士を闇に葬った新政権に、間違った選択をしていたと理解させる。
そして彼らは再び表舞台に帰ってくることが出来る。
それが青騎士の目的。
マリア襲撃のテロは、時間稼ぎとしての意味しか持っていなかった。
つまりは、あそこで死んだ人達は時間を稼ぐと言うためだけに、一生を終わらせられたのだ。
誇りや名前なんて、そんなにも重要なモノなのか?
そこまでして、自分達が守っていた人達を自分達の手で危険な目に合せてまで、 欲しいモノなのか?
俺にはそれが解らない。
嫌、今はそんなことはどうでもいい。
青騎士のバックには、キリスト恭順派がついている。
これも俺が得た情報だ。
G元素をアメリカから横流ししたのも奴らだ。
アメリカも一枚岩では無いと言うことだろう。
そっちに関してはネフレに任せておけばいい。
キリスト恭順派を叩き潰す算段もつけてあるらしいし、俺はレオからの次の指示を待てばそれでいい。
和真はメアリーに伝えられたレオの指示の内容を思い出し、憂鬱な気分になりながらタバコに火をつけた。
「すぅ~はぁ~……」
和真が現在いる場所はバッキンガム宮殿だ。
あのテロの後、イギリス近衛軍は厳戒態勢を敷いている。
マリアを含めた王族は、この宮殿に缶詰になっていた。
和真自身もオルソン大尉と共に、寝室に押し込められていた。
和真は寝室の窓を開け、タバコの煙を外に逃がすと同時に部屋の換気を行う。
横目でチラリと見ると、オルソン大尉がなにかを考え込んでいた。
「どうしたんですか、オルソン大尉?」
「……今回のテロ、規模、襲撃の周到さから考えても実行犯共が余りにも稚拙すぎたのでな。妙に思っていた……、彼らの狙いは別にあるのではないか、実行犯共は初めから捨て駒にされる予定だった。そう思えてならない」
「へぇ……、例えばどんな所がですか?」
「マリア様と中尉が乗っていた車が、吹き飛ばされた後だ。本来ならばあそこで仕留める予定だったはず。それが失敗したならば、より確実に計画を進行させるために、行動を起こすはずだ」
「ですが、彼らはその後、執拗に撃ってきましたよ?」
「そう、そこが妙なのだ……。何故、彼らはその場にとどまっていた?あの状況、そして近衛軍の数を考慮するなら、その場にとどまることは愚策だ。何人かを残し後の部隊は追撃に向かわせるべきだった。なにせ、こちらは相手の数すら把握しきれていなかったのだから、そしてそこになにかしらの意図があったにせよ制圧部隊の話を聞く限り、テロリスト共は素人同然だったそうだ」
「素人の犯行なら、納得が出来ませんか?彼らは王室に恨みを持っていた。そして突発的に仕掛けた。そう、思いませんか?」
「思えない、何故ならあの車に姫様が乗っていた事は私達ですら知らない情報だからだ。その情報を得ることが出来る組織であり、あそこまでの準備を行うことが出来た者達が弱い訳がない。少なくとも訓練はされている筈、なのに実際のテロリストは素人同然だった。私は、彼らの後ろには巨大な組織があり、目的は別にあると思うのだよ」
「大尉は、イギリス新政権、欧州連合を疑っているのですか?」
「……余り考えたくはないがね。国連軍と言う可能性もある。彼らにとって、欧州の多くの民に慕われているイギリス王室の存在は目障りなはずだ。そして、その発言や行動を自粛させる意味合いでの今回のテロ、次は無いとの警告だったと仮定するなら、無理矢理にでも納得できる」
和真はその話を聞き、大袈裟に息を飲む。
「……本当に考えたくない状況ですねそれは」
「あぁ……」
そして、重く苦しい空気が出来上がる。
すると、オルソン大尉は徐に口を開いた。
「中尉、その瞳はどうかしたのかね?」
「あぁ、これですか?」
和真の両目は緑色に変色していた。
「これは、俺にも解りません……」
「そうか、なにかあっては大変だからな。診察を受けた方がいいだろう」
「ありがとうございます」
そして和真は、再びタバコの煙を肺に入れ込んだ。
女性用寝室では、ストー、イルフィ、ベルナの三人がそれぞれのベッドに座っていた。
「ねぇ、聞いた?」
イルフィがそうベルナに問いかける。
「聞いてるわよ。BETAがなぞの集結をしてるって話でしょ?」
ベルナが焦りを含み応える。
「噂では、個体数が10万……ううん、それ以上かもしれないって」
「……あまりの個体数に上は大慌てしてるでしょうね。でも、不思議ね三か所に集結しているってのは……」
「うん、もしこのBETA群が一斉に弾けて進行を開始したら、イギリスは……」
イルフィはそこまで言うと、顔を青くする。
普段の陽気な彼女からは想像もつかない表情だった。
ツェルベルスに所属する彼女は命の危機なんて、日常茶飯事だった。
だが、今回は規模が違う。
ましてや、生まれて初めて体験するかもしれない本格的なBETAの侵略。
物心ついた頃、祖国をBETAに蹂躙され逃げ出した頃の記憶が蘇る。
「クッ……、なんて破廉恥な」
イルフィは、自分の手が震えているのを見、そう毒づいた。
「別に破廉恥でもなんでもないわよ」
珍しくベルナがイルフィのフォローをする。
「アタシも、同じだもの……」
そう言ったベルナもまた、苦虫を噛み潰した顔をしていた。
ただ、その中にあってもストーは別の事を考えていた。
和君の心が見えなかった。
テロの現場に到着したストーはすぐさま和真の元に向かった。
そしてそこで見たのは、変わった和真の姿だった。
見た目の問題ではない。
和真の纏う雰囲気が、変わっていたのだ。
そして、ESPの力を使っても心を読むことが出来ず。
感情の色も見えない。
すべてが、黒く塗り潰されたかのように見えなかったのだ。
ストーは、自分の体を抱きしめる。
こんな恐怖を味わうのは、初めてだった。
今まで不安になればESPの力を使い和真の心を読むことで、自分は見捨てられていないとストーは安堵していた。
だが、それがもう出来ない。
和真が何を考えているのか解らない。
いつ自分が見捨てられるのか想像も出来ない。
もっと、もっと、自分を見て欲しい。
自分を意識して欲しい。
そう思っていたストーは、恐怖に体を震えさせる。
「……和君」
ストーの口から微かに漏れた声。
それは、耳を澄まそうとも聞き取れない程の声量。
だが、ベルナとイルフィの耳には届いていた。
「大丈夫だよ、ストー。今はこんな状態だけれど、すぐに会えるわ」
イルフィは、ストーの傍に座り震えるストーを抱きしめた。
されるがままになるストーの髪を優しく撫でて行く。
少しでも、安心してもらうために。
だが、その気持ちもベルナの一声によりかき乱される。
「ストー、あんた和真中尉に依存しすぎじゃない?」
その声にストーの体が跳ね上がる。
「ベルナ今はそんな事を言って良い状況じゃ無いッ!」
ベルナはイルフィの怒声と睨みに怯む事無く言葉を投げかける。
「いいえ、今だから言うのよ。ストー、あなた私達が今回護衛の任務に選ばれた本当の意味知っているでしょ?」
ベルナの問いかけにストーは反応を見せない。
「……無視ってわけ?別に良いわ……、気付いていないなら教えてあげる。私達が選ばれた理由、私達に課せられた任務は五六中尉と親しい中になること。極端に言ってしまえば肉体的な関係を持ってでも彼から情報を得ることよ」
「――ッ!」
ストーは、肉体的な関係の言葉を聞いた瞬間に殺気立つ。
ベルナを睨み付ける瞳は、すべてを凍てつかせる氷を思わせた。
ベルナはその瞳を真っ向から受け止める。
「ふふっ、そんなに嫌?彼を取られるのが……。あなたを支配しているのは、嫉妬?独占欲?怒り?それとも……、恐怖かしら?」
ベルナの言葉は止まらない。
「あなたが私達の任務の内容を感づいていると確信したのは、温泉に入った時よ。あの時、馬鹿デカイ鼠を見て初めに叫んだのは、マリアだった。私達は、任務の関係上ハニー・トラップを仕掛けなきゃいけなかったから、マリアに乗っかって叫んだだけ、まぁイルフィは本気だったかも知れないけれど」
イルフィは、恥ずかしそうに頬を染める。
「あの時、あんた叫んでいなかったわよね?脅えてすらいなかった。鼠を見ても、平気な顔でいたわよね?でも、和真中尉が駆けつけて来た時、あなたは彼に飛びついた。私が一番脅えていたと告げながらね。良くもまぁ、美味しい所を持っていくわね。あの後私達が取れる行動は、随分と限られてしまった。怖い?彼を取られるのが、置いて行かれるのが」
ベルナの言葉は、正確にストーの心を捉えていた。
自分よりも背丈の小さなひ弱く見える少女の口から放たれていく言葉の一つ一つが、ストーを射抜く。
先ほどまで普段の様子からは信じられない雰囲気を出していたストーは、みるみる内に、凍えるような空気をなくしていく。
その変わりなのか、大きな瞳にはグラスに水を注ぐように涙がたまっていった。
「……怖い、怖いよ。和君のぬくもりを失うのがすごく怖い。ベルナの言う通り、私は和君に依存している。だって、怖いんだよッ!?彼の心がわからないのッ!見えないのッ!!」
ストーは、感情の波をベルナにぶつける。
涙を零しながら、駄々をこねる子供のように叫んだ。
その言葉を逃げずに受け止めたベルナは、無言でストーに近づいた。
ベルナの影がストーに被さる。
そして、ベルナの右腕が持ち上げられたところでストーは叩かれると思いきつく瞼を閉じた。
だが、いくら待てども叩かれる衝撃は来なかった。
そして、衝撃の代わりに高貴な花の匂いがストーを包み込んだ。
「……え?」
「馬鹿ね、相手の心がわからないなんて当たり前じゃない……。いい、ストー?女はね、過度に男に依存してはダメなのよ?男って生き物は、女と違って心が弱いの、だから男は子供のころから母親という女に甘える。自分よりも生物的に強い女に惹かれるの……。ストーが、片思いし続ける限りその恋は実らない。男は自分に依存してくる女よりも自分が依存できる女を求めてしまう。特に和真中尉はその傾向が強いと思うわ。だからね、彼がストーに依存してくるようにすればいいのよ」
まるで母親のように優しく抱きしめ耳元で力強く話してくるベルナを感じていたストーは思った。
これが、強い女なのかな、と……。
私も二人のような強い女になりたい。
そう思ったストーは、今までのただ甘えるだけだった自分と決別するかのように口を大ききく開けて泣き喚いた。
「ふぅぇぇぇぇえええええッ!ふぅぅぇええええええッ!!」
イルフィとベルナはいきなり泣き出したストーに驚くが、顔を見合わせて小さく笑い、ストーを抱きしめる。
その姿は、手のかかる妹を可愛がる姉の姿だった。
一しきり泣いたストーは、勇気を振り絞りストーは聞いた。
「……どうすれば、和君は私に恋してくれるかな?」
ベルナはストーから離れるとイルフィに視線を送る。
「わ、私ッ!?そこで振ってくるの!?」
「いいから何か答えなさいよッ!」
「う~んとね……。お弁当を作ってみるとか?」
「今時そんなことする女なんていないわよ」
「だ、だったらベルナは何かいい案があるのッ!?」
「わ、私なら……、そう!必要以上にベタベタしないわ。相手が振り向いてくれるように、適度に鞭を加えてから飴を渡して自分色に染め上げるのよ!」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「その言葉、なぜだかすごくムカつくわ……」
結局、恋をしたことが無い二人からはこれと言ったアドバイスを得ることは出来なかった。
だが、ストーは感謝していた。
自分の気持ちに気が付きすぐさま抱きしめて安心させてくれたイルフィに、落ち込んでいた気持ちを吹き飛ばしてくれたベルナに、感謝していた。
「二人は、やっぱり和君を狙っているの……?」
ストーが恐る恐る聞くと、ベルナは腕を顔の前でパタパタ振りイルフィは申し訳なさそうに言った。
「上から命令されているけれど、断言するわ。無いッ!なにが無いって、顔がタイプじゃない!だから命令は無視することに決めたわ」
「……私も、和真さんは優しい人だと思うけれど……好みじゃないの……」
「あ、ははは……えぇ~~~……」
ストーは、二人の反応に喜んでいいのか、悲しんだらいいのかわからず。
軽く笑って済ませることにした。
「……でも、マリアは多分本気よ。国のためとか関係無しに、和真さんに惚れているわね」
ベルナが、そう確信を持って言う。
イルフィも気が付いていたのだろう、心配そうにストーを見た。
だが、ストーは先ほどのような暗い顔をしていない。
むしろ、晴れやかな顔をしていた。
「うん、知ってた……。マリアが本気で和君の事が好きなんだってことは、でも、もうウジウジしない。私は、負けないよ!!」
そう宣言するストーを見たベルナとイルフィは顔をにやつかせる。
「私はどちらにもつかないけれど、応援はしてあげるわ!」
「正々堂々、お互いに悔いが無いようにね!」
「うんッ!!」
同時刻、和真は洗面台の前に立っていた。
鏡に映る自分の顔を見る。
今の和真の両目の瞳は、黒い本来の和真の瞳の色に戻っていた。
なぜ、突然戻ったのか見当がつかないが特に気にしても始まらないために放置することにする。
そして、和真は寝室に用意された洗面台を使っていた本来の目的を行う。
手と手を皮膚が剥がれ落ちてしまいそうになるまで洗い続ける。
「慣れた、俺は殺しに慣れたんや……」
力強く擦っていたために、皮膚がめくれ上がる。
だがそれも、ナノマシンによりすぐに修復される。
「やのに……、なんで……、血の匂いが取れない……?」
擦る、擦る、擦る。
だが、肉を断ち骨を砕いた感触が消え去らない。
和真は洗うのを中断し、手を鼻に近づける。
「……血生臭い」
血の匂いが嗅覚を刺激し、脳の記憶から鮮明にあの映像を探し出す。
「ば、化け物……」
「ぐっ、がっ、た、助け……」
「この野郎ぅぉぉぉおおおおおおッ!!」
そうして向かってきたテロリスト達を、躊躇いなく切り捨てていく。
実際には、そんなことは無かった。
テロリスト達は、死を覚悟する前に和真に殺された。
そう、これは単なる妄想、自分が思い描いた風景、この世に存在しないモノだ。
だが、その映像は和真に殺しを思い出させるには十分だった。
「……手が震えている?パーキンソン病?……嫌、まだ単純に慣れ切れてないだけやろ」
そして、震える手から視線を外し鏡を見ると和真は自分の瞳の色が黒から緑色に変わっているのに気が付いた。
それだけじゃない、自分が興奮しているのがわかる。
心臓の鼓動がわかる。
空気の流れがわかる。
体内の微電流を感じ取れる。
和真は意識せずに、感情の変化だけでリミッターを切ることが出来るようになっていた。
もう頭の中に湖は存在しない、あるのはただただ深く暗い暗闇のみ。
締め付ける数多の腕すら、見つけることができない無の世界。
和真は、深呼吸し妄想を消し去り激情を抑え込む。
すると、瞳の色は黒に戻り手の震えも消え、リミッターもオフからオンに変わる。
「……はぁ、タバコもう一本吸うとくか」
和真が寝室に戻ると、オルソン大尉の隣に別の人間がいた。
「セバスチャンさん?」
「はい、五六和真様……、お迎えに上がりました。マリア様がお待ちです」