Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior 作:はんふんふ
第一町ネフレ社内社長室
レオは高級な革製のイスに腰掛け、くすんだ金髪を鬱陶しそうに払う。
第一町で一番背の高いビルの頂上から空を見る。
手を伸ばせば、掴んで自分の物に出来そうだ。
レオはそう童心に帰り、青い空に手を伸ばした。
だが、その手はすぐに戻される。
部下が戻ったからだ。
「欧州の動きはどうだ?」
レオがそう問うと、室内の影の中からメアリーとミアリーが姿を現した。
ミアリーは世に出ていない最新の液晶型の端末を手に取り画面を指で弄り、淡々と読んでいく。
「予想外のテロにより、欧州首脳部の会談は中止になりましたが特に問題はありません。我々の息の掛かった者たちであり、我々の手足となって同じ理想を目指す彼らなら、わざわざ会談を開かずとも、意志の疎通は出来ています。よって、テロリスト達の目論見は外れたと言っていいでしょう。欧州連合各国は、我らの指示により、着々と作戦の準備を整えています」
「国連軍とアメリカ政府とオーストラリア政府の動きは?」
「その点も問題ありません、アメリカ政府はすでに欧州連合の支援要請に答え、大規模な陸軍、海軍、宇宙軍を派兵することを議会で可決しました。恭順派の息の掛かった者達は渋っていましたが、ロビー活動では我々の方が一枚上手のようですね。オーストラリアも同様です。両政府共に、トップが我らの身内であると言うのは、仕事が楽で助かります。国連軍ですが、やはり行動が他に比べ遅れています。これ等が完全に統率され、作戦行動を行えるようになるには、最低後一日はかかるものかと……」
レオはミアリーの報告を顎に手を添えて聞く。
「……わかった、次だ」
レオが腕を顎から外しそう言うと、メアリーが一歩前に出、ミアリーと同様に話し出す。
「青騎士(ブラウエ・ライター)の拠点が判明いたしました。場所は、オスロ基地です。以前はニンフ連隊が使用していた基地になります。また、その基地に運び込まれた物資から、彼らが行動を起こすのは戦争が始まる日と同じになるかと……。次に五六中尉の腕の中で爆発し死んだ少女ですが、やはり指向性淡泊が使用されていました。念のために、欧州連合情報局のシルヴィオ・オルランディにネフレの息の掛かった者たちまた、その近辺に停滞工作員がいないかあぶり出しを依頼します。もっとも、彼がその事を知ることはないでしょうが……」
「こちらの準備は整っているのかい?」
「はい、トランプ・ギャンブル・チェス各隊長の準備並びに、彼らのヴェルターの準備も整っています。国連軍に派兵しているネフレ軍は、三時間後にネフレ軍第二町本隊と合流します。陣地作成、迎撃準備、補給経路の確保、いずれも順調です。後は、BETAの出方次第です」
「よろしい、では引き続き任務を続けてくれるかな?」
「「了解!」」
ミアリーとメアリーが社長室を後にするのを確認すると、レオは再び空を見る。
「あぁ、届きそうで届かない、もどかしいな……。でも、だからこそ、世界は愛おしい……」
和真は、セバスチャンに連れられ、バッキンガム宮殿内を移動していた。
「セバスチャンさんとは、久しぶりに会った気がします」
「皆、大変でしたからね。あのようなことが合っては……」
「そう言えば、セバスチャンさんは今まで何を?」
「私は、皆さまよりも先にアストン・ホールに向っておりました。私が現地に到着したその時に、姫様が襲われたとの報告を聞き慌てて戻ってきたのです」
セバスチャンは、和真にそう話すと歩みを止め和真に向き直り頭を下げた。
「……あなた様には感謝してもしきれません。あの嵐のような銃撃の中マリア様をお守り頂き深く感謝いたします……」
「俺は、命令に従っただけです。あなたが思うように俺が頑張ったわけではありませんよ。姫様を守ることが出来たのは、あの場にいたすべての人間の成果です。ですから、その褒め言葉は、イギリス近衛軍や他の者たちにお願いします」
「はい、かしこまりました……」
そして、無言で廊下を歩き辿り着いた場所は、マリアの寝室だった。
「マリア様がお待ちです。……どうぞ、中にお入り下さい」
セバスチャンさんにそう言われ中に入ると、何もない広い部屋の中央に天蓋付のベッドが一つだけ存在していた。
大きな窓から月明かりが伸びベッドを照らす。
和真が気づかないうちに外は夜になっていたようだった。
すると、天蓋が中から静かに開けていく。
その先には、マリアの姿があった。
「……では、失礼いたします」
セバスチャンさんがそう言うと、扉が静かに閉められる。
「こっちに……来てくれないか……?」
和真は促されるままに、歩みを進める。
ベッドの中にいたマリアは、パジャマ姿だった。
「……」
和真は静かに息を飲む。
マリアの砂金のような長い金色の髪、透き通るような白い肌、蒸気しピンク色になった頬、それらを際立たせる黒い寝間着。
凝視する和真の視線を恥ずかしそうに身じろぎしながら、受け止めベッドに入るように促す。
和真は何も言わずに、ベッドに腰掛けた。
すると、勢いよく倒され引きずりこまれる。
天蓋は外界から、ベッド内を隔離した。
引きづり倒された和真は、視線を左右に動かす。
人が5人ほど眠ることが出来そうなくらいに広いベッド、一人で眠るには寂しそうだ。
そんなことを考えていると、マリアが和真の上に覆いかぶさる。
和真は抵抗の意思を見せない。
それを確認したマリアは、上着を脱ぎ捨て上半身裸になった。
健康的な二つの胸が呼吸と共に上下する。
「……抵抗、しないんだな」
マリアは両掌を和真の顔を挟むようにベッドにつき、和真の顔を覗き込む。
そして、さらに赤くなった顔を和真に近づける。
聞こえてくる鼓動、激しくなる息遣い、潤む瞳、羞恥心と理性のせめぎあい。
マリアは、小さく口を開け和真の唇と合わせようとする。
「……ごめん」
二人の距離が3㎝ほどになった時、マリアは無意識にそう口にしていた。
本人はそれに気が付かないのか、さらに距離を狭めようとする。
だが、それは今までなんの抵抗もしてこなかった和真により封じられた。
「はい、そこまで」
「ふが……」
マリアの唇をすんでの所で手でガードし、そのまま持ち上げる。
そしてマリアをどかすと和真は何故か息を整えながら、言葉を発した。
「なんで、こんなことを……?」
和真は少し責めるような口ぶりだったが、マリアは抗議の声を上げる。
「いや、なんで途中で止めるんだよ!!いい感じだったじゃねぇかッ!?」
マリアが吠えるように言うが、和真は白を切る。
「え……っ?だって勝手に脱いでくれて見せてくれるのなら、見たいやん?」
「やる気がなかったなら、紳士らしく始まる前に止めろよ!」
「見たいものは見たかったし……、うん、俺は悪くない。だって今回俺受けだもの」
和真はそういうと、何故だか落ち込みだした。
「ど、どうしたんだよ?」
「俺、いっつも受けだ……。攻めたことがない……」
「おま、お前……、何人もの女と関係をもっているのか!?」
「馬鹿野郎!何度か押し倒されてはいるが、その都度、こんな感じに逃げているわ!」
「じゃあお前、童貞かよ……」
「あぁそうだよッ!童貞だよッ!」
童貞とカミングアウトしてしまった和真はさらに落ち込む。
「……この歳になってまだ童貞だなんて、俺は……」
「クス……」
マリアは落ち込む和真を見て、艶めかしく笑い、そして、ズイッと体を和真に寄せた。
「じゃあさ、俺を攻めて、……童貞……卒業するか?」
マリアがそう言った瞬間に和真の体の一部が変化を見せた。
「……おおぅ、さすが男、きっちり反応してるな」
「み、見るんじゃねぇ!せっかく落ち着かせたばかりなのにッ!!」
和真の男の象徴は立派なテントを建設していた。
「あのな、いい空気をぶち壊したのはお前だろうが……」
和真はさりげなく、立ち上がった我が息子を黙らせる。
その不自然な動作をマリアは見て見ぬふりをし、会話を進める。
「……なんのことだよ」
「謝られちゃ、こっちも興が覚めるだろうが……、そんで、こんな事をわざわざしたのには、理由があるんだろう?」
マリアはこんな自分の体を売るような女ではないと、目で語る。
「大方予想は出来てるだろ?」
「……女王様からなんか言われたか、もしくわ政府からの要請か、ハニートラップってやつだろ?それにしても、露骨すぎだ。もっと、自然に靡かせてからことに及んだほうがいいと、思うんやけどな」
「なんで、お前がそんなことを教えてくるんだよ……」
マリアは額に手をやり呆れながら、言ってくる。
「……で、どっちからの要請だ?」
「母様からだよ……」
「女王様からか……、て、ことは目的はネフレから情報を手に入れることか、もしくわ融通を聞かせやすくするためか?」
「まぁ、そんな所だ。王室の中では、私に意志の決定権はほとんどないからな。母様からの命令は絶対だ……」
マリアは、申し訳なさそうにしながら上着を着なおす。
「和真が、ネフレ社長の側近かそれに近い立場だってことは調べがついている。だから、和真を取り込むことが出来れば、今後の王室、延いては欧州連合の安寧に繋がる。だとさ……」
「だから、俺にこんなことを?」
「まぁな、知ってはいるだろうけれど、欧州連合、嫌イギリスはヤバいんだ。産業の衰退、各地に存在する租借地では汚職が広がり、国民の怒りが膨れ上がっている。今の欧州はかつての栄光を失い、今では完全にサブ・サハラの盾としての役割しかないんだ。まぁ、それもBETAによって完全に国土を奪われてしまった国よりはましだろうけどな」
マリアはそういうと自傷気味に笑った。
「俺は序列も四位だし、必要性はそこまでないんだ。国民から慕われているって言ったって、それは王室を良く見せるためのパフォーマンスでやらされた結果だしな」
「で、女王様は俺を使ってネフレとの繋がりを深くしたかったと言うわけか……。確かに、ネフレとの繋がりを深いものにしておけば、各種産業は活気づくやろうし、後方国家との商売もネフレを挟めばスムーズにことを運ぶことも可能か……」
だが、和真は疑問に思う。
イギリスの女王が、欧州の象徴がそんな危険な橋を渡るのかと。
俺自身を手駒にすることが出来れば確かに手札は増えだろう。
だが、どこかで間違えてしまえば、例えば俺が今回のハニートラップの件をレオに報告でもすれば、イギリス王室は立場を失う。
仮にも王位継承権第四位のマリアがそんな娼婦のようなマネをしていたなんて、国民に知れ渡る可能性もゼロではない。
では、何故こんな博打を打った?
ネフレと言う国連にも影響力を持つ企業にすり寄った訳は……。
そこで、和真は気が付いた。
そう国連なのだ。
常任理事国である米国・英国・フランス・ソ連・中国の五大国、この中でBETAの被害を受けなかったアメリカ以外の国は、軍事力とそれに伴う技術力、そして常任理事国としての拒否権にしがみつくことでかろうじて大国としての威厳を示している。
だがそこに、BETA対戦勃発以降力を急激に高めることとなったオーストラリアと、日本も常任理事国入りを果たし大国の仲間入りをしている。
そして、拒否権が2007年まで、封じられていたとしてもこの二国の発言力が弱まるわけではない。
米国の影響下にある日本、英国の影響下にあるオーストラリア。
かつては、この二国が常任理事国入りを果たすことで米国と英国に二票目を与えることになるなんて言われていたが、今現在はそれは杞憂なこととなっている。
日本は米国の一方的な安保破棄により、反米の意識が高まり米国の影響力はほとんど無くなってしまった。
オーストラリアは、英国からの影響力を文字通りすべてにおける力で無くした。
そればかりか、植民地にされていた腹いせなのか現オーストラリア政府は完全にアメリカよりである。
そしてこの二国は、今年の夏頃には軍事同盟を結ぶことで話が進んでいたはずだ。
つまり、これらの事から言えることはイギリスは一票を失うと言うことだ。
アメリカとはオルタネイティブ5計画で反目しあっていたはずだし、アメリカの一強、国連の実質の私有化を許してしまう結果となる。
それに、今のオーストラリアと組むと言うことは少なからずハイヴ攻略とG元素の確保を確定させることになってしまい、イギリスと連携を図る必要性もおのずと無くなる。
なるほど、確かにイギリスにとっては痛手過ぎる。
このまま行けば、最悪無理やりオルタネイティブ5を実行されるかもしれないし、欧州連合がアラスカで進めているプロミネンス計画を潰されるかもしれない。
それはつまり、独力でのハイヴ攻略が不可能になると言うこと、これは、明星作戦が証明している。
第三世代機では、ハイヴ攻略は不可能だと……。
だから、欧州連合は水面下で日本政府と交流しているのか。
日本にとっても、オルタネイティブ4が潰される可能性は避けたいはず。
この計画のおかげでかなりの金が日本に落ちているだろうし、日本にとっても死活問題だ。
だからこそ、ネフレの力が必要になってくると言うことか……。
嫌待てよ、おかしいぞ?
そんな回りくどいことをしなくとも、欧州連合やイギリスはすでにネフレの息がかかった者達で構成されている。
つまりは、こんなことをせずとも繋がりは元々深くなっている。
なら、繋がりを作らなければいけない存在であり、ネフレになんとも思われていない存在は……。
そこで和真は気がつき、マリアの顔を凝視してしまう。
「なんだ?」
マリアは頭に?を浮かべ、不思議そうにする。
「そうか、そういうことか……」
なんで一番初めにそれを除外していたのか。
イギリス王室だ。
BETA対戦や去年の大規模テロで急激に発言力を得ているここには、ネフレの手が入っていない。
もしここに、ネフレ内でもそれなりの権力がある俺が入ればイギリス王室の権力も維持出来るかもしれない。
逆にネフレにとって見れば、国民から絶大な人気を誇る王室を内側から浸食することが出来る。
逆に俺がマリアを拒絶してもネフレは痛くも痒くもない。
イギリス王室は文字通り象徴に戻るだけだ。
政治に介入することを出来ない立場にすることが出来る。
なるほど、このハニートラップはお互いにとって利益なこと。
つまりマリアは、生贄だ。
権力闘争の餌にされてしまった。
和真の中で声がする。
救えと、救わなければマリアがどうなるか分からないと……。
そうだ、救いを与えなければならない。
この生贄にされてしまったマリアに成果と言う、救いを与えなければならない。
和真はその思考のまま、マリアに問いかける。
「マリア、お前は……俺の事が……好きか?」
マリアはいきなりの事に、初めは言葉の意味を理解していなかったが、徐々にそれを理解していき、頭から煙を吹き出しそうなほどに赤くなる。
「なっ、お、おま、お前、なにをッ!」
和真は手をワタワタさせるマリアを放置し、熱くなったマリアの頬に手を添える。
「あっ……」
「お前、気づいているだろ?俺の見た目は、1990年のあの頃から変わっていないって……、そんな化け物な俺でも……好きか?」
和真の問いにマリアは赤い顔を俯かせ小さな声で言った。
「……うん」
「そうか……」
そして、和真はマリアを押し倒した。
「かず、ま……」
マリアが潤んだ瞳で和真を見つめる。
和真は、マリアの顔を見ようともしないで首筋にキスをした。
「あッ……」
マリアの体が一瞬跳ねる。
それでも和真は止まらない。
首筋から鎖骨、胸元を順にキスしていく。
キスの度に、マリアの体は電気が流れたかのように跳ねる。
和真は、マリアの体にキスをしながら別の事を考えていた。
本当にこれで良いのか?
これが、救いなのか?
俺の独りよがりをマリアにぶつけているだけではないのか?
ニクスは俺に新しい恋をしてほしいと言った。
これが、こんなことがニクスが望んだことなのか?
でも、マリアに成果をあげなければ彼女の立場は悪くなるかもしれない。
分からない、なにもかもが分からない、どうすればいいかが分からない。
「……ごめん」
和真は無意識に謝罪した。
それは、ニクスに向けてのモノかもしれないし、マリアに向けてのモノかもしれない。
だが、今の和真にはそれすら分からなかった。
「……はぁ、さっきと真逆じゃねぇか。ほんと、なにやってんだろうな俺たち……」
マリアはそう言うと、胸元に顔を埋める和真の頭を持ち上げる。
「……えっ」
和真は自然と上半身を持ち上げることになり、マリアを見下ろす形となった。
「なんで、泣きそうな顔をしてるんだよ……」
「別に、俺は……」
「はぁ……、和真の事だから、俺に成果の一つでも作らせなきゃヤバイとでも考えたんだろ?……見え見えだよ」
マリアは、トンと人差指を和真の胸に当てる。
「俺はやりたいことをやれって言ったろ?そんで、今のこれはやりたくないことだろ?なら……、やらなくていいさ」
マリアはそう言うと、恥ずかしそうに頬を掻きながら言う。
「それに俺は、オスロで姉ちゃんと一緒だったお前に惚れたんだ。お前の幸せそうな馬鹿面を好きになったんだ」
そして、母のように優しく微笑みながら続ける。
「だから、……今のお前の顔は嫌いだ。……お前の辛そうな顔は嫌いだ。でも……、ありがとう、少し……嬉しかった」