Muv-Luv ALTERNATIVE Toy Warrior   作:はんふんふ

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対人戦

 闇夜の静けさを掻き消す暴力の光、まるでキツネを追う猟犬のように突き進むのは五機の戦術機、EF-2000タイフーン。

 イギリスの誇りと威信をかけて練り上げられた暴風は、逃げ去る獲物を神の意志が如く追いかける。

 戦術機が通るには少し余裕がある程の町道に巨体を滑り込ませる。

 吹き出る跳躍ユニットの噴射熱が壁を焼、窓を叩き割る。

 正気の沙汰とは到底思えない運動制御技術のすべてを持って迷路のようなオスロ市街地を飛翔する。

 追いかける五機のタイフーンの左肩には三頭の青い馬のエンブレム。

 それは、英国最強の部隊、ブラウエライターに所属する者のみが許された証明。

 精鋭の名にふさわしい美しい機動を取りながら、狙う獲物、眼前を挑発するかのように駆け抜ける濃紺色のF-22ラプターに向け突撃法から36mm弾を放つ。

 が、それはラプターが進路を変更することでアパートの壁に大穴を開けるだけになってしまった。

 

「ちくしょうッ!当たらねえッ!!」

 

 五機のタイフーンの中で先頭を任されているのは、赤い髪に浅黒い肌の長身の男アレックスであった。

 

「ぼやくなアレックス、着実に距離は縮めている」

 

 アレックスのエレメントを務める。薄い金髪に大きな黒縁の眼鏡、そばかすと幼さを感じさせる要素を取り揃えていながらも、大人の空気を纏う男、バーニーが返事を返す。

 

「けどよバーニー!ロックすら出来ねえなんて聞いちゃいねぇぞッ!」

「あれが、例のアクティブステルスなのだろうよ。しかし、赤外線センサすら使い物にならなくなるとは、末恐ろしいな、あれは……」

「おかげでこちとら、こんの真っ暗な中、目視でしかも手動で狙いをつけるはめになっちまッ、オワッ!!」

 

 目視外からの突然の砲撃、それを先頭を進むタイフーンは間一髪回避する。

 

「無事か、アレックス?」

 

 バーニーの落ち着いた声が、アレックスの鼓膜をくすぶる。

 アレックスは、バーニーのその落ち着き払った、まるで自分を子供のように扱う声に羞恥に似た感情を覚えるが、軽く流す。

 ブラウエライターに配属されてからの月日の中、幾千万の戦場を共にしたエレメントであるならば、見ずとも聞かずとも相手のことが感じ取れ理解できる。

 バーニーの確認も様式としての意味しか持っていないことをアレックスもわかっていた。

 

「なんともねぇよバーニー、ステルスの脅威ってのを改めて実感しただけだ」

「だがこれで、また眼前のラプターとの距離が振り出しになってしまったな」

「臆病だねぇ~、アメ公さんはよぉ~」

 

 そうは言いつつも、索敵は怠らない。

 一瞬の隙すら逃がさない。

 油断しない、余裕を見せない、慢心しない。

 全神経を使い、敵がどこに潜んでいるのかを探り当てる。

 数多の死線を、一秒先の予測すら立てることが難しいBETA戦で磨き上げた全技術を絞り出す。

 

「ラプターを一機でも落とすことが出来たのならば、我らの……、中佐の想いを告げるための功績となる」

「その通りだバーニー!なんとしてでもアイツはここで落とすッ!!」

 

 アレックスとバーニーを含む五機のタイフーンは、キツネ狩りを嗜む紳士のように空の覇者を追い詰めるため、フットペダルを踏みしめた。

 

 

 

 

「こいつ等、半端ねぇッ!」

 

 五機のタイフーンを巧みに誘導しながら、ラプターに乗る衛士レオン・クゼが叫ぶ。

 眼前にビル群の壁が立ちふさがれば、高速で操縦桿を操り跳躍ユニットを強引に動かし九十度ラプターの体を捻ることで誘導を進める。

 精悍な顔には、汗が流れそれを乱暴に拭い去る。

 一瞬の隙すら許さないカーチェイスに似た興奮が背中を撫でる。

 目的地の十字路まで、直線距離500m。

 だが、街中を平面に移動し目的地に到達するには、倍の一㎞は有していた。

 背後から感じる獰猛なまでの殺意。

 ヒシヒシとなんて言葉では生ぬるく、ナイフで突き刺されるかのような感覚をレオン・クゼに与えていた。

 レオンは、バックモニターから後方を確認する。

 五機のタイフーンは、一糸乱れずにステルスなど存在していないかのように的確に追いすがってくる。

 むしろ、距離を徐々に詰められているのを確認できてしまう。

 

「ラプターのほうがタイフーンよりも、運動力、機動力は上のはずだ。……俺が腕で劣っているというのか?」

 

 事実は違う。

 たんに、ブラウエライターの方が、地の利を知り尽くしている。

 ただ、それだけの違いである。

 だが、焦るレオンはそれにすら気づかない。

 そして忘れたくても忘れることが出来ない人物が一瞬、脳裏に姿を現す。

 届かない、どれだけ自分が努力しようともさらにそれ以上の努力を持って自分を踏み台にしてしまう大嫌いな奴の顔が。

 

「ユウヤ・ブリッジス……」

 

 あいつならば、この任務ですら楽々とこなすのかもしれない。

 劣等感がレオンを支配する。

 

「そんなこと、認めねぇ……。ずっと、二番手で甘んじているほど俺は優しくねぇぞ!」

 

 今は遠く離れたライバルに向け、啖呵を切る。

 そして、すぐに邪念を振り払う。

 レーダーを確認する。

 インフィニティーズの仲間から送られてくるデータリンクの情報と照らし合わせ、自分がすべてのタイフーンに狙われており、尚且つ距離を詰められ逃げ道を塞がれかかっているのが分かった。

 跳躍ユニットを一瞬停止させ失速起動域内で体を強引に捻じり再度点火、大通りに出ると同時にアスファルトを蹴り上げ加速。

 残り50mで十字路、その先には離脱地点である海が広がっている。

 海にさえ出てしまえば、ラプターの性能を十二分に発揮でき、相手を煙に巻くことも容易い。

 だが、それを阻むかのように両サイドから九機と十機の敵の群れが歩を進めている。

 

 間に合うか……。

 

 エレメントを務めるシャロン・エイムはすでに離脱している。

 頼れる者は目的地点で迎撃を行う予定である衛士が一人。

 顔も知らない人間に、命を預けなければならない恐怖心が職業軍人であるレオンに懐疑心を抱かせる。

 後方からは、絶え間なく36mm弾が放たれ前方は塞がれかかっている。

 隊長からの命令の変更も来ない。

 レオンは、腹を括りフットペダルを踏みしめロケットモーターを吹かせる。

 その時、悪魔に耳元で囁かれているような底冷えする声が鼓膜をくすぶった。

 

「……協力に感謝する」

 

 

 

 

「オラオラッ、逃げな逃げなッ!!」

 

 アレックスが乗るタイフーンはGWS-9突撃砲の砲口から火を吹かし36mm弾を雨のように闇に吸い込ませる。

 

「当たっていないぞアレックス」

 

 バーニーは溜息をつきながらも、アレックスのその攻撃が敵のラプターの機動を制限しているのだと理解していた。

 

「もうじき、中佐達の部隊と合流だ。しかも、ラプター一機撃破のおまけつきでな!」

「こちらの誘導に素直に従ってくれたのか、はたまたこちらが罠に絡めとられているのか……」

「バーニーは心配性なんだよ!レーダーを見て見ろ。綺麗に挟み撃ちが出来るじゃねぇか!」

 

 バーニーはアレックスに返事を返さずに考える。

 地の利を生かし敵を追い詰め、焦ってきた所に海と言う絶対的な離脱ポイントを見せ、そこに誘導。

 回り込んでいた中佐達と挟撃し撃破。

 中佐達がいる地点は、周囲を背の高い民家に囲まれており他のラプターに狙われる心配もない。

 上空から攻撃しようにも、ピンポイントで複数のタイフーンのレーダーに狙われれば、ステルスの効果を半減し居場所を特定、逆に迎撃できる。

 敵が誘導弾の類を持っていないことは確認済みで、襲撃してきた四機のラプター以外の他の戦術機が潜んでいることも目の前のラプターの援護に来ないことから可能性は低い。

 だが、腑に落ちない。

 長年の経験が、予測の出来ない相手との戦いで培われた力が警報を鳴らす。

 バーニーは中佐に意見を聞こうと通信を開こうとした。

 その時、数多のミサイルが移動を進めていた中佐達がいるポイント目がけて降り注ぐ。

 続けて爆音と共に、夜の闇が燃やし尽くされた。

 

「なッ!!」

「アレックス罠だッ!!」

 

 直後、アラートが鳴り響き目の前にミサイルが着弾白い煙が一瞬ですべてを包み込む。

 

「センサーキラーッ!?」

 

 すべての目を奪われた五機のタイフーンは、それでも息の合った行動を取り衝突を避ける。

 これ以上の追撃は死を意味すると判断したバーニーは、命令を飛ばす。

 

「各機、作戦は中止だ!急速後退した後に、中佐達の救援に向かう!」

 

 中佐達にも聞こえるように、オープン回線でそう叫び行動を移そうとするがその時には、すべて遅かった。

 

「がァアアアッ!!!」

 

 アレックスの苦悶に満ちた叫びが通信越しに聞こえ、続けてアレックスがいた地点に轟音が轟く。

 そして、センサーキラーの白い煙の先から、何者かが死を招きよせた。

 爆散する後方の仲間たち、煙の中から姿を現したのは、アレックスのタイフーンを踏みつけるラプターの姿だった。

 そのラプターは先ほどまで追いかけていたラプターとは、違っていた。

 纏う雰囲気が、月に照らされる姿が、こちらを睨みつける複眼がすべてが違って見えた。

 一瞬飲まれたバーニーではあるが、神速の域で戦術機を操り突撃砲を構えようとする。

 だが、その一瞬の間に敵のラプターであるはずの何かは、ライフルのような突撃砲を向けていた。

 

「……お前は、一体なんなんだ?」

 

 バーニーは、知らずに呟いたその言葉を最後に120mm弾に貫かれた。

 

 

 

 

「インフィニティー02の離脱を確認……」

 和真は冷静に、レオン・クゼが離脱したことを確認する。

 すると、和真のラプターに踏みつけられながらも、損傷を免れた一機の跳躍ユニットを必死に吹かしもがくタイフーンから呪詛の言葉が外部マイクを通してオスロ市街地に巻き散らかされる。

 

「殺してやる……、絶対許さねぇ……、ぶっ殺してやる!!」

 

 和真はその言葉に対し冷淡に返した。

 

「あぁ、待っている……。いつでも来い」

 

 そして、手に持つ120mm水平線砲改の銃口をコックピットブロックに押し付け引き金を引いた。

 それだけで、必死に逃れようとしていたタイフーンは砂に溶け込む水の様に力を失う。

 

「次だ……」

 

 和真はそう呟くと、静かにコントロールパネルを叩きだした。

 センサーキラーの夜の黒を上塗りするかのような、白い煙の中にラプターは幻のように姿をくるませた。

 

 

 

 

 ビルが崩落し砂埃を巻き上げる。

 空襲を受けたかのような現場には、物言わぬ躯が数多と転がっていた。

 それは、数瞬前まで声を混じらわせていた仲間たちの成れの果ての姿。

 一機のタイフーンが、立ちすくみ部下に黙祷を捧げる。

 

「各機被害状況を知らせろッ!」

 

 ブラウエライター大隊隊長の中佐が、微かに残る希望を信じ指示を飛ばす。

 

「05問題なしです」

「07以上なし」

「11同じくです」

 

 返事を返して来たのは、三人の部下だけだった。

 中佐は安堵しながらも果てしもない怒りを覚える。

 罠を危惧していたからこその立案し実行した作戦により多くの部下を失うことになってしまった自分に、そして明らかに対人戦のみを意識した兵器を作った人物、それを使用した人物にマグマのように濁り切った怒りを覚える。

 

「我らの想いは、この程度では挫けさせることすら叶わんぞ……ッ」

 

 中佐が呟いた独り言は、思いを同じくする仲間にも届いた。

 生き残った三人の顔が小ウィンドウ越しに映る。

 

「当然です!イギリスのため、欧州のためには、この作戦成功させる以外に道はありません!」

「先輩達を切り捨て、王室を蔑ろにするような傀儡政権を打倒しましょう!」

「すべては、欧州のために……、奴らの好き勝手にこの国をさせる訳には参りません!」

 

 誰も、自分を攻めてこない。

 このような失態を犯しても、まだ明日を目指して想いを滾らせる。

 中佐は、それを確認すると怒りを抑え、これから何をするべきかを指示する。

 

「これより我々は、生き残っている仲間と合流した後、この地を全力で離脱する!一人でも構わない……逃げ延びた者は、今あるデータを公開し世の不義理を訴えろッ!」

「「「了解!」」」

 

 四機の蒼騎士が浮遊する。

 馬に鞭打つようにジェットモーターに火をともし、想いの力を高まらせ、自分達は間違っているがこれが最適解だと信じ、前進する。

 すると、ラプターを追いかけ回していた五機の仲間達がいた十字路の地点から一つの光点がレーダーに映し出される。

 

「生き残りがいた!」

 

 部下の一人が歓喜の言葉を漏らす。

 だが中佐はその言葉を一蹴した。

 

「……いや、あれは罠だ」

「中佐ッ!ですが……」

「あれもアクティブステルスの能力の一つだろう」

 

 中佐は言い切る。

 なぜ、中佐が言い切ることが出来たのかと言うと見ていたからだ。

 長年戦場に身を置くことで培った常人離れした視力が、空から一直線に向かう別のラプターの姿を確認していた、だからこそ微動だにしない光点が敵の罠であることを瞬時に見抜くことが出来た。

 

「作戦に変更は無い!全機続けッ!!」

 

 そして、自分達が生き残れたように分かれて罠を敷いていた仲間の方が生きている可能性が高いと判断した。

 だが、その想いも踏みにじられる。

 連続する閃光と爆音、崩れる民家、それは今この瞬間にも戦いは行われていると言う証明であり、仲間の命の火が消えていくのを知らせる。

 

「急ぐぞッ!!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 目の前を掠めていく36mm弾を横目に回避しながら、和真は敵に肉薄する。

 細い町道をバレルロールしながら突き進む。

 

「肩部ミサイルコンテナをパージ」

 

 回避運動を取りながらのパージ、曲芸師かなにかと勘違いしてしまいそうになる動きを見せつける。

 和真は、興奮状態に入り脳のリミッターを切っていた。

 流れる時間が遅い世界で、和真は次々と敵機を落としていく。

 瞳は緑色に輝き、口角が自然と吊り上がる。

 前方から四つの突撃砲を使い36mm弾を横雨のように放つ敵に向かい120mm水平線砲改から120mm弾を三発撃ち沈黙させ、バレルロールの着地点を狙い民家を挟んだ隣の道から飛び出してきたタイフーンを膝部に収納されたナイフでコックピットブロックを一刺しで黙らせる。

 

「ミサイルも万能と言うわけではないんだな」

 

 和真は冷静に状況を確認する。

 初めのミサイルで、待ち構えていた二つの部隊を黙らせられると踏んでいたが、実際は半数に減らすことしか出来なかった。

 その後の奇襲でインフィーティー02を追っていた五機を落とし、次の標的に定めた部隊から今三機落とした。

 

「後、六機か」

 

 そう呟くと、自然と下卑た笑いが口から漏れ出す。

 

「なんだ……、対人戦の方が、対BETA戦よりも楽じゃないか」

 

 そして、更なる狩りを続けるために獲物を追い詰めに行く。

 そこには、あの優しかった頃の姿などどこにも存在していなかった。

 

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